B. 実体法上の基盤
1. 関税および関税と同等の効果を有する課徴金の禁止
非関税障壁の規律規定を拡張的に解釈するダッソンヴィル基準の実体法上の成立基盤の 第
つ こ
課徴金」の概念についての解釈論が、数量制限と
一は、欧州司法裁判所が「関税と同等の効果を有する措置」概念の解釈についてすでに 広く解釈する判例を確立させていたことである。そういえる理由は次のふたつである。
第一に、1957年EEC条約においてEU域内商品移動の自由が原則としての位置づけをも とが、関税関連の判例においてすでに示されていたからである。すなわち 9 条1 項(現
EU運営条約28条1項に相当)は次のような定めである。「共同体の基礎は、すべての物品
取引に及ぶ関税同盟である。関税同盟は、構成国間における輸出入関税および同等の効果 を有する課徴金の徴収禁止、ならびに第三国に対する共通関税を含む」。1963年のファン・
ヘント・エン・ルース事件はEU法の直接効果を認めた指導的判例として名高いが、実体的 な争点は、関税分類の変更による関税の実質的引上げがEU運営条約30条に違反するかどう かであった。欧州司法裁判所は条約における同条の位置づけについて次のように述べた。
「関税および同等の効果を有する課徴金の分野での条約の体系については以下が指摘され るべきである。共同体の基礎が関税同盟であるとするEEC条約9条は、その本質的な規範と して関税および同等の効果を有する課徴金の禁止を含んでいる。この規定は、「共同体の基 礎」と題する条約の部の冒頭に位置し12条はそれを適用し明らかにするものである32」。商 品自由移動原則はまさに「共同体の基礎」をなすという重要な位置づけが明らかである。
同原則の関連規定の拡張的解釈は、その論理の延長上にある。裁判所は解釈の問われた1957 年EEC条約 12条を次のように解釈した。「12条の文言は、明確かつ無条件の禁止を含むも のであり、これは作為の義務ではなく不作為の義務である。この義務は、さらに履行を国 内立法行為にかからしめるような国家による留保によって制限されるものでもない。12 条 による禁止は、その本質からして構成国と構成国法に服している個人との間の法的関係に おいて直接効果を生ずるのにきわめて適ったものである33。」ここでは関税引上げの禁止の 絶対性と無条件性が強調されている。EU運営条約30条は、関税の新たな引上げを禁止する が、「同等の効果を有する課徴金」の新規導入も禁止する。よって、「関税同盟は共同体の 基礎である」という点を強調し、関税の新たな引上げの禁止の絶対無条件性を導き出すと いう論理は、「同等の効果を有する課徴金」の新規導入にも及ぶと解するのが相当である。
そのことはファン・ヘント・エン・ルース事件では明示的にいわれおらず、同等の効果を 有する課徴金に関する事件において明らかにされていく。とはいえ、早くも1963年の時点 において、商品自由移動に関する関連規定を条約の基礎と位置づけ、関連規定の拡張的解 釈の礎石を置いたことは重要である。
