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パウェリンの主張と京都議定書実施措置による貿易制限

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B. 多国間環境条約の機動的活用

3. パウェリンの主張と京都議定書実施措置による貿易制限

節では、パウェリンの主張とその立脚点を整理し、それを敷衍した場合のWTO協定と 京

a. 紛争解決了解は多国間環境条約を適用法規とすることを許容しているか。

上述の 条

の学説53は、明確にWTO紛争解決手続においては、対象規定のみが適 用

都議定書との関係を整理した。以下では、多国間環境条約とWTO協定との関係を論じた 学説を参照しつつパウェリンの主張の当否について検討する50

ようにパウェリンは、WTO加盟国間においても、パネルにおいても多国間環境 が適用され得るという立場である(国際法適用説)。バルテルス(Bartels, L.)もICJやITLOS の例を参照しつつ、WTOにおいてもあらゆる国際法が潜在的に適用法規となりうるとの立 場である51。しかし彼は、紛争解決了解3.2 条および 19.2条がWTO加盟国の権利義務の増 減させることを禁止しているので、パネル・上級委員会は「対象協定、およびこれと不適合 ではないような他の国際法規則」を適用すると結論づけ、無制限の国際法適用説はとって いない52

これに対して多く

されると主張する54。このWTO法適用説は、紛争解決了解の文言解釈に基礎をおいてい る。同23.1条は、WTO加盟国は対象協定における権利義務の救済を「この了解の規則及び 手続に求め、かつそれらに拘束される」ものと定める(1.1条も同旨の規定。23.2条も参照 せよ)。紛争解決了解6.1 条によれば、同 6.2条にいう書面のパネル設置要請がなされた場 合には、ほぼ自動的にパネルが設置される。しかし一般国際法上、司法的な紛争解決は当

50 WTO協定とMEAとの関係についてはCTE特別セッションにおいても議論がなされてきた。See, e.g., TN/TE/R/21, 29 April 2008. アブデル・モタール(Abdel Motaal, D., ‘Multilateral Environmental Agreements (MEAs) and WTO Rules: Why the “Burden of Accommodation” Should Shift to MEAs’ (2001) 35 Journal of

World Trade 1215-33)は、MEAWTOとの関係についてCTEにおいて主張されている様々な立場を整

理しているが、MEAWTO法との緊張関係の解消方法として次の四つがありうるとする。1WTO 定の改正は不要、2)「了解」や「指針」など非拘束的な方式を用いて、WTO法の改正をせずに関係を整 理する。3MEAに基づいてとられた貿易措置についてはWTOにおける規律を緩めるようにWTO法を 改正する。4)MEAの方が国際通商法の規則を考慮に入れ、MEA交渉の際には貿易措置を用いないよう に調整する。ECMEAWTO加盟国の措置の根拠とされている場合、被申立国の貿易措置がMEA に基づいていないことを申立国の側が証明する責任を負うとし、MEA実施措置としての貿易措置につい ては挙証責任を転換させるべきだと主張する。しかし、GATT20 条各号に依拠して行動することは各国 の権利であり、MEAに基づく場合だけを特別に扱う根拠は薄弱であろう。

51 Bartels, n. 18 above, 501-2..

52 Ibid., 502, 506-9.

53 岩沢雄司「WTO法と非WTO法の交錯」『ジュリスト』125420-27頁(2003年); Trachtman, J. P., ‘The Domain of WTO Dispute Resolution’, 40 Harvard International Law Journal 333 342.

54 岩沢(前掲注53論文22頁)。

事国の合意を前提とする。もしWTOにおける対象協定以外の他の国際法もパネルによって 適用できるとすれば、当事国が事前に合意を与えた範囲を越えて、強制的な管轄権を作り 出すことになる55。よって、対象協定以外の国際法を適用できるという紛争解決了解7.1条 拡張解釈説は、WTO加盟国がパネルに与えた権能を不当に拡張するものであり認められな い56。さらに紛争解決了解11条は、パネルの機能が「〔紛争解決〕了解及び対象協定」の下 での責任を果たすことにあり、重ねて「関連対象協定の適用可能性及び整合性」を含むも のであるとしている。加えて、WTOにおける対象協定は、WTO加盟国の権利および義務を 作り出しているが、紛争解決了解に基づく紛争申立国・被申立国の権利義務とはもっぱら 対象協定に根拠を置くものに限定されている(7.1条)。WTO紛争解決制度の目的もまた「紛 争解決了解3.2条2文にいう対象協定における加盟国の権利義務の確保」および「対象協定 に存在する規定の明確化」である。ゆえに同3.2条3文および19.2条は、パネル・上級委 員会がWTO加盟国の権利を減らす解釈を採ることを禁止している以上、WTO以外の条約を 適用することは禁止されている57

パウェリンは、適用法規と管轄権とを区別することにより、非WTO国際法が適用法規に な

b. 多国間環境条約とWTO法との関係は規範抵触か a)WTO

務の抵触よりも広い抵触概念を提唱し て

ると主張している。しかし以上のように、パネルの適用法規も管轄権も共に紛争解決了 解によって制限的に定められている。とりわけ WTO 法適用説の論理的帰結として、WTO パネル上級委員会は多国間環境条約を適用できないし、まして多国間環境条約をWTOより も優先させる解釈も許されていない。むしろ紛争解決了解が多国間環境条約を適用法規と することを許容していないという立場の方が、多くの学説によって支持されている。

法と多国間環境条約との「抵触」の理解 パウェリンは、ジェンクス(Jenks, C. W.)のいう義

いる。ジェンクスは、一方条約の遵守が他方条約の違反を構成する場合に、これらの条 約相互の関係を抵触と呼んでいた58。これに対してパウェリンは、「一方規範が他方規範の

55 カランツァ(Carranza, M. A. E., ‘MEAs with Trade Measures and the WTO: Aiming toward Sustainable

56 505.

