第3章 佐藤きむ実践の分析と考察 第1節 とりあげる実践の特徴と分析の方法
第6節 「高名の木のぼり ( 徒然草 、2年生対象)の分析と考察 」『 』
1 実施時期と実践の特徴
一問一答式の授業を脱却する手段として、学習課題を工夫することが有効であることは、すで に「第3節 『くもの糸』の分析と考察」で述べた。教材を読み通さなければ解決できず、かつ 複数の 教えたいこと を包括できる学習課題を設定するのである また 一次感想で生徒の 知〈 〉 、 、 〈 りたいこと 〈学びたいこと〉を吸い上げ、それらをいかしてつくった課題が、学習意欲を喚起〉 することも指摘した。
では、一問一答式の授業を脱却するのに有効な学習課題は、これまで考察してきた他にどのう ような特徴をもつのであろうか。学習課題の質的向上について示唆を与えくれるのが、この「高 名の木登り の実践である 実施時期は確定できないが」 。 、『国語授業のいろは を出版した昭和』 61
(1986)年度以降、つまり「精錬・成熟期」の実践であり、概要は論考「学習課題の工夫で多様 な言語活動を楽しむ (注1)に収められている。」
「高名の木登り」の実践では、一次感想はさほど重要な役割を果たしていない。学習課題は、
ほぼ100パーセント指導者の〈授与〉によるものである。にもかかわらず、生徒は佐藤が与えた 学習課題に意欲的に取り組む しかも その課題を解決しようとする過程で 必然的に複数の 終。 、 、 〈 えたいこと〉を学んでいくのである。
教材すべてに目を通さなければ解決できないことや、生徒の反応が分かれることは 「くもの、 糸」の学習課題と共通するが、一次感想をいかして設定した課題ではないという点で、趣を異に する。特に、生徒の〈知りたいこと 〈学びたいこと〉をもとに設定した学習課題でないのに、〉 生徒が自発的・主体的に課題解決に取り組んでいる点は注目に値する。
また、論考の前書き部分で、佐藤がこの論考の要旨を以下のように述べていることから 「目、 標の二重構造化」がかなり意識的に図られた実践であると言えよう。
を、 と同じ言葉で表さないこと 「作品の主題
生徒に提示する学習課題 指導者の指導事項 。
を読み取ろう 「話し合いの仕方を身につけよう」というのでは、積極的な読みの姿勢や活」 発な話し合いは望めない。読解の学習には作品の内容にかかわる、話し合いの方法には話し 合う内容にかかわる価値的な課題を中心に据えて、螺旋的に学習を深めていくことにより、
生徒は、知らず知らずのうちに多様な言語活動を楽しみながら、指導者のねらう目標に到達 できるのである。
(注2、太字は原文のまま)
2 指導目標と指導計画
(1)指導目標および指導事項
1 音読を通して『徒然草』の文章表現を味わわせる。
・文語文の敬語表現の一つに「候 「はべる」があること。」
・現代と共通する敬語に「申す」があること。
、「 」( ) 「 」( ) 。
・過去を表す文語の助動詞には き 経験回想 と けり 伝聞回想 があること 2 兼好の人生観に関心を持たせる。
・兼好は、身分の高低が人間の生き方の優劣とは無関係であると考えていること。
(注3)
(2)指導計画
次 指導内容 形態 主な学習活動(学習課題)
1 ○通読し、感想をもた 一斉 ・指導者の範読に続いて、音読する。
せる。 個人 ●〔学習課題1〕
次の項目から一つ以上選んで書こう。
・おもしろいと思ったこと
・気がついたこと
・疑問に思ったこと
2 班 ●〔学習課題2〕
「高名の木のぼり」の登場人物を、身分の高い 順に並べよう。
・会話文を手がかりに、登場人物はだれか考える。
○文語文の敬語の表現 ・身分の高低について、自分の考えと理由を発表し合 の仕方について知識 う。
を持たせる。 一斉 ・古語辞典で「候 「はべる 「あやし 「下﨟」の意」 」 」 味を確認する。
○助動詞「き (経験」 ・ かばかりになりては…」と言っているのは作者か、「 回想 と けり) 「 」(伝 作者でないかについて、自分の考えと理由を発表し 聞回想)との違いを 合う。
理解させる。 ・指導者の説明を聞き 「かばかりになりては…」と、 言っているのが作者であることを理解する。
3 ○学習したことをまと 個人 ●〔学習課題3〕
める。 登場人物の立場で現代語で自己紹介する。
○兼好の人生観につい 一斉 ・完成した作品を読み合う。
て感想を持たせる。
3 各指導段階の考察
(1)第1次の指導
次 指導内容 形態 主な学習活動(学習課題)
1 ○通読し、感想をもた 一斉 ・指導者の範読に続いて、音読する。
せる。 個人 ●〔学習課題1〕
次の項目から一つ以上選んで書こう。
・おもしろいと思ったこと
・気がついたこと
・疑問に思ったこと
佐藤は古典教材を扱う際には、現代語訳をプリントして配布してしまう場合が多いのだが、こ の実践においてはそれをしていない。なぜなら、すでに「高名の木登り」の学習において柱とな る学習課題を決めているからである。第2次の〔学習課題2〕は、現代語訳を知らない状態でな いと持ち味を発揮できない課題である。
