高クロム耐熱鋳鋼 COST-CB2 の特性
2. 小型試験鋳塊を用いた材料特性の評価
2.1. 試験方法
供試材は高周波真空誘導溶解炉で溶解し、Y ブロック 砂型に鋳造して作製した 50kg 鋳塊を使用した。COST-CB2 の 50kg 試験材の化学組成を表 2 に、熱処理条件を 表 3 に示す。過去に B の添加によって長時間クリープ破断 強度が向上することが報告されている15-16)ことから COST-CB2 の試験材 1 と試験材 2 では B 量を変えている。試験 材 1 と試験 材 2 は焼ならしの温度を 1100℃、1130℃の 2 条件とし、また、試験材 1 のみ補修溶接後の応力除去焼 鈍を模擬した 730℃× 8h の熱処理を施した。熱処理後の 試験材から各種機械試験片を採取した。引張試験は JIS4 号試験片(φ 14mm、標点間距離 50mm)を用いて、室 温で実施した。シャルピー衝撃試験は JIS4 号(2mmVノッ チ)試験片を用いて室温で実施した。
COST-CB2 のクリープ破断試験はシングル型およびマ ルチプル型レバー式クリープ試験機を使用し、625、650、
680 及び 700℃で実施した。ミクロ組織および析出物の分 布状況は鏡面研磨後に 15%塩酸を加えた 1%ピクリン酸ア ルコール溶液で腐食したサンプルを、光学顕微鏡及び電界 放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて観察した。調 質後、クリープ破断後のネジ部、平行部から薄膜サンプルを 作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて高倍率での組 織観察を行った。薄膜は 100μm 以下まで機械研磨した後 に、5 % 過塩素酸ブトキシエタノール溶液でツインジェット研 磨を施して作製した。
図 1 溶接性評価試験の概略図
図 2 調質後の 50kg 試験材の光学顕微鏡組織
(a)試験材 1 焼ならし 1100℃
(b)試験材 1 焼ならし 1130℃
(c)試験材 2 焼ならし 1130℃
図 3 調質後の 50kg 試験材の FE-SEM 組織
(a)試験材 1 焼ならし 1100℃
(b)試験材 1 焼ならし 1130℃
(c)試験材 2 焼ならし 1130℃
注)図中矢印は旧γ粒界を示す 高クロム耐熱鋳鋼 COST-CB2 の特性
また、COST-CB2 の車室や弁といった厚肉の実機製品 を製造する上で、補修溶接や構造溶接が必要となるため、
溶接性(低温割れおよび再熱割れ)も重要な評価項目であ る。溶接性評価試験の概略図を図 1 に示す。板厚 30mm の COST-CB2 試験材中央に V 開先を製作し、所定の条 件で 2 層 3 パスのシールドメタルアーク溶接を実施した。
溶 接材料は COST-CB2 に適した耐クリープ特 性に優れ る 9Cr 系溶接棒である Voestalpine Bohler Welding 社製 MTS 5Co1(φ 4mm)を使用した。その後、脱水素熱処 理および 730℃で 8h の応力除去焼鈍を実施した後に、溶 接ビード方向に垂直な断面の浸透探傷試験(PT)を行い、
割れの有無を調査した。
2.2. 試験結果
調質後の各試験材の光学顕微鏡によるミクロ組織を図 2 に示す。いずれの試験材も焼戻しマルテンサイト組織であ り、素材間での差は認められなかった。また、いずれの試 験材においてもδフェライトは観察されなかった。
調質後の各試験材の FE-SEM 組織を図 3 に示す。試験 材 1 及び試験材 2 では旧オーステナイト粒界や粒内のラス 境界と推測される箇所に析出物が存在していた。また、い ずれの試験材でも析出物の分布状況には大きな差は認め られなかった。
調質後の各試験材の TEM 組織を図 4 に示す。全ての 試験材において微細なラス組織が観察された。試験材 1 及 び試験材 2 では B 量や焼ならし温度の違いはあるが、目 立った差は認められなかった。ラス内には多量の転位が存 在し、ラス境界には析出物が観察された。
COST-CB2 の 50kg 試験材の室温引張試験結果を図 5 に示す。試験材 1 と試験材 2 では 0.2%耐力引張強さ及び 伸び、絞りには大きな差が認められなかった。過去の報告 値14)である 0.2%耐力:547MPa と比較すると、若干低め であったが、焼戻し温度の違いによるものと考えられる。
COST-CB2 の 50kg 試験材のクリープ破断試験結果を 過去の COST-CB2 の報告値14)と比較して図 6 に示す。図 の横軸は定数を 25 としたラーソンミラーパラメータ(L.M.P
