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結 論

ドキュメント内 著者 麻田 正弘 (ページ 148-154)

第 3 章 塩害環境下における ASR で劣化したコンクリート橋への電気防食工法の適用と検証

3.5 結 論

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(7) 面状陽極のチタン溶射方式で,復極量に大きなバラツキが見られた。チタン溶射皮膜 の試料を採取し,X 線回折により成分分析を実施した結果,砂の成分であるシリカ

(SiO2),微量の塩分(Cl)が検出され,海風による砂の巻き上げがチタン溶射皮膜を 劣化させたことが,復極量のバラツキの原因であった。

(8) 塩害で劣化し,耐荷力が低下したコンクリート橋に対して,どの程度まで耐荷力を回 復させるか,あるいは耐荷力を回復させる必要があるのかについて,実橋の耐荷性能 を適切に判断する必要があった。

(9) 北陸地方の事例では,初回の補修が再劣化し,電気防食工法が適用されるまでの期間 は,せいぜい10年程度であったことから,電気防食工法の適用は,再劣化による過度 な補修や補強を伴わない段階で実施するのが適切であった。

塩害とASRにより複合劣化したPC橋への電気防食工法の適用性の検証

(10) 直流電流によるASRに及ぼす影響に関して,供試体を用いた室内試験からコンクリー

トのASRが促進されたことが報告されているが,実構造物での施工条件・環境条件と は異なるものが多かった。塩害とASRの複合劣化が生じているコンクリート構造物に 電気防食工法を適用する揚合,低い防食電流密度で電気防食を作動させ,ASR による 膨張をモニタリングするなどの工夫が有効であった。

(11) 石川県能登半島において電気防食工法を適用した4つのPC橋では,外観目視,鋼材腐

食度,塩化物イオン濃度,圧縮強度・静弾性係数,コアの促進養生,薄片観察などの 調査結果から,塩害とASRによる複合劣化を受けていることが確認された。

(12) 4つのPC橋では,遠隔監視システムを用いたモニタリングを実施しており,電源電圧,

防食電流量,鋼材のインスタントオフ電位などは1 日に 1回の頻度で,防食効果を確 認するための復極量は1 ヶ月に 1 回の頻度で,それぞれ自動計測しており,適切な維 持管理が実施されていた。

(13) 4つのPC橋に対して,ASRが原因で発生したひび割れを対象に通電後のモニタリング

を実施した。E橋およびG橋ではコンタクトゲージにより,J橋およびK橋では亀裂変 位計を用いた測定とした。E橋では,さらに4.3年後から亀裂変位計を用いた測定を併 用した。

(14) E橋は,コンタクトゲージによる測定期間が7.6年となり4橋のうち最も長かった。こ

の間,ASRによるひび割れ幅に大きな変化や増加傾向は認められず,通電によるASR の促進は確認されなかった。一方,非電気防食範囲にある測定点では,ひび割れ幅が 拡大傾向を示しており,鋼材腐食による影響と考えられた。これより,ASR の促進よ りも塩害による鋼材腐食を抑制することの方が,構造物の維持管理の観点から優先度 が高いと考えられた。

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(15) E橋で亀裂変位計を用いた測定では,非電気防食範囲でひび割れ幅の拡大傾向が認めら

れたことから,鋼材腐食による劣化の進行は継続すると考えられた。一方で,電気防 食範囲でのひび割れ幅の拡大傾向は,ASR による膨張の影響が考えられた。ただし,

ASRによる膨張の要因として,通電によりASRを促進させたのか,あるいは潜在的に あったASRの膨張によるものであったかの判断は,現状では認識できなかった。これ に対しては,測定の継続が必要であると考えられた。

(16) G橋は,コンタクトゲージによる測定期間が4.4年となり2番目に測定期間が長かった。

3つの測定点のうち2つの測定点で,一時的にひび割れ幅の増加がみられたが,いずれ も1年以内の短い期間に比較的大きな0.2mm以上のひび割れ幅の拡大が生じていた。

これら以外の測定期間では,ひび割れ幅はほぼ一定であり,通電によるASRの促進は 認められなかった。測定値の一時的な増加は,電気防食工法の施工の前処理となる断 面修復工が影響を及ぼしている可能性が考えられた。はつり作業による有効プレスト レスの減少や断面剛性の低下による主桁のたわみ易さが,測定値の一時的なひび割れ 幅の増加に影響を及ぼしたものと推察された。

(17) J橋は,亀裂変位計による測定期間が2.4年であった。測定開始から1.0年間で,ひび 割れ幅が収縮側および拡大側ともに,測定値の増加傾向が見られた。しかし,その後 の1.4年間では,ひび割れ幅の変動はわずか0.01mmであった。このように測定開始か ら 1 年程度の期間では,ひび割れ幅の収縮あるいは拡大が見られたが,それ以降,収 縮や拡大は見られず,通電によるASRの促進は認められなかった。測定開始から1年 間程度のひび割れ幅の変動要因として,電気防食工法施工前の断面修復工による影響 が考えられた。断面修復工で剛性の変化した主桁が,その変位や変形が収束する期間 として1年程度以上が必要であると推察された。

合理的な電気防食工法の実橋への取り組み

(18) 電気防食工法の採用にあたっての課題は,他の塩害対策工法である表面被覆工法や断

面修復工法と比較して,初期コストが高いことにあった。そこで,チタン系の線状陽 極を用いた電気防食工法のコスト縮減を目的として,実橋において陽極の配置方法,

溝 1 本あたりに設置する陽極枚数および陽極幅を変更することで,防食効果を確保し つつ電気防食工法の全体施工費として約 15%のコスト縮減を可能にすることができた。

- 146 - 参考文献

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