つまり、この実践では 〔学習課題1〕で吸い上げた〈学びたいこと〉を次の課題づくりにい、 かそうとする意識はさほど強くない。なぜなら、解決する過程で〈教えたいこと〉を指導するこ とが必然となる〔学習課題2〕が、すでに用意できているからである。よって、生徒の興味・関 心や気づきを把握して 〔学習課題2〕を解決する過程で利用できそうなものをピックアップす、 るというのが、初発の感想を書かせる主な目的であろう。
だからといって 「感想を書きなさい」と指示したのでは、あまりにも漠然としていて 「お、 、 もしろい」とか「おもしろくない」といったような表面的なことしか書けない生徒が多くなる。
そこで、三つの項目を示し、具体的に書けるよう配慮する。
三つの項目の中で〈学びたいこと〉を吸い上げることのできる可能性が高いのは 「疑問に思、 ったこと」である。よって、この目的だけを果たそうとするなら 〔学習課題1〕は「疑問に思、 ったことを書こう」でもよいわけである。しかし、佐藤はそうはしない。現代語訳を配布してい ないので、音読しただけでは話の内容が理解できない生徒もいるだろう。何が疑問なのかさえも つかめない、つまりすべてが疑問であるという状態の生徒もいるかもしれない。そうした生徒に とって 「気がついたこと」という項目があることは救いになる。現代語にはない言葉や、初め、 て目にする言葉を指摘してもよいし、音読してみて感じたことや、これまで学習したことをいか して書くこともできる。また 「おもしろいと思ったこと」は、力のある生徒が話の内容に踏み、 込んで書くことのできる課題であり、個に応じた指導に役立つ。
さらに、三項目から「一つ以上選んで」という指示があることで、作業の速い生徒は、一つの 項目について書き上げたあと、漫然と時間を持て余して待っているのでなく、作品を黙読し直し ながら複数の項目について感想を書き足していくことができる。一方、作業に時間のかかる生徒 は、一つの項目について感想が書けたら目標は達成される。つまり 〔学習課題1〕は、それぞ、 れの生徒が持てる力を最大限に発揮して取り組める課題になっているのである。
(2)第2次の指導
次 指導内容 形態 主な学習活動(学習課題)
2 班 ●〔学習課題2〕
「高名の木のぼり」の登場人物を、身分の高い 順に並べよう。
・会話文を手がかりに、登場人物はだれか考える。
○文語文の敬語の表現 ・身分の高低について、自分の考えと理由を発表し合 の仕方について知識 う。
を持たせる。 一斉 ・古語辞典で「候 「はべる 「あやし 「下﨟」の意」 」 」 味を確認する。
○助動詞「き (経験」 ・ かばかりになりては…」と言っているのは作者か、「 回想 と けり) 「 」(伝 作者でないかについて、自分の考えと理由を発表し 聞回想)との違いを 合う。
理解させる。 ・指導者の説明を聞き 「かばかりになりては…」と、 言っているのが作者であることを理解する。
〔学習課題2〕は、さまざまな意見の出る可能性が高いという点で、本文を丁寧に読ませるこ とや話し合い活動をさせるのに有効である。
佐藤は、4人1組の小集団を用いる。一斉の場では、発言できる生徒は限られ、聞いているだ けの生徒がどうしても多くなる。よって、小集団を活用し、一人一人の生徒に発言する機会を持 たせ、主体的に学習に取り組ませようとするのである。
基本的な話し合いのルールは、司会者は班員一人ずつ順に意見を求め、最後に自分が発言する ことと、二人以上が同時に発言しないことだけである。だれかが話していたら、それを割って発 言するのではなく、まず聞いて、そのあとで質問や反論をする。これだけを徹底させておけば、
班員全員に発言する機会を与えられるし、お互いの意見を聞かせる訓練にもなる。さらに、班の 意見を全体の場で発表するときには、結論だけでなく話し合いの過程も述べさせるようにする。
具体的には 「○○さんは~という意見で、△△さんは~という意見で、……わたしは~という、 意見でした。話し合った結果、~という意見にまとまりました、なぜなら~だからです 」のよ。 うに報告させる。意見が一つにまとまらなかった場合は 「~と~で意見が分かれました。なぜ、 なら~だからです 」と報告する。こうすることで、班員全員の意見が大切に扱われる。。
「登場人物を、身分の高い順に並べよう」という課題を解決するためには、まず、登場人物が 何人いるのか、それがだれなのかを特定する必要がある。登場人物の数については、二人とする か三人とするかで意見が分かれることが予想される。意見が対立するということは、どちらが正 しいか検討する必然性が生じるということである。
、 「 」 「 」
登場人物が二人だと考える生徒は すべての会話文が 木登りの名人 と 木に登っている人 とのやりとりであると考えている 「かばかりになりては、飛びおるるとも降りなん。いかにか。 く言ふぞ 」は 「木に登っている人」が「木登りの名人」に言っていると読み間違っているの。 、 である。これがなぜ誤読かを説明するには 「かばかり~」の会話文に敬語が用いられていない、