第 13章
15.2 繰り込みの体系:修正極小減算法
クォークは常にハドロンに閉じ込められており 自由なクォーク としては存在しないので,QEDに対し て第9章と第10章で行った,自由電子の性質をパラメーターとする繰り込みの議論(これを 質量殻上の体 系 と呼ぼう[自由粒子の運動量はp2 =m2を満たす質量殻上にあるから])はQCDに関しては不便であ る.そこで別の繰り込みの枠組みとして, 修正された極小減算の体系 (MS)をQEDの文脈において導入す る(15.2節).この体系では質量尺度の選択の任意性に関係して, 繰り込み群方程式 が導かれる(15.3節). 15.4節ではMSをQCDに適用し,このときQEDの場合と違って漸近的自由性が導かれることを示す.
図9 電子-陽電子消滅による(a)2-ジェット事象と (b)3-ジェット事象(重心系)
図10 3-ジェット事象の第1段階に寄与する最低次 のFeynmanダイヤグラム
15.2.1電子の伝播関数
輻射補正を考慮した電子の伝播関数(9.24):
i /
p−m0+iε+ i /
p−m0+iεie02Σ(p) i /
p−m0+iε
= i
/
p−m0+e02Σ(p) +iε+O(e04)≡G(p) における自己エネルギー項e02Σ(p)を,D= 4−η次元における式(10.73):
e02Σ(p) = ˜e02
16π2(/p−4m) [2
η −γ+ ln(4π) ]
+ ˜e02Σr(p), 16π2Σr(p) =2m0−/p−2
∫ 1 0
dz[/p(1−z)−2m0] ln
[m02z−p2z(1−z) µ2
]
に拡張する.ただし任意の質量尺度µに対しe˜0=µ−η/2e0であり,またη →0のときに消える項はあらか じめ省いた. 修正された極小減算の体系 (MS)においては,発散定数を1/ηの項だけでなく−γ+ ln(4π) の項も含めて
A′ =−m0
4π2 [2
η −γ+ ln(4π) ]
, B′= 1 16π2
[2
η −γ+ ln(4π) ]
と選ぶ.[この意味で発散定数の選び方が 極小 でなく, 極小減算の体系 MSの修正に当たる.]このとき Z2= 1−er2B′の関係を通して繰り込まれた質量と電荷
mr=Z2(m0−er2A′), er= ˜e0Z21/2 を定義すると,伝播関数は
G(p) = iZ2
/
p−mr+er2Σr(p) +iε+O(er4)
と表される.分子のZ2を伝播関数に接続する2つの結節点に吸収させ,繰り込まれた伝播関数を
Gr(p) = i
/
p−mr+er2Σr(p) +iε+O(er4)
とする.Σr(p)は,したがってGr(p)はη→0の極限でもよく定義された有限な量となっているけれど,質 量尺度µ依存性を持っている.
なお摂動の高次項を考慮する場合Z2の表式は変わるけれど,
er≡e˜0Z21/2, Gr(p)≡Z2−1G(p)
の関係は保持するものとする.また繰り込まれた質量mrは伝播関数Gr(p)の分母をゼロにする極/p=mで 与えられる物理的な質量mとは異なっており,両者は
m−mr+er2Σr(/p=m) = 0
によって関係付けられる.ここからmrが有限で質量尺度µに依存することが見て取れる.
15.2.1について
■式(15.8)について µ2→µη,d4k→dDkと訂正されると考えられる(式(10.71)参照).
■式(15.10)について 問題10.2を解き,自己エネルギー項e02Σ(p)の式(10.73)あるいは式(15.10)を示そ う.式(10.71):
ie02Σ(p) =−e˜02µ4−D (2π)D
∫
dDk γα(/p−k/+m)γβ (p−k)2−m2+iε
gαβ
k2−λ2+iε において,縮約の公式(10.37)より
gαβγα(/p−k/+m)γβ =Dm−(D−2)(/p−k)/ である.ここで
a= (p−k)2−m2+iε, b=k2−λ2+iε とおいてFeynmanのパラメーター積分(10.10):
1 ab =
∫ 1 0
dz 1
[b+ (a−b)z]2 を利用しよう.すると
∫
dDk γα(/p−k/+m)γβ (p−k)2−m2+iε
gαβ k2−λ2+iε =
∫ 1 0
dz
∫
dDkDm−(D−2)(/p−/k) [b+ (a−b)z]2 となる.次にq=k−pzと変数変換すると
b+ (a−b)z=(k2−λ2+iε) + (p2−2p·k−m2+λ2)z
=q2−s+iε,
s≡m2z+λ2(1−z)−p2z(1−z) なので式(10.72):
ie02Σ(p) = −˜e02 (2π)Dµ4−D
∫ 1 0
dz
∫
dDqDm−(D−2)(/p−/q−/pz) (q2−s+iε)2 を得る.公式(10.27),(10.32)を用いてqに関する積分を評価すると
∫
dDqDm−(D−2)(/p−/q−/pz) (q2−s+iε)2
