第 2 章 離散選択モデル: GNL モデルの導出と諸性質 7
2.7 GNL モデルの特性
2.7.3 GNL モデルにおける擬似相関係数
GNLモデルに関して,選択確率の擬似相関係数に関するものが多く行なわれている[97, 1, 75]. これらのうち,Papola (2004) [97] では,擬似的な相関係数を解析的に求めている:
ρkk′ ≈ vu uu t
Nj
∑
j′=1
γkj1/2′γ1/2k′j′(1−µ2j) ∀k, k′ ∈ K. (2.88)
ここからNL モデルの擬似相関係数[15] を逆算すると,
ρkk′ ≈
√
(1−µ2j) k, k′ ∈ Kj
0 otherwise
(2.89)
を得る.
式(2.88)と(2.89)を比較することにより,GNL モデルが NL モデルに比べ多様な相関構造が 表現可能であることが分かる.これは,複数のネストへの帰属を可能にしたアロケーション・パ ラメータの導入によるものである.また,式 (2.88) より,GNL モデルにおいて表現可能な相関 係数の範囲は,0≤ρkk′ ≤1となり,負の相関は表現不可能であることが分かる.
2.A 2 章の付録:関連する公理
2.A.1 Luce の選択公理
Luceの選択公理は,Luce (1959) [73] で提示された,個々人が確率的な選択を行なう際の公理 である.特に公理を心理学や経済学に限定している[74] ものではなく,心理学,経済学,学習理 論へと適用している.
公理 2.A.1 (Luce の選択公理) B をB の有限な部分集合であり,全てのM ⊂B について選択 確率 PMh が定義されるとする.次の 2つの条件を満たすとき,その意思決定ルールは Luceの選 択公理に従がうという:
1. もし Pkh|{k,k′}̸= 0,1 ∀ k, k′ ∈B ならば,N ⊂ M ⊂B において,PN |h B =PN |Mh PM|h B, 2. 任意の k, k′ ∈B において Pkh|{k,k′} = 0 ならば,PM|h B =PM\h k|B\k.
この二つの公理のうち,1. より Independence from irelevant alternatives (I.I.A) 特性が導か れる:明らかに,NL,PCL,MNP,MXL,GNL の各モデルは式(2.3) を犯している.つまり,
Luceの選択公理に反している.実際,Luce の選択公理に従がうモデルは,紹介したもののうち,
BP,MNLモデルだけである [81].
I.I.A 特性に類似した性質として,Regularity が挙げられる4.Regularityを満たすとは,次の 条件を満たすことである[77].
定義 2.A.1 (Regularity) もし,N ⊆ M ⊆B ならば,
QhN |M≥QhN |B (2.90)
となる.
Luce (1959) [73]は,経済学に適用する際に,期待効用理論[111]に公理を当てはめ,期待効用 最大化と矛盾しないことを示している.つまり,I.I.A は,期待効用最大化の公理の一つである,
独立性の公理の確率的選択時の表現と捉えられる.しかし,RUM 理論は効用に関しては確定的 に扱っている5ため,期待効用理論の公理を満たす必要はない.
2.A.2 確定的な場合における顕示選好公理
確率的な場合における顕示選好公理と比較し,確定的な場合は,「合理的」であることと選好関 係との間の関係は容易に定めることができる.ここでは,なるべく確率的な場合と比較するのが 容易なように,
定義 2.A.2 (確定的な選択における選択構造) 選択構造は,(K,X, ξ,B, C) で与えられる.ここ で,Kは選択肢を添え字付けする集合,Xは観測された選択肢の属性ベクトルの母集団(Universe), ξ : K → X なる観測された選択肢の属性を特定する写像,B は K より得られる有限,非空の 選択肢集合族であり,一般的には予算集合と呼ばれる.C は選択ルールであり,任意の予算制約 B⊂ B のもとで非空の選択集合C(B)⊂B を対応づける.ただし,C(B)は単集合である必要は ない.
4 ただし,I.I.Aとは独立に導かれる
5 当然組み込むことはできる.その一例がde Palma et al. (2007)[33]である.
37 個々人の選択行動をモデリングするのに選択構造を用いるとき,個々人の行動を規定するある 種の制約を用いる.これが,顕示選好の弱公理[110, 94] (Weak axiom of revealed preference) で ある.
公理 2.A.2 (顕示選好の弱公理) 選択構造(K,X, ξ,B, C)が与えられ,これが顕示選好の弱公理 を満たすとは,任意の B ∈ B, B, B′ ∈B において,B ∈C(B) であるなら,いかなる B, B′ ∈ B′, B′ ∈C(B′) なる B′∈ B においても,B ∈C(B′) が成立する.
上記の顕示選好の弱公理は,選好関係について直接定義したものではない.あくまで,ある選 択された状況(顕示された状況)から導かれる選好が合理的であるかということを述べている.
この選好関係について,それ自体を直接定義する方法も存在する.
公理 2.A.3 (選好関係) 選好関係 ≽が合理的であるとは,次の二つの性質を持つことをいう.
完備性: ∀B, B′ ∈ N,x≽B′ もしくはB′≽B が成立.
推移性: ∀B, B′, B′′∈ N,B ≽B′ かつ B′ ≽B′′ ならば,B ≽B′′ が成立.
このうち,推移性について今後,選択行動自体の置かれている環境により,変化していく.
これら二つの定義はある限られた状況下では等価である.
命題 2.A.1 (≽⇒≽∗) 合理的選好関係 ≽を持つ意思決定者が B に含まれる予算集合から選択を する際,この意思決定者は,顕示選好の弱公理を満たす選択構造を必ずとる.
証明 2.A.1 Mas-Colell et al. (1995) [79] p.12 を見よ.
命題 2.A.2 (≽∗⇒≽) 選択構造(B, C(· · ·))が弱公理を満たし,B が三つまでの元からなるN の 全ての部分集合を含むとき,合理的選好関係≽はB に関してC(· · ·)を合理的であるとする,す なわち
C(B) =C∗(B,≽) ∀B ⊂ B. (2.91)
さらに,この合理的選好関係は唯一のものである.
証明 2.A.2 Mas-Colell et al. (1995) p.13–14を見よ.
弱顕示選好は,限られた場合にしかその顕示された選好が合理的ではないことを意味している.
Houthakker (1950) [53]はこれを多資産下における選択行動に拡張し,顕示された選好が合理
的である,より一般的な条件を示している.
公理 2.A.4 (顕示選好の強公理) 選択構造(X,B, C(·))が与えられ,B, B′ ∈B∈ B かつB, B′∈ B ∈ B′ であり,B ∈ C(B) かつ B′ ∈ C(B′) のとき,B ∈ C(B′) を満たすとき,その選択構造 は,顕示選好の強公理を満たすという.