射出成形機および押出機用高耐食・耐摩耗シリンダの開発
4. 高耐食・高耐摩耗シリンダ
表1は当社が開発し、射出成形 機と押出成形 機に使 用されている代表的な高耐食・高耐摩耗シリンダ(N アロ イシリンダ)を示す。N60S は Ni 基 合金中に Cr 硼化物 等の硬質物を分散させた標準的な耐食 ・ 耐摩耗シリンダ であり、当社独自の特殊製法である JPM(JSW Powder Melting)法で製造される。この方法は遠心力を利用しな い為、二軸押出機用シリンダも製作可能である。
一方、N2000 は Ni 基合金中に特殊炭化物を多量に分 散させた高耐摩耗複合材のライニングされたシリンダで
あり、GF などのフィラーを多量に含む樹脂に適している。
N2000 は単軸用シリンダと二軸用シリンダがあり、単軸(二 軸シリンダと区別する為、N2000F と呼称される)用シリン ダは遠心鋳造法、二軸用シリンダは JPM 法により製造され るが、両者の必要とされる耐摩耗特性に合わせ、特殊炭化 物の形態を替えている(14)。N70H は Ni 基合金に特殊炭化 物を分散含有させたシリンダであり、HIP 法により製造す ることから合金設計の幅が広がり、N2000 よりもさらに耐 食・耐摩耗性能が向上しているため、セラミックス、金属 粉末含有プラスチックやスーパーエンプラ等に適用される。
また、次節から最近開発された新たなシリンダである N55V、N2000F-C、N3000G を紹介する。
4.1 Nアロイ55V
N55V は、 酸 化 性 酸 環 境 に お いて 耐 食 性 の 優 れ た CoCrW 系耐摩耗合金に迫る優れた耐食性能と、標準的耐 摩耗シリンダである N60S よりも優れた耐摩耗性を兼ね備 えた、新たな二軸押出機用シリンダである。このシリンダ は、酸化性酸(特に硝酸)を使用する特殊なプロセスに対 応する為に開発されたものである。
N55V は JPM 法を改良した新製法により製 造される。
写真1に N55V の組織写真を示す。N55V は高耐食 Co 基 合金のマトリックスに、高硬度のホウ化物が均一分散した 組織を有している。
図3 N55V の砂摩耗試験結果
(窒化鋼は最高硬さ)
図4 N55V の 10%硝酸による浸漬腐食試験結果
写真2 二軸押出機用 N55V シリンダ(TEX44αⅡ)
写真3 N55V シリンダのライニング層外観
図5 シリンダ構造
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図3にN 55 Vの砂摩耗試験結果を示す(試験条件:回転 速 度 200rpm(2.39m/s)、 回 転 数 2000 回、 荷 重 130N)。 N55V は標準的耐摩耗シリンダである N60S よりも優れた 耐摩耗性を有しており、さらに酸化性酸環境において耐食 性の優れた CoCrW 系耐摩耗合金に対しては、格段に優れ た耐摩耗性能を示すことが分かる。
また、図4に 10%硝酸での全浸漬腐食試 験 結果を示 す(試 験条件:温度 60℃、浸漬時間 6hr)。硝酸溶液中 の耐食性能は HIP シリンダである N61H より優れており、
CoCrW 系耐摩耗合金に迫る耐食性能を示す。
写真2は二軸押出機 TEX44 の N55V シリンダ、写真3 はライニング層の外観を示す。
以上のように、N55V は従来の N アロイと同等以上の耐 摩耗性と、非常に高い耐食性能を兼ね備えていることから、
プラスチックの成形加工だけでなく、特殊なプロセスに適し た耐摩耗・高耐食二軸シリンダである。
4.2 Nアロイ 2000F-C
表1に示した N2000F は、遠心鋳造法により製造される 射出成形機用シリンダであり、当社の射出成形機の標準シ リンダとなっている。N2000F は耐食性に優れる Ni 基合金 マトリックスに、高硬度の特殊炭化物を均一分散させた組 織を有するので、非常に優れた耐摩耗性と耐食性を兼ね備 えている。図5にシリンダ構造の模式図を示す。
一方、最近開発された N2000F-C(写真4)は、N2000F の耐摩耗性を維持したまま、耐食性を向上させたシリンダ である。通常、シリンダライニング材の耐食性はマトリック スとなる Ni 基合金の耐食性に大きく依存するため、Ni 基 合金の耐食性向上が不可欠である。N2000F-C は、長年 にわたって当社の蓄積してきた遠心鋳造技術とライニング材 の成分設計技術を融合させることによって、ライニング材の 耐食性の向上を実現した新たな単軸シリンダである。
写真4 N2000F-C の金属組織写真
図8 N2000F-C の砂摩耗試験結果
図6 N2000F-C の各種酸を用いた浸漬腐食試験結果
図7 N2000F-C のアノード分極曲線 写真5 N3000G の金属組織
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図6に各種の酸水溶液を用いた全浸漬腐食試験結果を 示す(試験条件:温度 60℃、浸漬時間 6hr)。N2000F-C の耐食性能は、いずれの酸でも向上しているが、特に硫 酸、リン酸水溶液では、大きく耐食性が向上している。
図7に、30% 硫酸における腐食電流密度 icorr(= 全面 溶解域の腐食速度)を Tafel 外挿法により求めた結果の 一例を示す(試験条件:温度 30℃)。電気化学的測定で あるアノード分極曲線測定(JIS G 0579)を行なった結果、
N2000F-C の腐食電流密度は N2000F と比べ一桁以上小 さくなっており、耐食性が向上していることが示された。ま た、試験後に行なった試験片の表面観察結果から、Ni 基 合金マトリックスの腐食が軽減されていることも判明した。
