第 13章
15.4 強い相互作用の結合定数
図11 1-グルーオン交換によるクォーク-クォーク散乱(上段)と,最低次の補正を表す真空偏極グラフ(下段)
図12 無効ダイヤグラム
交換関係(11.12a):[Ti, Tj] =ifijkTkに加えて,次の性質がある.
Tr(Ti) =1
2Tr(λi) = 0, Tr(TiTj) =1
4Tr(λiλj) = 1 2δij, TiTj =1
4λiλj= 4 3.
[第3式の最右辺には単位行列が掛かっているものと見なす.]
さらに以上の関係式から,次の恒等式が導かれる.
ifijkTjTk=−3
2Ti, TjTiTj=−1 6Ti.
15.4.2無効ダイヤグラム
図12に示したループダイヤグラムにFeynman規則を適用するとゼロになる.(正規順序化を利用する正準 形式では,Wickの定理において同時刻縮約が除かれることから,これらのダイヤグラムが省かれる.)
15.4.2について
■図15.12(p.415)のグラフ(a),(b)に関する因子δjkについて 14.3節で見たように,伝播関数に由来する
Kroneckerのデルタを計算で消費してしまえば(あるいは等価的に,あらかじめ色や色電荷の保存する過程の
図13 2次のクォーク自己エネルギー
みを考えてKroneckerのデルタを省けば),グラフの内線にKroneckerのデルタを充てる必要はなくなるけれ ど,本来的には伝播関数因子はKroneckerのデルタを含んでいる.
■図15.12(p.415)のグラフ(d)に関する,p.414下から2行目の式について 計量テンソルgµνはグルーオン 伝播関数に由来しており,正しくはgνσと考えられる.
15.4.3結合定数の繰り込み
本節ではクォークとグルーオンの伝播関数とクォーク-グルーオン結節部分の繰り込みを,2次の摂動論の範 囲で考える.
■クォークの自己エネルギー クォークの自己エネルギー部分は図13のダイヤグラム[ただし教科書の図 15.13(p.416)に対して,グルーオンの色電荷の添字i, jとクォークの色の添字a, a′, c, c′の付け方を修正した]
にFeynman規則を適用すると
ig02Σac(p) =(ig0)2Cac
∫ d4k
(2π)4iDFαβ(k)γαiSF(p−k)γβ, Cac≡Tabi Tbci =4
3δac
となる.[Kroneckerのデルタδacにより色の保存しない過程a̸=cの確率はゼロになる.そこで]色の保存 する場合a=cを考えると,これは単に電子の自己エネルギー部分(15.8b)においてe02→4g02/3と置き換 えたものになっている.よってクォーク伝播関数の繰り込みは,繰り込み定数(15.15)を
Z2= 1− gr2 12π2
[2
η −γ+ ln(4π) ]
に置き換えさえすれば,電子伝播関数の場合(15.2.1節)と全く同様に行われる.
■グルーオンの自己エネルギー グルーオンの伝播関数に対する2次の補正には,図14の3種類の自己エネ ルギーダイヤグラムがある.これらはFeynman規則に基づいて式(15.80)のように評価されるので(15.6.1 節),クォークループに関してnf 種類のクォークの香り考慮すると(標準理論ではnf = 6),自己エネルギー
図14 グルーオンの自己エネルギーへの2次の寄与
部分は正味で
ig02Πµνij (k) =iδijg02Π˜µν(k), g02Π˜µν(k) =(kµkν−k2gµν) ˜g02
16π2 (2nf
3 −5 ) [2
η −γ+ ln(4π) ]
+· · ·
となる.ここに「· · ·」は有限な項を表す.[Kroneckerのデルタδij により色電荷の保存しない過程i̸=jの 確率はゼロになる.そこで]色電荷の保存する場合i=jを考えると,これは光子の自己エネルギー部分(式 (10.48),式(10.52b))において
˜ e02
12π2 → g˜02 16π2
(2nf
3 −5 )
と置き換えたものになっている.よってグルーオン伝播関数の繰り込みは,繰り込み定数(15.26)を Z3= 1− ˜g02
16π2 (2nf
3 −5 ) [2
η −γ+ ln(4π) ]
に置き換えさえすれば,電子伝播関数の場合(15.2.2節)と全く同様に行われる.
■クォーク-グルーオン結節点補正 クォーク-グルーオン結節点に対する2次の補正g02Λi,µ(p′, p)は図15の 2つのダイヤグラムで表され,Feynman規則に基づいて式(15.90)によって与えられる(15.6.2節).このと き繰り込み定数の表式
Z1= 1−13gr2 48π2
[2
η −γ+ ln(4π) ]
図15 2次のクォーク-グルーオン結節点補正
を通して繰り込まれた結合gr = ˜g0/Z1を定義すると,2次の輻射補正を含めたクォーク-グルーオン結節部 分は
iΓi,µ(p′, p) =ig0[γµTi+g02Λi,µ(p′, p)]
=igrµη/2[Tiγµ+ ˜g02Λi,µr (p′, p)]
となる.ただしΛi,µr (p′, p)は有限な部分である.
