第 1 章 農産物直売所の最近の動向
第 4 節 小括―外部・内部環境の変化と直売所運営の現状―
以上、2000年代後期以降の直売所業界の内部環境変化と市場・競争の外部環境変化の両 面の動向とそこでの直売所の運営の現状についてみた。分析から明らかになった点を、市 場・競争の外部環境の変化面について整理すれば以下の通りである。
①長期の経済不況と実質賃金の伸び悩みによる消費の停滞が続いており、GMS の売上高 は1997年をピークに減少傾向にある。特に2008 年9月のリーマンショックにより経済 の落ち込みが厳しい。
②リーマンショック後の2009 年以降、消費行動の悪化がとりわけ顕著になっており、消 費者はこれまで以上に節約志向、価格志向を強めている。
③2000年代にJA・民間企業大規模直売所が急増して、2000年代後期には直売所間の競合 を課題とする直売所が増えた。流通研究所(農林水産省委託)の 2009 年直売所調査では 20%の直売所が直売所間の競合を運営課題に挙げている。
④リーマンショック後の消費不況、消費者の価格志向に対応して、2009年以降スーパー間 の生鮮商品(地場産コーナー、インショップ)導入の増加と低価格競争が激化して、直売 所との地場産農産物の商品差別化の垣根が低くなってきており、直売所も巻き込まれてス ーパーとの競争が激化している。
次に、直売所の内部環境の変化として直売所業界の成熟化・寡占化がみられるが、そう した直売所業界の変化を要約すれば次の諸点が挙げられる。
①直売所業界は1990年代が生産者直売所を主体とした成長期であり、2000年代初期から 本格参入したJAや民間企業大規模直売所が増加したが、2000年代後期から全体として成 熟期に入った。JA・民間企業大規模直売所は、2010年以降は減少しつつある。
②売上規模が大きい直売所ほど開設が遅く、売上高3~5億円規模では8割が1994~2003 年の開設に対し、売上高5億円以上では2004年以降の開設が5割となり、直売所の規模 拡大の進展が示されている。
③2000年代のJA・民間企業大規模直売所の大規模化により、小規模・零細直売所は大規 模直売所への統合や淘汰が進み、業界が寡占化した。2009 年度には、売上高 3 億円以上 の大規模直売所が直売所数では3%だが、売上金額では40%以上を占めている。
④後発参入した JA・民間企業直売所と生産者直売所が各々市場規模(販売金額ベース)
の1/3を占める。
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⑤個別の直売所レベルでみると、生産者大規模直売所や2000年代初期に参入したJA・民 間企業大規模直売所も、2000年代後期には開設から6~7年以上を経た店舗が多く、成熟 期を迎えている。
最後に、内外の変化の中で直売所の運営の現状は以下のような特徴が示される。
①直売所の品揃えは野菜や果実等の生鮮食品と花き・花木を含めた生鮮農産物が7割を占 めるが、2006年度から2009年度にかけて、また売上規模の拡大につれて生鮮農産物から 農産加工品、その他一般食品へと品揃えが広がっている。
②売上規模の拡大につれて、直売所の品揃えは生鮮農産物の中でも野菜・果実からその他 生鮮食品が増加し、また、地場農産物割合が低下している。
③運営主体別に、開設目的、売場面積、利用者の居住地域、品揃え、販売面の取組、営農 指導に違いが見られる。
-開設目的では、JA が地域の農業生産振興と新しい販路開拓等生産農家支援の目的が 強いのに対し、生産者や民間企業では地域の農業生産振興は同じだが、地域全体の活性化 や消費者との交流など目的が分散しており、新たな現金収入を得る目的も比較的多い。
-売場面積では JAの売場の大きさが際立っており、民間企業は小規模と大規模店の分 散、生産者は小規模店が多い。
-利用者は6割近くが地元住民であり、特にJAは地元住民の比率が7割と高い。
-品揃えは、JA・生産者の場合は生鮮農産物の割合が 75%前後に対し、民間企業では 65%前後に低下してその他一般食品の割合が増え、品揃えが生鮮農産物から広がっている。
-販売面の取組では、生産者は地場農産物のみの販売への取組が多数だが、JA や民間 企業は半数以下であり、JA は地域特産物の販売、民間企業では地域特産物や高付加価値 品の販売への取組も多い。
-営農指導は7割が実施しているが、JA9割、生産者7割、民間企業が5割と運営主体 により違いがみられる。
④2009年後半の直売所調査では、地場農産物の数量確保や品揃え、利用者の確保、生産農 家の確保が直売所の販売面の取組および運営課題の両方で上位3位に挙げられ、運営課題 の4位には新たな商品・加工品の開発が挙げられている。直売所の成熟化に伴い、生産者 数や品揃えの品目、生産数量の面で供給力が課題とされている。
これらのことから最近の直売所の内外の環境は、従来の伸長要因が機能していた成長期 とは大きく異なってきたといえる。2000 年代後期には、JA・民間企業大規模直売所が増
