LNG(液化天然ガス)用ボイルオフガス圧縮機の開発
3. 検証試験および結果
2 項の対応を行った極低温試験用圧縮機の仕様を表 1 に 示す。これにより、低温窒素ガス(液体窒素)を使用流体 として、以下の 2 点の検証試験を行った。
①新構造の妥当性の確認
熱変形の影響を考慮した構造にて、極低温運転を行い、
運転前後の各部の寸法および摩耗状況を比較し、健全性 を確認することで、各部で検討した熱収縮対策の妥当性を 確認した。
図 8 運転試験後のピストンスリーブ
図 9 冷却によるシリンダの熱変形
図 10 運転試験時の推定理論流量および実測流量
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3.1.1 ピストンとシリンダの摩耗状況
運転試験前後でシリンダには摩耗はほとんどなく、製作 時の許容寸法内に収まっていたが、図 8 に示すようにピスト ンスリーブの上部に偏摩耗が確認された。
このピストンスリーブの偏摩耗の原因は、低温運転時の シリンダの熱変形によりスリーブが部分的に接触したものと考 えられる。
図 9 は冷却によるシリンダの熱変形を FEM 解析した結 果である。
上部のみが偏摩耗した理由としては、ガスの圧縮により 吐出側のガスは暖められ、吸入側に撓むように収縮したシ リンダとピストンの吐出側が接触したことによるものと考え られる。
また、運転前後の各寸法を確認したところ、偏磨耗があ った上部は若干の隙間増加があったものの、値としては小 さいことから、現状の設計でも問題ないと判断した。
3.2 設計プログラムへの低温補正導入
設 計 時に一番 重 要となる圧 縮 機 の 流 量を確 認した。
図 10 は図 6 の運転における推定理論流量と実測流量である。
ガス温度が低下していくにつれて、従来構造に関する流 量算出式で推定した理論流量と実測流量に差が生じ、実 測流量が理論流量より最大で約 20%少ない値となった。
試験後の圧縮機の各部を確認し、構造的な問題が起き ていないことから、この流量減少の原因として、ガス起因 とする圧縮機の吸込み不足が考えられ、要因として以下 2 点が考えられる。
1 つ目は漏れガスの増加である。漏れガスとは、ピストン とシリンダとの隙間を通って、圧縮・吐出行程の圧縮室か ら吸入・膨張行程の圧縮室に流れ込むガスである。
上述の隙間が増加して、ラビリンスのシール機能が低下 すれば、この漏れガスが増加し、圧縮機の吐出流量が減 少することになる。
2 つ目はシリンダを通過するガスの温度上昇である。低 温ガスがシリンダの各部を通過する際に熱をもらい、ガス は温度上昇および膨張を起こす。しかし、ピストン径は温 度上昇・膨張前の圧力・温度条件を基に設計されているた め、必要な処理量を出せなくなる。
図 12 温度上昇メカニズム
図 13 流量検討結果(温度補正式)
シリンダ内での温度上昇のメカニズム
①圧縮により昇温したガスがシリンダ壁を加熱する。
②暖められたシリンダ壁は次に吸入されたガスを加熱する
図 11 シリンダ内で起きる温度上昇 温度上昇の可能性がある部位
①吸入側弁室 ②圧縮室
③漏れガス ④吐出側弁室
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次に、②および③の圧縮室内での温度上昇を考える。そ こで考えられる原因は大気との間の熱授受、ガス圧縮によ る発生熱、圧縮昇温された漏れガスである。大気との間の 熱授受はシリンダ外表面に堆積した霜が断熱材として働く ため、温度上昇への影響は小さい。また、圧縮・吐出行 程の圧縮室から吸入・膨張行程の圧縮室に流れ込む圧縮 昇温された漏れガスは量的には少なく、これも温度上昇へ の影響は小さい。したがって、この温度上昇の原因として ガス圧縮による発生熱が考えられる。この熱はガスの圧縮 行程によって発生するが、この発生熱によるシリンダ内での 温度上昇メカニズムを図 12 に示す。
しかし、このガス圧縮による発生熱を取り去ることは難し いことから、温度影響を考慮した設計が必要となってくる。
