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ASR による劣化事例の実態調査とその評価

ドキュメント内 著者 麻田 正弘 (ページ 156-161)

第 4 章 各種水分環境下における水利構造物の ASR による劣化の特徴と診断の基本事項

4.2 水利構造物の ASR による劣化事例と対策の実態調査

4.2.1 ASR による劣化事例の実態調査とその評価

(1)コンクリートダム

代表的な水利構造物のうち,ASR により劣化したコンクリートダムについて外観目視に よる調査事例を示す。写真4.2.1(a)(b)はコンクリートダムの取水口であり,河川の洪水調整 のため湖面が上下することで,同じ部材でもコンクリート表面の水分環境が乾湿繰り返し 部と常時水中部の異なる条件が生じていた。この相違によりASRの劣化程度が大きく影響 を受けていた。すなわち,常時水中部ではASRが軽微なのに対して,乾湿繰り返し部は劣 化が顕著であった。これは,常時水中にあるコンクリートでは,細孔溶液中のアルカリが 水中に滲出する 3ことでアルカリ濃度が減少し,ASR が抑制されたものと考えられた。

写真4.2.1 コンクリートダム取水口での水分環境の相違とASRによる劣化

(a) コンクリートダムの取水口 (b) 乾湿繰り返し部と常時水中部

(c) ゲートの開閉部 (d) 開閉部はりに生じたASR

取水口

乾湿繰り返し部

常時水中部

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また,水分が非常に多い環境では,アルカリシリカゾルとなりやすく,流動性が高いアル カリシリカゾルのままでは膨張力を発揮しないとの指摘がある4。一方,乾湿繰り返し部で は,乾燥時に細孔溶液のアルカリ濃度が表面にて上昇する3ことでASRが局部的に促進さ れること,また湿潤環境下で生成されたアルカリシリカゾルが一旦乾燥することでアルカ リシリカゲルとなり,吸水することでさらに膨張を生じる4こと,などの理由により,ASR がより促進されることが考えられた。また,写真4.2.1(c)(d)に示すように,水量調節を目的 にしたダムなどでは,ASR が原因でゲートの開閉に支障が生じることもあるので,部材の 変形に着目した維持管理が重要である。

2)砂防堰堤

写真4.2.2は山間部の渓流におけるASRと凍害の複合劣化を生じた砂防堰堤の事例である。

写真4.2.2 砂防堰堤におけるASRと凍害による複合劣化

(a) 堰堤高 (b) 堰堤幅

(c) 水通し袖部のASRと凍害の複合劣化 (d) 堰堤本体正面

堤高 9m

堤高97m

水平打ち継ぎ目 自重によるASR膨張の拘束

ASRと凍害による著しい劣化 上方への解放膨張

溶出消石

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この地域の凍害危険度5は2(軽微)であり,凍害による劣化程度はそれほど大きくない。

しかし,コンクリート表面にASRによるひび割れが発生した場合,ひび割れから水分が供 給され凍結融解が繰り返されることにより,コンクリート表面のはく離やはく落が進行し ていくと考えられた。ASR と凍害の劣化事象は,水の供給や日射条件など,劣化を促進さ せる環境条件がほぼ同じであることから,北陸地方の山間部では両者による複合劣化が生 じやすいとの認識が必要である。隣接する渓流の砂防堰堤において実施した,総プロ法 6 による水溶性アルカリ量の分析結果は 1.7~2.4kg/m3であり,比較的低濃度のアルカリ量で あった。もともと砂防堰堤は単位セメント量 230kg/m3程度の貧配合コンクリートで打設さ れており,コンクリートの膨張は長期間にわたり継続しないと考えられる。また,写真

4.2.2(c)に示すように,外観上の劣化部位は,堰堤上部の水通し袖部のみが顕著であり,ASR

劣化はこの範囲に限定されていた。一方,写真4.2.2(d)に示すように,堰堤本体は,水平打 ち継ぎ目から溶出消石灰が発生している程度であった。本体コンクリートは自重により膨 張が拘束されているのに対して,袖部では上方が解放されているため,この部分の膨張に よる劣化が顕在化したものと考えられた。このような砂防堰堤を補修する場合,袖部の劣 化部分を打換える方法が,施工性が良く,長期的な確実性も高いと考えられる。ASR と凍 害による複合劣化は,この北陸地方では白山山麓や立山山麓の標高が高い地域で多く発生 しており,構造物の維持管理が実際に喫緊の課題になっている。