; Marceau, n. 48 above, 1082; 岩沢前掲注53論文22-3頁。

Development’ (2007) 15 Buffalo Environmental Law Journal 43, 80)は、紛争解決了解11条がMEA等の非 WTO法を検討すべき義務をパネルに課していると主張する。なぜならば、「事案の客観的評価」を行い

「紛争解決機関が勧告を行うことを補助する」という任務からは、法規抵触に関する一般国際法を適用 しつつ、MEAWTO法との抵触を解決することが求められるからである、という。これに対してトラ クトマン(n. 53 above, 342 n 41)は、対象協定以外の非WTO法も適用法規となりうるとする学説に対し てこう反駁する。「WTO紛争解決制度を一般国際法に関する管轄権を持つ裁判所」とはできないし、紛 争解決機関の勧告および決定を補助するという機能からパネル・上級委員会の黙示的権限を導き出すよ うな解釈は、紛争解決了解の明確な文言上認められていない、と。国際紛争の司法的解決が紛争当事国 の合意に基づく以上、紛争解決における適用法規も対象紛争の範囲も合意された限定的なものにとどま る。この点に依拠すれば、パネルの機能を定めた規定からの目的論的解釈に基づいて、対象協定外の条 約にもパネルの実体的な管轄権が及ぶという主張は根拠が薄い。よって、トラクトマンの論駁の方にむ しろ説得力がある。

Cf. Bartels, n. 18 above,

57 Trachtman, n. 53 above, 342-3

58 Jenks, n. 48 above, 426.

違反を構成する、もたらす、または、もたらしうる場合(if one [norm] constitutes, has led to, or may lead to, a breach of the other)59」を抵触と呼ぶ。そのため、一方条約の遵守が他方条約 の現実的な義務不履行に至っていないような場合や、違反を構成しうるような抽象的可能 性も、広く条約相互間の抵触と捉えられている。さらに、パウェリンの抵触論の特徴は、

こうした抵触の解決が国際法次元で可能であると主張する点にある60。たとえば、条約の違 法や無効の議論、条約法条約に基づくとされる「前法は後法を破る」の原則および「特別 法は一般法を破る」の原則の適用である。

このような広い抵触概念は、WTO法においても認められるのであろうか。

、請求の法 的

う所説はどうか。

国際法上の制度は強行規 範

WTOにおける紛争解決手続の端緒は、他の加盟国による問題の措置を特定し

根拠を摘示する協議要請理由書面を示して、当事国間での協議を行うことである(紛争 解決了解4条)。パネルの設置要請も問題となる特定の措置を特定して行われる(同6.2条 2 文)。以上のように、特定の加盟国の措置について対象協定に照らして客観的な評価をす ることがパネルの機能である。よって、多国間環境条約そのものがWTO法と抵触するかと いう争点は、WTO紛争解決手続においては争訟性を欠く。つまりWTO紛争解決手続にお いては、あくまでもWTO加盟国の貿易制限的な多国間環境条約実施措置がWTO対象協定 に整合的か否かという問題しか発生しない。その際に多国間環境条約に基づいて正当化さ れうるという防御的主張がなされれば、多国間環境条約との関係が問題となる。しかし、

ここでの問題は各国措置のWTO法整合性にすぎず、パウェリンが広く問題にしている条約 相互の規範抵触とは問題の焦点が異なる。

次に、抵触解決は国際法次元で決まるとい

まず、他の条約の違法無効という概念や、それを実現する実定

の場合を除いて国際法には知られていない。統合型条約かつ当事国間合意であるとされ る多国間環境条約が、相互型条約であるWTO協定に適用優位するという関係も、こうした 優先関係を専属的に判断しうるような紛争解決機関が存在すれば成立しうるし、法的安定 性を害さずに各国が行為しえよう。しかしそのような機関はない。よって多国間環境条約

59 Pauwelyn, n. 17 above, 175-6. 強調原文。

60 このパウェリンの議論は、ウィーン条約法条約41条および58条の解釈論に支えられている。それは、

当事国間の義務を定める条約が後条約によって変更されうるという41条および58条の解釈論である。

条約法条約411項は「多数国間条約の二以上の当事国が、これら当該国間において当該多数国間条約 を変更する協定を締結できる」とし、それが許される要件を挙げている。条約法条約581項前段は、

「多数国間条約の二以上の当事国が、これら当該国間において一時的に当該多数国間条約規定の運用を 停止する協定を締結できる」とし、その要件を列挙している。たしかに京都議定書がWTO 協定を「変 更」もしくはその運用を「停止」する合意であれば、条約法条約41条および58条が適用されると読め る。パウェリンはその可能性を認める。「当事国間において当該条約を変更する合意」には、まったく別 の多数国間条約(人権条約やMEA)が含まれうるし、よって条約法条約41条の適用対象となると主張 している。しかし京都議定書がWTO協定を変更する合意ではないことは明らかにであり、またWTO 上の権利義務に影響を及ぼすにすぎない場合をも、WTO協定を当事国間限り「変更」もしくはその運用 を「停止」する合意といってよいか疑問である。ゆえに条約法条約41条や58条は無関係である。まし て、WTO協定によってMEAが排除されている、またはそのMEAによってWTO法の適用が排除され ているという議論は、条約法条約41条および58条から導き出すことはできない。

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