第 13章
15.3 繰り込み群
15.3.2スケール変換
tを無次元のスケール変数として,次元を持つ引数をすべてt倍するスケール変換 pi, t−1mr, t−1µ → tpi, mr, µ
を行うと,結節部分はその自然次元をdとしてtd倍になると考えられる:
Γf br (tpi, mr, er, µ) =tdΓf br (pi, t−1mr, er, t−1µ).
ここに結節部分Γf br の自然次元は
d= 4−3 2f−b
と表されることが分かる.このことを前節の繰り込み群方程式と合わせると,運動量だけにスケール変換を施 した結節部分関数Γf br (tpi, mr, er, µ)に対する方程式
[ t∂
∂t−β ∂
∂er−mr(γm−1) ∂
∂mr +f γ2+bγ3−d ]
Γf br (tpi, mr, er, µ) = 0
が得られる.質量尺度µの値をµ0に固定してこの式を解いてみよう.このとき上式はスケール変数tの微小 変化がmrとerの微小変化に係数の掛かった量によって保証されることを意味し,それ故,解を
Γf br (tpi, mr, er, µ) = Λ(t)Γf br (pi,m(t),˜ e(t), µ˜ 0) という形に仮定することができる.具体的に解を求めると
Γf br (tpi, mr, er, µ) =tdexp [
−
∫ t 1
f γ2+bγ3
t dt ]
Γf br (pi, t−1mr(µ=tµ0), er(µ=tµ0), µ0) となる.[t= 1とおくと,これは正しい関係を与えることが見て取れる(mr=mr(µ0), er=er(µ0)).]
最後に電子質量がゼロの極限mr= 0を考えよう.この場合にも上の結果によれば,結節部分関数は単純な 次元スケーリング
Γf br (tpi, mr= 0, er, µ) =tdΓf br (pi, mr= 0, er, µ)
には従わない.これは繰り込みの際,理論に質量尺度µが導入されたことと関係している.実際,繰り込みを 行う前の(質量ゼロの)理論には次元を持つパラメーターが存在しないため(電荷は無次元),Lagrangianはエ ネルギー尺度の変更の下で不変になる.この場合には結節部分関数はスケーリング則
Γf br (tpi, er) =tdΓf br (pi, er) に従うと考えられる.
15.3.2について
■式(15.50)について
d(t−1mr) dt
∂
∂(t−1mr)=−1 tmr ∂
∂mr,etc.
なので,15.3.2節l.12の式は右辺全体を1/t倍する必要があると考えられる.実際このとき,スケーリング則 (15.49)の両辺をtで微分すると
∂
∂tΓf br (tpi, mr, er, µ) = (
dtd−1+td ∂
∂t )
Γf br (pi, t−1mr, er, t−1µ)
=td−1 (
d−mr
∂
∂mr−µ ∂
∂µ )
Γf br (pi, t−1mr, er, t−1µ)
=1 t
(
d−mr ∂
∂mr −µ ∂
∂µ )
Γf br (tpi, mr, er, µ) となって式(15.50)を得る.
■結節部分Γf br の自然次元の式(15.52)について n=b+f に対して式(12.10)の各項の自然次元は [δ(4)(q1+· · ·+qn)] =−4, [d4x1· · ·d4xn] =−4n
なので,運動量空間のGreen関数の自然次元はp.408,l.9の式
[Gµ···(q1,· · ·, qn)] =[Gµ···(x1,· · ·, xn)]−4n+ 4
= (
b+3 2f
)
−4(b+f) + 4
=4−5 2f−3b で与えられる.
光子伝播関数とフェルミオン伝播関数の自然次元はそれぞれ−2,−1なので,結節部分Γf br の自然次元は (
4−5 2f −3b
)
−f(−1)−b(−2) = 4−3
2f−b: (15.52) と計算される.
