D. 制度の信頼性および安定性の創出要因
1. EU における基本条約の内部論理
以下では叙述対象を商品自由移動に限局するが、EUにおける基本条約の内部論理と実効 性を考える。その際には、1957 年EEC条約における貿易自由化の不可逆的推進の論理にさ かのぼるべきである。欧州司法裁判所は、EU域内の商品移動が「商品自由移動原則」とい う「共同体法の一般原則」によって規範的に命ぜられたものであるとまで述べている70。こ の「原則」という言明は、一般的妥当性、原則関連規定の解釈の幅広さ、例外の限定性を 示唆する71。ダッソンヴィル先決裁定は、商品自由移動を原則と捉える論理の延長上に位置 づけられる。では、商品移動の自由が原則的地位を占めるとまで解した根拠は、EEC条約お よび同条約の運用実行のどこに見出されるのだろうか。
1957年EEC条約は共同市場を漸進的に確立するための法制度を含んでいた。過渡期間の 制度がそれである。すなわち、「共同市場は、十二年の過渡期間中に漸進的に確立されるも のとする」(8条1項1段)。さらに「過渡期間は、それぞれ四年の三つの段階から成る」(8 条1項2段、共にEU運営条約には対応規定なし)。つまり1958年1月1日のEEC条約発 効から1969年12月31日までの12年が過渡期間であり、その三つの段階とは、1958年1 月1日から1961年12月31まで、1962年1月1日から1965年12月31日まで、1966年1 月1日から1969年12月31日までの各期間をいう。「各段階は、各段階とともに開始され 実施されなければならない措置の総体と対応する」(8条2項)ものであり、域内市場確立 のための措置をいつまでにとるべきかを定める個別規定と関連づけられていた。
関税については次のように漸進的に撤廃が進められるとされていた。まず「構成国は、各 国政府が関税の分野における本条約上の構成国の義務を定められた期間内に履行できるよ うにするため、あらゆる適当な予備的措置を講ずる」という総則的規定(EEC条約11条)が 置かれた。個別の義務は次の諸条によって定められた。第一に、1958 年1月1日のEEC条 約発効以降は、新たな関税を導入してはならず、加えて〔1958年1月1日時点において〕
適用されていた関税率は引き上げてはならない(停止条項(standstill clause)とよばれるEEC 条約12条)。第二に、「構成国間に適用されている輸入関税は、構成国によって過渡期間内、、、、、
に、
14条および15条に従って漸進的に、、、、
廃止される」(1957年EEC条約13条1項、傍点追加)。
1959年1月1日には、EEC条約14条の定めるとおりに、全構成国が一律10%の関税引下げ
を行った。これが最初の関税引き下げであった。次の関税引下げはその18ヵ月後に行われ るものとされていたが、これは1960 年2月26日の欧州委員会の勧告を受け、構成国代表 の決定72により前倒しされた。前倒しの決定は、第三に、「構成国間に適用されている輸入
70 e.g. Case 155/73 Sacchi [1974] ECR 409.
71 EU 運営条約上の商品自由移動関連規定にみられる「関税と同等の効果を有する課徴金」や「数量制限 と同等の効果を有する措置」の概念は、少なくとも一見したところでは、概念的な明晰性を欠いている。
また現行EU運営条約には商品自由移動を原則と呼ぶ規定はない。EU条約は「域内市場」の維持確立を EUの目的のひとつと位置づけており(3条)、このことは、たしかに商品自由移動とEUの目的実現の 結合が強いことを示すが、しかし商品自由移動を原則とすること自体がすでにひとつの解釈である。
72 Beschluß der im Rat vereinigten Vertreter der Regierungen der Mitgliedstaaten vom 12. Mai 1960, ABl. Nr. 58
関税と同等の効果を有する課徴金は、構成国によって過渡期間内に漸進的に、、、、、、、、、、
廃止される」
(13条2項1文、傍点追加)。第四に、「構成国は相互間において輸出関税および同等の効 果を有する課徴金を遅くとも第一段階終了までに、、、、、、、、、
廃止する」(16 条、傍点追加)。第五に、
財政的性質の関税に対しても9条から15条1項までが及ぶとされ(17条1項1段)、それ らは停止条項(12 条)によって新規導入と既存税率の引上げができなくなり、また過渡期 間中の輸入関税および同等の効果を有する課徴金の廃止対象となった(13条 1 項および 2 項)。
1962 年の欧州委員会対ベルギーおよびルクセンブルク事件において欧州司法裁判所は新 たな関税の導入について次のように判示した。まず「〔1957年EEC条約〕9条によれば、共 同体の基礎は関税同盟であり、それは関税の禁止および「同等の効果を有する課徴金」の 禁止を基礎とする73」ことを確認する。次いで同条および「新たな輸入関税もしくは同等の 効果を有する課徴金」の導入を禁止する同12条が「『共同体の基礎』を扱う部の冒頭に、9 条は『商品自由移動』に関する1編の最初に、12条は『関税の撤廃』に当てられた節の開 始部に位置するという事実は、以上の規定に表明された禁止の枢要な役割を示すに十分で ある74」とした。さらに「〔EEC〕条約は、当該禁止に対して可能な限り強い効力を与えよ うとした。ゆえに、同条約は、さまざまな関税・税技術上の慣行を用いた当該禁止の潜脱 を防ぐという努力を払い、当該禁止の実現におけるあらゆる障害を禁止しようと希求して いる75」と判示した。条約が商品自由移動の実現に強い効力を与えようとしていることを、
規定の位置と関税同盟の実現という条約の趣旨目的から導出する目的論的解釈である。そ のような解釈方法を用いることによって「新たな関税の導入禁止」の「例外は一義的に命 ぜられたものでなければならない76」という例外を狭く解すべしという解釈準則を導き出す。
さらに、EU域内における「関税の禁止の必要的補完概念」としての「関税と同等の効果を 有する課徴金は・・・・・・〔関税以外の〕他の名称で登場したり、その他の潜脱によって導入 されるが、しかし関税と同様の差別的もしくは保護主義的効果を有するあらゆる措置を禁 止するという条約起草者の意思77」の表明をみる。条約の趣旨目的および商品自由移動関連 規定の位置から演繹して、関税と「同等の効果を有する課徴金」の文言を拡張的に解釈す る方法は、後に数量制限と「同等の効果を有するあらゆる措置」に用いられることになる。
1957年EEC条約における「数量制限」および「数量制限と同等の効果を有するあらゆる 措置」の禁止に至る解釈は次の通りである。まず、「数量制限」の概念および「数量制限と 同等の効果を有する措置」の概念は定義されていなかった。しかし数量上限制が禁止され る数量制限に含まれることは条約規定からいえた。その理由として以下の三つを示すこと
vom 12. September 1960.
