第五章 音楽科の授業方法
第 2 節 音楽科の授業過程
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この節では、前節での系統学習か、問題解決学習か、という授業過程論を めぐる論争をふまえて、音楽科における授業過程について考えていきたい。
まず明確にしておきたいことは、「教育」という言葉は、「教えること」
と「育てること」との調和を意味しているということである。 「教えること」
の側からのアプローチは、教科の系統性とか教師の指導性の問題の追求につ ながり、「育てること」の側からのアプローチは、子どもの表現活動の問題 とか主体的活動の問題の追求に関わってくる。
これらを音楽科に即して考えていくと、「教えること」の強調は、知識優 先、技術万能の音楽教育につながり、反対に「育てること」の強調は、 「楽
しければよい」という音楽教育に遍いる危険性をはらんでいる。もちろん、
これらは極めて皮相的な見解ではあるが、音楽科は、その教科の特質上、教 える側の要求と育てられる側の要求とが必ずしも一致しているとは言えない 面があることを思うと、あながち考えるに足りない問題とも言えないのでは なかろうか。
つまり、音楽科の授業において、教師の指導によって子どもたちに教え込 んでいく内容と、子どもたちに内在している能力や態度を育てていく面とを 明確に把握するとともに、それらのバランスを取りながら授業実践に当たら なければならないと思われる。それができた時、技術や知識を全てに優先さ せたり、ただ単に楽しければよいという音楽科授業から脱出できることにな るであろう。
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具体的には、音楽科の授業を通して、子どもたちの音楽的な能力や表現力 が高まるような手立てが考えられなければならない。これらは、一口に言え ば、音楽の表現能力とでも呼ばれるものであろう。つまり、音楽の諸能力だ けを身につけさせればよいのではなく、それがすぐれた演奏となって表われ るためには、子どもたちの表現しようという積極的な意欲や態度が前提とな らなければならないと思うのである。
そのためには、一つの教材(または題材、主題)における何時間かの指導 計画の流れの中に、指導者が段階を設定してみることも必要である。授業過 程というと、すぐ一時間の授業の流れだけを検討してしまいがちであるが、
こうした一つの教材、題材、主題全体を見通した大きな授業過程が、まず検 討されなければならない。
授業実践を通して、子どもたちの音楽的な表現能力が高まる指導にするた めに、指導の内容を、 「全体」→「分析」一→「総合」のように、段階的 に把握して指導したい。
○全 体=意欲を持って全体的に把握する段階(歌唱・器楽・鑑賞)
(鑑賞では、第一次鑑賞の段階)
0分析=美しく表現するための分析的段階(歌唱・器楽)
分析=曲を構成している要素に目を向ける段階(第二次鑑賞)
○総合=感動を持って表現する総合的段階(歌唱・器楽)
総 合=感動を持って味わう総合的段階(第三次鑑賞)
173 このように、一つの題材などに対して段階的にとらえることにより、子ど もの意欲や関心を基謂にして、音楽を構成している様々な要素に気づかせる とともに、それらが相まって、豊かな表現に結びつけられるようにしたい。
次に、具体的な例として、歌唱教材と器楽教材における、指導誹画、本時 の目標、授業過程を示してみよう。
1.歌唱教材における例(5年生、 「思い出」の例)
(/)指導計画(4時間扱い)
第一次(全体)=意欲を持って全体的に把握する段階 /時間 0 「思い出」を歌わせる。 (歌詞の理解、階名唱、歌詞唱)
0 おおまかな曲想表現
第二次(分析)=美しく表現するための分析的段階 。2時間 〇 二部合唱のための練習(表情のつけ方の工夫)
(:本時%)
○ フレーズ、形式の理解
第三次(総合)=感動を持って表現する総合的段階 /時問 ○ ト長調の曲と対比しながら、表情豊かに歌わせる。
(2)本時の指導
1.目 標
〇 二つのパートに分かれて二部合唱の練習をさせ、正しい音程で歌 えるようにする。
○ お互いに助け合って、美しい合唱に仕上げていこうとする態度を 養う。
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2.授業過程
学習活動
指 導 上 の 留 意 点 備 考/.既習曲を歌 0 発声練習のつもりで、のびのび 「全体学習」
う。 と歌わせる。
「まっかな秋」
.2. 「思い出」 O 主旋律の歌詞唱とアルトパート 縦書き歌詞
を歌う。 の階名唱をさせる。
3.学習のめあ ○ 本時は「思い出」の二部合唱を
「グルづ学判
てを知る。
I…}iレ.二つのパ_
P トに分かれて
練習することを知らせ、各グルー
@プごとに二つのパートに分けさせ
@る。
宦@構成されたメンバーの中からリ
@ーダーを選出し、お互いに助け合
歌唱の6つのチ Fックポイント
uパート練習」
練習する。 って練習させる。
○ ソプラノは、メロディーを確実 に覚えたら、強弱記号、クレェシ エンド、デクレシェンド、3フレ 一ズめの対比などにも注意させた い。アルトは、まず正確に音程が とれるようにし、余裕があれば曲 想表現にも目を向けさせたい。
