A. 国境措置と国内措置
2. 分類論再構成
a. 混乱要因の整理
まず前節(「分類論批判」)にみた国境措置と国内措置の区分をめぐる混乱を整理し、分 類論再構成にむけた検討指針を導き出すこととする。
混乱は、第一に、GATT3 条注釈と GATT3 条 4 項との関係把握をめぐって生じている。
GATT3条、3条注釈および11条には、税によらない貿易障壁について国境措置と国内措置
を区分するための手がかりはある。しかし、GATT3 条注釈の文言どおりに「輸入産品につ いて同種の国内産品と同様に適用され」るかどうかをそのまま分類基準とすると、GATT3 条 4 項によって審査されるべき点を先取りすることになり不合理である。ツナ第一事件パ ネルは、まずGATT3 条4項の適用を試み、その結果、不適用と判断される場合は11条が 適用されるとした。この方法は、しかしGATT3条4項によって審査されるべき点を先取り するという問題点をまったく解決していない。同パネルおよび米国・海老海亀事件パネル は、国内生産者に対しても規制が及んでいるのに、そうした規制の平等負担は考慮せず、
GATT11条1項を適用法規と定めた。これに対してアスベスト事件パネルは、同一の制度内
における規制論理の一貫性に着目するという方法によって、審査の重複を回避することを 試みた。これは分類論再構成上も注目に値する。つまり、分類論再構成の上では、GATT3 条注釈にいう差別的要素をどのように捉えるかが問題である。その際には、GATT3 条注釈 にいう差別的要素をGATT3条4項にいう輸入産品に対する差別とは異なるものとして考え、
審査の先取りという問題を解消する必要がある。
混乱は、第二に、関税化論の射程をどう理解するかという点をめぐって生じている。も ともと関税化論は解釈論としての弱点を抱える。さらにインド・自動車事件パネルのよう に、申立国の援用したGATT3 条および11条1項の適用関係を整理せず、双方を実効的に する解釈をとるべきだとすると、国境措置と国内措置の区分はますますみえにくくなる。
司法経済の考慮を働かせたことは混迷をさらに深めた。しかし、関税化論のいうように貿 易制限的措置の性質に着目し、法の適用上、、、
、審査対象措置の性質という事実に着目するこ とは、パネルに付託された問題の客観的な評価に資するのであって、条約解釈準則に則っ た解釈、、
を歪めるものとはいえないだろう。関税化論を敷衍して、税による貿易障壁に妥当 する分類を規制措置にも応用する方法の萌芽は、アスベスト事件パネル報告書においてす でにみられた。それをどのように発展させるかが分類論再構成上の課題となる。
b. EU法との接点
EU運営条約34条の解釈を示したダッソンヴィル定式によれば「直接的であれ間接的であ
れ、現実的であれ潜在的であれ、〔EU〕域内通商を阻害する可能性のある、構成国により制 定されたすべての通商規制は、数量制限と同等の効果を有する措置とみなされなければな らない」。そのように解釈すると、いかなる国内措置もEU法違反となる可能性を免れない。
つまり国境措置と国内措置の分類は放棄されているように見える。さらに、差別性の有無 や貿易制限性の程度を問わず、輸出入業者の経済活動の自由を妨げる規制は一切禁止され ることとなる。しかし、そうしたEU運営条約 34 条の拡張的解釈は、1993 年のケック事件 先決裁定23によって修正されることとなった。同事件は、構成国が行ってよい無差別的な販 売態様規制という規制の範疇を導入した。ここでは、EU運営条約34条の適用を免れる一定 の国内措置があるとされた。こうして、国境措置と国内措置という規制分類がEU法におい ても登場することとなった。
ケック事件をみてみよう。同事件の原訴訟は、ケック(Keck)とミトアール(Mithouard)
に対する刑事訴訟である。両名は、フランスのアルザス地方で小売店を経営していた。フ ランス法は小売店による原価割れ販売を禁止しているが、両名は、小売店への集客のため 他の商品と並んでコーヒーとビールの二品目を仕入れ価格以下の価格で販売した。その結 果、両名は刑事訴追された。被告人は、原価割れ販売禁止法が商品自由移動原則に反する と主張した。ストラスブールの大審裁判所は、原価割れ販売規制のEU運営条約34条適合 性について先決問題を欧州司法裁判所に付託した。本件の争点は、係争措置の貿易制限性 に着目するとわかる。当該措置は、フランス国内での流通販売活動について一律に規制し ており、コーヒーやビールの原産国ごとに異なる規制を行うものではない。規制は、不正 競争の防止という観点から輸入産品に対しても国内産品に対しても均しく及ぶ。これらの 理由から保護主義的な性質は強くないと考えられる。しかし、ダッソンヴィル定式によれ ば、輸入産品の販売機会減少という効果が生じさせるような国内規制も同等効果措置にあ たるとされてきた。それゆえ従来判例を修正して、より狭くEU運営条約34条の適用範囲
