• 検索結果がありません。

GNL モデルにおけるパラメータ推定への示唆

ドキュメント内 Generalized Nested Logit (ページ 63-71)

第 3 章 GNL モデルの情報理論的解釈 39

3.3 非集計レベルにおけるエントロピー・モデルとの等価性

3.3.4 GNL モデルにおけるパラメータ推定への示唆

本節では,3 節で示されたGNL モデルにおけるパラメータ最尤推定問題の段階におけるパラ メータ割当,双対性から,GNLモデルにおけるパラメータ推定問題へ二つの示唆を与える.まず,

前者について,提案されているVovsha (1997)[128] のアルゴリズムにおけるパラメータ割当の問 題点を指摘し,改良を行なう.次に,後者について,双対性を利用した前者から更に発展させた アルゴリズムの提案を行なう.

Vovsha (1997)[128] は GNL モデルの特殊形である CNL (µj := µ ∀j) を提案するにあたり,

ヒューリスティックと断り書きをした上で,パラメータ推定アルゴリズムを提案している.ただし,

Vovsha では,固有選好度 α0k を省略しており,このことがアルゴリズムの特殊性へと繋がって

いる.α0k は選択肢k に依存するため,ネストj を与件とした場合,アロケーション・パラメー タγkj との関係性が強い.Vovsha のアルゴリズムはこの点を踏まえ,γkj を一旦設定し,その後 α0k を推定し,それをγkj に変換している.しかし,この方法は,α0kγkj 両方がある場合に は適用することができない.

図3.3.4にVovsha (1997)[128] の提案したアルゴリズムを示す.ただし,図3.3.4のアルゴリズ ムは,CNLモデルのそれから GNL モデルのそれへµ⇒µj としていることに注意されたい.こ のアルゴリズムは以下のようなものである.まず,Step 1で,γkj0µ0j と初期値を設定する.次 に,Step 2 として,γkjl のみから算入確率Pkl|j というものを計算する.この算入確率から,欠損 しているネスト jに関する情報を補うために,Step 3でダミーの選択情報δkl,h|j =δhk を生成する.

このとき,サンプル数Hkl|j を算入確率Pkl|j を用い,100×Pkl|j に一番近い整数とする.そして,

Step 4で通常の同時最尤推定法[FIML–GNL]でαmµj 及び αlkj0 を推定する.Step.5では,推 定されたαlkj0 から γkjl への変換:

γkjl = exp (

αlkj0 max

j αkjl0

)

(3.63) を行ない,Step. 6では,条件(2.37)でγkjl を正規化する.この正規化されたγkjl をStep 2に代

入し,Step 2–6 を収束するまで繰り返す.しかし,この方法では固有選好度α0k と アロケーショ

ン・パラメータ γkj 両方がある,一般的な GNL には適用することができない.

本章で提案する手法は,図3.3.4に示すものである.Vovsha [128]のアルゴリズムとは,大きく 二つの点が異なる.一つ目は,同時推定時の初期値の扱いが異なる.提案手法では,まず3,4章で 確かめられた段階推定時のパラメータの分担をもとに,各パラメータを[Sk–GNL] 及び[Sj–GNL]

Start

1.初期設定

2. 算入確率計算

3. 欠損データ補完

5. アロケーション・パラメータへ変換

6. 正規化 4. 同時推定

End

Convergence?

Yes No

γkj0 (k, j), µ0j ∀j Pk′l|j =

( γkjl

)µlj

/

j

( γkjl

)µlj

δl,hk|j =δhk h ∈Hk′l|j Hk′l|j ≈100×Pk′l|j [FIMLGNL] αm, µj, αlkj0

γkjl = exp(αlkj0 max

j αlkj0)

jγkjl = 1 l=l+ 1

図3.1: Vovsha [128]の提案アルゴリズム

で段階推定する.ここで,SkSj は選択肢段階,ネスト段階の段階最尤推定を意味する.GNL モデルはその性質から,Marzano and Papola (2008) [75] により,一般的に対数尤度最大化時に 局所最適に陥りやすいことが知られている.これをなるべく回避するため,段階推定されたパラ メータを初期値として一括推定を行なう.初期値として段階推定を行なうのは,段階推定では同 時推定時には保証されない凸性が(各段階内においては)保証されており,Newton 法などの比 較的収束が早いアルゴリズムを用いても解が発散する恐れが少ないためである.段階推定された パラメータを同時推定時の初期値として用いることは,NL モデルにおいては,構造推定上問題 があることがHensher (1986) [51]により指摘されている.しかし,GNL モデルでは,複数のネ ストへの帰属を可能とし,構造推定上の制約がないため,上記の問題点は存在しない.二つ目は,

制約条件(2.37)をパラメータ推定時にキャリブレーション内で明示的に課さない点にある.これ

は,条件(3.34),(3.35)より,対数尤度最大化においては,アロケーション・パラメータの制約条

件(2.37)を明示的に考慮する必要がないためである.従がって,キャリブレーションを終了して

55

Start

1. 初期設定

2. 算入確率計算

3. 欠損データ補完

4. 一段階目推定 5. 二段階目推定

6. 正規化

7. 初期値に代入

8. 同時推定

End

Convergence?

