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7. 3. 3 新義州特別行政区法

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2002年9月12日に『朝鮮民主主義人民共和国新義州特別行政区基本法』

が採択された。この新義州特別行政区基本法は、新義州特別行政区のあり 方を定める基本的法律である。第1章政治、第2章経済、第3章文化、第4章 住民の基本権利及び義務、第5章機構(立法会議、長官、行政府、検察所、

裁判所)、第6章区章、区旗、附則で構成されており、一経済特区の基本法 というよりは、憲法的な性格を持った法律であるといえよう。

第1章(政治)では、国家が「立法権、行政権、司法権を付与」し(第2 条)、「法律制度を50年間変化させない」(第3条)ことを規定し、住民及び 非住民の合法的権利及び利益の保障(第4条)、法に基づいた住民及び非住 民の身辺保護(第5条)、内閣など中央国家機関の不関与(第6条)、外交、

軍事に関する中央政府の関与(第7〜8条)、外国政治組織の活動禁止(第9 条)、非常事態(第10条)を規定している。経済の分野における、特別行 政区の大幅な権限を認めるとともに、自由な経済活動を行うことができる よう、法に基づいた身辺の保護を認めている。ただし、身辺の保護に対し ては、その内容を法律に委任しているので、実際にどのような制度ができ

るのかは不明であり、人身の自由に対する外国投資家の不安が現時点で解 決されているとはいえない。

第2章(経済)では、新義州特別行政区の性格を「国際的な金融、貿易、

商業、工業、先端科学、娯楽、観光地区で構成する」(第13条)としている。

土地及び天然資源は国家所有であり(第12条)、特別行政区には「土地の開 発、利用、管理の権限」があるのみである(第14条)。土地の賃貸期間は2 052年12月31日までであるが、終了後も企業の申請に従ってその期間を延 長する(第15条)ことになっている。また、建設のマスタープランである 建設総計画は、国家の承認を得ることが義務づけられている(第14条)。

個人所有の財産は国家によって保護され、国有化はされない(第17条)。 労働年齢は16歳(第18条)、労働時間は1日8時間、週48時間である(第19 条)。特別行政区内に創設された企業は、北朝鮮の労働力を採用すること が基本である(第20条)。税金制度に関しては、「公正で特恵的な税金制度」

が予定されており、税金の種類及び税率は新義州特別行政区が定める(第 24条)。また、会計制度については、国家の統制を定めているが(第26条)、 特別行政区の関与については、不明である。

また、特別行政区の予算編成、執行に関しては、特別行政区が行うこと になっているが、同時に立法会議の決定を最高立法機関に登録することが 義務づけられており(第27条)、中央政府の関与を受ける余地が残されて いる。これは、独立した行政管理権を有する香港とは大きく異なる。ただ し、商品検査、原産地証明書の発給(第28条)、企業創設申請に対する審 議(第30条)については、特別行政区の権限としている。

第3章(文化)では、国家による文化分野の施策の実施(第32条)、 区 の予算による国家の全般的11年制無料義務教育の実施と社会科学科目教育 への中央政府への関与(第33条)、 国の統一及び民族の団結を阻害する文 学芸術活動の禁止(第36条)、医療保険制を実施(第38条)などを規定し ている。経済分野とは異なり、文化分野では中央政府の関与と内容の制限、

それに特別行政区の費用負担が特徴的である。

第4章(住民の基本権利と義務)では、特別行政区の住民になる条件

(第42条、性別、国籍別、民族別、人種別、言語、財産及び知識程度、政 見、信仰による差別の禁止(第43条)、選挙権及び被選挙権、選挙権の剥 奪(第44条)、言論、出版、集会、デモ、ストライキ、結社の新義州特別 行政区の当該法規による保障(第45条)、信仰の自由(第46条)、人身及び 住宅の不可侵権、書信の秘密(第47条)、居住移転、旅行の自由(第49条)、 労働に対する権利を有する、職業選択の自由(第50条)などを規定してい る。一見、普遍的な人権の保障が行われているように見えるが、この法律 の条文には、人権という文言は存在せず、言論、出版等の自由も当該法規 による保障という形をとっているので、基本法がこれらを保障していると は必ずしもいえない。

第5章(機構)では、まず第1節で立法会議について規定している。特別 行政区の立法機関として立法会議を規定し(第60条)、議員は住民の一般 的、平等的、直接的選挙原則により秘密投票で選挙すると規定されている