第二に、関税と「同等の効果を有する
32 Case 26/62 van Gend en Loos [1963] ECR 1, 13.
33 Ibid..
「同等の効果を有する措置」の解釈論の下敷きになっていると考えられるからである34。 1962 年の欧州委員会対ルクセンブルクおよびベルギー事件判決では、EEC条約発効後にレ ープクーヘンの輸入許可が与えられる際に徴収される特別課徴金を導入したこと、および 当該特別課徴金の徴収対象を類似製品に広げたことが、「関税と同等の効果を有する課徴 金」に当たるかどうかが争われた35。この概念を欧州司法裁判所は次のように定義した。
「・・・・・・関税と同等の効果を有する課徴金は、名称および徴収の態様とは関係なく、輸入 に際してもしくは輸入後に一方的に課される負担であって、同種の国内産品には関連しな いが、他の構成国から輸入される商品に特定的に関連し、他構成国産品をより高価なもの とし、かくして商品自由移動に対して関税と同等の効果を及ぼすものであると解して相当 である36。」つまり、特別課徴金という名称や関連産品の原料穀物の国内価格維持制度とは 無関係に、商品の輸入に当たって構成国によって徴収される金銭的負担であるかが問題な のである。さらに欧州司法裁判所は当該課徴金について「かかる慣行の広がりによって完 全に空洞化されるであろう商品自由移動の重要原則とは相容れない差別と保護を推定させ るものである37」とも述べているが、これはファン・ヘント・エン・ルース事件先決裁定同 様、商品自由移動原則の位置づけと規律規定の実効性を重視するものである。本件は欧州 司法裁判所の初期の判例ながら重要である。その理由は、第一に、商品自由移動の原則規 定を厳格かつ拡張的な禁止規定と解釈する条約目的重視の解釈方法を打ち立てたこと、第 二に、EU法の内部論理に基づいて条約規定を解釈する方法に依拠し、商品自由移動に対し て制限的な効果を及ぼす各国措置をEEC条約の解釈適用を通じて自由化させていくという 裁判所主導の域内市場統合推進の礎を据えたことにある。
「数量制限と同等の効果を有する措置」の概念により直接的な影響を与えたのは、1969
34 Weiler, J. H. H., ‘The Constitution of the Common Market Place: Text and Context in the Evolution of the Free Movement of Goods’ in Craig, P. and De Búrca, G. (eds), The Evolution of EU Law (1999), 349, 352-3.
35 Joined Cases 2/62 and 3/62 Commission v. Luxemburg and Belgium [1962] ECR 869. この事件の概要は以下の 通り。ベルギーは1957年8月16日に、ルクセンブルクは1957年8月20日にそれぞれ輸入特別課徴金
(Einfuhrsonderausgabe)を創設した。これはレープクーヘン(Lebkuchen)の輸入許可を与える際に徴収
される金銭公課である。その課税額は当初100kgごとに35ベルギーフランとされていた。しかし、EEC 条約が発効した1958年1月1日以降、段階的に引き上げられた。1961年には137ベルギーフランに達 したが、以後95ベルギーフランに引き下げられ、1961年末までにはさらに70ベルギーフランに引き下 げられた。その一方で、両国は、1960年2月24日および27日の決定により、両国の特別課徴金の対象 を共通関税の関税番号19.08 のレープクーヘン類似の産品に拡張した。欧州経済共同体委員会は、1961 年5月19日付のルクセンブルク政府およびベルギー政府書簡において、両国がEEC条約12条に違反し ているとの見解を示した。欧州委員会は、両国の返書を受領した後、理由付意見書を両国に送付した。
両国政府は、理由付意見書に定められた期間内に義務違反を停止する措置をとらず、共同体立法措置
(Beschluß des Ministerrates der Gemeinschaft vom 4. April 1962 über die Erhebung von Einfuhrabgaben auf bestimmte Waren, die durch Verarbeitung landwirtschaftlicher Erzeugnisse entstehen)を盾にとって抗弁した。
そのため欧州経済共同体委員会はEEC条約169条に基づいてルクセンブルクおよびベルギー両国に対し て条約違反訴訟を提起した。欧州委員会は、ベルギーとルクセンブルクの両国がEEC条約発効後にレー プクーヘンの輸入許可が与えられる際に徴収される特別課徴金を導入したこと、および共通関税の関税
