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直流電流が ASR に及ぼす影響に関するモニタリング結果

ドキュメント内 著者 麻田 正弘 (ページ 130-138)

第 3 章 塩害環境下における ASR で劣化したコンクリート橋への電気防食工法の適用と検証

3.3 塩害と ASR により複合劣化した PC 橋への電気防食工法の適用の検証

3.3.5 直流電流が ASR に及ぼす影響に関するモニタリング結果

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写真3.3.8 ASRにより発生したひび割れ幅のモニタリング状況(E橋,G橋)

(a) E橋 コンタクトゲージによるひび割れ幅の測定状況

(b) G橋 コンタクトゲージによるひび割れ幅の測定状況

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写真3.3.9 ASRにより発生したひび割れ幅のモニタリング状況(J橋,K橋)

(a) J橋 亀裂変位計によるひび割れ幅の測定箇所

(b) J橋 亀裂変位計によるひび割れ幅の測定状況

(c) K橋 亀裂変位計によるひび割れ幅の測定状況

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(2)ASRへの影響に関するモニタリング結果

ASRにより発生したひび割れ幅のモニタリング結果を図3.3.14および図 3.3.15に示す。

3.3.14はコンタクトゲージによるE橋およびG橋のモニタリング結果を示しており,図

3.3.15は亀裂変位計によるE橋,J橋およびK橋のモニタリング結果を示している。全般的

にコンタクトゲージによる測定値は亀裂変位計による測定値に比べ,ひび割れ幅の値にバ ラツキが認められる。

E橋は,コンタクトゲージによる測定期間が7.6年となり,4橋のうち測定期間が最も長 い。E橋の測定点のうち,電気防食範囲にあるNo.3,No.4およびNo.5では,測定値の増減 の繰り返しが見られた。このような測定値の増減は,コンタクトゲージの測定方法に内在 するヒューマンエラーであると考えられた。なお,夏期と冬期の温度変化による測定値へ の影響は把握されなかった。2014年 7月の時点で,No.3 ではひび割れ幅が(-)0.02mm の収 縮,No.4では(+)0.18mmの拡大,No.5では(-)0.09mmの収縮を示している。このように測定 期間7.6年においてASRによるひび割れ幅に大きな変化や増加傾向は認められず,通電に よるASRの促進は確認されなかった。非電気防食範囲にあるNo.1,No.2のうちNo.2では 2014年7 月の時点で,ひび割れ幅が(+)0.75mm の拡大を示しており,鋼材腐食による影響 と考えられた。これより,通電によるASRの促進に対する懸念と,塩害による鋼材腐食の 進行を考えた場合,ASR の促進に対する懸念より,塩害による鋼材腐食を抑制することの 方が,構造物の維持管理の観点から優先度が高いと考えられた。

またE橋では,コンタクトゲージによる測定開始から4.3年後に亀裂変位計を用いた測定 を実施している。2014年12月の3.7年経過時点で,非電気防食範囲のNo.1において,ひび 割れ幅が(+)0.45mm の拡大,電気防食範囲のNo.2 で(+)0.28mm の拡大を示していた。測定 期間2013年4月(754日目)から2014年12月(1354日目)の1.6年間に着目すれば,No.1 で,ひび割れ幅が0.09mmから0.45mmへ(+)0.36mmの拡大を示し,拡大傾向がそれ以前よ り増加していたのに対し,No.2で0.17mmから0.28mmへ(+)0.11mmの拡大を示し,拡大傾 向は,ほぼ一定の割合であった。非電気防食範囲No.1でのひび割れ幅の拡大は,鋼材腐食 による影響と考えられ,拡大傾向の増加が認められたことから,鋼材腐食による劣化の進 行は継続すると考えられた。一方で,電気防食範囲No.2でのひび割れ幅の拡大は,ASRに よる膨張の影響が考えられた。ただし,ASRによる膨張の要因として,通電によりASRの 促進を生じさせたのか,あるいはもともと潜在的にあったASRの膨張によるものであるか の判断はできなかった。

G橋は,コンタクトゲージによる測定期間が4.4年となり,4橋のうち2番目に測定期間 が長いPC橋である。3つの測定点No.1,No.2,No3は,いずれも電気防食範囲にある。こ のうちNo.1 とNo.3 の2つの測定点で,一時的なひび割れ幅の増加時期が見られた。No.1 では,2011年3月(389日目)から2012年4月(762日目)の1.0年間で,ひび割れ幅が(+)0.22mm の拡大が見られ,No.3では,2012年10月(970日目)から2013年4月(1148日目)の0.49 年間で,ひび割れ幅が(+)0.29mmの拡大が見られた。いずれの場合も1年以内の短期間に比