73 Joined Cases 2/62 and 3/62 Commission v. Luxemburg and Belgium [1962] ECR 869, 880.
74 Joined Cases 2/62 and 3/62 Commission v. Luxemburg and Belgium [1962] ECR 869, 881.
75 Joined Cases 2/62 and 3/62 Commission v. Luxemburg and Belgium [1962] ECR 869, 881.
76 Joined Cases 2/62 and 3/62 Commission v. Luxemburg and Belgium [1962] ECR 869, 881.
77 Joined Cases 2/62 and 3/62 Commission v. Luxemburg and Belgium [1962] ECR 869, 881-2.
ができる。第一に、EEC条約30条および34条の両規定〔現EU 運営条約34条および35 条 〕 の 文 言 に 使 用 さ れ て い る 「 数 量、 、
制 限 (quantitative restrictions; mengenmäßige Beschränkungen)」という概念は、構成国が輸入数量の多寡を定めることによって行う貿易 制限措置を含むことを示している。第二に、1957年EEC条約32条および33条からいえる。
同32 条 1段は、「構成国は、構成国相互間の貿易関係において、本条約発効時に存在して いた数量制、、、
および同等の効果を有する措置をより制限的に変更してはならない」とし、関 税の場合(1957年EEC条約12条)と同様に、停止義務を定めた。さらに、1957年EEC条 約32条2段は「この数量制、、、
は過渡期間終了時までに廃止されるものとする。数量制、、、
は、過 渡期間中に以下の定めにしたがって漸進的に撤廃されるものとする。」と定め、これらの措 置の漸進的撤廃義務を課した。同条は、1957年EEC条約2部「共同体の基礎」1編「商品 自由移動」2章「構成国間の数量制限の撤廃」に1957年EEC条約30条(現行EU運営条約 34 条)と共に置かれていた。よって、数量制限が数量制と同義かどうかはともかく、数量 制限が数量制を含むより広い概念であるとするのが1957年EEC条約2部1編2章の諸規定 に一貫性を与える解釈であった。第三に、旧EEC条約33条は過渡期間中の数量制限の漸進 的撤廃を行うに当たって、過渡期間中の一定の期間の経過とともに、一定割合で数量を一 律に引き上げる義務を課すという方式を採用した、ここでも数量制という概念が使用され ており、先にあげた理由から数量制が数量制限に含まれることがわかる。数量制限の撤廃 は漸進的に強化されるという条約の内部論理も明らかである。
輸出入数量制の撤廃から数量制限および同等の効果を有する措置の禁止へと至る線は、
おぼろげながらダッソンヴィル先決裁定以前にもみられた。「一定の期間に輸出入の許され る商品の上限量もしくは上限価額を定める」数量制限を認識する上で、関連措置が個人に 対して宛てられるか、あるいは不特定多数の人に対して宛てられるかは本質的ではないと された78。これは数量制限を国家間貿易から相対化する視点を内包する。また、輸出入禁止 措置も数量制限にあたるとされた。ある商品の輸出禁止もしくは輸入禁止、つまり輸出入 数量を零に設定する措置は、もっとも強度の数量制限措置であるという理由からである。
これは数量制限の典型的規制方式ではなく、数量制限措置の貿易制限強度に視点を移して、
製品輸入流通禁止規制をも禁止対象に含めるという解釈の導線となっている。さらに 1957 年EEC条約(現EU運営条約36条)によれば、「〔EU運営条約34条および35条〕の定めは、
輸入、輸出および通過の禁止、、
もしくは制限、、、、、、
であって、・・・・・・の事由から正当化されるもの を妨げるものではない〔傍点追加〕」とされていた。つまり、条約締結者がEU運営条約 36 条を置いた際の前提は、「輸出入の禁止」のみならず「輸出入制限」もまたEU運営条約 34 条および35条の禁止対象に含まれ、ゆえに正当化の対象とされなければならないという点 である。つまりEU運営条約36条の文言は、典型的な数量制限のみならず、輸出入の制限も
EU運営条約34条および35条の禁止対象に含まれるという解釈の手がかりを提供していた。
78 Ehlermann, C.-D., ‘Die Bedeutung des Artikels 36 EWGV für die Freiheit des Warenverkehrs’ (1973) 8 Europarecht 1, 2.