北朝鮮は社会主義計画経済と自立的民族経済に基づく国家建設を進めて きたが、旧ソ連と東欧諸国の市場経済化が開始された1990年代の始めから はこれらの友好国との経済関係が減少し、経済状況は停滞の度を深めた。
特に、バーター取引が廃止され、原油の輸入が市場価格に改定されてから は原油の輸入と資機材の不足を招来し、北朝鮮経済は重大な支障をきたす こととなった。このため、第3次7ヵ年計画(1987〜1993)は未達成に終 わった。北朝鮮は94年から3年間を経済緩衝期と位置付け、農業・軽工 業・貿易の振興で経済の建直しを図った。この経済政策の転換はそれまで の重化学工業優先政策を改め、農業と軽工業に注力すると共に対外経済関 係を重視するという極めて現実的な対応であったといえる。
この間、経済成長は90年以降98年まで一貫してマイナス成長を記録し、
北朝鮮の経済規模は著しく縮小した。99年からは一応プラス成長へと回復 したが、経済基盤は脆弱で外国からの支援と直接投資がなければ経済の再 生は困難といえよう。90年以降の産業別成長率の推移をみるとサービス部 門を除き各産業部門の落ち込みが大きい(表8−1参照)。特に、製造業とり わけ重工業の落ち込みが顕著である。これは当然のことながら、エネルギ ー不足と外貨不足によって資機材や原材料の輸入が制約されたからであ る。また、鉱業部門もエネルギー不足等から90年から98年までマイナス成 長を余儀なくされた。
表8−2 北朝鮮の純資本ストックと生産の関係
農林漁業 鉱 業 軽工業 重工業 サービス 合計
−0.2908
−1.0093
−1.2476
−1.7093
−0.9045
−0.8312
−1.1976
−1.2905
−2.2792
−2.8678
−1.7479
−1.73
(出所)Yoon and Babson(2001)
生産の減少 純資本ストックの減少
上記の通り、北朝鮮の経済は設備の老朽化が進み減価償却をカバーする 投資もできない状態で、生産の低下に拍車がかかっている。ユンとバブソ ンの研究2によれば北朝鮮経済は「貧窮のわな」に陥っている(表8−2参照)。 同研究では海外からの資金流入で資本ストックが増加しなければ、純資本 ストックとGDPは毎年それぞれ1.73%と0.8312%ずつ減少するだろうと予 測している。なかでも、鉱工業部門への影響は大きい。鉱業部門では資本 ストックが1.2905%減少すると生産は1.0093%減少する。重工業部門では 資本ストックが2.2792%減少すると生産は1.2476%減少する。また、軽工 業でも資本ストックの減少による影響は大きく、総じて鉱業・製造業への 影響が甚大であることが窺える。このことから、北朝鮮の経済再生のため には資本ストックの減少を上回る新規投資を実施することによって生産の 減少をくいとめる必要があろう。さもなければ、資本ストックの減少から 生産の減少が続くという悪循環に陥ることになる。過去3年間、北朝鮮は プラスの成長を達成したが、これは主として海外からの援助によるところ が大きく、同国が内在的に成長軌道に回復したことを意味しているわけで はない。
北朝鮮のGDP構成比の推移をみるとエネルギー不足等の影響を最も受け た鉱工業部門の比率低下が顕著である(表8−3参照)。鉱工業部門は90年に は42.8%のシェアがあったが、その後低下を続け2000年には25.4%とシェ
表8−3 北朝鮮の国内総生産(GDP)の構成比
1990 1992 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 農林漁業
鉱工業 鉱業 製造業 (軽工業)
(重工業)
電力・ガス・水道 建設 サービス
26.8 42.8 N.A N.A N.A N.A N.A N.A N.A
28.5 33.8 9.2 24.6 6.3 18.3 5.1 9.1 23.5
29.5 31.4 7.8 23.6 7.0 16.6 4.8 6.3 27.9
27.6 30.5 8.0 22.5 6.8 15.7 4.8 6.7 30.3
29.0 28.0 7.1 20.9 6.9 14.0 4.3 6.4 32.3
28.9 25.5 6.7 18.8 6.5 12.3 4.3 6.3 35.0
29.6 25.6 6.6 19.0 6.4 12.6 4.2 5.1 35.6
31.4 25.6 7.3 18.3 N.A N.A 4.5 6.1 32.4
30.4 25.4 7.7 17.7 N.A N.A 4.8 6.9 32.5
30.4 26.1 8.0 18.1 N.A N.A 4.8 7.0 31.8
(出所)2000年版北東アジア経済白書、韓国銀行のホームページ http://www.bok.or.kr
アを落としている。経済規模が縮小した中でのシェアの減少は鉱工業部門 の生産低下が大幅であったことを物語っている。とりわけ重工業部門のシ ェア低下が著しい。一方、農林漁業部門の構成比をみると農業の不作が喧 伝された割には90年の26.8%を底に、その後は30%前後のシェアを維持し ている。また、サービス部門は92年の23.5%から上昇し、95年以降は30%
台のシェアを維持している。この結果、生産構造は二次産業の比重が低下 し、三次産業の比重が高くなった。
次に、北朝鮮の貿易状況を概観すると旧ソ連、東欧諸国との友好的な貿 易関係が途絶えた1990年代の初頭から貿易額は減少していった(表2.4参 照)。貿易額は94年には90年の半額、さらに99年には三分の一へと急減し た。貿易額の減少は旧ソ連、東欧諸国との経済関係低下のほか、北朝鮮が 自力更生の基に輸出産品を育成できなかったことも関係している。輸出入 合計額の対GNP比をみると90年の20%から99年には9.6%へと大幅に減少 した。開発途上国である同国の輸出入合計額の対GNP比は極めて低い。因 みに中国では2000年で約44%に及んでいる。また、モンゴルでは120%を 超えている。このことからも、北朝鮮は対外経済協力体制を整備し、貿易 とりわけ輸出を活性化させることで経済発展を図る必要があろう。
2001年の北朝鮮の主要輸出品目をみると魚介類の水産物が24.4%と最も 多い。繊維製品や機械・電気製品が水産物に続いているが、金額ベースで は両品目とも2000年に比べ多少低下している。水産物に鉱物等の一次産品
表8−4 北朝鮮の輸出入額の推移(億ドル)
1990 1992 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 輸出
輸入 合計 GNP
輸出/GNP(%)
輸入/GNP(%)
合計/GNP(%)
20.2 26.2 46.4 231 8.7 11.3 20.0
11.9 16.4 28.3 211 5.6 5.8 13.4
10.2 12.9 23.1 212 4.8 6.1 10.9
9.6 13.8 23.4 223 4.3 6.2 10.5
9.1 13.2 22.3 214 4.2 6.2 10.4
11.0 12.5 23.5 177 6.2 7.1 13.3
6.5 12.7 19.2 126 5.1 10.1 15.2
6.4 8.8 15.2 158 4.0 5.6 9.6
7.1 16.9 24.0 168 4.2 10.1 14.3
(出所)2000年版北東アジア経済白書、韓国銀行のホームページ、アジア経済2001
を加えると全輸出額の過半数は一次産品で占められている。一方、輸入品 目では機械、原油、繊維製品原料、化学製品等が多い。また、韓国とは委 託加工貿易で加工賃収入を獲得している。こうした貿易構造から北朝鮮は 産業構造の高度化を通じた競争力のある輸出産業を育成することが急務で ある。現状では経済を維持するのに必要な輸入も確保も覚束ない。