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第 6 章 小規模成長直売所の商品差別化政策

第 3 節 D 直売所の高品質政策

1 D直売所の特徴

D直売所は、農家約10人が資本金500万円で株式会社を設立し、2007年7月に開設し た。設立目的は、農業での収益が厳しくなり、先進地を視察して直売所が農家の収入確保 に貢献することを知ったことから、農家の収入確保である。2001年から直売所設立を目標 に100カ所以上の直売所を視察して、直売所の売上計画を作成した。そのリーダーがD直 売所の代表であり、直売所の運営担当者である。初期投資3,600万円の資金調達は、県の 補助事業1,500万円、市や土地改良区からそれぞれ700万円、100万円の合計2,300万円 の助成を得て、出資金から300万円、農業近代化資金から1,000万円の借入である。

4P 伸長要因 N直売所

商品 品揃え(多品目) 50~60品目

     生産者数 31人(2007)⇒37人(実績33人)

     生鮮農産物売上構成、野菜割合 95%、野菜80%

独自商品、新規品目導入 2008~9年イタリア野菜導入、2011から好評 客ニーズから新規を毎年4~8品目導入

鮮度(地場産割合) 100%

高品質・味(栽培スキルの向上) 栽培方法研究と教え合いで良品質に 安全性(残留農薬検査、栽培履歴) 年2回(保健所)、出荷前提出 周年供給(端境期少、冬期品目増) 冬期はハウス栽培

午後の補充(午後の品切れ防止) 昼の売上予測で補充出荷者・量決定

価格 競合店との価格差 安い

競合店の価格を意識

場所 競合密度と棲み分け 商圏10㎞内にスーパー3店、

直売所5店

販促 会話、POP 生産者がほぼ常駐、利用者と会話

イベント、試食 イベント企画多い

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最初の頃は商品が売れず、売れ残り品を翌日半額にしても売れない、無料でも断られる 等の経験をすることで、「品質の悪いものを安くしても売れない」ことを痛感し、品質の良 い商品を栽培・出荷するために栽培スキル向上を目標とした。当初の登録生産者数は約50 人で専業農家が多いが、米中心で野菜の市場出荷経験がない生産者もいたため、生産者部 会を作り、栽培スキルを教え合ってスキルアップをしてきた。オープン後約3年で高品質 の評判が確立した。図Ⅵ-4のとおり、D直売所の売上高は2007年の設立以来、年平均成

長率10%強で順調に伸びており、2012年度9,300万円に達している。

直売所の収益は初年度から黒字であり、2011年度に累積赤字を解消した。現在は設備投 資の利益を留保して残りの利益は株主に配当している。手数料は当初は20%であったが、

2011年に18%、2012年17%、2013年の春16%と下げてきている。

図Ⅵ-4 D直売所の売上高推移 (出所)D直売所資料

仕入に関しては、当初の2~3年は冬期に群馬県の生産者から農産物を購入したが、翌 日物のため味が落ちて売れないことと、仕入品は売り切らなければならないことから、地 場産が少ない時期に無理して仕入れ調達はせず、地場産が売場にない時期はスーパーで買 ってもらえば良いとの方針に変更した。冬期のビニールハウス栽培も石油のコストが高く 採算が取りにくいため行わず、そのため図Ⅵ-5のように冬期の売上が減少して季節変動は あるものの徐々に売上高が拡大している。生産者数は当初の50人から登録数で180人(実 稼働110人)に増えた。

28.2

53.3

68.7

81.2

87.5 92.9

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

2007 2008 2009 2010 2011 2012年度

140 図Ⅵ-5 D直売所の月別売上高推移

(出所)図Ⅵ-4に同じ

表Ⅵ-5がD直売所の概要であるが、売場面積は当初の140㎡から2013年7月に180

㎡に拡張して、利用者のための休息スペースと加工室を設置した。利用者数は平日が1日 300人、土日が1日400人である。

表Ⅵ-5 D直売所の概要

(出所)D直売所資料、聴き取り調査より作成

(注1)*期間は2007~2009年度、2009年~2012年度。2007年度の売上高は2倍して年換算

(注2)**2013年。品目数はPOSデータのコード数を筆者が品目を中心にカウントした。

売上構成は生鮮農産物が75%と多いが、農産加工品が20%に増加してきている。これま では生産者数が増加して生鮮農産物の生産量が増加してきたが、生産者数の増加が停滞し てきており、生鮮農産物の生産量増大は今後あまり見込めず、加工室の新設により農産加 工品の拡大を計画している。

0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000

2007.7 9 11 2008.1 3 5 7 9 11 2009.1 3 5 7 9 11 2010.1 3 5 7 9 11 2011.1 3 5 7 9 11 2012.1 3 5 7 9 11 2013.1 3 5

2009年度 2012年度 2012年度 売上構成(%) 品目数**

設立 2007 野菜 40 108

売上高(百万円) 69 93 果物 20 18

年平均成長率*(%) 10.3 10.6 米 5

売場面積(㎡) 140 花き 10

1㎡売上高(万円) 49.1 66.3  生鮮農産物計 75 126

利用者数(万人) 不明 10(推定) 農産加工品 20 5

1日利用者数(人) 不明 330 その他 5

客単価(円) 不明 930 合計 100 131

141 2 4Pからみた伸長要因

(1)商品

D直売所の商品差別化の特徴は、第1に仕入れを行わずほぼ100%地場産(朝採れ・高 鮮度)を維持、第2に地場農産物の新規品目・品種数を毎年導入して品揃え品目数を増大、

