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付録: QCD におけるループダイヤグラムの例

第 13章

15.6 付録: QCD におけるループダイヤグラムの例

15.6.1グルーオン自己エネルギー部分のグラフ

15.4.3節で予告したように,図14のダイヤグラム(a),(b),(c)に対応する最低次でのグルーオンの自己エネ ルギー部分はそれぞれ,Feynman規則に基づき式(15.80):

ig02Πµνij (a) =δil(kµkν−k2gµν)i˜g02 24π2

[2

η −γ+ ln(4π) ]

+· · ·, ig02Πµνij(b) =δil

(

kµkν+k2gµν 2

) i˜g02 32π2

[2

η −γ+ ln(4π) ]

+· · ·, ig02Πµνij(c) =δil

(

11kµkν19 2 k2gµν

)−i˜g02 32π2

[2

η −γ+ ln(4π) ]

+· · ·

によって与えられることを証明した.ただし「· · ·」はη 0の極限で発散せずに有限に留まる量である.

15.6.1について

■クォークループの寄与(15.110)について 図14(a)のダイヤグラムにFeynman規則を適用して対応する Feynman振幅をε(k)ig02Πµνil (a)ε(k)と書くと,

ig02Πµνil (a) =

∫ d4p

(2π)4(1)Tr[{−ig0(Ti)abγµ}iSF(p+k){−ig0(Tl)baγν}iSF(p)]

=Cil(a)(1)(−ig0)2

∫ d4p

(2π)4Tr[γµiSF(p+k)γνiSF(p)] : (15.110), Cil(a)=Tabi Tbal = Tr(TiTl) = 1

2δil: (15.111)

となる.(トレースの中のスピノル因子の順序が,フェルミオン線の矢の向きをたどる順序と同じ順序で右か ら並んではいないが,クォークのループに対してトレースをとって(1)を掛けるFeynman規則(14.4節の

規則5)を適用できるのはこのときである(QEDの場合の式(7.22)参照).光子の自己エネルギー部分の式 (9.8)も同様である.)

■ゴーストループの寄与(15.113)について 図14(b)のダイヤグラムにFeynman規則を適用して対応する Feynman振幅をε(k)ig02Πµνil (b)ε(k)と書くと,

ig02Πµνil (b) =

∫ d4p

(2π)4(1)(g0fikjpµ)i∆F(p+k){g0fljk(p+k)ν}i∆F(p)

=Cil(b)(1)g02

∫ d4p

(2π)4(p+k)νpµi∆F(p+k)i∆F(p), Cil(b)=fikjfljk=−fijkfljk=il: (15.113b)

となる.よって式(15.113a)は添字µ, νが逆であると考えられる.ただし最終的な結果(15.80b)は添字µ, ν に関して対称であり,結論に変わりはない.そこで本稿では以降の計算において,混乱を避けるため式の中の 添字µ, νの付け方は教科書に合わせることにする.いずれにせよ式(15.113a)のkνpν に,またi∆F(k) の引数kpに訂正しなければならない.

■式(15.115),式(15.116)の訂正 式(15.113a)の訂正を反映して,式(15.115)右辺の被積分関数分母にお いてk2+iε→p2+と訂正し,式(15.116)右辺においてkν→pνと訂正する.するとp.429,l.3以降の 式が正しく得られる.

■式(15.80b)導出過程の最後(式(15.119)以降)について ηによる展開を行うにあたって,まず次のことに

注意する.

公式(10.28):

xη/2= 1−η

2lnx+· · ·x <0の場合にも,右辺においてx→ |x|と置き換えれば成立する.

ガンマ関数の性質Γ(x+ 1) =xΓ(x)より Γ

(η 2 1

)

= Γ(η/2)

η 21

と書き換えれば,右辺のΓ(η/2)は公式(10.29)を用いて評価できる.

するとI1µνの項は µη (2π)D

1 0

dzI1µν(k, z)

= µη

(2π)4η(−i)π2η/2Γ(η

21)

2 gµν

1 0

dz 1

[−k2z(1−z)](η/2)1

=igµν 32π2

[ 1 +η

2ln(4π2) +· · ·] [ 1−η

2lnπ+· · ·] [ 1 + η

2 +· · ·] [2

η −γ+· · · ]

×

1 0

dz[−k2z(1−z)]

[ 1−η

2ln

(k2z(1−z) µ2

) +· · ·

]

=igµν 32π2 ×

1 0

dz[−k2z(1−z)]

[2

η −γ+ ln(4π2)lnπ+ 1ln

(k2z(1−z) µ2

)]

+· · ·

= i 32π2

k2gµν 6

[2

η −γ+ ln(4π) ]

igµν 32π2k2

1 0

dzz(1−z) [

1ln

(k2z(1−z) µ2

)]

+· · ·

となる.最右辺の2行目はη→0のときに発散せずに有限に留まる量であり,特に「· · ·」の部分はη→0と すると消える.