そこで、試験結果を基に温度上昇の推算式を作成した。推 算式の入力項目として設計時に判明している条件を採用し、
実際の設計時にも使用できるものとした(1 〜 5)。図 13 は温度 補正式を用いて流量補正した結果である。温度が安定する までは実際の流量と大きく異なっているが、温度が安定す ると実測流量に近い結果となった。
この温度上昇は図 11 に示すように大きく分けて 4 箇所で の温度上昇が考えられる。各部での温度上昇の原因は異な り、各弁室① , ④での温度上昇は大気との間の熱授受、圧 縮室②での温度上昇はガス圧縮による発生熱と大気との間 の熱授受、漏れガス③は圧縮により昇温したガスが吸入ガ スと混ざることが原因であると考えられる。
この 2 つの要因の内、1 つ目の漏れガスの増加は、運転 中に起きる熱収縮による隙間の増加量を算出したところ、
影響としては小さく、本項目が流量減少の主な原因とは考 え難い。
そこで、2 つ目の通過時の温度上昇について、測定を行 った。まず、図 11 における①および④となる各弁室の温度 測定を行ったところ、その温度に基づく理論流量は実測流 量から大きく離れており、各弁室での大気との間の熱の授 受が温度上昇の主な原因とは考えられない。
図 15 実ガスでの運転データ
図 14 シリンダ構造
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3.3 実ガスでの運転
当社内での検証試験が完了後、A 社のテストプラントにお いて天然ガスによる実ガス運転を行った。図 15 の通り、吸 入圧力、吐出圧力、吸入温度を変化させた運転を行い、改 造を行った設計プログラムの信頼性、ラビリンス / コンタクト 式ロッドパッキンのシール性、シリンダ/ フレーム間に設けた サーマルバリアの効果を確認した。
3.3.1 設計プログラムの信頼性
実ガス運転を通して改造した設計プログラムの信頼性を確 認することは必須項目であり、この運転において圧縮機の重 要な性能指標の一つである流量に関して検証を行った。
検証の結果、定常運転時の設計プログラムによる流量の 計算値と実測値との間に性能に影響を与えるような差異はな かったことから、改造した設計プログラムの信頼性を確認す ることができた。
3.3.2 ラビリンス / コンタクト式ロッドパッキンのシール性 圧縮機のロッドパッキンには、ユーティリティの使用を可能 な限り少なくするために、シールガスが不要なラビリンス / コ ンタクト式を採用している。液化エチレンの温度域までのガス に対してそのシール性は実証されているが、LNG の温度域で は初めての試みである。そこで、実ガス運転時におけるロッド パッキンのシール性を検証するため、シール性が損なわれると 圧力上昇を示すディスタンスピース内(図 14 を参照)の圧力を 測定した。
その結果、運転前後においてディスタンスピース内で圧力 上昇が見られなかったことから、シール性に問題がないこと が確認できた。
3.3.3 サーマルバリアの効果
実ガス運転時に熱媒に汎用の不凍液を使用して、図 5 に示 したサーマルバリアの常時循環運転を行った。なお、不凍液 をヒータによる熱媒の加熱は行わず、低温運転におけるシリン ダ、サーマルバリア、フレーム各部の温度変化を測定した。
吸入ガス、すなわちシリンダ入口温度が -100℃の際、シリ ンダ底部外壁で -15℃、サーマルバリア外壁で +5℃、フレ ーム上部では +15℃程度との測定結果が得られた。これによ り、サーマルバリアによるフレームの冷却を抑制する効果が 実証できた。
4. 結 言
本 報告では、LNG 用 BOG 圧縮機の開発を行った際 の検討事項および検討結果を紹介した。
この開 発 にて 新 構 造で の 運 転を実 証するとともに、
-150℃での実際の運転データに基づいた設計プログラム の改造により、正確な圧縮機の設計を行うことができる ようになった。
現 在は世界的な需要 増 加に伴い、 拡 大 する LNG 用 BOG 圧縮機の市場に改造された設計プログラムを用い て、対応している。