23 Joined Cases C-267 and 268/91 Keck and Mithouard [1993] ECR I-6097.
を限界づける何らかの基準を設ける必要はないのかという点が問題にされた。欧州司法裁 判所は、本件の原価割れ販売禁止法はEU運営条約34条の適用範囲外にあると判断した。
欧州司法裁判所はダッソンヴィル定式を維持しつつも24、しかしその射程を制限する理由 を次のように説明した。
原価割れ販売を一般的に禁止する国内法規は、構成国間商品取引の規制を目的とす るものではない25。・・・・・・ そのような法規は、取引業者から販売促進の一方法〔原 価割れ販売を伴う安売りによる集客販売戦略〕を取り上げる限りで、なるほど売上 高総量を制限し、よって他構成国産品の売上高総量に制限を加えるものではある。
しかしながら、かかる可能性をもって、当該措置を同等の効果を有する措置とみな すことが相当であるかは疑問である26。・・・・・・ 商品取引業者は、自らの商業活動の 自由に制約的影響を及ぼすあらゆる規制を排撃するために、いっそう頻繁に〔EU 運営条約 34 条〕を援用してきた。さらに、こうした援用は、国内規則が他構成国 産品に対して向けられていない場合にさえも行われてきた。ゆえに、欧州司法裁判 所は商品自由移動原則に関する従来の判例を再検討し、また、明確化させる必要を 認める27。
この理由づけは、本件以前の判例の抱えていた問題点と照らし合わせるとよくわかる。
それをよく説明するのが小売店日曜営業禁止規制に関する判例である。小売店の日曜営業 を禁止する規制は、本件の原価割れ販売規制と類似する。ともに、構成国間通商の規制を 目的とせず、輸入産品と国産品にひとしく妥当し、輸入産品の流通をいっそう困難にする という性質はもたないという点に類似性がある。ところがイギリスにおいて、小売店が他 の小売店を出し抜いて売り上げを伸ばすために日曜営業規制を破るという事件が生じた。
先決問題の付託を受けた欧州司法裁判所は、日曜営業規制が「他構成国産品の売上高総量 に制限を加える」がゆえにダッソンヴィル基準を満たすとしたが、当該規制は一国・地域 の社会的・文化的独自性に適合した労働時間配分を確定するという理由から、商品自由移 動の制約正当事由としての「一定の政治的経済的決定の表れ」にあたると評価した28。大規 模小売店と小売店との力関係、労働者団体と使用者側の利益のぶつかり合い、消費者の利 益、各国の社会的文化的背景の違いを反映して、各国それぞれの規制の違いが表れている。
