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図5-9. 800ºC熱処理後のAg膜表面のSEM観察像とAES分析によるAgとTiの元素分布像.

800°C熱処理後のAg膜表面の結晶粒内と結晶粒界から得られたAESマイクロプローブ分析の結 果を図5-10に示す。図5-9の観察試料と同様に、Arスパッタエッチングにより最表面を清浄化した Ag膜の結晶粒内から、AgのMNN遷移に相当するAugerスペクトルが検出されたことを図5-10(a) は示している[5-10,5-11]。図5-10(b)では、同じAg膜表面の結晶粒界から図5-10(a)と同じAgのAuger スペクトルと同時に、378eV、415eV、510eVに強度の高いAugerピークが検出され、それぞれ、

TiのLMM遷移、TiのLMV遷移、OのKLL遷移に相当すると考えられることから、Ag結晶粒界にTi 酸化物が形成されていることが分かる[5-12,5-13,5-14.5-15]。Ag膜表面を150nm相当Arスパッタエ

ッチングすると、図5-10(c)(d)に示すように、Ag膜の結晶粒界のAugerスペクトルからTi酸化物に 由来するAugerピークは消失し、結晶粒内、結晶粒界共にAgのAugerスペクトルのみが観測されて いる。AES分析の結果から、Ag/Pd/Ti積層膜の高温熱処理後にAg膜の結晶粒界に沿って形成され たTi酸化物が、Ag膜表面のArスパッタエッチング時に、Agのエッチングマスクとして働いたため に、結晶粒界のAgのArスパッタエッチングが結晶粒内より遅れ、結晶粒界に沿ったAgの段差が 強調されたと考えられる。

Kinetic Energy, E(eV) Kinetic Energy, E(eV)

Ar etching amount of about 20nm Ar etching amount of about 150nm

E·N(E)(arbitraryunits) E·N(E)(arbitraryunits)

(a)(c)結晶粒内, (b)(d)結晶粒界

図5-10. 800ºC熱処理後のAg膜表面のAESマイクロプローブ分析結果.

5-4.Ag/Pd/Ti積層膜の合金化挙動とそのデバイス適用について 5-4-1.熱力学的考察

前項で述べたように、Ag/Pd/Ti積層膜の熱処理温度が高くなると、ほとんどのTi原子はPd-Ti金 属間化合物相の形成に消費され、それ以外の残りのTi原子は熱処理雰囲気中の微量の残留酸素と 反応しAg膜表面の結晶粒界に沿ってTi酸化物を形成するために、Ti原子はAg膜の比抵抗の変動に 関与しないことが判明した。例えば、2at%Ti組成のAg-Ti合金形成と800ºCにおけるTi酸化物形成 のギブス自由エネルギー変化は、それぞれ、−2kJ/mol、−440kJ/molであり、両者の大きなエネル ギー差はTi酸化物の優先的な形成に寄与している[5-16,5-21,5-22,5-23]。同様の挙動は、スパッタ 成膜によるAg/Ti積層膜のNH3雰囲気中の熱処理においても観察されており、雰囲気中の微量の酸 素によりAg膜表面のTiN(O)層が形成されるために、TiのAg膜中への合金化が抑制された結果とし て、熱処理後もAg膜の比抵抗が上昇しないことが報告されている[5-3,5-17]。

図5-7に示すAg膜の比抵抗の変化の熱処理温度依存性から、ln[ρ(T)/ρ(as plated)]と1/Tの関係が直 線性を示すことが容易に確認されるために、直線の傾きから活性化エネルギー(Ea)の値として

−13.4kJ/molが得られる。この値の負号は、Pd原子がAg膜中を拡散し、Pd原子がAgの結晶中に原

子の尺度で固溶する状態に在ることよりPd-Ti金属間化合物相の形成が自発的に進むことを示し ている。以下に、Eaを構成する要素の妥当性を吟味する。

Ag1-xPdx 二元合金の混合エンタルピー(ΔHfAgPd)は、次のように与えられる[5-24]。

ΔHfAgPd≈ ΔHsolAg in Pdx2(1−x) + ΔHsolPd in Ag x(1−x)2

ここで、ΔHsolA in B はB母相中のA原子の溶解エンタルピーを表している。Miedemaの半経験則に より求められる無限希釈における溶解エンタルピーの値を用いると、合金組成が20at%Pdの場合、

ΔHfAgPdの値を−4.6kJ/molと見積もることができる[5-25]。この値は、密度汎関数法の局所密度近似 に基づく第一原理的なバンド計算によるAg-Pd合金の混合エンタルピーの定量的な予測と整合し [5-26]、熱量測定により知られている−4.5kJ/molの周りにばらつく実測値と良い一致を示す [5-1,5-18,5-19,5-20]。

Pd-Ti金属間化合物の生成エンタルピー(ΔHfPdTi)の値は、計算熱力学や第一原理計算による遷

移金属合金の生成熱の予測により−40kJ/molから−60kJ/molの範囲に見積もられており、熱量測定 によりPdTi、Pd2Ti、Pd3Tiの各相の代表値として、−55kJ/mol、−58kJ/mol、−65kJ/mol の値が知ら れている[5-5,5-27,5-28,5-29,5-30,5-31]。前項のX線回折やAuger分析の測定結果では、Pd原子の周 囲の局所環境まで判別できず、Ag/Pd/Ti積層膜の熱処理後に化学量論組成の異なるPd-Ti金属間化 合物相の生成比率が明確にできないため、ここでは、上記代表値の平均値としてΔHfPdTi の値を

