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第 13章

18.1 Goldstone モデル

まず初めに自発的な対称性の破れの身近な例として,強磁性を取り上げよう.磁性体の系のHamiltonian は回転に対して不変であるにも関わらず,基底状態では磁性体全体として特定の方向を向いたゼロでない磁化 M が生じており,M の方向の異なる状態が縮退している.このように縮退した状態から任意の状態が選ば れると,その基底状態は一般に系のLagrangianやHamiltonianと同じ対称性を持たず,非対称な基底状態が 現れる(自発的な対称性の破れ).

場の理論においても基底状態(真空)が縮退していれば,自発的な対称性の破れが起こり得る.このことを 最も簡単な理論モデルである,Goldstoneモデルを用いて説明する.Goldstoneモデルでは複素スカラー場

ϕ(x) = 1

21(x) +2(x)} をLagrangian密度

L= (∂µϕ)(∂µϕ)−µ2|ϕ|2−λ|ϕ|4, λ >0 によって記述する.古典的に考えた 基底状態 はHamiltonian密度

H= (∂0ϕ)(∂0ϕ) + (ϕ)·(ϕ) +V(ϕ), V(ϕ)≡µ2|ϕ|2+λ|ϕ|4

が最小の状態であり,したがって場ϕ(x)がポテンシャルエネルギー密度V(ϕ)を最小にするような定数値を とる状態である.以下のようにµ2の符号に応じて, 基底状態 の性格は異なる.

1. µ2>0のとき.

Lagrangian密度やHamiltonian密度は,Klein-Gordon場に対する表式に 摂動項λ|ϕ|4を加えたものと見なせるようになる.

ポテンシャルV(ϕ)の概形は図23(a)のようであり,古典的な 基底状態 はϕ= 0である.

図23 Goldstoneモデルにおけるポテンシャルエネルギー密度V(ϕ)

2. µ2<0のとき.

ポテンシャルV(ϕ)の概形は図23(b)のようであり[回転4次曲面],

古典的な 基底状態 はその最低値を与える円周

ϕ(x) =ϕ0 (−µ2

2λ )1/2

e, 0≤θ <2π において実現される.

位相角θの任意性に応じた異なる 基底状態 が 縮退 しており,

もとのLagrangian密度自体はU(1)位相変換

ϕ→ϕ =ϕe, ϕ→ϕ∗′ =ϕe

に対して不変であるにも関わらず,特定のθで指定される 基底状態 は対称性を自発的に破っている.

µ2<0の場合に対して例えばθ= 0の安定な平衡値 ϕ0=

(−µ2

)1/2

1

2v(>0) を考え,

ϕ(x) = 1

2{v+σ(x) +iη(x)}

によってその周りの摂動σ(x), η(x)(ともに実場)を導入すると,Lagrangian密度は L=L0−λvσ(σ2+η2)1

4λ(σ2+η2)2, L01

2(∂µσ)(∂µσ)−1

2(2λv221

2(∂µη)(∂µη) と書き換えられる(定数項は省いた).これはϕ1軸方向の変位σに対してポテンシャルは2次の変化をするの に対し,ϕ2軸方向の,したがって円周方向の変位ηに対して,2次までの近似ではポテンシャルは変化しな いことを表している(図23(b)参照)[3つの項12(2λv22,−λvσ(σ2+η2),14λ(σ2+η2)2がポテンシャ

V(ϕ)に由来している].ところで相互作用項を除いた自由場項と見なされるL0の部分は,σ(x), η(x)

Klein-Gordon場であることを意味しており,場の2次の項の係数が質量に対応するため,場の量子化によっ

て生じるσボゾンはゼロでない質量

2λv2を持つのに対し,ηボゾンの質量はゼロとなる.

18.1 について

■第1段落について LagrangianやHamiltonianの不変性は系の対称性にとっての十分条件である.

Gを対称操作の生成演算子,εを無限小パラメーターとして,系の対称性を対称演算子S = 1Gに関 するHamiltonianの不変性

SHS =H [G, H] = 0 [S, H] = 0 として表すと,エネルギー固有状態|n⟩(固有値En)に対して

H(S |n⟩) =SH|n⟩=En(S|n⟩)

となるので,S|n⟩もまた固有値Enのエネルギー固有状態である [2, pp.342–344].よって「第1に,着目 する準位が縮退していなければ,それに対応するエネルギー固有状態は一意的で,Lの対称操作の下で不変で ある」(p.482,l.2〜4).

「第2に,着目する準位が縮退していなければ,それに対応する一連の固有状態はLの対称変換の下で一般 に不変ではないが,それらは相互に1次変換する関係を持つ」(p.482,l.4〜6)ことについて,ここでは具体例 として回転対称性

[D(R), H] = 0 (D(R) =eiJ·n/は回転演算子) を持つ系を考えよう.このとき

[J, H] = 0, [J2, H] = 0

よりH,J2, Jzの同時固有ケット|n;j, m⟩が存在し,これはmの異なる値に応じて(2j+ 1)重に縮退したエ ネルギー固有状態となる.これらは回転によって,1次変換

D(R)|n;j, m⟩=∑

m

|n;j, m⟩Dm(j)m(R) を受ける[2, pp.344–345].

■Hamiltonian密度(18.6)について

π=∂L

∂ϕ˙ = ˙ϕ, π= ∂L

∂ϕ˙ = ˙ϕ, L= ˙ϕϕ˙(ϕ)·(ϕ)− V(ϕ),

Hϕ˙+πϕ˙− L= ˙ϕϕ˙+ (ϕ)·(ϕ) +V(ϕ) : (18.6).

σηで表したLagrangian密度(18.11)について (∂µϕ)(∂µϕ) =1

2{∂µ(σ+iη)}{∂µ−iη)}

=1

2(∂µσ)(∂µσ) +1

2(∂µη)(∂µη), V(ϕ) =1

2{(v+σ)2+η2} [

µ2+1

2λ{(v+σ)2+η2} ]

(∵|ϕ|2= (v+σ)2+η2)

=1

2{(v+σ)2+η2}1

2λ{(v+σ)2+η22v2} (∵µ2=−λv2)

=1

4λ(v2+ 2vσ+σ2+η2)(−v2+ 2vσ+σ2+η2)

=1

4λ{(2vσ+σ2+η2)2−v4}

=1

2(2λv22−λvσ(σ2+η2) +1

4λ(σ2+η2)21 4λv4

と変形し,V(ϕ)の計算の最右辺において定数項14λv4を落とせば,Lagrangian密度の式(18.11)を得る.