第 2 章 離散選択モデル: GNL モデルの導出と諸性質 7
2.5 公理的アプローチ
2.5.4 選好の集計
PCSがRUMと整合的であることを調べる方法として,整合的であるための十分条件に適合す るかを調べればよい.その一つが,集計化された選好を調べるというものである.端的にいうな らば,この PCS から計算される社会的余剰と,RUMからもたらされる 社会的需要関数により
計算される社会的余剰が一致すればよい.これがWilliams-Daly-Zachary 定理である. Williams-Daly-Zachary定理はGEV Family の一般化とも解釈できる.この定理は Williams (1977) [132], Daly and Zachary (1979) [27] が独立に導いている.
PCSとRUMの整合性を説明する有用の方法の一つは,整合性のための十分条件に互換性があ るかを確かめることである.著者が知る限り,RUMにとって代わる一般的な代替可能な理論は存 在しない.制約があるものの有用な方法の一つとして,集計された需要を持つ社会的間接効用関 数に,個人の選好がある十分な構造を持ち集計されることにより得られる.この場合,経済学の 古典的代表的消費者は,断片的消費割合を持ち,社会的効用関数を持つ.この方法を解析的かつ 手短に示すために,離散的選択をする(潜在的)効用最大化集団と整合的であるかを示す.
個人の消費は,可分の量ベクトル z と属性ベクトルw を持つ離散的選択肢 k により定義され るとしよう.個人は,効用関数U˜ :Z×W˜ ×K−→[0,1]を持つ.ここで,Z˜ ×W はベクトルの ペア (z,w) で構成される空間である.効用関数は次に示す直接効用関数の仮定を満たすという.
定義 2.5.3 (DU) Z は有限の実ベクトル空間における非負象限であり,W は実ベクトル空間に おける閉集合である.このとき,効用関数U˜ はZ×W 上でk∈ K に関して連続である.また,
効用関数は Z 上で二回微分可能であり,∂U /∂˜ z≥0 かつ|∂2U /∂˜ z2|>0 である.最後に,効用 関数は w∈W 及び k∈ K に関して狭義準凹であるとする.
個人は収入pを持ち,可分財に対し価格ベクトルr>0を持ち,離散的選択肢に対し,qの対価を払う としよう.属性wを持つある特定の選択肢kを仮定したとき,個人は予算制約r·x+q=pを満足す るように効用最大化するようにzを選択する.この結果,条件付き間接効用関数U˜I(p−q,r,w, k; ˜U) はp−q <0,r>0,w∈W,k∈ K で定義され,
U˜I(p−q,r,w, k; ˜U) = max
z {U(z,w, k)|r·z≤p−q} (2.62)
で定義される.この間接効用関数は,次の特性を満たす.
IU1 r >0,p−q >0,w ∈ W k ∈ K かつU˜ が直接効用関数の定義 [DU] を持たすとき,U˜I は(p−q,r,w; ˜U) に関して連続であり,(p−q,r) に関して二回連続微分可能であり,0 次 同次であるとする.そして,rに関して狭義準凸であり,∂U /∂(p˜ −q)>0となる.
IU2 (ロワの恒等式) 制約条件r·z ≤p−q のもとで効用U˜(z,w, k) の最大化は,ある特異ベク
25 トル z=z∗(p−q,r,w, k; ˜U) によりなされ,次の条件を満たす:
z∗(p−q,r,w, k) =
∂U˜I
∂r
∂U˜I
∂p
. (2.63)
r>0かつ p−q >0 がコンパクト集合であるとき,U˜ の単調変換:
U˜ = (eβU −1)/(eβ−1) (2.64)
が存在する.ここで β が十分大きいとき,対応する U˜ はr に関して凸となる.すなわち,ほと んど全てのU˜ は一般性を損なうことなくr に関して凸となる.
