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第 1 章 農産物直売所の最近の動向

第 3 節 スーパーとの競合の激化

前節までは直売所の成熟化、大規模化の進展の動向と大規模直売所の販売効率や商品構 成の特徴など直売所業界の内部環境の変化と直売所の実状を把握してきた。本節では、市 場・競争の外的環境の変化、とりわけ、リーマンショック以降の市場環境、即ち消費動向 の変化と、それに対応したスーパーの戦略変化について把握し、2009年頃を境にスーパー が生鮮食品に対してどういう商品・価格政策を採ってスーパー間で激しい競争を展開して きたのか、その結果直売所との競合も激化したのかを明らかにする。

1 リーマンショック以降の経済と消費動向の変化

(1)実質GDPと賃金、総合スーパーの売上高推移

図Ⅰ-11は、実質GDPと、総合スーパー(以下、GMS)9の総売上高、及び食料品売 上高の1995年以降の推移を示したものである。 実質GDPは2002年以降増加している が、GMSの総売上高は1997年がピークで、実質GDPが増え始めた2002年以降も減少 して前年割れしており、消費動向は厳しい状況が続いている。売上の6割を占める食料品 売上高は2000年頃から停滞を続けており、2007年がピークである。

図Ⅰ-11 実質GDPとGMS総売上高・食料品売上高推移

(出所)内閣府(2011,2013)、日本チェーンストア協会(2013)

(注)日本チェーンストア協会加盟スーパーはGMSと大手食品スーパーで、2012年現在57社が加盟

420 440 460 480 500 520 540

0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0 16.0 18.0

1995年 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 G D P

GMS総売上高

内食料品売上高 実質GDP

47

GMS の売上高停滞に見られる消費の停滞は賃金が伸びていないことが主要因と考えら れる。図Ⅰ-12を見ると、実質GDPが2002年から2007年まで年平均成長率1.8%で成 長したにも拘わらず、同期間の賃金は年平均成長率 0.03%と横ばいであり、2007 年から 2012年にかけては実質GDPも年平均成長率-0.2%で減少しているが、賃金は年平均成長 率-0.5%とそれ以上に減少している。

また、2008年9月のリーマンショックの影響で、実質GDPの前年伸び率は2007年の

2.2%から 2008 年は-1.0%、2009 年には-5.5%と悪化している。経済環境の悪化のため、

同期間の賃金の前年伸び率は2007年が-0.3%、2008年が-0.9%、2009年には-2.1%と減 少しており、消費者の節約志向を高めていると考えられる。

図Ⅰ-12 実質GDPと賃金の推移 (出所)内閣府(2011,2013)、厚生省(2013)

図Ⅰ-13 実質GDPと家計の食料品支出の前年比伸び率 2008年-2013年四半期推移

(出所)内閣府(2013)より作成

250.0 300.0 350.0 400.0 450.0 500.0 550.0 G D P

/

賃金 実質GDP

-10 -8 -6 -4 -2 0 2 4 6

8

実質 GDP 伸び率

48

2008年から四半期ごとのリーマンショック後の実質GDPの前年比伸び率を図Ⅰ-13で みると、リーマンショック後の2008年第4四半期から2009年第1四半期にかけて、-4.8%、

-9.2%と大きく落ち込み、2009 年第 2、第 3 四半期でもまだ-6.6%、-5.5%とマイナス幅

が大きい。スーパーにとって、2009年1-3月期から7-9月期にかけて食料品消費の節約志 向、生活防衛が一段と高まったといえる。

(2)食品スーパー売上高のリーマンショック後の前年同月比推移

スーパーは総合スーパー(GMS)と食品スーパー(以下、SM)10に分かれる。前述の 日本チェーンストア協会に加盟するのはGMS と大手 SM57 社で、2012 年現在で 7,895 店、総売上高12兆5,340億円(食料品7兆7,454億円)であるのに対し、大手一部と中 堅SM99社は日本スーパーマーケット協会11)に加盟している。加盟企業の店舗数は8,729 店(2013年6月)、2012年総売上高8兆341億円である。

経済産業省の商業統計によれば、1997年から2007年までのGMSとSMの売上高推移

(図Ⅰ-14)は、売場面積500 ㎡以上の大手・中堅SMが店舗数・売上高ともに伸びてい る。しかし、2008年以降の調査がまだ実施されていないため、売場面積500㎡以上のSM の 2008 年以降の総売上高と既存店対前年同月比推移を日本スーパーマーケット協会の統 計の図Ⅰ-15でみると、2008年は内食需要があり、既存店対前年同月比がほぼ100を超え ていたが、2009年1月に入るとマイナスに転じ、2009年5月から11月にかけて下落傾 向となり、94-96のレベルで推移している。SM売上高の全店前年同月比を見ても2009年 9月から12月まで100を割っており、この期間の食料品消費の悪化を示している。

図Ⅰ-14 総合スーパー(GMS)、食料品スーパー(SM)の売上高推移

(出所)経済産業省(2009)

89,870

82,642 80,618 79,496

69,473

9,697 5,854 4,533 4,568 4,994

93,126

114,835

125,068

139,105 146,856

54,555 52,645

33,970 31,365

24,207 0

20,000 40,000 60,000 80,000 100,000 120,000 140,000 160,000

1997 1999 2002 2004 2007

大型総合スーパー

中小総合スーパー

食料品スーパー500㎡以上

食料品スーパー250~500㎡

未満

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図Ⅰ-15 SMの総売上高、全店対前年同月比、既存店対前年同月比推移

