第3章 佐藤きむ実践の分析と考察 第1節 とりあげる実践の特徴と分析の方法
第2節 「漫画のセリフを考える (1年生対象)の分析と考察 」
1 実施時期と実践の特徴
言語技術の習得を目指すスキル学習の実践である。
昨今の現場では、スキル学習の実践は、指導事項を学習者と共有し、短期間に集中して行うト レーニング的な授業が主流である。しかし、トレーニング的な授業で習得した言語技術は剥がれ 落ちやすく、身につけたはずの言語技術が、別の教材の学習または単元まで持続しないことが多
。 、 。
い この実態から推しても そもそも言語技術は短期間で定着するものではないように思われる 佐藤実践のスキル学習は、現行の指導とは趣を異にする 「母国語としての日本語は、自然習。 得的に徐々に身についていくものである」という理念をもつ佐藤は 〈国語科教育〉にも自然習、 得的な要素を取り入れる。よって、スキル学習においても、言語技術を習得することが必然とな る学習課題を設け、言語活動を繰り返し行わせることで、ごく自然に言語技術を習得できるよう な実践を目指した。
考察の対象とした本実践は、新1年生に小集団での話し合いのルールを身につけさせることを 目的として、昭和52年度に行われたものである。実践記録は 『国語授業のいろは』に「話し合、 いのルール」というタイトルで収められている(注1 。)
佐藤は、4人1組の小集団での話し合いを好んで用いた。小集団学習を頻繁に取り入れる理由 について、佐藤は実践記録の前書き部分で以下のように述べている。
国語の授業では、小集団学習を取り入れると便利な場合が多い。
例えば、発言の機会をできるだけ多くの生徒に与えたいと思っても、学級全体での話し合い では、どうしても一部の生徒の発言に片寄ってしまうが、少人数だと全員に話させることが可 能である。また、大勢の前で話すことに抵抗を感ずる生徒も、小さいグループの中では気楽に 意見を述べ合えるし、一度グループで話し合ってから全体の場へ出させると、自分の意見だけ ではないので気おくれせずに発表してくれるようである。その場合、結論だけでなくグループ 内での話し合いの過程もある程度含めながら発表させるようにすると、聞いている人にも考え の深まり方がわかるし、話す側もそれまでの学習を再確認できる。
(注2)
、 、
できるだけ多くの生徒に発言の機会を与え 抵抗感を持たせずに全体の場で話させるためには 小集団を活用するのが有効である、という佐藤の経験的知見がこの実践のベースにあることがわ かる。
小集団での話し合いは、大勢の前で話すことに対する抵抗感を和らげる。また、小集団で話し 合った結果を全体の場で報告するのだから、自分一人の意見を報告するよりは量的にも質的にも 優れた発表が可能になる。質のよい発表は聞き手にとっても興味深く、自然と聞く姿勢も積極的 なものになるであろう。さらに、話し合いの過程も説明させることで、班員個々の意見も紹介さ れると同時に、班の意見がまとまるまでの思考の流れをメタ認知させることができる。
メリットの多い小集団学習であるが、そのメリットを十分に機能させるためにはいくつかの条 件があるだろう。例えば、班員全員が発言すること、他の班員の発言を聞き、話題に沿った発言
をすること、司会者が適切な舵取りをすること、全体の場で話し合いの過程を説明できるように 記録をとることなどである 「班で話し合いなさい」と指示してグループを組ませただけでは、。 無秩序なおしゃべりタイムに陥ってしまう。学習に役立つ小集団学習を構築するためにはいくつ かのルールが必要であり そのルールは生徒にも共有させておかなくてはならない ただし、 。 、「4 人全員が発言するのですよ 「班員の意見をよく聞きなさい」と指示したのでは、生徒は指導者」 が望むようには動けないことが多い。4人全員に発言させるにはどうしたらよいか、他の班員の 意見を聞かせるためにはどうしらよいか、具体的な指導の手だてを考える必要がある。
この実践において、佐藤は、実際に話し合わせることで、体験的に話し合い方を学ばせようと している。そのために、まずは、生徒が発言したくなるような、他の意見を聞きたくなるような 話題を選び、意欲的に話し合える土台をつくる。
何を話題にして話し合いの学習を進めたらいいだろうかと考えて、生徒の喜びそうな漫画を 選んでみた 「サザエさん」の漫画のふきだしの部分を空白にしておいて、ふさわしいと思う。 、、、、
せりふをグループで話し合って決めさせるのである。
(注3)
