第 4 章 各種水分環境下における水利構造物の ASR による劣化の特徴と診断の基本事項
4.4 けい酸ナトリウム系補修材料による ASR の促進作用の検証
けい酸塩系補修材料は,コンクリート中の水酸化カルシウムと反応してセメント水和物 に近い組成の C-S-H ゲルを形成し,コンクリート中の空隙を充填することにより,コンク リート表層やひび割れの組織を緻密化するとされている 22)。このような性質からコンクリ ート表面から吸水を抑制でき,ASR による膨張を抑制するうえで有効であるとされ,北陸 地方でもこの種の補修材料が,道路構造物や電力施設などに積極的に使用された経緯があ った。写真4.4.1はASRよる劣化が見られた道路橋の橋脚はり部に,けい酸ナトリウム系補 修材料を塗布した事例である。再劣化が生じ,補修材料が剥がれていた。一方,写真 4.4.2 は水力発電所施設のサージタンクである。ASR による劣化が原因で細かなひび割れが生じ ていたため,ASRの促進を抑制する目的から,けい酸ナトリウム系補修材料を塗布したが,
補修後数年で再劣化した事例である。これら実構造物において,けい酸ナトリウム系補修 材料の塗布によるASR抑制効果は発揮されておらず,内部からの浸透水によるひび割れの 進展とアルカリシリカゲルの析出により,塗布した補修材料が剥がれ,ASR による再劣化 が生じていた。
本節では,けい酸ナトリウム系補修材料によるASR促進のメカニズムを解明するために,
けい酸ナトリウム系とけい酸リチウム系の 2 種類のけい酸アルカリ金属塩の溶液に浸漬し たモルタルバーの膨張率を調べることにより2, 3の考察を行ったものである。
写真4.4.1 道路橋の橋脚はり部におけるけい酸ナトリウム系補修材料塗布後の再劣化
- 184 - 4.4.2 実験概要
(1)使用材料
モルタルに使用した反応性骨材は粒径範囲 0.6mm~2.5mm の焼成フリント(工業原料と して製造されたもの(英国製,密度:2.12g/m3),主要反応性鉱物:クリストバライト)23) であり,反応性鉱物がα-クリストバライトのみであるので,反応性のシリカ鉱物とアルカ リ溶液との相互作用を単純な反応系,すなわち,ASR の基本的な概念である細孔溶液の水 酸化物イオン濃度(OH-)との関係で理解できる利点がある。非反応性骨材として石灰岩砕 砂(密度:2.63g/m3)を使用し,焼成フリントのペシマム混合率を30%(絶乾重量比)とし た。セメントは普通ポルトランドセメント(密度:3.16g/m3,ブレーン粉末度:3300cm2/g, アルカリ量:0.42%)である。
(2)試験方法
モルタルの膨張率試験は外部からのアルカリ(1N のNaOH 溶液)によりASR を促進す る試験法であるASTM C 1260に準拠した。モルタルバーの形状は25mm×25mm×285mm であり,骨材/セメント比=2.25,水/セメント比=0.48である。モルタルバーは打設後1 日で脱型し,温度80℃の水中に1日間養生後,温度80℃の0.5N(または2.5N)のけい酸ア ルカリ金属塩溶液に28日間浸漬し,モルタルバーの膨張率を所定材令にて計測した。1Nの NaOH溶液と比較するため,Na2SiO3およびLi2SiO3の試験溶液の濃度は0.5Nとした。また,
高濃度の溶液での影響を比較するために2.5Nの溶液でも試験した。なお,骨材のアルカリ シリカ反応性のASTM C 1260による判定では,温度80℃の1NのNaOH溶液に14日間浸 漬した時のモルタルバーの膨張率が 0.1%未満を「無害」,0.1% 0.2%を「無害と有害の両 者が存在する」,0.2%以上を「有害」としている。
写真4.4.2 サージタンクにおけるけい酸ナトリウム系補修材料塗布後の再劣化
- 185 - 4.4.3 試験結果および考察
(1)試験結果
0.5N のNa2SiO3溶液およびLi2SiO3溶液に浸漬したモルタルバーの膨張挙動を図 4.4.1 に 示す。0.5NのNa2SiO3溶液に浸漬したモルタルバーの膨張率は浸漬材令14日で0.21%を示 し,1NのNaOH溶液に浸漬したモルタルバーの膨張率0.23%に近い値となり,その後も膨 張傾向を示している。これは,Na2SiO3が ASR を促進させたことを示しており,このメカ ニズムはNa2SiO3溶液中で解離したNa+イオンのモルタルバー細孔溶液中への浸透による水 酸化アルカリ(NaOH)濃度が上昇したものによると考えられる。