I2µν の項に関しても同様に µη (2π)D

1 0

dzI2µν(k, z)

= µη (2π)4η

1 0

dzπ2η/2Γ(η/2) kµkν [−k2z(1−z)]η/2

=−ikµkν 16π2

[ 1 + η

2ln(4π2) +· · ·] [ 1−η

2lnπ+· · ·] [2

η −γ+· · · ]

×

1 0

dzz(1−z) [

1−η 2ln

(k2z(1−z) µ2

) +· · ·

]

=−ikµkν 16π2

1 0

dzz(1−z) [2

η −γ+ ln(4π2)lnπ−ln

(k2z(1−z) µ2

)]

+· · ·

= i 32π2

kµkν 3

[2

η −γ+ ln(4π) ]

+ikµkν 16π2

1 0

dzz(1−z) ln

(k2z(1−z) µ2

) +· · ·

と計算できる.再び最右辺の2行目はη 0のときに発散せずに有限に留まる量であり,特に「· · ·」の部分η 0とすると消える.

以上の2式を足して全体にg02δilを掛ければ,式(15.80b)が得られる.

■グルーオンループの寄与(15.121)について 図14(c)のダイヤグラム(ただし教科書の図15.15(c)(p.417) のLorentz添字ρ, σに加えてρ, σを導入し,また運動量の向きを表す矢印を付記した)にFeynman規則を 適用して対応するFeynman振幅をε(k)ig02Πµνil (c)ε(k)と書くと,

ig02Πµνil (c) =1 2

∫ d4p

(2π)4{g0fijkVµρσ(k,−p−k, p)}{g0flkjVνρσ(−k,−p, p+k)}{iDρρF(p+k)}{iDσσF (k)}

=3δil1 2g02

∫ d4p (2π)4

Vµρσ(k,−p−k, p)Vνσρ(−k,−p, p+k)

[(p+k)2+iε][k2+iε] : (15.121) (∵−fijkflkj =fijkfljk= 3δil)

となる.

15.6.2クォーク-グルーオン結節点補正

15.4.3節で予告したように,図15のダイヤグラム(a),(b)に対応する最低次でのクォーク-グルーオン結節 点補正はそれぞれ,Feynman規則に基づき式(15.90):

g02Λi,µ(a)=−γµ(Ti)cd

˜ g02 96π2

[2

η −γ+ ln(4π) ]

+· · ·, g02Λi,µ(b)µ(Ti)cd

g02 32π2

[2

η −γ+ ln(4π) ]

+· · ·

によって与えられることを証明した.ただし「· · ·」はη 0の極限で発散せずに有限に留まる量である.

15.6.2について

■式(15.123)について 図15(a)のダイヤグラム(ただし教科書の図15.17(a)(p.420)にLorentz添字α, β を補い,また運動量の向きを表す矢印を付記した) にFeynman規則を適用して対応するFeynman振幅を

¯

uc(p)ig03Λi,µ(a)ud(p)ε()(pp)と書くと,

ig03Λi,µ(a)=

∫ d4k

(2π)4iDFαβ(k){−ig0(Tj)cbγβ}iSF(p−k){−ig0(Ti)baγµ}iSF(p−k){−ig0(Tj)adγα}

=ig03C(a)Λµ(p, p) : (15.123), C(a)=(Tj)cb(Ti)ba(Tj)ad=1

6(Ti)cd: (15.124), Λµ(p, p) = −i

(2π)4

∫ d4k k2+iεγα

1 /

p/k−m+iεγµ 1 /

p−/k−m+iεγα: (9.48) となる.

