B. 差別的措置と制限的措置
1. 輸入産品に対する差別的措置論
GATT3条4項はWTO加盟国たる輸入国の差別的な国内措置を禁止する。すなわち、
いずれかの締約国の領域の産品で他の締約国の領域に輸入されるものは、その国内 における販売、販売のための提供、購入、輸送、分配又は使用に関するすべての法 令及び要件に関し、国内原産の同種の産品に許与される待遇より不利でない待遇を 許与される。
GATT3条4項は、次の三つの要件をみたす措置を禁止する。第一に、WTO加盟国のある措
置が「国内における販売、販売のための提供、購入、輸送、分配又は使用に関するすべて の法令及び要件38」に該当することである。第二に、「締約国の領域の産品で他の締約国の 領域に輸入されるもの」と「国内原産の同種の産品」が存在することである。第三に、当
38 GATT3条4項は、輸入国の国内における販売、販売のための提供、購入、輸送、分配又は使用に「関す
る(affecting)」すべての法令及び要件に適用される。この「関する」の文言を解釈したイタリア農業 機械事件GATTパネルは次のように判示した。「・・・・・・ 4項の法文は、英語版もフランス語版も、輸入 国の国内における販売、購入等に関する、、、
(affecting)すべての法令及び要件に言及しており、販売もしく
は購入の条件を規律する(governing)法令及び要件に言及しているわけではない。『関する』という語 の選択が示唆するところは、当パネルの見解によれば、同条の起草者が、販売もしくは購入の条件を直 接的に規律する法令規則のみならず、国内市場における国内産品と輸入産品間の競争条件を不利に変更 する可能性のある(might modify the conditions of competition between the domestic and imported products) 法令もしくは規則をも 4 項に含めたということである。 〔強調原文〕」GATT Panel Report, Italian Agricultural Machinery, para. 12.
該措置が、他国産品に対して同種の国内産品よりも不利な待遇を与えることである。
GATT3条4項による差別禁止の基本趣旨はこうである。GATT3条1項は次のように定める。
「〔WTO加盟国〕は、内国税その他の内国課徴金と、産品の国内における販売、販売のた めの提供、購入、輸送、分配又は使用に関する法令及び要件並びに特定の数量又は割合に よる産品の混合、加工又は使用を要求する内国の数量規則は、国内生産に保護を与えるよ うに輸入産品又は国内産品に適用してはならないことを認める」。GATT3条の趣旨は、ひと ことでいえば保護主義の抑制である。この規定は3条4項の文脈であると解釈されている。
すなわち、「GATT3条の〔2項と4項の〕両項は、1994年GATT3条1項に定められた通則的な
『一般原則』の特定の表現をなすものである39。・・・・・・GATT3条1項に規定された『一般原 則』は、GATT3条の他の項を『告げ知らせ(inform)』、GATT3条の1項以外の4項を含む他の 項に『含まれる特定の義務について理解し、解釈する導きとして』機能している40。ゆえ に ・・・・・・ GATT3条1項はGATT3条4項によって追求される『一般原則』を定めるものであ るから、GATT3条1項は、GATT3条4項を解釈する際にとくに文脈としての重要性を持つ。」
3条1項の趣旨はGATTパネル以来の先例により次のように解釈されてきた。それは、「いか なる法令規則もしくは課税によっても、国内市場において同種の輸入産品と国内産品との 間の現実の競争条件の平等が、輸入された同種の産品に対して不利な形に変更されること
41」を防ぐことである。よって、内国民待遇の保護法益は、締約国産品と他の締約国産品と の間の競争関係に関する締約国の期待を保護すること、現在の貿易を保護すること、なら びに、将来の貿易の計画に必要な予測可能性を生み出すことにあるといえる42。さらに、
GATT2条の下で与えられた関税譲許が差別待遇によって侵食されることを防ぐことも
GATT3条の重要な機能である。以上を要約すれば、GATT3条における内国民待遇の趣旨は、
市場参入権の実効性維持と輸入産品・国内産品間の競争条件の平等保障、競争条件に対す る国内規制の中立性を確保である。
以上のようにGATT3条の趣旨を理解すると、GATT3条4項の他の要件、すなわち「同種の 産品」も「不利な待遇」も理解が格段に容易になる。先に確認したように、輸入産品・国 内産品間の競争条件の平等の期待の保護が3条の趣旨であるという前提点に立つと、同種の 国内産品という概念は、少なくとも輸入産品と競争関係に立つ産品を含むものでなければ ならない43。重要なことは、市場において当該産品が競争関係にあるのか、それはどの程度 なのかである44。たしかに、個々のGATT3条4項の適用事件に登場する同種の国内産品は異
39 Appellate Body Report, EC – Asbestos, para. 93; Appellate Body Report, Japan – Alcoholic Beverages, 111.
40 Appellate Body Report, EC – Asbestos, para. 93; Appellate Body Report, Japan – Alcoholic Beverages, 111.
41 GATT Panel Report, US – Section 337 Tariff Act, para. 5.11.
42 差別的な措置が適用執行されていないことや、実際の貿易に対して効果を及ぼしていないこと(貿易効 果(trade effects)の不存在)は、GATT3条違反を正当化する根拠とならない。GATT Panel Report, US – Superfund, para. 5.2.2; GATT Panel Report, US – Section 337 Tariff Act, para. 5.13; Appellate Body Report, Japan – Alcoholic Beverages II, 110.
