第 3 章 塩害環境下における ASR で劣化したコンクリート橋への電気防食工法の適用と検証
3.3 塩害と ASR により複合劣化した PC 橋への電気防食工法の適用の検証
3.3.1 直流電流が ASR に及ぼす影響
ASR によりひび割れが生じている構造物では,そのひび割れから酸素,水分,塩化物イ オンといった腐食因子が供給されることにより鋼材腐食が促進される場合がある。一方で,
鋼材腐食因子である塩化物イオンはNaClなどから供給されるため,アルカリ金属イオンで あるNa+の濃度が増大することからASRが促進される可能性もある。さらに,Cl-イオンに もASRを促進させる作用のあることが指摘されている26)。このように塩害とASRによる 複合劣化現象は複雑であり,将来の劣化進行を予測することは容易ではない。また,ASR が生じるとそれを完全に停止させる方法がないのが現状であり,一方で,塩害による劣化 を生じたコンクリート構造物の鋼材腐食を停止させるために効果のある方法として電気防 食工法がある。しかし,コンクリート構造物に電気防食工法を適用した場合に,コンクリ ート中のアルカリ金属イオン(Na+,K+)が鋼材近傍に集積するため ASR が助長される可 能性のあることが指摘されている8)。したがって,塩害とASRによる複合劣化が生じたコ ンクリート構造物に対して電気防食工法を適用する場合にはコンクリートへの通電が ASR に与える影響について考慮する必要がある。直流電流によるASRに及ぼす影響に関して,
C.L.Page27),28),29)や黒田ら30),31)は供試体を用いた室内試験からコンクリートのASRが促進さ れたことを報告している。ただし,これらの研究は実構造物での施工条件・環境条件とは 異なるものが多く,電気防食工法で一般に供給されるより大きな電流密度で実験されてい るものである。ASR は反応性骨材の種類,コンクリート部材の配合,設置環境などの諸要 因によって,その進行が影響されるというメカニズムを有しており,ASR に対する有効な 対策はとりにくい状況にある。しかし,ASR が発生している場合あるいは発生が懸念され る場合に,電気防食工法の適用を優先させなければならない場合もあり,電気防食工法を 適用できないかどうかの判断は一概に言えないものである。そのため,ASR を発生してい る場合あるいは発生することが懸念される構造物に電気防食工法を適用する場合,実務的 な面からの判断が必要であると考えられる。
電気防食工法は塩害が原因で劣化した構造物の補修工法の 1 つで,鋼材腐食を電気化学 的に抑制する抜本的手法である。防食電流はコンクリート表面に設置した陽極材とコンク リート中の鋼材との間に外部電源方式のように人為的もしくは流電陽極方式のように電気 化学的に電位差を与えることにより陽極材から鋼材へ流れることになる。一例として,図
3.3.1に外部電源方式による電気防食の概要図を示す。図3.3.2に示すように防食電流は直流
電源装置+端子から流出し,配線材,陽極材,コンクリート,鋼材,配線材を通り直流電 源装置の-端子へと戻る。配線材,陽極材および鋼材は電子導電体と呼ばれ,それらには 電子が流れることで防食電流を流すことができる。一方,コンクリートはそれらと比較し て高い電気抵抗を有しているがイオン導電体として電流を流すことができる。電気防食工
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法がASRに及ぼす影響を考える場合には,イオン伝導体となるコンクリート中に電流が流 れる現象を理解する必要がある。
電気防食によりコンクリートに電場を負荷させた場合,アノードとなる陽極材とカソー ドとなる鋼材の表面上では,式1)および式2)の電気化学反応が生じる。
アノード反応 4OH- → 2H2O+O2+4e-... 1) カソード反応 2H2O+O2+4e- → 4OH-... 2)
陽極材表面付近ではOH-が消費され,一方,鋼材表面付近ではOH-が生成されることになる。
さらに,イオンの移動による電気伝導現象から細孔溶液中に存在するOH-が陽極表面付近へ,
K+,Na+,Ca2+が鋼材表面付近へ移動することになる。これら電気化学反応とイオンの移動 の概要を図3.3.3および図3.3.4に示す。Na+,K+に注目すると,陽極材付近の微少領域では
図3.3.1 電気防食工法の概要(外部電源方式)25)
陽極材
鋼材
照合電極 コンクリート
直流電源装置
配 線材
+
-
図3.3.2 防食電流の流れ25)
陽極 材
鋼材
コン クリ ート +
-
電子導電体
イオン導電体 電子導電体
防食電流
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減少し,その逆に鋼材付近の微少領域では増加するものと推定される。OH- は電場による 移動量が大きいものの陽イオンと電気的平衡を保つために増加するものと考えられる。一 方,微少領域以外では微少領域からのイオン移動が同じであるためにイオン量に変化はな いものと推定される。このように,Na+,K+および OH-のイオン濃度は鋼材付近で増加し,
陽極材付近で減少することが推定される。また,微少領域におけるイオンの増加または減 少量は,通電する電流の大きさと通電する時間に依存するものと考えられる。
ASRで劣化したコンクリート構造物への電気防食工法の適用に関しては,ASRによる劣 化が反応性骨材の種類,コンクリート部材の配合や設置環境が複雑に影響しており,更な るデータの蓄積が望まれる。現段階で塩害とASRの複合劣化が生じているコンクリート構
図3.3.3 電気防食による鋼材周辺の電気化学的反応
鋼材
+ コンクリート -
陽極材
2H2O+O2+ 4OH-
Na+ K+
コンクリート表面
4e-
図3.3.4 電気防食による電気化学反応とイオンの移動25)
陽極材 鋼材
コンクリート 電源
微少領域 微少領域
OH-
Na+
Ka+
Ca2+
OH- 消費
OH-
Na+
Ka+
Ca2 +
OH-
Na+
Ka+
Ca2+
OH- 生成
e- e-
コンクリート表面
+ -
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造物に電気防食工法を適用する揚合,低い防食電流密度で電気防食を作動させ,ASR によ る膨張をモニタリングするなどの工夫が必要と考えられる。