= T(25+logt), T : K, t : h)で整理した。COST-CB2 の 試験材で比較すると、焼ならし温度が高いほどクリープ破 断時間が高 L.M.P 側、すなわち長時間側へとシフトしてい た。また、同じ焼ならし温度(1130℃)で比較すると、B 量の高い試験材1のクリープ破断寿命が長時間であり、過 去の COST-CB2 の報告値14)と同程度の破断寿命を有する ことが確認された。
図 4 調質後の 50㎏試験材の TEM 組織
(a)試験材 1 焼ならし 1100℃
(b)試験材 1 焼ならし 1130℃
(c)試験材 2 焼ならし 1130℃
図 7 クリープ破断試験後(625℃、145MPa)の COST-CB2 50kg 試験材の FE-SEM 組織
(a) 試験材 1 焼ならし 1100℃
(b) 試験材 1 焼ならし 1130℃
(c) 試験材 2 焼ならし 1100℃
図 8 クリープ破断試験後 (625℃、145MPa) の COST-CB2 50kg 試験材の TEM 組織
(a)(b) 試験材 1 焼ならし 1100℃
(c)(d) 試験材 1 焼ならし 1130℃
(e)(f) 試験材 2 焼ならし 1130℃
(a)(c)(e) 試験片平行部 (b)(d)(f) 試験片ネジ部 図 5 COST-CB2 50kg 試験材の室温引張試験結果
図 6 COST-CB2 50kg 試験材のクリープ破断試験結果
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高クロム耐熱鋳鋼 COST-CB2 の特性
クリープ破断試験後(625℃、145MPa)の試験片ネジ部 の FE-SEM 組織を図 7 に示す。図 3 の調質後と比較して、
明らかに析出物が粗大化していた。クリープ破断寿命が優 れていた 1130℃での焼ならしを施した試験材 1 の析出物が その他の条件と比べ、粗大化しているようにも見受けられ るが、破断時間には 2 倍程度の差があり、単純に比較は できないと考えられる。
各試験材のクリープ破断後(625℃、145MPa)の試験 片平行部及びネジ部における TEM 組織を図 8 に示す。平 行部の組織はどれも転位が調質後と比較して大幅に減少 し、サブグレイン化が進んでいた。一方、変形を受けてい ないネジ部の組織には多少違いが認められた。B 量が高い 試験材 1 は B 量が低い試験材 2 よりもラス幅が狭かった。
図 9 COST-CB2 50kg 試験材の室温衝撃特性
図 10 COST-CB2 の溶接性評価試験後の 外観写真と断面 PT 試験結果 高クロム耐熱鋳鋼 COST-CB2 の特性
高 B 量の試験材 1 において、クリープ破断寿命が長か った原因は、B がクリープ変形時の組織の回復を抑制す る効果を有するためと推測される。例えば、阿部ら15)、東 ら16)や堀内ら17)は B が粒界近傍の M23C6の粗大化を抑制 し、粒界近傍での組織の回復を遅延させる働きを有してい ると報告しており、今回の試験結果も同様の現象が生じて いる可能性が高いと考えられる。一方、焼ならし温度の高 温化によって、析出物の固溶化の状況が変わる可能性があ る。例えば、B や N を含む高 Cr 鋼において熱間加工中や 高温熱処理中に粗大な BN が生成し、固溶 B 量が減少す ることが報告されている18)。よって、BN のような B を含有 する析出物の析出、固溶の状況が焼ならしの保持温度の 違いによって変化し、焼戻し時またはクリープ試験時にお ける組織の回復や析出物の成長を抑えるために必要な固溶 B 量も変化した可能性も考えらえる。今後、クリープ破断 試験途中での組織や析出物に関する調査を行い、クリープ 特性と成分、組織の関連性を評価していく予定である。
COST-CB2 の 50kg 試験材の室温での吸収エネルギーを 図 9 に示す。B 量の低い試験材 2 が若干吸収エネルギー が高い傾向にあったが、それほど大きな差は認められなか った。
COST-CB2 の溶接性評価試験後の外観写真と断面 PT 試験結果の一例を図 10 に示す。適切な溶接条件であれば PT 欠陥は観察されず、COST-CB2 は溶接施工上問題ない ことが確認できた。
以上のように、COST-CB2 の機械的特性は過去の報告
14)よりも強度レベルが若干低い傾向にはあったが、成分や 熱処理条件を最適化すれば欧州で報告されているものと同 等の材料特性が得られることがわかった。
3. 製品製造実績と別枠試験材の評価結果