■式(15.125)について 図15(b)のダイヤグラム(ただし教科書の図15.17(b)(p.420)にLorentz添字α, β を補い,2つある色電荷の添字nの一方をmに訂正し,また運動量の向きを表す矢印を付記した)にFeynman 規則を適用して対応するFeynman振幅をu¯c(p)ig03Λi,µ(b)ud(p)ε()(pp)と書くと,

ig03Λi,µ(b)=

∫ d4k

(2π)4{g0finmVµβα(p−p, k−p, p−k)}iDFνα(p−k)iDFτ β(p−k)

× {−ig0(Tn)caγτ}iSF(k){−ig0(Tm)adγν}: (15.125)

となる.ただし式(15.125)のフェルミオン伝播関数iSF(k)の部分において,k→/k, m2→m02と訂正する.

強い相互作用・ QCD ( 11–15 ) まとめ

ここまでで強い相互作用の理論であるQCD (量子色力学)の説明が1通り完了したことになる.ここでこ れまでの内容を簡単に振り返っておこう.

第 11 章 ゲージ理論

第11章ではQCDの導入を行った.

ゲージ不変な理論を得るには,Dirac場の局所的位相変換と同時にゲージ変換を受けるようなゲージ場を,

極小置換を通して導入すれば良いことが説明された(11.1節). 次にクォークに関して,

実験的に自由クォークqやクォーク対qq,その他の分数電荷状態が観測されないこと

3個のクォークから成るバリオンが,そのスピン-統計性にも関わらず クォーク模型では全体として対称な波動関数によって記述されること

が取り上げられた.そしてこの問題は,クォークの色と呼ばれる自由度を導入し,色の閉じ込め条件を課す ことで自然に解消・説明された(11.2.1節).ここでクォークの色状態はr, g, bの3種類であるのに対し,色 スピノルに作用する色行列Fˆii= 1,· · · ,8の8種類がある.(後にiは色電荷の添字と呼ばれる.例えば p.370の脚注を参照.)これに対応してQCDでは,ゲージ変換は8つのゲージ関数ωi(x)を用いて行われ(式 (11.26a)),極小置換を通して導入される実数ゲージ場Aµi(x)もまた8種類となる.ゲージ場Aµi(x)はグルー オン場と呼ばれ,そのゲージ変換が電磁場よりも複雑であることに起因して,自由グルーオン場のLagrangian 密度(11.34):LG =14GiµνGµνi には

Gµνi =Fiµν+gsfijkAµjAνk

のように付加的な項が現れる(11.2.3節).これはグルーオンの3点結節点や4点結節点を生じる.このこと はグルーオン自体が色電荷を持ち,自己相互作用を起こすことを表している(11.2.4節).

最後に極小置換からは得られないような,ゲージ不変性を満たすLagrangian密度の付加的な項を考える と,そのような項は繰り込み可能性の要請によって排除されることが説明された(11.3節).

第 12 章 場の理論の方法

グルーオン場のゲージ変換が電磁場よりも複雑であるために,実はQCDの定式化には正準形式よりも径路 積分形式の方が適している.第12章と続く第13章ではまずQEDの文脈において,径路積分を用いた定式化 のために必要となる概念が導入された.

正準形式ではGreen関数は,相互作用描像においてS演算子Sを用いて式(12.8):

Gµ···(x,· · ·, y,· · · , z,· · ·) =0|T{SAµ(x)· · ·ψ(y)· · ·ψ(z)¯ · · · }|0

0|S|0

のように定義される(12.1節).このとき右辺分母は非連結ダイヤグラムを生じ,それは分子から生じる非連 結ダイヤグラムと正確に相殺するため,以降,非連結ダイヤグラムを考慮する必要はないことが説明された.

また運動量空間のGreen関数は,対応する伝播関数の脚を持つグラフにFeynman規則を適用して評価でき

ることが示された(以上,12.2節).したがってグラフの脚にあたる伝播関数因子を外線因子に置き換えれば

Feynman振幅を得ることができ,その意味で理論の予言は全てGreen関数に集約されているものと見ること

ができる(12.3節).

さらにDirac場をGrassmann場と見なした上で,電磁場とDirac場に充てがう虚構的な源Jκ, σ,¯σを古 典場として導入し,源のLagrangian密度LS(式(12.78a))を含めたS演算子S に対して生成汎関数を式 (12.83):

Z[Jκ, σ,σ] =¯ 0|S|0

0|S|0

によって定義した.このときGreen関数は生成汎関数を虚構的な源で(汎関数)微分すると得られること(式

(12.91))が示された(ただし結果に残ってはならない虚構的な源は,最後にゼロと置く).したがって今や理論

の予言は全て生成汎関数に集約されることになる.なお相互作用のない(LI = 0)自由場の生成汎関数は具体

的に式(12.110)によって与えられること,また一般の(すなわち相互作用がある場合の)生成汎関数は自由場

の生成汎関数を用いて摂動展開(12.122)によって与えられることが見出された(以上,12.5節).

