第 2 章 ASR と凍害環境下における道路トンネルの実態調査とその評価
2.3 ASR が発生したトンネルの劣化の特徴と対策の実態調査
2.3.5 ASR が発生したトンネルの対策事例とその評価
トンネルの覆工コンクリートは基本的にアーチ状を呈しているため,覆工に作用する地 山からの外力の作用に対して,覆工断面は圧縮力が卓越する部材となり,引張力をあまり 考慮しなくてもよいことから,覆工コンクリートは坑口付近を除き,無筋コンクリートで 構成されている場合が多い。そして,このような圧縮部材としての覆工コンクリートでは,
ひび割れが生じてもその箇所がヒンジ構造に変わるなど,直ちにトンネルの不安定化につ ながるものではない。一方で,覆工コンクリートは背面の地山との相互作用でその機能を 発揮するものであるため,覆工の力学的挙動は明確ではなく 14),耐荷性能の評価が難しく なっている。このような理由から,ASR により劣化した覆工コンクリートに対する補修あ るいは補強対策には,課題が残されているのが現状である。
しかし,外観目視調査のなかでASRにより劣化した覆工コンクリートや坑門に,補修や 補強対策が実施されているものがあった。そこで,外観目視調査で明らかになった覆工コ ンクリートおよび坑門のASRに対する対策の事例を示したうえで,ASRが発生したトンネ ルへの対策における留意点について述べる。
(1)ASRにより劣化した覆工コンクリートの対策事例
ASRにより劣化した覆工コンクリートの対策事例を,写真2.3.8および写真2.3.9に示す。
写真2.3.8(a)は,覆工コンクリートの巻厚不足やASRによる劣化でコンクリート強度が低下
し,坑口付近で地震時に不安定化する恐れがあったため,プレキャストコンクリートライ ニング版(PCL 版)による補強を行った事例である。覆工コンクリートに設計巻厚不足が 生じている場合など,はく落防止対策に加えて補強が必要な場合は,PCL 版による内巻き 補強が有利となる場合がある。この工法では,道路面から側壁コンクリートを立ち上げ,
アーチ状のPCL版の下端を直接支持させることにより,あと施工アンカーが不要となるも のである。ただし,内巻き補強を適用する場合,建築限界が確保されているかについて留 意する必要がある。
写真2.3.8(b)は,覆工コンクリートのせん断補強およびASRの劣化によるはく落防止対策
のための鋼板接着工の事例である。ここで,写真2.3.10は,ASRによるひび割れが顕著と
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写真2.3.8 ASRによる劣化が発生した覆工コンクリートの対策事例(その1)
(a) プレキャストコンクリートライニング版(PCL)内巻き工
(b) 鋼板接着工
(c) 繊維シート接着工
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写真2.3.9 ASRによる劣化が発生した覆工コンクリートの対策事例(その2)
(d) 形鋼を併用したFRPメッシュ張付け工
(e) ひび割れ注入工および面状導水工
写真2.3.10 鋼板とかぶりコンクリートが一体ではく離した事例(橋脚はり)33)
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なった段階で,橋脚の梁の形状を保持する目的で,側面を鋼板接着(鋼板厚さ:6mm)に より補強したものである 33)。しかし,鋼板を留めるアンカーボルトの先端位置から鋼板に 平行な方向にひび割れが発生し,ASR による膨張が進行するとともに鋼板とかぶりコンク リートが一体となり,はく離を生じていた。鋼板接着工で補修あるいは補強する場合,次 のような問題が生じることに留意する必要がある。ⅰ)覆工コンクリートに漏水が多く,
止水対策や導水対策が十分でない場合,鋼板内部に水分が留まるため湿潤状態が長く続き ASR を促進させる環境になる。ⅱ)標高の高い地域では,冬期に内部に留まった水分が凍 結し膨張することで,鋼板の接着効果が消失し,鋼板が剥がれる恐れがある。ⅲ)ASR や 凍害を受けたコンクリートでは微細なひび割れが生じており,あと施工アンカーを設置す る場合,健全なコンクリートと同程度な耐荷力が得られるかどうか,実構造物レベルでの 検証が得られていないという問題がある。あと施工アンカーに関しては,母材コンクリー トの健全な箇所に適用することが前提であり,やむを得ず健全でない箇所に適用する場合 には,十分な現地調査を実施し,劣化したコンクリートに適切な対策を施して,適用の可 否を判断する必要があるとされている34)。さらに,ⅳ)鋼板自体に腐食の問題があること,