Yes No

段階推定

同時推定 γkj0 (k, j), µ0j ∀j

Pkl|j = (

γlkj )µlj

/

j

( γlkj

)µlj

δl,hk|j =δkh h∈Hkl|j Hkl|j ≈100×Pkl|j [SkGNL] αlm, αlk0, γkjl [Sj GNL] µlj l=l+ 1

j

γkjl = 1

α0m =αl∗m, α0k0=αl∗k0 γkj0 =γkjl, µ0j =µlj [FIMLGNL] αm, αk0, γkj , µj

図3.2: 本研究の提案アルゴリズム

から一括して正規化する.これは,段階推定時,同時推定時両方ともに適用できる.実際に推定 する際には,固有選好度や類似度パラメータと同様に,0 になりそうにない特定のγkj を1 なり 何らかの非負の数に固定すればよい.

実際に Takahashi (2011) [117]の問題に適用し,提案されたパラメータ手法を用い,同じパラ

メータが推定できるかを試す.その結果, 表3.2に示すようにTakahashi (2011) [117]で複数回の 初期値からスタートしたものから最良のパラメータと同様のパラメータを段階推定したパラメー タを初期値として得ることができる.ただし,類似度パラメータ,アロケーション・パラメータの 一部に値の乖離がみられる.

また,3, 4 節で証明された双対性を利用したアルゴリズムをパラメータ推定に用いることも考 えられる.具体的には,主双対内点法[90, 126]が挙げられる.図3.3.4におけるStep. 4, 5におい

表3.2: 段階推定時(Step),同時推定時 (Sim.) のパラメータ

Step Sim. Step Sim. Step Sim. Step Sim. Step Sim.

α1 0.021 0.014 γ11 0.271 0.272 γ31 0.189 0.090 γ52 0.095 0.103 γ72 0.138 0.090 α2 0.623 0.485 γ13 0.624 0.271 γ33 0.426 0.543 γ53 0.805 0.680 γ73 0.570 0.910 α3 0.004 0.002 γ15 0.104 0.456 γ36 0.385 0.367 γ55 0.100 0.217 γ76 0.292 0.000 α4 −0.384 −0.370 γ21 0.576 0.608 γ41 0.382 0.239 γ62 0.391 1.000 γ82 0.195 0.000 α5 1.258 0.731 γ24 0.129 0.222 γ44 0.077 0.170 γ64 0.227 0.000 γ84 0.093 0.218 µ1 0.503 0.185 γ25 0.295 0.170 γ46 0.541 0.591 γ65 0.382 0.000 γ86 0.713 0.782 µ2 Fix Fix µ3 0.225 0.342 µ4 0.626 0.573 µ5 1.000 0.462 µ6 0.146 0.397

∗1.0000に固定.

てこの主双対内点法を適用することにより,より効率的に局所最適に陥っているか確かめること ができる.ただし非集計の場合,双対問題の推定パラメータ数が膨大になる(Pkh|jPjh ∀j, k, h) ため,ある程度集計した方が,主双対内点法を用いる際には現実的である.

3.4 3 章のまとめ

本研究では(ランダム)効用最大化と整合的であるGNLモデルについて,集計レベル,非集計 レベルにおいてエントロピー・モデルとの等価性を示した.これにより,GNLもエントロピー・

モデルとして解釈可能であることを示し,その情報理論的な側面からの意味を示すことができた.

まず,集計レベルでは,GNL モデルは2つのエントロピー制約を持つ数理計画問題と等価であ ることが示された.これらの結果により,GNLと等価なエントロピー・モデル(式 (3.8))に内 包される全てのエントロピー・モデルは,(ランダム)効用最大化と整合的な行動を記述している こととなる.すなわち,そのようなエントロピー・モデルの下では,消費者は(ランダム)効用 最大化するように行動している.これは,エントロピーというある種の系の集計量と,(ランダム)

効用最大化という非集計的な個々の行動(の集計量)がある特別な場合には矛盾しないというこ とを意味している.(ランダム)効用最大化という消費者行動の仮定もしくは記述は,一般的には 将来的にも担保されるものとマーケティング・サイエンスでは考えられ,これに基づき需要予測 等の各種の予測がされることとなる.つまり,ある種のエントロピー・モデルも同様に需要予測

57 において行動記述を担保として,将来も(ランダム)効用最大化行動を行なっているものとして 予測が可能であることを意味する.