有限の離散選択肢集合B ∈ B に直面している消費者を考えよう.選択肢 k∈B は観測された 属性 xk= (qk,r,wk) =ξ(k) により関連付けされる.収入pは消費者の属性ベクトルs の要素と なる.すなわち,条件なしの間接効用関数は,
U˜I∗(p−qB,r,wB,B; ˜U) = max
k∈B
U˜I(p−qk,r,wk,B; ˜U) (2.65)
となる.ここで,p−qB はp−qk を要素として持つベクトル,wB はwk を要素として持つベク トルである.離散的選択肢への需要は,ロワの恒等式より,
δk=D(k|B,s; ˜U) :=−
∂U˜I∗
∂qk
∂U˜I∗
∂p
=
1 if k∈B and νk ≥νk′ fork′ ∈B, 0 otherwise
(2.66)
を得る.ここで,νk := ˜UI(p−qk,r,wk; ˜U) である.ある集団(ポピュレーション)の選択確率
(割合)は,
Q(k|B,s) =EU|sD(k|B,s; ˜U)
=σ({U˜ ∈RNk|U˜I(p−qk,r,wk, k; ˜U)≥U˜I(p−qk′,r,wk′, k′; ˜U) for k′ ∈B},s) (2.67) となる.
さて,PCSを導く離散選択の消費割合を持つ社会的効用関数が定義できるような選好の十分条 件を探そう.まず,この消費割合を持つ効用関数を定義しよう.その前に,∆ :={δ ∈RNk|δk ≥ 0 and ∑
kδk= 1}及び∆B ={δ∈∆|δk= 0 for k̸∈B}をB∈ B を定義する.ここで,次のよ
うな社会的効用関数を考えよう:U¯ : ˜Z×∆×S →[0,1]. r>0,B∈ B,p−qB>0,wB∈W において
UI(p−qB,r,wB,B,s) = max
z,δ{U(z,δ,s|z ∈Z,δ∈∆B,r·z+qB·δB≤p} (2.68) ここで,U は社会的効用関数,UI は社会的間接効用関数がロワの恒等式:
Q(k|B,s) =−
∂UI
∂qk
∂UI
∂p
(2.69)
を満たすとき,社会的間接効用関数である.
個々人の条件付間接効用関数が次の形をとるものとしよう:
UI(p−q,r,w, k) = p−q−κ(r,w, k; ˜U)
ω(r) . (2.70)
ここで,p > q+κであり,κ,ω は一次同次の凹関数でありrに関して非減少関数である.(p−q) に関する線形性は,UI∗ のU˜ に関して独立な項と p に関して独立な項への加法分離性をもたら す.同様に,間接効用関数UI が,
UI(p−qB,r,wB,B,s) =EU|smax
k∈BUI(p−qk,r,wk, k; ˜U) := 1
ω(r) {
p+EU|smax
k∈B[−qk−κ(r,wk, k; ˜U)]
}
. (2.71)
と表わされるとしよう.ここで[−qk−κ(qB,r)]という項は,(qB,r) に関して凸である.凸関数 の最大値は凸であり,凸関数の非負の線形結合は凸であることから,
G(qB,r,wB,B,s) :=EU|smax
k∈B[−qk−κ(r,wk, k; ˜U)] (2.72) は(qB,r) に関して凹である.すると,UI = (p+G(qB,r,wB,B,s)/ω(r) は,a ≥0 に関して 凸の支出関数 p = aω(r)−G(qB,r,wB,B,s) の逆元であり,すなわち間接効用関数である.式
(2.66)をこの選好構造に適用すると,
U(k|B,s) :=− ∂
∂qkmax
k∈B[−qk−κ(r,wk, k; ˜U)] (2.73)
を得る.さらに,式(2.67)より,
Q(k|B,s) =EU|sU(k|B,s; ˜U) =−∂G(qB,r,wB,B,s)
∂qk
=−∂UI/∂qk
∂UI/∂p
(2.74)
27 となり,UI はPCS を導く社会的間接効用関数となる.
この結論が保たれるとき,需要の分布は「個々人は離散的選択に関してある選択割合を持ち,社 会的間接効用関数 UI を持つ同じ趣向の集団によってもたらされる」という形で分析される.効 用関数の構造(2.70)は,選択確率の収入からの独立をもたらす.しかし,趣向(効用関数U˜ の分 布)は個人特性に依存しており,収入と相関がある.すなわち,これらの変数はPCSに組み込ま れている.