ⅴ)鋼板を接着したコンクリート表面の経過観察が確認できないこと,などの問題点が挙 げられる。このようにASRが原因で劣化した覆工コンクリートに対して,鋼板接着工を適 用する場合には十分な留意が必要である。
写真2.3.8(c)は,ASRで劣化した覆工コンクリートに,はく落防止対策のための繊維シー
トを接着した事例である。覆工コンクリートに漏水が生じている場合,樹脂系接着剤の性 能が確保できるように,漏水の止水あるいは導水対策を実施した後,十分な下地処理を行 う必要がある。写真2.3.9(d)は,はく落防止対策として,形鋼を併用したFRPメッシュ張付 け工を実施した事例である。あと施工アンカーで固定させるので,止水対策や漏水対策が 不要で,コンクリートの膨張が継続している場合でも,ある程度の追随性が確保される。
また,対策後の経過観察が可能である。一方で,ASR で劣化したコンクリート面への長期 的なあと施工アンカーの引抜き耐荷力が確保できるかについて検討し,判断する必要があ
る。写真2.3.9(e)は,ASRによる劣化で生じた亀甲状のひび割れに注入工を実施するととも
に,覆工コンクリートの横断方向の打継目に,面状導水樋を設置した事例である。ひび割 れ注入工による止水対策と,導水樋による導水対策を効果的に実施したものである。
(2)ASRにより劣化した坑門の対策事例
ASRにより劣化した坑門の対策事例を写真2.3.11に示す。写真2.3.11(f)は,面壁式の坑門 の全面をブラストした後,防水目的でポリマーセメントモルタルを塗布した事例である。
補修後,約 8 年が経過した時点で再劣化が生じた。トンネルを構成する部材は地中に接し ているため,水分の供給を絶つための表面被覆工は,コンクリート内部を乾燥状態に保つ ことが困難な場合が多い。さらに,このような補修を行うことで,経過観察に支障を生じ ることになる。一方,写真2.3.11(g)は,ASRで劣化した面壁式の坑門全体を打換えた事例
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写真2.3.11 ASRによる劣化が発生した坑門の補修対策の事例
補修直後 8年経過 再劣化 (f) ポリマーセメントモルタル塗布
施工前 9年経過 打換え後 (g) 坑門の打換え工
坑門のASRによるはく落防止対策と坑口の崩落土や落石対策を兼用したもの (h) トンネル坑外へのプレキャストコンクリートライニング版(PCL)の設置
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である。再劣化はなく確実性の高い方法であるが,維持管理性と経済性からの評価が必要 であると考えられる。写真2.3.11(h)は,PCL版により,トンネルを突出させた事例である。
トンネル坑口部の崩落土対策とともに,ASR が原因による坑門のはく落防止対策を兼ね備 えたものと考えられ,効果的な対応である。
(3)ASRが発生したトンネルへの対策の留意点
ASR が発生したトンネルの覆工コンクリートおよび坑門への対策事例から,次のような 点に留意する必要があると考えられる。
ⅰ)ASR が原因によるひび割れが発生し,圧縮強度の低下した覆工コンクリートの耐荷 性能を適切に評価する必要がある。しかし,現状では,覆工の力学的挙動は明確で はなく,耐荷性能の評価が難しい状況である。したがって,対策事例を参考とし,
個別に検討していく必要がある。
ⅱ)対策後,ASR を促進させることがないよう留意が必要である。対策により,コンク リート内の水分環境が変化することがないか,適切に評価する必要がある。
なお,漏水がある場合は,止水対策あるいは導水対策を事前に施す必要がある。
ⅲ)コンクリートの膨張が継続するかを適切に判断し,膨張の継続が懸念される場合は,
使用材料のひび割れ追随性等を適切に評価する必要がある。
ⅳ)ひび割れが発生し,圧縮強度の低下した覆工コンクリートへ,あと施工アンカーを 打設する場合,アンカーの長期的な引抜き耐荷力を適切に評価する必要がある。
ⅴ)対策後の経過観察が容易な工法が望ましい。
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