この工夫によって 〈教えたいこと=言語技術〉は 〈やってみたいこと=マンガのセリフを、 、 考えること〉に取り組むために〈やる必要のあること=話し合いの順序やルールを知ること〉に なり、生徒の目標と指導者の目標は二重構造化する。生徒の目標は、漫画にふさわしいセリフを 考え、一番いいと思うものを選ぶことであり、指導者の目標は、グループでの話し合いの順序や ルールを覚えさせ、個々の生徒にできるだけ回数多く発言させることにある。目標の二重構造化 が意識的に図られた実践であると言えるだろう。
また、実践記録に以下の記述があることから 「国語科経営確立期」の初期には、指導者の目、 標と生徒の目標を区別することによって授業を活性化しようする佐藤のスタイルがすでに確立さ れていたことを示す、重要な実践であると考える。
生徒は、せりふを考え出すことに夢中であるが、指導者側のねらいは、グループでの話し合 いのルールを覚えさせて、学級全員の発言回数をできるだけ多く、しかもなるべく平等にした いということにあるのだから (以下略)、
(注4)
2 指導目標と指導計画
(1)指導目標および指導事項
1 話し合いの順序やルールを確認する。
2 たくさん発言し、たくさんの意見を聞いて、自分の考えを深める。
(注5)
(注6)
(2)指導計画
1時間扱いの実践であるため 「導入 「展開 「まとめ」に分けて示す。、 」 」
段階 指導内容 形態 主な学習活動(学習課題)
導入 ○学習課題と学習の流 一斉 ・プリントを見ながら指導者の説明を聞く。
れを確認する。 ●〔学習課題1〕
「サザエさん」のマンガのふきだしにセリフ を入れよう。
班 ・班の司会者を決める。
・司会者は、記録用紙に班員の名前を書く。
展開 個人 ・マンガの内容にふさわしいセリフを各自考える。
○一人一人の生徒にで 班 ・司会者の進行に従って、一人一人が案を述べる。
きるだけ回数多く意 ・司会者は一人一人の案を記録用紙に記入し、最後 見を述べさせる。 に自分の案を述べる。
○司会の仕方と話し合 ・司会者の進行に従って、だれの意見がいいと思う いのルールを知らせ か意見を述べる。
る。 ・いちばんいいと思われるものを中心にして修正を 加え、考えを一つにしぼる。その際、二人以上の 人が同時に発言しない。
・司会者は、発言した人をその都度チェックし、発 言回数を記録用紙に控える。
・グループでまとめた考えを、模造紙に書いて黒板 にはる。
一斉 ・黒板にはった模造紙を読んで、みんなで感想を述 べ合う。
・班の司会者は、班員の発言回数をチェックする。
まとめ ○自分の考えを深めさ 個人 ・自分がいいと思うセリフをマンガに書き入れる。
せる。
3 各指導段階の考察
(1 「導入」の指導)
段階 指導内容 形態 主な学習活動(学習課題)
導入 ○学習課題と学習の流 一斉 ・プリントを見ながら指導者の説明を聞く。
れを確認する。 ●〔学習課題1〕
「サザエさん」のマンガのふきだしにセリフ を入れよう。
班 ・班の司会者を決める。
・司会者は、記録用紙に班員の名前を書く。
1時間の流れを示し、学習の見通しをもたせる段階である。佐藤は学習の順序を印刷して生徒 に配布し、それに沿って説明する。以下がそのプリントで、この時間の「学習の手引き」にあた る。
きょうの授業は 「サザエさん」のマンガのふきだしにせりふを入れる勉強です。次の①~、 、、、、
⑧はその学習の順序です。
① グループの司会者を決める (仮の司会者は前の列の右側の人)。
② 司会者は、記録用紙にグループのメンバーの名前を書く。
③ マンガの内容にふさわしいせりふを各自考える。
④ 司会者は、一人一人の案を聞き、記録用紙に記入する。最後に自分の案も述べる。
⑤ 司会者は、だれのがいちばんいいと思うかみんな聞き、いちばんいいと思われるものを 中心にしてグループで修正を加え、考えを一つにしぼる。
◇ 二人以上の人が同時に発言しないこと。
◇ 司会者は、発言した人を、そのつど記録用紙の〈グループで〉の発言の欄にチェ ックすること。
⑥ グループでまとめたものを、細長い長方形に切った模造紙に書いて黒板にはる。
模造紙の上半分に、三こまめの 模造紙の下半分に、四こまめ せりふを黒マジックで書く。 のせりふを赤マジックで書く。
⑦ 黒板にはった模造紙を読んで、みんなで感想を述べ合う。
◇ グループの司会者は、発言した人を、そのつど記録用紙の〈全体で〉の発言の欄 にチェックすること。
⑧ 自分がいちばんいいと思うせりふをマンガに書き入れる。
〈記録用紙〉
司会 氏 名 ふきだし(三こまめ) ふきだし(四こまめ) 発 言 回 数
○印 グループで 全体で