5.パート別の ○ 練習中に主に注意したことや、 「パート別発表」
発表をし、感想 練習の成果を発表させ、めあてが を話し合う。 どのくらい達成できたか、お互い
に感想を話し合う。
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6.全員で二部 ○ パート別発表で話し合われたこ 「全体学習」
合唱をする。 とを生かし、なるべく声質をそろ えて、柔らかい声で歌わせる。
○ 最後まで合唱できるようになつ テープレコーダ
たら、録音する。 一
7.録音を聴き 〇 二部合唱のできばえがどうであ 「グループ学習」
感想をi発表す つたか、全員にめあてを持って聴 チェックカード
る。 かせ、6つのチェックポイントに 「全体学習」
従って評価させ、その他気づいた ことなども話し合わせる。
8.次時につい ○ 児童自身の評価や意見を大事に て知る。 し、それに付け加える形で、次時
への課題としたい。
2.器楽教材における例(6年生、「ミュンヘンポルカ」の例)
(/)指導討画(4時間扱い)
第一次(全体)=意欲を持って全体的に把握する段階f /時間 0 ポルカについて知らせ、意欲づけを図る。
0 ソプラノリコーダーとアルトリコーダーの視奏をさせる。
第二次(分析)=美しく表現するための分析的段階 2時間 0 各グループの練習討画に従って、楽器を選択し、パート
を分担してグループで練習させる。
(本時%)
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0 他のグループの演奏を観点を持って聴き、それを自分のグル ープのアンサンブルに生かせるようにさせる。
第三次(総合)=感動を持って表現する総合的段階 /時間 Q まとめとして、発表会をする。
0 他のリコーダーアンサンブル曲への意欲づけを図る。
(2)本時の指導
1.目 標
〇 二拍子(ポルカ)の感じを生かし、リズムをそろえて、グループ の全員が助け合って楽しく演奏させる。
0 各グループの演奏を、観点を持って聴くことができるようにさせ る。
2ゼ授業過程
学習活動
指 導 上 の 留 意 点 備 考/.既習曲を演 〇 三拍子のリズムにのり、のびの OHPシート 奏する。 「エ びと楽しく演奏させる。 「全体学習」
一デルワイス」
2.本時のめあ 0 ポルカの感じを生かして、楽し
てを知る。 く演奏させたい。 馬も
3.グループ学 Kのめあてを発
○ 自分たちのグループで立てため
@あてを発表させる。
一fループカード1
@ 『
uグループ学習」表する。 O 足りない点は補ってやる。
4.各グループ ○ グループで立てた練習計画に従 に分かれて練習 い、ソプラノとアルトリコーダー
する。 に分かれて、各グループごとに練
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習させる。
0 グループ内で互いに協力し合い、
教え合うようにさせる。
5.グループ別 0 練習の様子や、曲について注意 に発表する。 したことを発表させる。
1.練習の様子 〇 二拍子の拍の流れを感じさせな を発表する。 がら、繰り返して二度ずつ演奏さ 2.演奏する。 せる。
3。観点を持つ 0 全員に観点を持って友だちの演
て聴く。 奏を聴かせ、「音楽聴き方カード」
4.カードに記 にみんなで協力して記入させる。 ループカード2 入する。 ○ 一つのグループが終わるごとに
5。感想を発表 感想を発表し合う。
する。
6.自分のグル Q がんばった人をほめてあけるよ
一プの反省をし うなふん囲気を作っていきたい。 ループカード1 発表する。
7.全員合奏 Q 指揮をよく見て演奏させる。 「全体学習」
8.次時につい ○ 臨時の学習でうまくいか.なかっ て知る。 たところを課題にする。
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以上、歌唱教材と器楽教材の例を一つずつ示してみたが、どちらも、一つ の教材による指導の流れを示したものである。授業過程を説明するためには、
その方がわかりやすいだろうと判断したためである。
これらの授業の組み立ての中で、前章で述べた音楽科教材の構造的とらえ 方が働いていることは言うまでもない。
また、例の中に、「全体学習」 「グループ学習」 「パート練習」 「グルー プカード1・2」 「チェックカード」など、授業形態に関する語句が使用さ れているが、これらについては、次節以降で述べたい。
次に、鑑賞教材について、「指導の一一一一一般的スタイル」
とらえ方」 「指導の実際例」を示したい。
「鑑賞指導の流れの
1.鑑賞教材指導の一般的スタイル
(/)感想記入用小紙を配る。
◎教科書を閉じさせ、曲名も知らせない。
◎ 全曲を聴く(第一次鑑賞)。
◎ 思うままに感想を書かせる(短く)⑤ ◎ 感想を話させる。
◎ 教師の質問に答えさせる(構成・形態・楽器など)。
(2)教科書を見せ、解説を加える。
◎ 分析的なねらいで聴かせる(第二次鑑賞)。
◎ 新しく見つけたことを書かせる。
◎ 教師がまとめて板書する。
(3)指揮させた:り、歌わせたり、身体反応させながら聴かせる(第三次鑑賞)。
(4)他の関係曲なども聴かせる(比較・発展)。