高温強度に優れた改良 A286 合金の開発と水素脆化感受性評価
4. 実験結果と考察
4-1. 組織観察
図 3 に時効熱処理後の A286 および改良 A286 の組織 観察結果を示す。A286 については、粒内の SEM 観察で 直径約 15nm のγ 相が観察された。TEM 観察では粒界 に方向性を有する析出相が認められ、EDS 分析よりη相で あると判断された。η相の晶癖面は母相の {111} 方向と報 告されており〔7〕、A286 で観察されたη相も同様の成長方向
であると推定される。改良 A286 の SEM 観察では、粒内 に平均粒子径 28nm のγ 相が観察され、粒界にも析出相 が認められた。粒界近傍の TEM 観察では、A286 で観察 されたようなη相は存在せず、主に W、Ti から成る相が観 察され、これらの粒界析出相は W、Ti を主とする炭化物で あると推測された。
図 4 引張試験結果 図 5 650℃クリープラプチャ試験結果
図 6 650℃クリープラプチャ試験片断面のミクロ組織観察結果
(a)A286(負荷応力 335MPa、破断時間 3229h) (b)改良 A286(負荷応力 410MPa、破断時間 3144h)
(79)
4-2. 材料特性評価
図 4 に引張試験結果を示す。室温引張試験については、
T.S. は改 良 A286 と A286 は同等であるが、0.2%Y.S. は 改良 A286 の方が低くなった。改良 A286 の室温強度が A286 よりも低下した要因としては Ti/Al 比の影響が考えら れる。γ(Ni3(Ti,Al))相中の Ti の割合が大きくなるほど 母相とのミスフィットによるひずみが大きくなり強度が上昇す ると考えられていることから〔7〕 、Ti/Al の大きい A286 の方 が高い室温強度を示したと推測される。625℃引張試験に ついては、改良 A286 は A286 と比較して T.S. が約 5%、
0.2%Y.S. が約 10% 向上した。また、改良 A286 は 0.2%Y.
S. が室温よりも大きくなる特異な挙動を示した。高温強度向 上にはγ 相体積率の増加に加えて Ti/Al 比が影響している と考えられる。Ni3Al は強度の逆温度依存性を示す金属間 化合物であることから〔8〕、改良 A286 は Al を増量したこと により、γ 相中の Al の割合が増加して Ni3Al の特性であ る逆温度依存性を示したと推測される。
高温強度に優れた改良 A286 合金の開発と水素脆化感受性評価
図 5 に 650℃クリープラプチャ試 験 結果を示す。改良 A286 は A286 と比較して大幅なクリープ破断時間の増加 が確認された。図 6 に破断したクリープラプチャ試験片の 断面ミクロ組織を示す。破面近傍の組織観察より、改良 A286 は A286 と比較して粒界割れの量が大きく低下して いた。クリープ特性向上には粒界強化が有効とされており、
改良 A286 で観察された粒界炭化物がクリープ特性向上に 寄与したものと推測される。また、上述の通りγ 相中の Ti の割合が大きいほど短時間強度は増加するが、高温ではミ スフィットひずみが拡散を助長して析出・成長が起こり強度 が低下するため〔7〕、クリープ特性向上には Ti/Al は小さい方 が有利であると考えられる。
図 8 低ひずみ速度引張試験片破面写真
表 2 室温低ひずみ速度引張試験結果 図 7 時効直後 ( 試験前 ) と破断後のミクロ組織比較
高温強度に優れた改良 A286 合金の開発と水素脆化感受性評価
図 7 にクリープ試験前後のミクロ組織を示す。いずれの 試験片も 650℃で約 3000h 保持されたものであるが、A286 では粒界にη相が析出しているのに対し改良 A286 にη相 は認められないことから、成分設計通り高温長時間加熱後 の組織安定性が向上していることも確認された。
以上の結果より、改良 A286 は高温引張強度、クリープ 強度、高温長時間組織安定性とも、A286 を上回る特性を 有することが確認された。
4-3. 水素脆化感受性評価
表 2 に室温低ひずみ速度引張試験結果を示す。水素脆 化感受性は水素チャージ材の絞り値を As 材(水素チャー ジ無し材)の絞り値で除した絞り比で評価した。今回開発 した改良 A286 は A286 よりも絞り比は大きく、改良 A286
の耐水素脆性は A286 と同等以上と判断した。図 8 に室温 低ひずみ速度引張試験片破面を示す。A286 の水素チャー ジ材はディンプル破面が減少し平坦なファセットが認められ ており、ファセットの発生が絞り比低下の要因であると考え られる。水素チャージした A286 の引張試験片破面に認め られたファセットは面心立方格子のすべり面である {111} 面 という報告があることから〔3〕、ファセット面は組織観察で 認められたη相の晶癖面と一致する。η相は脆い金属間化 合物であるためき裂発生の起点になることやγ - η相界面 で水素濃度が増加して局所的に塑性変形が助長されること によりファセット発生の起点になったと考えられる〔3〕。また、
A286 は粒内強化相のみであるため、粒界近傍に引張ひず みが集中することもファセットの発生を助長していると考えら れる。一方、改良 A286 では水素チャージの有無に関わら ず延性破面を伴う粒界破壊であり、破面形態に大きな違い は認められなかった。改良 A286 は化学組成および熱処理 条件により粒界にη相が存在していない組織が得られたこと や、炭化物による粒界強化で粒界と粒内の強度差が小さく なったことにより、粒界近傍のひずみ集中が抑制されて耐水 素脆性が大きく低下しなかったと推測される。
(81)
5. まとめ
(1)Thermo-calc での平衡状態計算によりη相を析出させ ずγ 相の析出量を増加させる改良 A286 合金の最適 組成を見出し、実験室での小型鋼塊を溶製して各種評 価に供した。
(2)通常組成の A286 合金は時効熱処理後の粒界にη相 が観察された。改良 A286 合金の粒界にも析出相が 認められたが、η相はほとんど存在せず、主に W、Ti から成る炭化物であると推測された。
(3)改良 A286 の高温強度は A286 と比較して T.S. が約 5%、0.2%Y.S. が約 10% 向上した。また、改良 A286 のクリープ試験では A286 と比較して大幅なクリープ 破断時間の増加と高温長時間加熱後の組織安定性の 向上が確認された。
(4)水素チャージ材の低ひずみ速度引張試験において、改 良 A286 は A286 と比較して同等以上の耐水素脆性で あった。
参 考 文 献
〔1〕塚田、島崎、竹之内、石坂:日本製鋼所技報 No.43
(1988)pp.101-108
〔2〕AW Thompson and JA Brooks:Metall. Trans. 6A
(1975) pp.1431-1442.
〔3〕田島、織田、松尾、山口、山辺、松岡:日本機械学 会論文集 A 編 78 巻 792 号(2012)pp.1173-1188
〔4〕中村、宮原、大村、仙波、脇田:材料 Vol.60 No.12
(2011) pp.1123-1129
〔5〕植田、清水、梶原:電気製鋼 第 79 巻 3 号 (2008)
pp.177-185
〔6〕Chester T. Sims, Norman S Stoloff and William C Hagel : Superalloys Ⅱ , (1987) p.110
〔7〕岡部、磯部:電気製鋼 第 58 巻 2 号 (1987) pp.122-131
〔8〕和泉:金属 4 月号 (1990) pp.17-22
高温強度に優れた改良 A286 合金の開発と水素脆化感受性評価
技 術 報 告
**:室蘭製作所 Muroran Plant