−59kJ/molとすると、Ag中のPd原子拡散の活性化エンタルピー (ΔHdiffPd in Ag)は、

ΔHdiffPd in Ag= Ea−( ΔHfPdTi− ΔHfAgPd) = −13.4−[(−59)−(−4.6))] = +41 (kJ/mol) と見積もることができる。

図5-8のSEM観察像に示されるようにAg電解めっき膜の結晶粒は小さいために、熱処理による Ag/Ti/Pd積層膜の合金化挙動おいてAg膜中のPd原子の拡散は粒界拡散が支配的であると考えられ る。Ag中のPd原子の粒界拡散の活性化エンタルピーについては、清浄なPd基板表面に100nmから 500nmの膜厚でAg蒸着を行った試料の超高真空中の熱処理実験の報告があり、+39kJ/mol [5-32]か ら+60kJ/mol [5-33]の範囲の値にあることが知られている。図5-7の実験結果から導かれるΔHdiffPd in

Agの+41kJ/molの値は、これらの文献値と整合する範囲にあり、

Ea = ΔHdiffPd in Ag+ ( ΔHfPdTi − ΔHfAgPd) で与えられる機構の妥当性を支持している。

以上の熱力学的な考察から、Ag/Pd/Ti積層膜の合金化挙動において、熱処理温度が高くなると、

Ag-Pd合金の形成よりPd-Ti金属間化合物相の形成が支配的となり、Pd原子のAg中への固溶が抑制

されるためにAg膜の比抵抗が低減することが結論される。

5-4-2.Ag/Pd/Ti積層膜のデバイス適用の可能性と実用化に向けた提案

Ag/Pd/Ti積層膜では、Ag膜の比抵抗は、高温の熱処理後も、Ag電解めっき後と同等の値を得る ことができることが判明した。現行のSi半導体デバイス製造において、トランジスタ素子やメモ リキャパシタを形成した後の多層配線形成プロセスでは、素子性能劣化やメモリの電荷保持特性 の劣化を避けるために、許される熱履歴が400ºC以下の制約を受ける。一方、Siインタポーザには

半導体デバイスを作り込む必要がないために、配線形成や絶縁膜形成のプロセス温度に制約は無 い。今後、無線通信、センサ、高誘電率膜の受動素子と高性能ロジックや大容量メモリとの異種 デバイスの三次元集積化によるシステムモジュールの多機能、高性能化の進展に向けて、高周波 信 号 の 高 品 質 化 の た め に 、Siイ ン タ ポ ー ザ の 配 線 層 内 に 高 誘 電 率 絶 縁 膜 を 用 い た Metal-Insulator-Metal(MIM)キャパシタを形成することは、ITRSロードマップでも有効なプロセ ス提案であることが指摘されている[5-34]。リーク電流低減、絶縁耐圧向上、容量の電圧依存低減 などのMIMキャパシタの高品質化のために600ºCを越える高誘電率絶縁膜の高温成膜、800ºCを越 える成膜後の高温熱処理が必要になれば、本研究で検討されたAg電解めっきによるAg/Pd/Ti積層

膜を、TSVの埋め込みプロセス、そのTSVに接続する多層配線形成プロセスに用いることにより、

TSVや配線形成プロセス後に配線上層に形成するMIMキャパシタの高温熱処理後によりAg電解 めっき成膜後と同等の低抵抗のAgプラグ、Agグローバル配線を形成することができる。将来の半 導体デバイスには、新しい機能材料による新しいデバイス機能創製が期待されており、Si半導体 素子の形成から配線形成に向かう現行のCMOSデバイス構造に基づくプロセスインテグレーショ ンの階層性を崩すことにより、さらに広範囲な材料開発とそのプロセス開発を進めることが必要 である。

5-5.結言

本章の研究では、Pd(50nm)給電層/Ti(100nm)密着層にAg電解めっきを行ない、Ag/Pd/Ti積層膜 の熱処理挙動を明らかにし、その挙動に熱力学的な裏付けを与えた。400ºCの熱処理によりPdは Ag膜と合金を形成するためにAg膜の比抵抗は増大した。熱処理温度の上昇に伴い、Ag-Pd合金形 成よりPd-Ti金属間化合物相の形成が支配的となり、PdのAg膜への固溶が抑制されAg膜の比抵抗 は減少に転ずることが判明した。800ºCの熱処理後のAg膜の比抵抗は熱処理前と同等の値を示し た。Pdとの金属間化合物形成に寄与しなかったTiは、Ag膜の最表面の結晶粒界に沿ってTi酸化物 を形成し、Agと合金を形成せず、Ag膜の抵抗変動には関与しなかった。さらに、Ag/Pd/Ti積層膜 の熱処理挙動を今後の三次元集積化デバイスへ適用するための提案を行った。

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