次に,非集計レベルでは,GNL モデルのパラメータ推定における段階推定対数尤度最大化問題 の一段階目,二段階目それぞれが,段階的情報量最小化問題のそれぞれに対応することを示した.

これにより,GNL モデルが非集計的にエントロピー・モデルとして解釈可能であることを示し,

その情報理論的な側面の意味を示すことができた.また,パラメータ推定を行なう上で,アロケー ション・パラメータに関する制約条件は明示的に考慮する必要がなく,制約なしの対数尤度最大 化問題にその条件が含まれていることを示した.これらの事実を基に,Vovshaで提案されたパラ メータ推定方法の改良を提案した.ここでは,Vovshaの特徴である固有選好度がある場合でも適 用可能かつ安定的なパラメータ推定方法を提案した.これは,一度段階推定したパラメータを初 期値として同時推定することにより得られる.また,アロケーション・パラメータの正規化はそ の各段階で行なう必要がないことを等価性の証明より導いた.最後に,対数尤度最大化問題と情 報量最小化問題の双対性に着目した主双対内点法を利用したアルゴリズムの提案をした.

今後の課題としては,情報理論的にあいまいさを考慮している Fuzzy Logit Model[49] や,そ の拡張モデルについてもエントロピー・モデルとの等価性を示すことが挙げられる.式 (3.8)に ファジー・エントロピー項や更なるエントロピー項を追加しても,GNLモデルの選択確率式と同 様に,ファジー項がついた MNL,Three-level NL 等のモデルの選択確率式が結果として得られ ることは,想像するに難くない.また,提案されたアルゴリズムの実装,適用が挙げられる.た だし,主双対内点法を利用したアルゴリズムについては,計算速度の向上を狙ったものではない ことに注意する必要がある.

3.A 付録

3.A.1 GNL における同時推定時の等価エントロピー・モデル構築の問題点

GNLにおける最尤パラメータ推定では,本研究で採用した段階推定と,同時推定がある.同時 推定では,段階推定の煩わしさや段階推定における一段階目の t値の過大推定の問題点がなくな るという利点がある.

同時推定時のパラメータ推定問題[Primal-L]は次のように表わすことができる:

[Primal-L]

L := sup

αmm α0kk γkj(k,j)

µjj Nh

h=1 Nj

j=1

k∈Kj′

δjh,k

(

lnPjh+ lnPkh|j )

. (3.64)

ここで,δj,kh は,消費者h がネストj により選択肢k を選択した場合1,それ以外は0 を示す変 数である.式(3.64)の一階条件は,例えば µj の場合,

∂L

∂µj =

Nh

h=1

(1−Pjh)

ln Φ4j)

k∈Kj

Pkh|jln (

γkjexpVkh

)1/µj

+

Nh

h=1

1 µj

ln Φ3j)

k∈Kj

Pkh|jln (

γkjexpVkh)1/µj

,∀j (3.65)

となる.しかし式(3.65)は,明らかにµj に関して非線形である.従がって,同時推定の場合,陽 には,段階推定と同様な対数尤度最大化問題と等価なエントロピー・モデルを構築することはで きない.

ただし,同時推定でも ∑Nj

j=1γkj = 1 (Const.)∀k という条件は対数尤度最大化問題に内包さ れている.α0k に関する対数尤度関数 L の偏微分は,

∂L

∂α0k

Nh

h=1 Nj

j=1

[ Pkh|j

(

δjh,k−Pjh

) + 1

µj

(

δjh,k−Pkh|j )]

= 0, ∀k (3.66)

となる.同様に,γkj に関する対数尤度関数 L の偏微分は,

∂L

∂γkj = 1 γkj

Nh

h=1

[ Pkh|j

(

δhj,k −Pjh )

+ 1 µj

(

δj,kh −Pkh|j )]

, (k, j) (3.67)

となる.式(3.66),(3.67)より,∑Nj

j=1γkj = 1(Const.)∀k が導かれる.つまり,同時推定にお いても条件(2.35) を明示的に制約条件として考慮する必要はない.

3.A.2 式(3.33)–(3.36)の導出

ここでは,本文中で省略した式(3.33)–(3.36)の導出について,段階を追って詳細を示す.

αm に関する L1 の偏微分

まず,Φ3, Φ4 各項の αm に関する偏微分は次のとおり求まる:

∂Φ3m)

∂αm = Xkm

µj Fm), (3.68)

ドキュメント内 Generalized Nested Logit (ページ 63-71)