■走行質量と走行電荷の式(15.59)について 式(15.53)と式(15.56)を比較する際,係数だけでなく微分演 算子まで含めた関係
t∂m˜
∂t
∂
∂m˜ =mr(γm−1) ∂
∂mr
= (
µ∂mr
∂µ −mr
) ∂
∂mr
が成り立つことを要求しよう.式(15.59)のm(t)˜ に対して ∂m∂
r = 1t∂∂m˜ なので,式(15.57a)の代わりに 1
t (
µ∂mr
∂µ −mr
)
=t∂m˜
∂t が成り立てば良い.実際
t∂m˜
∂t =−1
tmr(µ=tµ0) + ∂
∂tmr(µ=tµ0) において
∂
∂tmr(µ=tµ0) =µ0
∂
∂µmr(µ=tµ0) = 1 tµ ∂
∂µmr(µ=tµ0) なので,満たされている.
一方,式(15.59)のe(t)˜ に対しては ∂˜∂e = ∂e∂
r なので,この場合には係数の関係として式(15.57b)が成立 していれば良い.実際
t∂
∂ter(µ=tµ0) = (tµ0) ∂
∂µer(µ=tµ0) =µ ∂
∂µer(µ=tµ0) なので,満たされている.
■式(15.60)について
Λ(t) = const×exp [∫ t
1
d−f γ2−bγ3
t′ dt′ ]
において境界条件(15.55):Λ(1) = 1を考慮するとconst = 1であり,dは積分の外に出せるので exp
[ d
∫ t 1
1 t′dt′
]
= exp[ ln(td)]
=td とすれば式(15.60)を得る.
15.3.3走行電荷
最低次の輻射補正によるZ3の式(15.26)を用いると,
µ∂er
∂µ =β0er3+O(er5), ∴er2(µ) = er2(µ0)
1−β0er2(µ0) ln(µ2/µ02), β0≡ 1 24π2
となる.よって[すでに式(15.41)の箇所で述べたように,]走行電荷er はµに対して増加する.(ただし t=µ/µ0がある程度大きくなければ,この走行電荷の増加は目立たない.)ところで質量尺度をより大きな 値µ=tµ0に設定することは,[前節の結節部分関数Γf br (tpi, mr, er, µ)の表式(15.61)によれば]移行運動 量tpiの大きい場合[結節部分の運動量piは移行する運動量に当たる],したがって短距離を考えることに相 当する.[したがってこの結果は,短距離において走行電荷er(µ)が大きくなることを意味している.]これは 真空が量子ゆらぎによって生じる電子-陽電子対で満たされているため,誘電媒質中の電荷と同様に電荷は遮 蔽され,遠方では実効的に電荷が弱まるのに対し,短距離では遮蔽が効かなくなって実効的な電荷が増加する ことを表していると解釈できる.
QCDでは例えば,図11上段のダイヤグラムで表される1-グルーオン交換によるクォーク-クォーク散乱を 考えると,これに対する最低次の補正には図11下段の2通りのダイヤグラムが考えられる.(a)のダイヤグラ ムでは電子-陽電子対が生じ,これは通常の遮蔽効果を持つのに対し,(b)のダイヤグラムではグルーオン-グ ルーオン対が生じ,これは次節で見るように短距離になるほど相互作用が弱くなるような 反遮蔽 の効果を 持つ.補正(a)(b)の正味の結果として,短距離になるほど相互作用が弱くなる漸近的自由性がもたらされる.
15.3.3について
■式(15.62)について 式(15.26),式(15.40)により er=e0µ−η/2Z31/2=e0
[ 1−1
2ηlnµ+· · · ] [
1− er2 24π2
{2
η −γ+ ln(4π) }]
+O(er5) なので,式(15.62):
β≡µ∂er
∂µ = er3
24π2+O(er5)
を得る.以上の計算過程において,真数が次元を持つ量lnµが現れていることは大きな問題ではない.望む ならいつでも,真数が無次元化された形だけを用いて計算を行うことができる.
■式(15.63)について 微分方程式(15.62)を変数分離して解くと
der er3 =β0
dµ
µ , ∴−1 2
{ 1
er2(µ)− 1 er2(µ0)
}
=β0ln (µ0
µ )
, ∴ 1
er2(µ)− 1
er2(µ0)=β0ln (µ2
µ02 ) なので式(15.63)を得る.
図11 1-グルーオン交換によるクォーク-クォーク散乱(上段)と,最低次の補正を表す真空偏極グラフ(下段)