一方,0.5N の Li2SiO3 溶液に浸漬したモルタルバーは全く膨張を示していない。これは,
Li2SiO3溶液ではLi+による反応性骨材からのシリカの溶出を防ぐ効果と,アルカリシリカゲ ルの膨潤性を低下させる効果によりASR抑制効果が発揮されたものと考えられる。
次に,2.5N の Na2SiO3 溶液および Li2SiO3 溶液に浸漬したモルタルバーの膨張挙動を
図4.4.2に示す。2.5NのNa2SiO3溶液に浸漬したモルタルバーの膨張率は浸漬材令7日まで
の初期段階では0.03%の低い膨張を示したが,以後は変化が認められない。これは,外部か ら高濃度の Na2SiO3溶液が供給されると,高濃度の Na2SiO3と Ca(OH)2との反応により,
C-S-H ゲルの緻密な組織が試験体表面部に形成され,浸漬材令にともなう試験体内部への
Na+の浸透を大きく抑制したことによるものと考えられた。
図4.4.1 0.5NのNa2SiO3溶液とLi2SiO3溶液に浸漬したモルタルバーの膨張挙動
無害<0.1%
有害>0.2%
14日
0.21%
0.23%
-0.1 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
0 7 14 21 28
膨張率(%)
浸漬材令(日)
0.5N-Li2SiO3 0.5N-Na2SiO3 1N-NaOH
0.1%<有害と無害を含む<0.2%
ASTM C 1260基準
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(2)考察
0.5N のNa2SiO3溶液に浸漬したモルタルバーが膨張を示し,ASR が促進されたことにつ いて,まず式1)のような反応により,細孔溶液中のNaOH 濃度の上昇が生じていたと考え られる。
Na2SiO3+Ca(OH)2→CaSiO3+2NaOH ... 1)
一方,Na2SiO3は式2)のようにシリカ鉱物(SiO2)に炭酸ナトリウム(Na2CO3)を加えて生 成されるものであり,
SiO2+Na2CO3→Na2SiO3+CO2 ... 2)
式2)のようにNa2CO3が残存していると,式3)のようにNaOH濃度の上昇が生じていたと考 えられる。
Na2CO3+H2O→NaHCO3+NaOH ... 3)
さらに,高温度環境下では,式 3)の炭酸水素ナトリウム自身(NaHCO3)が分解し,式 4) の反応がさらに起こっていたと推察される。
NaHCO3→CO2+NaOH... 4)
以上より,式1),式3),式4)からNa2SiO3溶液中ではNaOH濃度が大きく上昇していたと 考えられた。
図4.4.2 2.5NのNa2SiO3溶液とLi2SiO3溶液に浸漬したモルタルバーの膨張挙動
無害<0.1%
有害>0.2%
14日
0.03% 0.005%
0.23%
-0.1 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
0 7 14 21 28
膨張率(%)
浸漬材令数(日)
2.5N-Li2SiO3 2.5N-Na2SiO3 1N-NaOH
0.1%<有害と無害を含む<0.2%
ASTM C 1260基準
- 187 - 4.4.4 まとめ
1) 実構造物において,けい酸ナトリウム系補修材料による表面含浸工では,ASR 抑制効 果は発揮されず,補修材料が剥がれ,再劣化を生じていた。
2) けい酸ナトリウム溶液に浸漬した反応性骨材を用いたモルタルバーの膨張挙動は
ASTM C1260による判定で「有害」な膨張率を示した。これより,けい酸ナトリウム系
補修材料はASRに対して促進作用があり,実構造物におけるASRの再劣化事例を検証 するものとなった。
3) けい酸リチウム溶液に浸漬した反応性骨材を用いたモルタルバーは全く膨張を示さな かった。これより,けい酸リチウム系補修材料はけい酸ナトリウム系補修材料と異な り,ASR抑制効果が確認された。
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