番号19.08のレープクーヘン類似製品に対して当該特別課徴金の徴収対象を広げたことがEEC条約違反
に当たることを確認する判決を求めた。
36 Joined Cases 2/62 and 3/62 Commission v. Luxemburg and Belgium [1962] ECR 869, 882.
37 Joined Cases 2/62 and 3/62 Commission v. Luxemburg and Belgium [1962] ECR 869, 883.
年のイタリア統計料事件である。イタリアは、輸出入統計の作成という目的からイタリア 国内外への貨物等の越境に対して10リラの金銭を徴収していた。この統計料の徴収が1957 年EEC条約 16 条38の禁止する輸出関税と同等の効果を有する課徴金に当たると考えた欧州 委員会は、条約違反訴訟(EU運営条約258条)を提起した。今日的観点からみても本件が 先例的価値をもつといえるのは、イタリアの抗弁と欧州司法裁判所の応答から、商品自由 移動原則の解釈を指導する裁判所の基本的な考え方を窺うことができるからである。
本件のイタリアは次のように抗弁した。i)統計料は、その本質と効果から判断からして 税ではなく、むしろ統計資料の収集という目的と緊密に関連づけられた手数料というべき であり、しかも徴収金額はきわめて少額であるから市場を混乱させるような影響は及ぼし ていない39。ii)統計料は、輸出入の物流の完全かつ正確な数量を把握するという正当な目 的を追求する制度である40。iv)統計料は、市場取引主体に提供されたサービスに対応する ものである。すなわち、絶対的に正確な商品移動を確知するという利益が統計料制度によ ってもたらされているのであり、その費用を回収するために統計料の徴収が行われている のである。しかも、こうした統計によって、輸入業者にとってはイタリア市場における競 争上の地位の改善がもたらされ、輸出業者にとっては他国市場における同様の益がもたら されるのであって、つまり統計料は市場間の相互参入を容易にする前提条件を提供するも のといえる41。v)統計料は保護主義的でも差別的でもない。統計料の徴収は、国内産品に 対しても輸入産品に対しても区別なく行われるので、すべての産品に関する措置であると いえるからである。輸出と比べて輸入を高コストのものにする性質はない42。
問題は、「関税と同等の効果を有する課徴金」の概念をイタリアのいうように金銭徴収の
38 本件の原告の欧州委員会は、イタリアの統計料が「〔輸出関税と〕同等の効果を有する課徴金」のみなら ず、「輸入関税と同等の効果を有する課徴金」にも該当すると判断していた。しかし「輸出関税と同等の 効果を有する課徴金」(1957年EEC条約16条)という限定的な側面しか問題にできなかった。それは 次の事情による。共同市場は1957年EEC条約発効時点より起算して12年の過渡期間内に漸進的に実現 されるとされ(1957年EEC条約8条1項1段)、過渡期間は各4年の3段階から成る(1957年EEC条 約8条1項2段)。過渡期間第1段階は、1958年1月1日の1957年EEC条約の発効から起算して4年 後の1962年12月31日に終了した。結果、「構成国は、遅くとも過渡期間第一段階の終了までに相互間 の輸出関税およびこれと同等の効果を有する課徴金を撤廃するものとする」とする1957年EEC条約16 条が無条件に適用できるようになった。しかし、構成国間の輸入関税およびこれと同等の効果を有する 課徴金は、過渡期間終了すなわち1969年12月31日までに漸進的に撤廃すべきものとされていた(1957 年EEC条約13条1項および2項)。ゆえに、欧州委員会が本件訴訟を提起した1968年10月5日当時、
1957年EEC条約13条1項および2項は無条件に適用される規定となっていなかった。それゆえ輸出関 税と同等の効果を有する課徴金というイタリア統計料の限定的な側面の違法性しか問えなかった。この 問題は、過渡期間終了に伴って1957年EEC条約9条と関連づけた同13条2項が輸入関税および同等の 効果を有する課徴金に適用できるようになったため、解消された(e.g. Case 33/70 SACE [1970] ECR 1213)。 今日では、イタリアの統計料は「輸出関税と同等の効果を有する課徴金」としてのみならず、「輸入関税 と同等の効果を有する課徴金」としてもEU運営条約30条違反を問われるであろう。現行EU運営条約 30 条は次の定めである。「輸出入関税およびこれと同等の効果を有する課徴金は、構成国間において禁 止される。当該禁止は財政的性質の関税にも及ぶ。」
39 Case 24/68 Commission v. Italy [1969] ECR 193, 197.
40 Case 24/68 Commission v. Italy [1969] ECR 193, 197.
41 Case 24/68 Commission v. Italy [1969] ECR 193, 197-8.
42 Case 24/68 Commission v. Italy [1969] ECR 193, 198.