第3に生産者全員の栽培スキル向上でほぼ全商品の高品質を達成し3年で高品質の評判を 形成の3点である。詳細は以下のとおりである。

①品揃え:2013年で野菜108品目・果物18品目の合計126品目であり、野菜は通常120

~130品目が望ましいとされるレベルに近い品揃えまで増加してきている。扱い商品全体 では1,000品目、2,000品種(登録品種数)がある。

野菜・果物の新規品目・品種の導入は、表Ⅵ-6のとおり2007年から2010年までは毎 年約15品種、2010年以降も毎年10品種前後は導入している。たとえば、なすは品種が 多いためなすの新規品種を導入したり、イタリア野菜も時々生産者から出荷されたりして いる。

表Ⅵ-6 D直売所の野菜・果物合計品目数の推移

(出所)D直売所の聴き取り調査(2007~2012年)とPOSコード表(2013年)より作成 (注)2011年以降毎年約10品目・品種導入のコメントから2011年、2012年の品目数を 概算で算出した。2013年はPOSコードをカウントしたので6品目に減少したわけ ではない。

②鮮度:生鮮農産物は100%地場産(朝採れ、高鮮度)、農産加工品も地場産を原材料とし た漬物等のため、地場産割合は95%以上である。仕入品は生産者が花束を作るために必要 な一部の花を仕入れていたり、野菜・果物の種やごみ袋程度である。

③高品質・味:生産者部会で教え合ったり、県の普及員に指導を受けて、生産者が研究熱 心に努力してスキルを向上させ、高品質の評判を確立した。たとえば生産者が野菜を搬入 して高品質の商品が売場にあり、自分の商品の品質が悪いと判断すれば持ち帰るほど品質 保持に留意している。

④安全性(残留農薬検査、栽培履歴):残留農薬検査は生産者の自主性、自己責任に任せて おり、農薬散布の履歴は紙で提出される。

2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013

品目数 55 70 85 100 110 120 126

増加数 15 15 15 10 10 6

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⑤周年供給(端境期少、冬期品目増加):仕入はせず、ビニールハウス栽培もコスト高にな るため行わない。1月末~6月はイチゴを栽培する。

⑥午後の補充(午後の品切れ防止):1日4回携帯メールで売上情報を送り、ある程度補充 される。

(2)価格

価格は野菜部会で相談して最低価格を決める。したがって、価格は高目の設定になる傾 向がある。D直売所は前節のN直売所と5㎞程度の距離にあるため、表Ⅵ-3の100グラ ム単価比較表でN直売所の競合店として挙げられているが、同表でのD直売所の価格は 他競合スーパーや直売所と比較して高めである。

(3)場所

図Ⅵ-6 D直売所と10㎞商圏内の競合店

(出所)図Ⅵ-3に同じ

D直売所は、N市内からN直売所に向かう国道403号線の途中近くに立地しており、N 市駅前から約15㎞である。駐車場は27台であったが、2013年7月の売場の拡張により

143 り縮小されて26台になった。

商圏は10㎞であり、圏内の競合店は図Ⅵ-6のとおり、直売所5店、スーパー11店があ り、競合密度は非常に高い。しかし、D直売所はほぼ100%地場産の野菜の品揃えで高品 質の評判が確立しており、毎年の新規品目・品種の導入も多く、明確な商品差別化がある ため、スーパー等競合店と棲み分けている。そのため、スーパー間の価格競争には巻き込 まれないで高価格を実現している。

(4)販促

D直売所では7人のパートの販売員(内1人が店長)が雇用されており、各人が半日ず つ週に5~6日勤務して、午前中3人、午後2人が店内で販売を担当する。全員が農家の 主婦で野菜の知識も豊富であり、利用者との会話も多く、利用者のニーズを生産者に伝え る役目を果たしている。POPは多くないが、新規品目・品種を出荷する場合は商品の特徴 説明やレシピを置き、生産者の試食販売も実施する。イベントも7月のかき氷、もちまき イベント、11月の収穫祭、不定期の直売所ツアー等を実施し、利用者との交流を図ってい る。

(5)まとめ

D直売所の最大の伸長要因は規模を拡大しつつ、高品質と100%近い地場産割合を維持 して「地場産の商品差別化」を構築してきたことである。表Ⅵ-7に示すように、ほぼ100%

地場農産物で130品目まで野菜の品揃えを増加、農産加工品も地場産原材料を用いて売上 構成比2割まで増大、さらに、栽培スキルを磨いて開設当初から高品質商品を毎年新規に 15品種前後導入して高品質の評判を確立、2010年以降も高品質を維持しながら毎年約10 品種を導入しており、「地場産の商品差別化」に高品質の評判形成と新規品目の継続導入、

品揃え拡充・売場新鮮度維持の差別化要素が追加されて商品差別化が一層強固に確立され ている。

その結果、高品質の価格プレミアムが認められて高価格が実現しており、スーパーや直 売所との価格競争に巻き込まれず、棲み分けている。販促では、生産者との会話はイベン トや新商品販売の試食時の機会に限られるが、販売員が頻繁に会話を行い、利用者のニー ズを生産者に伝える役目も果たしている。