(第61条)。その権限は、(1)法規の制定、修正、補充又は廃止、(2)区の 予算及びその執行に対する報告を審議、承認、(3)採択した法規の解釈、

(4)長官から行政府の事業報告の聴取、審議、(5)長官の提議による、区 裁判所所長の任命、解任、(6)区裁判所所長の提議に沿っての区裁判所判 事、地区裁判所所長、判事の任命、解任(第64条)。立法会議で採択した 決定は、1カ月以内に最高立法機関に登録ことになっており、提出された 決定に対して登録、又は送り返して修正させることができ、登録せず送り 返した決定は、効力を持たない(第74条)。立法会議制度は、香港の立法 会と異なり、決定の最高立法機関への登録という要件が課されており、中 央政府による関与が容易に行えるようになっている。

第2節では、長官について規定している。「長官は、自己の事業について 最高立法会議の前に責任を負う」(第76条)と規定しており、長官は最高 人民会議の前に責任を負う。「長官の任命及び解任は最高立法機関が行う」

(第77条)と規定されていることから、任命及び解任は最高人民会議常任 委員会が行うものと考えられる。長官の権限及び任務は(1)区事業の指 導、(2)立法会議の決定、行政府の指示を公布および命令を下すこと、(3)

行政府成員の任命、解任、(4)区検察所所長の任命、解任、(5)区検察所 所長の提議による区検察所副所長、検事、地区検察所所長の任命、解任、

(6)区警察局局長の任命、解任、(7)区警察局局長の提議による区警察局 副局長、部署責任者、地区警察署署長の任命、解任、(8)賞状の制定、授 与、(9)大使権及び特使権の行使等である(第79条)。また、長官は、立 法会議で採択された決定が区の利益に合致しないと認定した場合、それを 立法会議に送り返し、再び審議させることができる(第80条)。

新義州特別行政区において長官は、行政府の長として、すべての人事を 掌握しており、その権限は絶大である。しかし、立法権に中央政府による 制約がかかっており、長官は中央政府の主導で選ばれることから、特別行 政区が中央政府の意図しない活動を行う可能性はそれほど高くはない。

第3節では、行政府について規定している。行政府の任務及び権限は、

(1)法規執行事業の組織、(2)区の予算を編成と執行、(3)教育、科学、

文化、保健、体育、環境保護等、各部門の事業の組織と執行、(4)住民行 政事業、(5)社会秩序維持事業、(6)建設総計画の作成、(7)建設許可及 び竣工検査、(8)投資誘致、(9)企業の創設申請の審議、承認、(10)土 地利用権、建物の登録、(11)税務事業、(12)税関検査、衛生、動植物検 疫事業、(12)インフラ施設の管理、(13)消防対策、(14)国家の委任に よる対外事務の処理(第83条)である。

この他、第4節では検察所、第5節では裁判所について規定されている。

新義州特別行政区において裁判所は最終裁判所であり、「裁判は、専ら法 に基づいて独自的に行う」「何人も裁判活動に干渉することができない。」

(第93条)と規定されている。裁判は「裁判は、判事1人及び参審員2人で 構成」(第95条)することが基本なので、裁判の独立が規定されていると いっても、判事や参審員(陪審員に類似)の発想が急に変わるとは考えに くい。紛争解決において、外国投資家の利益が十分保障されるためには、

裁判の基準や裁判官の任命、資質の向上、参審員の構成などについての法 規が整備され、新たな環境に合わせた教育が行われていくのを見守る必要 がある。

附則では、「新義州特別行政区では、朝鮮民主主義人民共和国の国籍、

国章、国旗、国歌、首都、領海、領空、国家安全に関する法規以外の法規 を適用しない」と規定され(附則第2条)、新義州特別行政区が独自に立法 を行わない限り、現状では理論的に適用する法律のない無法状態となって いる。また、基本法の解釈権は、最高人民会議常任委員会にある(附則第 4条)。

以上見てきたように、新義州特別行政区基本法が規定している新義州特 別行政区の権限は、経済運営を中心とした事業では大きいが、それ以外の 事項では、中央政府の関与を予定している。

しかし、制度設計上、新義州特別行政区は、香港のように法的に北朝鮮 から分離された空間である。制度設計と実際の権限に乖離が存在する。実 際のところ、特別行政区にどれほどの立法能力や管理能力を持てるのかは 不明である。制度上、投資条件整備における法の役割がこれまで北朝鮮が 設定した経済特区の中でもっとも大きい地区であるがゆえに、しっかりと した立法機構を持ち、法的安定性に留意しなければ、特別行政区の構想が 看板倒れに終わる可能性も存在する。

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