QEDの場合と同様に,結節点に接続する伝播関数に由来する因子Z21/2, Z31/2を吸収して,繰り込まれた 結節部分を
iΓi,µr (p′, p) =Z2Z31/2iΓi,µ(p′, p) =igrµη/2[Tiγµ+gr2Λi,µr (p′, p) +O(gr5)]
とする.ここに
gr≡g˜0Z31/2Z2 Z1
=g0µ−η/2Z31/2Z2 Z1
は完全に繰り込まれた電荷であり,QCDの場合Z1=Z2としてさらにこの式を簡略化することはできない.
15.4.3について
■自己エネルギーの式(15.74a)について 図 13のダイヤグラムに 14.4節のFeynman規則を適用して Feynman振幅の式u¯c(p){ig02Σac(p)}ua(p)に翻訳すると,
ig02Σac(p) =
∫ d4k
(2π)4{iDβαF (k)δij}{−ig0(Tj)cc′γα}{iSF(p−k)δa′c′}{−ig0(Ti)a′aγβ}
=(ig0)2(Ti)cb(Ti)ba
∫ d4k
(2π)4iDFαβ(k)γαiSF(p−k)γβ: (15.74) となる.
■式(15.81)について
nf
24π2(kµkν−k2gµν) + 1 32π2
(
kµkν+k2gµν 2
)
− 1 32π2
(
11kµkν−19 2 k2gµν
)
= 1 16π2
(2 3nf+1
2 −11 2
)
kµkν+ 1 16π2
(
−2 3nf+1
4 +19 4
) k2gµν
= 1 16π2
(2nf
3 −5 )
(kµkν−k2gµν) による.
■Z3の式(15.86)について 2nf −5の箇所は(
2nf 3 −5
)
と考えられる.実際このときはじめて式(15.98) を正しく導ける.
■式(15.88)について QEDにおける対応する式(15.28)とともに,Πr(k2)の項には係数k2を補う必要が あると考えられる.実際,式(15.24)のΠr(k2)は無次元量なので,k2を補って初めて次元の正しい式となる.
■式(15.93)について
iΓi,µ(p′, p) =ig0Tiγµ [
1 + 13gr2 48π2
{2
η −γ+ ln(4π) }]
+· · ·
=igrµη/2TiγµZ1
[
1 +13gr2 48π2
{2
η −γ+ ln(4π) }]
+· · ·
=igrµη/2[Tiγµ+O(˜g02)] +· · ·
において,O(˜g02)を有限な項「· · ·」と合わせて˜g02Λi,µr (p′, p)と書けば,式(15.93)を得る.
なお色電荷の添字が省かれているけれど,Tiは行列要素を表していると考えられ,それ故γ行列と順序交 換するのは何ら問題ない.
■ 輻射補正 として可能なグラフ(図15.13(p.416),図15.15(p.417),図15.17(p.420))について これらは QCDの結節点が図14.4(p.379)の4種類であることを考慮して得られる.
15.4.4走行電荷
完全に繰り込まれた結合(15.97):gr=g0µ−η/2Z
1/2 3 Z2
Z1 に対して
µ∂gr
∂µ =−β0gr3
16π2, β0= 11−2 3nf
なので,17未満の香りの種類の数nf に対して[したがって標準理論の値nf = 6に対して,QEDの場合と は対照的に]結合grはµの増加に対して減少する[漸近的自由性(15.5節の第1段落を参照)].微細構造定 数と同様に定義される結合の強さαs(µ)≡gr2(µ)に関する上式の解として,結合grの具体的なµ依存性を 以下の2通りに表すことができる.
αs(µ) =
4π
β0ln(µ2/Λ2) (Λは積分定数) αs(µ0)
1 + (β0/4π)αs(µ0) ln(µ2/µ02) (µは積分定数)
15.4.4について
■完全に繰り込まれた結合grの式(15.98)について Z31/2Z2
Z1
=1 + gr2 32π2
{
− (2nf
3 −5 )
−8 3+26
3 } {2
η −γ+ ln(4π) }
+O(gr4)
=1 + gr2 32π2
(
11−2nf
3 ) {2
η −γ+ ln(4π) }
+O(gr4) による.
■αsに対する式(p.421下から3行目)とその解(15.102)について µ∂αs
∂µ = µ 2πgr
∂gr
∂µ = gr
2π (
−β0gr3 16π2
)
=−β0
αs2 2π. これを変数分離して解くと
−1
αs =−β0
2πlnµ+ const.=−β0
4πln (µ2
Λ2 )
となるので式(15.102)を得る.積分定数Λは真数を無次元化する意味でも必要である.
■α−s1に対する式(p.422,l.3)とその解(15.103)について µ∂αs−1
∂µ = 4πµ (
− 2 gr3
∂gr
∂µ )
= (
−8π gr3
) (
−β0gr3 16π2
)
= β0
2π. これを解くと
1
αs(µ)− 1
αs(µ0) = β0 2πln
(µ µ0
)
となるので式(15.103)を得る.
■漸近的自由性 QEDに対する15.3.3節の説明を踏まえると,結合grがµの増加に対して減少すること(式 (15.99),式(15.102),式(15.103))が漸近的自由性に他ならない.そのことの丁寧な説明が15.5節の第1段 落にある.
■尺度µにZ0ボゾンの質量mZを用いること(最終段落)について mZは比較的大きな質量なのでαs(mZ) は1に比べて小さな値をとる.このためµ=Z0と選ぶことは摂動論に適していると考えられる(15.5節も 参照).