図8に N2000F-C の 砂摩 耗 試 験 結果を示 す( 試 験 条 件:回転速度 200rpm(2.39m/s)、回転数 2000 回、荷重 130N)。N2000F-C は、従来の N2000F と同等の耐摩耗 性を有している。
N2000F-C シリンダのフィールド評価をするために、腐食 摩耗性の高いプラスチックを成形している射出成形機に組 み込み、従来の N2000F シリンダと損傷の比較を行った。
その結果、従来の N2000F シリンダよりも腐食摩耗による 損傷が抑えられており、特に先端部では N2000F の 1/5 程 度と大幅な改善が見られたことから、N2000F-C シリンダ は N2000F シリンダよりも腐食摩耗環境に対して適している ことが確認された。
以上のように、N2000F-C は N2000F の耐摩耗性と高い 耐食性能を兼ね備えたシリンダであり、腐食摩耗を伴うプ ラスチックの成形に適している。
4.3 Nアロイ 3000G
N3000G は、N2000F や N2000F-C と同様、 遠心 鋳 造 法で製造される射出成形機用シリンダであるが、飛躍的な 耐摩耗性の向上を目指して設計された硬質物を有する超耐 摩耗シリンダである。写真5に N3000G の金属組織を示す が、N3000G のマトリックスには非常に微細な硬質物が均 一かつ高密度に分散していることが観察される。
図9 N3000G の砂摩耗試験結果
(窒化鋼は最高硬さ)
図10 N3000G の大越式摩耗試験結果
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図9に N3000G のロックウェル硬さと砂摩耗試験の結果 を示す(試験条件:回転速度 200rpm(2.39m/s)、回転数 2000 回、荷重 130N)。N3000G の硬さは N2000F と比べ て大幅に上昇していないにも関わらず、摩耗体積は約 1/3
(耐摩耗性が 3 倍)と大幅に向上している。通常、硬質 物の大きさと耐摩 耗 性には反 比例の関係があり、硬質 物サイズが小さいほど耐研摩耗性は低下することが知ら れている(16)が、N3000G では微細な硬質物の分散状態を 制御することにより、耐摩耗性を向上させている。さらに、
N3000G は N2000F より高硬度であるが、ライニング材は 同等の抗折強度を維持している。
図10に N3000G の大越式摩耗試験結果を示す(試験 条 件:摩 擦 速 度 2.37m/s、 摩 擦 距 離 200m、 最 終 荷 重 185N、回転試験片材質 LSP-2)。N3000G の摩耗量、す なわち固定試 験片の摩耗量は N2000F と同等であるが、
相手材である回転試験片の摩耗量は N2000F よりも小さく なっており、N3000G はスクリュの摩耗を低減させることが 考えられる。
なお、N3000G の耐食性能は N2000F-C に匹敵すること から、N3000G は N2000Fよりも、非常に優れた耐摩耗と 耐食性能を兼ね備えた射出成形機用シリンダであることが予 想される。現在、N3000G シリンダはフィールドテストに供さ れており、N2000F シリンダとの損傷比較を行う予定である。
5. 結 言
以上、本報では射出成形機や押出成形機に発生する腐食 や摩耗の要因を述べると共に、これらのプラスチック加工機 械に用いられる耐食・耐摩耗シリンダについて紹介した。
プラスチックの高機能化と呼応するように、プラスチック 加工機械の適用分野も広がり、シリンダやスクリュは非常 に高い耐食性と耐摩耗性を要求されるようになった。一方、
金属材料の設計技術や製造技術も進歩しており、従来材 では不可能であった要求に応えられる材料も開発されてい るが、耐摩耗と耐食性に対して万能な材料は存在しないの で、プラスチック材料の特性や成形加工条件などを良く把 握して、スクリュとシリンダの材質を選定しなければならな い。今後とも、進化するプラスチック材料および製造プロセ スに必要とされる高耐食・耐摩耗材料の開発を進めていく 所存である。
参 考 文 献
(1) 松島三典:工業材料、Vol.59、No.10(2011)、p.27
(2) 西澤仁:工業材料、Vol.59、No.10(2011)、p.18
(3) 羽田晋介、南出俊幸:成形加工、Vol.14、No.2(2002)、
p.81
(4) 三島進、丸田賢二:プラスチック成形技術、Vol.7、No.10
(1990)、p.19
(5) 森孝志:合成樹脂工業技術発表講演会プログラム、
Vol.34、No.43(1988)
(6) 例えば、石堂隆雄、樋本明則、力健二郎、中島晴人:
日本製鋼所技報、43(1988)、p.93 など
(7) 高木研一:月刊新素材、Vol.6、No.7(1995)、p.36
(8) 丸山公孝、高橋栄:東芝機械技報、14(1995)、p.24
(9) 笹田直:摩耗、養賢堂(2008)、p.53
(10)荒木田豊:機械技術、Vol.32、No.9(1984)、p.56
(11)井上譲二:合成樹脂、Vol.41、No.4(1995)、p.16
(12)三浦毅、木原勇二:第 32 回合成樹脂工業技術発表講 演要録(1986)、p.59-64
(13)船平信之、宮田吉男:プラスチックス、Vol.57、No.8
(2006)、p.33
(14)柳原圭司、岩渕明、千葉晶彦、平子秀嗣:型技術、
Vol.24、No.13(2009)、p.34
(15)力健二郎:日本製鋼所技報、47(1992)、p.65
(16)特許公報 2872571(1999)、p5