(出所)日本スーパーマーケット協会マンスリーレポート(2008-2013)

(注)加盟店中60社、4,408店、2012年総売上高58,829億円のデータ。1店平均売場面積1,939

図Ⅰ-16 SMの既存店総売上高、食料品、農産物売上高の対前年同月比推移

(出所)図Ⅰ-15に同じ

食料品の中で特に農産物売上高に関して、2009年10月から12月までのSMの農産物 売上高の既存店対前年同月比を見ると、図Ⅰ-16 に示すように悪化の傾向が一層顕著であ り、2009年10月から12月は92.5、92.4、92.0と最低水準になっている。

3500 4000 4500 5000 5500 6000

90 92 94 96 98 100 102 104 106 108 110

月総売上高 全店前年同月比 既存店前年同月比

85 90 95 100 105 110 115

既存店前年同月比 農産物前年同月比

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即ち、リーマンショック後の経済環境の悪化が消費行動にも影響して、2009年10月か ら消費者の節約意識、生活防衛消費が際立って強くなり、食料品や農産物消費が急激に悪 化したといえる。

2 2008年から2009年にかけてのスーパーの戦略

(1)2008年~2009年の消費環境に対するスーパー各社の認識

図Ⅰ-15で示したように、2008年はSMの売上高対前年同期比が100を超えており、消 費者の内食回帰の需要の底堅さを示していた。SMの2008年の消費環境に対する認識は、

「2008年はリセッションに加え、相次ぐ冷凍ギョーザ事件に端を発した安全性に対する不 安、さらに所得や雇用、年金などへの将来不安から節約志向を強めた消費行動が一層顕著 になった。こうした環境下、お客様は外食を控え、自宅で食事を作る傾向が目立った。『安 心・安全』、『割安感のある価格』を求めるお客様の行動が強まり、高業績を計上した SM が目立った」12(SMのいなげや広報室長)というコメントに代表される。

しかし、SM各社は、2008年の後半から消費者の価格志向と買い控えの節約意識がさら に高まり、消費行動が一層悪化してきたことも認識している。たとえば、「8月中旬から消 費の潮目が変わった。買い上げ点数がやや低下している。」(マルエツ)、「8 月の後半から 失速、徐々に売上が鈍化傾向」(ライフ)、「価格に対して一層敏感になり、必要な時に、必 要なものを、必要な量だけ、しかも自分が納得する価格でしか購入しないという消費行動 が強くなっている。特売の売上構成比がアップした。」13(いなげや)との指摘がある。

消費行動の悪化の傾向は 2009 年に入ってより顕著になった。SM の売上高対前年比が マイナスに転じ、SM各社は「2009年に入って消費が急速に締まってきた」と指摘してい る14

2009 年下期に入ると、SM 各社は消費行動と業績の厳しさの認識を一段と強めている。

青森県を地盤とするSMの紅屋商事社長は、「2009年10月に入って状況が一変した。特 に青果物の相場の下落の影響が大きく、またお客様の買い控えが顕著に現われ、1 品単価 がさらに下がっている。」15と、10月以降の青果物の相場の下落と消費者の買い控えを指 摘している。さらに、ヨークベニマル社長(セブン&アイ・ホールディングス傘下)も「厳 しいですね。とくに、東北ではここにきて1世帯当たりの収入が減っている。7月は賞与 が下がり、収入が前年の17%も減った。貯蓄は増えているので可処分所得が約20%減。1

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品単価は96.7%で、買い上げ点数もそれほど落ちていないが、9~10月になって客数が減

った。お客様の買い方が変わり、何を買うにもしっかりと見極めて節約しているようにみ える。年末も厳しい状況になると予想している」16との見方を示し、9~10月以降の客数 減と節約意識を挙げている。

(2)2008年~2009年のスーパー各社の戦略

2008年~2009年の厳しくなってきた消費環境に対する認識から、スーパー各社は食料 品や青果物に関して、表Ⅰ-18で挙げた4項目の戦略を取った。

1)低価格戦略(2009年3月以降)

2008年秋以降、イオングループとセブン&アイグループを中心に、低価格競争が開始さ れた17。イオングループのマルエツが2008年12月16日から生鮮食品を始め、加工食品、

日用雑貨、実用衣料までの1,400品目から最大3,000品目を「生活応援価格」として割引 を展開した。たとえば月間特選品は1カ月10~30%引きであった18

表Ⅰ-18 2008年~2009年におけるスーパー各社の食料品・青果に関する戦略

(出所)Chain Store Age(2009、2012)、激流(2009)、食品商業(2009)より作成

次いで、西友が2008年末のKY(カカクヤスク)宣言で、自社の安さを全国紙で全面広 告し、2009年3月からウルマート・ジャパンとして再スタートしてNB191,800品目の 価格引き下げを発表し、従来の月間特売品に相当する価格帯の商品をEDLP(エブリディ・

①低価格戦略(2009年3月以降)

-値下げ、EDLP

-ディスカウント業態店の出店

-PB化

②生鮮食品の強化:市場以外の仕入れルートによる差別化(2009年秋から増加)

-地産地消の推進、地場産コーナーの設置

-産地直送による生鮮食品の品揃え充実:特設コーナー等

③青果の商品開発:差別化の強化(2008年3月以降)

-提携農場に青果部門のバイヤーを派遣して、消費者のニーズにマッチした野菜の生 産を生産者と協労する

④農業参入による青果のPB化:独自商品とコスト削減(2008年8月以降)

-農業生産法人の設立により生産から販売までの一貫体制を構築し、バリューチェーン の最適化を図る