ただし、日曜営業規制の判例には難点があることも判明した。たしかに、各国の「一定 の政治的経済的決定の表れ」を尊重すべきだとしても、その達成手段を商品自由移動原則
24 Joined Cases C-267 and 268/91 Keck and Mithouard [1993] ECR I-6097, para. 11.
25 Joined Cases C-267 and 268/91 Keck and Mithouard [1993] ECR I-6097, para. 12.
26 Joined Cases C-267 and 268/91 Keck and Mithouard [1993] ECR I-6097, para. 13.
27 Joined Cases C-267 and 268/91 Keck and Mithouard [1993] ECR I-6097, para. 14.
28 Case C-145/88 B &Q [1989] ECR 3851. ただし、この措置に伴う自由移動制約が正当目的の必要限度内に とどまっているかという点は事実に関するものであるので、これは国内裁判所の判断事項であるとした。
の枠内で審査するのは難しい。EU域内の商品の移動を制限する措置が正当な規制目的を追 求しており、かつ規制目的と手段は比例的かという基準を適用して正当化の可否を審査し てきた。しかし、日曜営業規制の目的は、労働、社会、文化、貿易の各政策目的の交錯す る複合的性質を帯びる。ここでは、そもそも規制目的と手段の比例性(とりわけ「EU域内 通商に対する制限度のより少ない他の規制手段の有無」)を精密に審査することが難しい。
しかも日曜営業をめぐる規制のありようはEU構成各国ごとに大きく異なっている29。それ にもかかわらず、各国ごとに政策の異なる事項について画一的な法的判断を出すことは極 めて困難である。こうした困難が生じたのは、本来きわめて広い射程を持つダッソンヴィ ル基準の適用に歯止めがなく、域内通商に制約的影響を及ぼすあらゆる措置をEU運営条約 34条の適用範囲に取り込む可能性があったためである。さらに、裁判所も指摘するように、
商品取引業者が輸入産品の販売機会減少をもたらす規制の適用を排除する目的で頻繁にEU 運営条約 34 条を援用するという傾向すら生じていた。そこで、本件の欧州司法裁判所は、
ダッソンヴィル基準を維持しつつも、その適用範囲を限界づける基準(以下ではケック基 準と称する)を設定するに至った。
ただし欧州司法裁判所は、ダッソンヴィル定式によってEU運営条約34条の適用範囲内に あるとされてきたあらゆる措置についての判例を再検討したのではない。カシス判例の適 用対象となる措置は本件の判例再検討の対象とされなかった。すなわち、構成国法規の調 和措置がとられておらず、他の構成国で適法に生産され、流通状態に置かれた製品を、輸 入国の一定の法規(製品の呼称、形状、大きさ、重量、組成、加工、ラベル貼付、包装な どに関する規制)に適合させなければならないことから生じる制約であって、さらに、当 該制約が商品自由移動の要請を上回るような強行的要請によっても正当化されない、とい う要件を満たすような措置である30。そのような製品関連規制は、他国で適法に生産され流
29 Jarvis, M. A., The Application of EC Law by National Courts: The Free Movement of Goods (1998), 195-202は EU 構成各国における小売店営業時間規制を概観する。小売店営業時間の規制は、輸入品の販売機会を 奪うという側面も持ちながら、労働法制の問題、小売店と大規模店の競争上の問題、各国の社会的文化 的あり方の問題という側面も色濃くもっていることがわかる。これを図示すれば以下のとおりである。
国 規制内容 要因
ドイツ 日曜営業の一律禁止 労働組合の影響力 デンマーク 日曜営業の一律禁止 労働組合の影響力 オーストリア 日曜営業の一律禁止 労働組合の影響力 フランス 労働者の休業日は原則日曜日 労働法上の規制
イギリス 大規模店舗の日曜営業は6時間に制限 1950年法に比して自由化 オランダ 週当たりの最長営業時間を規制 ―
スペイン 大規模店舗の休日営業は年間12日に制限 小売店業者の影響力 ポルトガル 大規模店舗の日曜営業時間を6時間に制限 小売店業者の影響力
イタリア 州・地方自治体レベルの規制 営業時間規制撤廃を問う国民投 票否決(1995年)
30 Joined Cases C-267 and 268/91 Keck and Mithouard [1993] ECR I-6097, para. 15 referring to Case 120/78 Cassis