第 13 章 径路積分

径路積分を用いる定式化では,生成汎関数は径路積分(13.63):

Z[Jκ, σ,σ] =¯ 1 N

DADψ¯DψeiX, X=

d4x(L0+LI+LS) :作用

によって与えられる.実際これが正準形式において定義した生成汎関数に一致することを我々は証明した.

よって生成汎関数を源で(汎関数)微分してGreen関数を得る式(12.91)をこの場合のGreen関数の定義と見 れば,径路積分形式と正準形式とでGreen関数は一致し,したがって理論の予言もまた一致することになる (以上,13.2節).

自由場に関しては生成汎関数が具体的に得られているので,そこからGreen関数を求めることができる.

こうして自由場Green関数を求めるためのWickの定理(13.108)が導かれる.一般の(すなわち相互作用が ある場合の)生成汎関数もまた,式(13.113)のように自由場Green関数に関係付けて評価することができる (以上,13.3節).

第 14 章 量子色力学

第14章では径路積分法によりQCDの定式化を行った.その際の困難はもっぱらグルーオン場の量子化に 由来しており,グルーオン場の生成汎関数を適正に定義するためには,可能なゲージ条件(14.7):fi(Aµi(x))

µAµi(x)−hi(x) = 0を課して生成汎関数の径路積分表式からグルーオン場の余分な自由度を取り除く措置が 必要とされた.これを行うと生成汎関数において,ゴースト場を記述するLagraingan密度と,ゴースト場に 関する径路積分が現れた.ゴーストはあくまで都合の良い人工的な概念であって,実在の粒子・場ではない (以上,14.1節).

クォークを含むように以上の理論を拡張すると,QEDの場合と同様に自由場の生成汎関数が具体的に求ま

り,Green関数はやはり自由場Green関数に関係付けてWickの定理を適用することで評価できることが示

された.ここから(若干の補足説明は要するものの,) QCDにおけるFeynman規則の起源を理解できるよう になり,特に各種の結節点に応じた結節点因子が見出された(以上,14.3節,14.4節).

最後に以上を踏まえて,QCDは繰り込み可能な理論であることが確かめられた(14.5節).

第 15 章 漸近的自由性

第15章では1f(= 1015m)よりも短距離になると,距離が短くなるほど力が弱くなるという,強い相互作

用の漸近的自由性と呼ばれる性質が理論的に説明された.

まず準備としてQEDに対して,次元正則化の文脈の下で因子 2η −γ+ ln(4π)を含むように繰り込み 定数Z1, Z2, Z3 を選ぶ, 修正極小減算法 (以下 MS)を繰り込みの手法に用いると,繰り込まれた電荷 (15.38):er=e0µη/2Z31/2Z2/Z1µに対して増大することが示された.ただしµは次元正則化の際に必然 的に導入される質量尺度である(以上,15.2節).

次に結節部分関数は質量尺度µに依らないことを,繰り込まれた結節部分関数(こちらはµに依る)に対す る繰り込み群方程式(15.45)として表現した.これを期待される次元スケーリング(15.49)と組み合わせるこ とで,質量尺度µを増大させることは結節部分において移行する運動量を増大させることに,したがって短 距離の相互作用を考えることに対応するという解釈へと導かれた(式(15.61)参照).以上よりQEDでは電荷 er(µ)は短距離になるほど増大することになる.これは定性的には,電荷の遠方ほど量子揺らぎで生じる真空 偏極によって,電荷が著しく遮蔽されることとして理解できた(以上,15.3節).

これとは対照的にQCDでは, 輻射補正 を考慮したクォークやグルーオンの伝播関数,クォーク-グルー オン結節点の繰り込みを再びMS体系において行うと,繰り込まれた結合(15.97):gr=g0µη/2Z31/2Z2/Z1 は質量尺度µの増大に対して減少することが示された.このためQCDでは,短距離になるほど結合gr(µ)が 減少するという漸近的自由性が成り立つことになる(以上,15.4節).

漸近的自由性により,短距離の相互作用に関しては摂動論を利用することが可能となる.15.4節ではこれに 基づくQCDの成功事例が簡単に紹介された.

第 16 章 弱い相互作用