={Dm−(D−2)(1−z)/p}iπD/2Γ(2−D/2) Γ(2)
1 s2−D/2
=[{4m−2(1−z)/p} −η{m−(1−z)/p}]iπD/2Γ (η
2
) 1
{m2z−p2z(1−z)}η/2 (λ= 0とした)
なので,
e02Σ(p) = −e˜02 16π2·(4π)−η/2Γ
(η 2
) ∫ 1
0
dz[{4m−2(1−z)/p} −η{m−(1−z)/p}]
{m2z−p2z(1−z) µ2
}−η/2
となる.公式(10.28),(10.29)を用いてこれをηについて展開し,η→0において重要となる1/ηの項と定数 項だけを残すと
e02Σ(p) =−˜e02 16π2
(2
η −γ+· · · ) {
1 + 1
2ηln(4π) +· · · }
×
∫ 1 0
dz[{4m−2(1−z)/p} −η{m−(1−z)/p}] [
1−1 2ηln
{m2z−p2z(1−z) µ2
} +· · ·
]
=−˜e02 16π2
[2
η −γ+ ln(4π) ] ∫ 1
0
dz{4m−2(1−z)/p} + e˜02
16π22
∫ 1 0
dz{m−(1−z)/p}
− e˜02 16π22
∫ 1 0
dz{/p(1−z)−2m}ln
{m2z−p2z(1−z) µ2
}
= ˜e02
16π2(/p−4m) [2
η −γ+ ln(4π) ]
+ ˜e02Σc(p) : (10.73a), 16π2Σc(p) =(2m−/p)−2
∫ 1 0
dz{/p(1−z)−2m}ln
{m2z−p2z(1−z) µ2
}
を得る.よってΣc(p)の式(10.73b)では被積分関数において4m→2mと訂正する必要があると考えられる (Σr(p)の式(15.10b)ではそうなっている).
■式(15.14)について
G(p) = i
/
p−m0+e02{A′+B′/p+ Σr(p)}+iε
= 1Z2
Z2{(1 +e02B′)/p−(m0−e02A′) +e02Σr(p) +iε} の最右辺分母において,あらかじめη→0の極限を考えてe0と˜e0を同一視し
Z2(1 +e02B′) =Z2(1 +er2B′) +O(er4) = 1 +O(er4), Z2(m0−e02A′) =Z2(m0−er2A′) +O(er4) =mr+O(er4),
Z2e02=er2, Z2iε→iε とすると,式(15.14):
G(p) = iZ2
/
p−mr+er2Σr(p) +iε+O(er4) を得る.
15.2.2光子の伝播関数
輻射補正を考慮した光子の伝播関数(9.13):
−igαβ
k2+iε+ −igαµ
k2+iεie02Πµν(k)−igνβ
k2+iε = −igαβ
k2+iε+e02A(k2)+O(e04)≡Gαβ(k2)
(ただしΠµν(k) =−gµνA(k) +kµkνB(k2))における自己エネルギー項ie02Πµν(k)をD= 4−η次元にお ける式へと拡張した結果(10.4節)は
e02A(k2) =˜e02 k2 12π2
[2
η −γ+ ln(4π) ]
+ ˜e02k2Πr(k2), Πr(k2) =−1
2π2
∫ 1 0
dzz(1−z) ln
[m2−k2z(1−z) µ2
]
と表される.ここでも任意の質量尺度µに対しe˜0=µ−η/2e0であり,またη →0のときに消える項はあら かじめ省いた.
MS体系では,
Z3= 1− e˜02 12π2
[2
η −γ+ ln(4π) ]
に対して繰り込まれた電荷をer=Z31/2˜e0と定義し,再び因子[
2
η−γ+ ln(4π) ]
を含む発散定数を再定義す る物理パラメーターerに吸収させる.すると伝播関数は
Gαβ(k2) = −iZ3gαβ
k2+iε+er2k2Πr(k2)+O(er4)
となる.最後に分子のZ3を伝播関数に接続する2つの結節点に吸収させ,繰り込まれた伝播関数を Gαβr (k2) = −igαβ
k2+iε+er2k2Πr(k2)+O(er4)
とする.Πr(k2)は,したがってGαβr (k2)はη→0の極限でもよく定義された有限な量となっているけれど,
質量尺度µ依存性を持っている.
15.2.2について
■D次元におけるA(k2)の式(15.23)について 式(10.48),式(10.52b)により e02Πµν(k) = (kµkν−k2gµν)˜e02
[ 1 12π
{2
η −γ+ ln(4π) }
+ Πr(k2) ]
である(Πr(k2)は式(15.24)で定義される).これを式(9.11):
e02Πµν(k) =e02{−gµνA(k) +kµkνB(k2)} と比較すると式(15.23):
e02A(k2) =k2e˜02 [ 1
12π {2
η −γ+ ln(4π) }
+ Πr(k2) ]
が見出される.