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加して規模拡大を進める中で業界が成熟期・寡占化となり、大規模直売所も成熟化して、
直売所間の競合も生じてきている。また、大規模直売所では直売所の品揃えが生鮮農産物 から広がって、地場農産物の割合も低下する傾向がみられ、運営主体により設立目的や運 営の特徴が異なる。運営面の課題では生産者数・品揃えの品目や生産数量の供給力が挙げ られている。さらに、2008年のリーマンショック後からの消費不況により消費者の価格志 向が強まって、スーパーの地場産コーナーやインショップ導入が増加するとともにスーパ ー間の価格競争が激化し、直売所業態との垣根が低くなってきており、直売所とスーパー との競合も激化してきていることが明らかになった。
注
1. 岸(2002:136)を参照。出所は埼玉県農林部食品流通課(当時)『全国農産物産地直 売所の実態調査結果について』
2.東北農政局(2004)『平成14年度東北食料・農業・農村情勢報告(特集編)-“地産地
消”による東北農業の再構築』と関東農政局(1998)『平成9年度関東農業情勢報告』, 240
3. 小柴(2005:17)を参照。出所は都市農山漁村交流活性化機構(2002)『全国都道府県 都市農村交流施設実態調査』
4.全体では3,278カ所の増加だが、「常設施設非利用」を除くと2,084カ所の増加となる。
5.農林水産省(2011b)の直売所調査の定義によれば、地場農産物は、直売所が所在する 同一市町村およびその同一都道府県内での隣接する市町村で、栽培された農産物である。
6.農林水産省の「平成21年度地産地消・直売活動推進事業(全国推進事業)」の調査結果
である。常設・有人・周年運営の直売所に該当すると思われる全国の5,001カ所の直売 所に2009年に調査表を郵送し、839件を回収した(回収率は16.8%)。調査実施は㈱流 通研究所で、年間販売額等については調査時点の直近 1 年(2008 年)についての回答 である。
7.無回答2.6%を除いて算出した。合計が99%であるが、四捨五入の誤差である。
8. 売上高と売場面積、生産者数はある程度相関する。JA ファーマーズマーケットの場合 は、売上高と売場面積の関係を「1㎡当たり100~120万円/年」、売場面積と生産者数の 関係を売場面積「1㎡当たり1人」と算出してファーマーズマーケットの設計や運営時 の基準としている。この相関関係を適用すれば、売上高3億円は売場面積では250~300
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㎡、生産者数250~300人となる。
9.General Merchandise Storeの略でGMSと呼ばれる。衣・食・住関連の商品を中心に、
各種の商品を幅広く扱っており、量販店と呼ばれることもある。
10.Super Marketの略。スーパーはGMSと食品を中心に扱うSMに分かれる。経済産業 省商業統計調査の定義によれば、食品の売上高が70%以上で、売場面積が250㎡以上の ものをSMという。
11.食料品売上構成比が原則50%以上のスーパーマーケットであって10店舗以上または年
商10億円以上のスーパー99社(2013年9月現在)が通常会員として加盟している。
12.石橋忠子(2009:36)を参照。
13. 石橋忠子(2009:37)を参照。
14.山本恭広(2009:16)を参照。
15. Chain Store Age(2009c:28)を参照。
16.千田直哉、豊田淑子(2009:46)を参照。
17. Chain Store Age(2009c:20)を参照。
18.激流(2009:38)を参照。
19.NBはナショナルブランドの略称で、大手メーカーのブランド品。これに対してスーパ
ーの企画商品はプライベートブランド(PB)と呼ぶ。
20.EDLP は
、
各商品を年間を通じて常時低価格で販売する価格戦略のこと。ウオルマートが最初に開始した。山本恭広(2009:16-17)を参照。
21. イオン、セブン&アイ、CGCグループの価格引き下げは山本恭広(2009:15)を参照。
22.イトーヨーカドーは激流(2013a:29)、イオンは激流(2013a:26)、オークワは激流
(2009:38)を参照。
23.SMフジ(四国地盤)の社長コメントに基づいている。Chain Store Age(2009a:30)
を参照。
24.イオンはChain Store Age(2012:44)、CGCはChain Store Age(2013a:36)を参 照。
25.高村慎一郎(2010:5)を参照。ドミナント戦略は高村によれば、スーパーなどの小売 業が店舗展開する場合に、特定地域内に出店することで経営効率(認知度向上による来 客誘致、物流コストおよび広告宣伝費の抑制など)を高め、かつ特定地域内のシェアを 拡大することで競争優位を狙う戦略をいう。