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較的大きな0.2mm以上のひび割れ幅の拡大が生じていた。これら2つの測定期間を除けば,

それ以外の測定期間では,ひび割れ幅はほぼ一定であり,通電によるASRの促進は認めら れなかった。測定値の一時的なひび割れ幅の増加は,電気防食工法の施工の前処理となる 断面修復工が影響を及ぼしている可能性が考えられた。写真3.3.10に,4つのPC橋におけ る断面修復状況を示している。4橋とも鋼材腐食による主桁コンクリートの浮きやはく離の 範囲が広く,はつり作業が主桁の広い範囲で行われたことで,有効プレストレスの減少や 断面剛性の低下が生じていたと推察された。それにより,主桁がたわみやすくなっていた と考えられ,たわみやすさが測定値の一時的なひび割れ幅の増加に影響を及ぼした可能性 が考えられた。

J橋は,亀裂変位計による測定期間が2.4年であった。J橋では4つの測定点のうちNo.1 とNo.3の2点が非電気防食部で,No.2とNo.4の2点が電気防食部である。J橋の非電気防 食部ではコンクリート塗装による表面保護工が施されており,鋼材腐食によるひび割れ幅 の変動要因は除外され,ひび割れ幅の変動はおもにASRの膨張によるものと考えられた。

測定値の全体的傾向として,海側のG1桁のNo.1とNo.2で,ひび割れ幅の収縮傾向が見ら れ,山側のG5桁のNo.3とNo.4で,ひび割れ幅の拡大傾向が見られた。No.1およびNo.2 でのひび割れ幅の収縮傾向について,現在,その原因は把握できていない。測定開始から 2013年8月(385日目)の1.0年間で収縮側および拡大側とも測定値に増加傾向が見られた。

しかし,その後,ひび割れ幅の変動は収まりを見せている。電気防食範囲で当初ひび割れ 幅の拡大がみられたNo.4では,2013年8月(385日目)から2014年12月(880日目)の 1.4年間では,ひび割れ幅の変動はわずか 0.01mmであった。このように,測定開始から 1 年程の期間ではひび割れ幅の拡大が見られたが,それ以降,ひび割れ幅の拡大は見られず,

通電によるASRの促進は認められなかった。測定開始から1年間程度のひび割れ幅の変動 原因として,写真3.3.10(c)に示す電気防食工法施工前の断面修復工による影響が考えられた。

断面修復工で剛性の変化した主桁が,その変位や変形が収束する期間として 1 年程度以上 が必要であると推察された。

K橋は,測定期間が最も短く,亀裂変位による測定が1.3年間であった。2つの測定点No.1 とNo.2はともに電気防食部である。No.1 のひび割れ幅には拡大傾向が見られ,1.3年間で 0.34mmの増加が認められた。この原因は先ほどと同様,写真3.3.10(d)に示すような断面修 復工による主桁の剛性の変化の影響が考えられる。ただし,No.2 ではひび割れ幅にほとん ど変化がないことも考慮しなければならないと考えられた。通電期間が 1.3年と短いため,

今後モニタリングを継続し,通電によるASRの促進の有無を評価する必要があると判断さ れた。

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3.3.14 コンタクトゲージによるE橋・G橋のひび割れ幅のモニタリング結果

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3.3.15 亀裂変位計によるE橋・J橋・K橋のひび割れ幅のモニタリング結果

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3)塩害とASRにより複合劣化したPC橋への電気防食工法の適用の検証

塩害とASRにより複合劣化したPC橋へ電気防食工法の適用を検討する場合,2つの劣化 現象の進行速度の違いを考慮する必要がある。電気防食工法によりASRの膨張が促進され る場合でも,OH-イオンの集積には長い時間が必要であり,その間に塩害による鋼材腐食が 始まると劣化進行は速く,短期間で耐荷力に影響を及ぼすことになる。このため,構造物 の安全性を考えると,電気防食工法による塩害対策を優先した方が望ましいと考えられた。

ただし,ASRへの影響についてもコアの残存膨張量などの評価を行ったうえで,電気防食 工法に関する積算電流密度などを含めた電気化学的モニタリングとともに,ASRによる膨 張管理も同時に行っていくべきであると考えている。

写真3.3.10 電気防食工法の施工前の断面修復状況

(a) E橋の断面修復状況 (b) G橋の断面修復状況

(c) J橋の断面修復状況 (d) K橋の断面修復状況

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ドキュメント内 著者 麻田 正弘 (ページ 130-138)