3)防潮水門

写真4.2.3は防潮水門で上下開閉ゲートを支持する柱部材にASRによる劣化が発生したも

のである。このような施設ではダム施設と同様に,ゲートの開閉機能を維持することがも っとも重要であり,門柱に傾き(変形)が生じていないかを継続的に監視することが必要

写真4.2.3 防潮水門に生じたASRによる劣化

(a) 開閉ゲートと支柱 (b) 支柱部におけるASRの劣化

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である。しかし,門柱への影響がない場合には,まずRC構造物の耐荷力を保持する鉄筋の 健全性を確認したうえで,表面のひび割れを通した水分によるコンクリート内部の乾湿繰 り返しを抑制するために,セメント系の材料でひび割れ注入のみを実施しておくのが適切 であると考えられる。

(4)サージタンク

写真4.2.4は水力発電所のサージタンクに軽微なASRが発生した事例である。サージタン

クの形状は地上高33m,外径10m,上方の壁厚が1m,下方の壁厚が1.5mとなっていた。

外径10m 地上高

33m

水深 10m

写真4.2.4 サージタンクにおける内水の浸透によるASRによる劣化

(b) サージタンク外観 (a) サージタンク断面図

(c) 水深10mの範囲に見られる白色析出物 (d) サージタンク内壁でのASRによる劣化

水深 10m 壁厚1.0m

壁厚1.5m

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写真4.2.4(b)に示すように,外壁からのアルカリシリカゲルやエフロレッセンスの滲出が,

水深10m以上の壁厚1mの範囲で確認された。このように水圧がかかるサージタンクでは,

写真4.2.4(c)に示すように,ASRで生じた微細なひび割れを通して,コンクリート内から浸

透水の影響を受けるので,劣化が壁厚全体に及んで次第に進行していくものと考えられた。

このような内水による浸透圧が作用する水利構造物では,一旦,ASR が発生した場合に収 束は期待できない。したがって,水圧が作用する構造物へのASR抑制には水密性の大きな コンクリートを建設時に使用することが求められる。北陸地方では分級フライアッシュに よるコンクリートの耐久性向上が進められており,その遮塩性を明らかにするために,実 効拡散係数が実験室内で求められている7。普通ポルトランドセメントに内割で15%の分級 フライアッシュを混和したものは,普通ポルトランドセメント単体に比べて実効拡散係数 が0.2~0.35の割合で小さくなることが判明している。水圧が作用する水利構造物を水密性 の高いコンクリートとする場合,北陸地方で施工実績を延ばしている 8フライアッシュコ ンクリートによる対策が非常に有効であると考えられた。

5)消波ブロック

写真4.2.5は海岸保全のために設けられた消波ブロックに,ASRによる劣化が生じた事例

である。これらは,新潟県および沖縄県の海岸に設けられた消波ブロックである。海岸線 における構造物では,飛来塩分により外部から浸入する塩化ナトリウムがASRを促進させ ることで9)劣化が顕著となったものである。

沖縄県でのASRによる劣化の岩石学的要因は次のように報告されている10)。沖縄県では もともと台湾花蓮産骨材による劣化事例が多く,台湾産骨材は沖縄県産骨材と混合して使 用され,その混合割合は生コン工場によって異なっていた。粗骨材は台湾産川砂利と沖縄 本島本部産砕石,細骨材は台湾産川砂と海砂との混合であった。一方で,台湾産骨材とは 異なり,本島本部産の石灰岩に混入した安山岩骨材によるASRの事例も生じていた。この 安山岩は本部半島にわずかであるが岩脈として石灰岩層に貫入して存在しており,採取時 に石灰岩に混入して骨材として使用されたものであった。採取したコンクリートコアの粗 骨材の岩種判定の結果,反応性骨材である安山岩の含有が確認された。従来,沖縄県内で は本部産砕石は純粋な石灰岩であり,ASR は生じないものと考えられていたが,安山岩が 貫入岩として存在していることが確認された。現在,沖縄県では台湾産骨材はほとんど使 用されなくなったが,亜熱帯海洋性の気象環境において遅延膨張性のASRによる劣化が生 じる可能性が指摘されている。

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