15.2.3電荷の繰り込み
輻射補正を考慮した結節点因子(9.47):
iΓµ(p′, p) =ie0[γµ+e02Λµ(p′, p)]
における自己エネルギー部分e02Λµ(p′, p)は,Λµr(p′, p)を質量尺度µに依存する有限な量としてD= 4−η 次元においては
e02Λµ(p′, p) =e˜02γµ 16π2
[2
η −γ+ ln(4π) ]
+ ˜e02Λµr(p′, p) という形に一般化される(10.5節).MS体系では
Z1= 1− er2 16π2
[2
η −γ+ ln(4π) ]
という関係を通して,繰り込まれた電荷er= ˜e0/Z1を定義する.すると結節点因子は iΓµ(p′, p) =ierµη/2[γµ+er2Λµr(p′, p)] +O(er5) という[よく定義された有限な]形に書き換えられる.
ここで行った結節点補正に伴う電荷の繰り込みを,15.2.1節と15.2.2節における電子と光子の自己エネ ルギー部分による電荷の繰り込みと併せて考える.[ここで電子と光子の伝播関数がそれぞれ式(15.17)の Gr(p)や式(15.28)のGαβ(k2)に修正されたのと同時に,接続する結節点の各々に因子Z21/2, Z31/2が吸収 されたことを思い出そう.]各結節点には2本のフェルミオン線と1本の光子線が接続しているので,繰り込 まれた結節部分は
iΓµr(p′, p)≡iZ2Z31/2Γµ(p′, p)
=ierµη/2[γµ+er2Λµr(p′, p)] +O(er5) となる.ここに
er≡e˜0Z31/2Z2 Z1
=e0µ−η/2Z31/2Z2 Z1
は完全に繰り込まれた電荷である.MS体系においてもWard恒等式としてZ1=Z2が成り立つので,erの 定義式は
er=e0µ−η/2Z31/2 と簡略化される.
繰り込まれた質量と電荷mr=mr(µ), er=er(µ)はいずれも質量尺度µに依存し,それぞれ 走行質量 走行電荷 と呼ばれる.物理的な観測量は質量尺度µに依存してはならないことから繰り込み群方程式が導 かれ,そこから走行電荷er(µ)はµが大きいほどより短距離において相互作用の強さを計ることが示される (15.3節).完全に繰り込まれた電荷erは
µ∂er
∂µ = er3
24π2 +O(er5) (η= 0のとき)
を満たし,µとともに増大する.このようなQEDにおける電荷のµ依存性は顕著に現れないのに対し(15.3.3 節),QCDでは結合はµの増大に伴って減少し,その効果は顕著に現れる.漸近的自由性がQCDでは導か れるのに対しQEDでは導かれないという違いは,このような事情に由来している(15.4節).
15.2.3について
■結節点因子の式(15.34)について
e0=er+O(e03), ∴e02=er2+O(er4) なので
iΓµ(p′, p) =i˜e0µη/2 [
γµ {
1 + ˜e02 16π2
(2
η −γln(4π) )}
+ ˜e02Λµr(p′, p) ]
=ierµη/2Z1 [
γµ {
1 + er2 16π2
(2
η −γln(4π) )}
+er2Λµr(p′, p) ]
+O(er5) となる.ここで
Z1
{
1 + er2 16π2
(2
η −γln(4π) )}
= 1 +O(er4), Z1er2=er2+O(er4) なので式(15.34):
iΓµ(p′, p) =ierµη/2[γµ+er2Λµr(p′, p)] +O(er5) を得る.
■電荷の繰り込みへの3つの寄与を考慮した式(15.36)について MS体系での外線の繰り込みは論じられて いないけれど,9.4節で見たように伝播関数の場合と同じ補正(9.46):
e0→e=Z31/2e0, e0→e=Z21/2e0
を行えば良いものとすれば,式(15.36)を正当化できる.
■完全に繰り込まれた電荷(15.38),(15.40)について これらは空間次元の違いを除けば,それぞれ質量殻上 の体系における式(9.59),式(9.64)と同じものである.
■Ward恒等式(15.39)について 質量殻上の体系では
• 2次のフェルミオン自己エネルギーループ(Z2に関係)
• ゼロエネルギー光子を持つ結節点補正(Z1に関係)
を関係付ける恒等式(9.60):∂Σ(p)/∂pµ= Λµ(p, p)から式(9.63):Z2=Z1が得られた.
これに対しMS体系では,式(15.39):Z1=Z2の起源は異なるようである:
Z2=1−er2B′ (∵式(15.15))
=1− er2 16π2
[2
η −γ+ ln(4π) ]
(∵式(15.12b))
=Z1. (∵式(15.33))
■式(15.41)について
µ∂er
∂µ = (
µ ∂
∂µµ−η/2 )
e0
[
1 + e02 24π2
{2
η −γ+ ln(4π) }]
+O(e05)
→ e03
24π2 (η→0のとき)
であり,最右辺においてe03をer3に置き換えたときの誤差もO(e05)である.