43 Appellate Body Report, EC – Asbestos, para. 99.
44 Appellate Body Report on EC – Asbestos, para. 103.
なるし、しかも「同種の産品」の概念に関するGATT上の統一的概念定義や判断基準はない。
上級委員会も、同種の産品の存否の判定にあたって、すべての事件において適当であるよ うな単一のアプローチはなく、「個別の、裁量的判断の避けがたい要素」を用いた評価が事 件ごとになされなければならないと述べている。しかし、1970年の国境税調整作業部会報 告書には同種の産品該当性判断基準が示されており、パネル・上級委員会は概ねそれを踏 襲してきた45。それは次の四つの基準から成る。すなわち、(i)産品の特質、性質および品 質(the properties, nature and quality of the products)、(ii)産品の最終用途(the end-uses of the
products)、(iii)消費者の志向および習慣(consumers’ tastes and habits)―より包括的には産
品に関する消費者の受容と行動(consumers’ perceptions and behaviour)、(iv)関税上の産品 の分類である46。個別事件において紛争当事国から提出された証拠を評価検討しつつ、この 基準を適用することは、産品間の競争関係を正確に評価し、GATT3条1項に示された内国民 待遇の趣旨を具体化することに他ならないから妥当である。
さらに、GATT3条4項を適用するためには、「国内原産の同種の産品に許与される待遇よ り不利」な待遇が輸入産品に与えられることが要件とされている。ここでも「輸入産品と 国内産品との間の現実の競争条件の平等」を実現するというGATT3条の趣旨が解釈の導き となる。すなわち、輸入産品と国内産品との間の現実の競争条件がWTO加盟国の措置によ って輸入産品に不利に歪められていると評価できることが必要である47。それゆえ、産品間 の待遇が単に異なっているだけでは足りないとされる。GATT3条4項の要求する「不利でな い待遇」という文言の解釈上確認されている。米国1930年関税法337条事件のパネルは次の ように判示した。
当パネルは、当パネルに提出された問題に関する限り、〔GATT〕3条4項の掲げる
「不利でない」待遇の要件には条件がつけられていないことに留意した。これらの 文言は、一般協定およびGATTの枠組において交渉された後の諸協定を通じて、輸 入産品の待遇の平等という基本的原則の表明として見られるものであって、最恵国 待遇基準においては輸入産品と他の諸国の産品との間の待遇の平等原則、3条の内 国民待遇基準においては輸入産品と国内産品との待遇の平等原則がそれぞれ表明 されている。〔GATT3条〕4項における「不利でない待遇」という文言は、国内に おける販売、販売のための提供、購入、輸送、分配又は使用に関する法令規則およ び要件に関し、輸入産品への機会の現実的平等(effective equality of opportunities) を要求するものである。このことは明らかに最低限の許容基準を基礎として課して いる。一方で、締約国は、輸入産品に対してより有利な待遇を与えるならば、輸入
45 個別事件での違反認定から具体例の概観は、小室 [2007]: 94-7、Van den Bossche [2008]: 370.
46 The fourth criterion, tariff classification, was not mentioned by the Working Party on Border Tax Adjustments, but was included by subsequent panels (see, for instance, EEC – Animal Feed, supra, footnote 58, para. 4.2, and 1987 Japan – Alcoholic Beverages, supra, footnote 58, para. 5.6).
47 Appellate Body Report, Korea – Beef, paras. 135-7.
産品に対して異なった形式の法的要件を適用してよい。他方で、形式的に同一の法 規の適用が実際には輸入産品に対して不利な待遇を与えることになり、よって締約 国が、輸入産品に与えられる待遇が実際に不利でないことを確保するために、輸入 産品に対して異なる法規を適用しなければならなくなるという場合がありうると いうことも認められなければならない。以上の理由から、輸入産品が337条に基づ いて国内原産の産品に適用される法規とは異なった法規に服するという単なる事 実のみでは、GATT3 条 4項不適合の立証において決定的ではない。かかる場合に は、適用法規における国内原産品と輸入産品との相違が輸入産品に対して不利な待 遇を与えているかいないかどうかが審査されなければならないのである。待遇の平 等を保障するという基本的目的に鑑みて、かかる差異があるにもかかわらず3条の 不利でない待遇の基準がみたされていることを立証するのは異なった待遇を行う 締約国の側である48。
以上のように、GATT3条4項の解釈は、一方では、産品間の現実の競争関係の平等確保 に着目することによって保護主義を抑制するというGATT3条の趣旨を敷衍したものとなっ ている。こうした解釈論は、通商協定としての GATT の性格を反映し、かつ保護主義の抑 制というWTO加盟国の共通意思に基礎を置くものといえよう。さらに、同種の産品にせよ、
不利な待遇のにせよ抽象度を帯びた要件となっているが、これは、紛争当事国から提出さ れた証拠を評価し、個別具体的な措置の適法性を説得的に判断する余地をWTO法適用機関 に認めるものであって不当ではない。