第 2 章 非線形光学の基本理論 11
2.3 非線形分極
電磁波(光)と物質の相互作用で分極が生じる。分極は物質中の原子(分子、イ オン)の電気双極子である。電磁波の周波数で周期的に振動する。つまり、強制振 動の周波数は電磁波の周波数と同じである。電気双極子の振動で電磁放射が生じる。
入射光強度が弱いとき、分極P は入射光電場Eとは線形的な関係すなわち比例す る。しかし、レーザーの誕生に伴い、光高調波発生、和周波発生、差周波発生など の現象が次々と観察された。これらの現象を解釈するためには、分極P と入射光電 場Eは線形的な関係の代わりに、電場Eはべき級数に展開して分極P を記述する. マックスウエル方程式における電気変位D磁束密度Bは
D=ε(E)E , B=µ(H)H (2.24)
の非線形な特性が当初から知られて、誘電率εは電場Eの関数、透磁率µは磁場 Hの関数となっている。非線形材料の分極P は電場Eのべき級数に展開して記述 される。例えば、単純な電気双極子では
P =P(1)+P(2)+P(3)+· · ·
=ε0
(↔
χ(1)E+↔χ(2) :EE+↔χ(3)...EEE+· · ·
) (2.25)
第一項の↔χ(1)は線形の電気感受率を、第二項の↔χ(2)は2次の電気感受率であり、最 も低次の非線形電気感受率と定義されている。光の強度が弱いとき、光学的な非線 形効果は小さいから、実験的には発見しにくかった。レーザーの誕生後は、高強度 の光源を用いて非線形効果を実験で観測できるようになった。
さて、2次の電気感受率↔χ(2)について考えてみよう。↔χ(2)は3階のテンソルであ る。成分の数は27個あり、次のように書ける。
↔χ(2) =
χxxx χxxy χxxz χyxx χyxy χyxz χzxx χzxy χzxz
χxyx χxyy χxyz χyyx χyyy χyyz χzyx χzyy χzyz
χxzx χxzy χxzz χyzx χyzy χyzz χzzx χzzy χzzz
(2.26)
反転対称性を持った場合ではゼロになる。反転対称性が破れた結晶においては2 次の電気感受率テンソル↔χ(2)の非ゼロ成分は、圧電率テンソルの非ゼロ成分と同じ である。
また、2次の非線形分極は
P(2) =ε0↔χ(2) :EE (2.27) と書ける。右辺を展開すると
Pi(2) =ε0↔χ(2) :EE = ε0 ∑
j,k=x,y,z
χ(2)ijkEjEk
= ε0χ(2)ixxExEx+ε0χ(2)ixyExEy+ε0χ(2)ixzExEz+ ε0χ(2)iyxEyEx+ε0χ(2)iyyEyEy+ε0χ(2)iyzEyEz+ ε0χ(2)izxEzEx+ε0χ(2)izyEzEy+ε0χ(2)izzEzEz
(2.28)
となる。非線形分極P(2)の一つの方向についてPi(2)は9つの成分の和となる。非
線形分極P(2)のx、y、z成分を全部書くと
Px Py
Pz
=ε0
χ(2)xxxExEx+χ(2)xxyExEy+χ(2)xxzExEz+ χ(2)xyxEyEx+χ(2)xyyEyEy +χ(2)xyzEyEz+ χ(2)xzxEzEx+χ(2)xzyEzEy+χ(2)xzzEzEz
χ(2)yxxExEx+χ(2)yxyExEy +χ(2)yxzExEz+ χ(2)yyxEyEx+χ(2)yyyEyEy+χ(2)yyzEyEz+ χ(2)yzxEzEx+χ(2)yzyEzEy+χ(2)yzzEzEz
χ(2)zxxExEx+χ(2)zxyExEy +χ(2)zxzExEz+ χ(2)zyxEyEx+χ(2)zyyEyEy+χ(2)zyzEyEz+ χ(2)zzxEzEx+χ(2)zzyEzEy +χ(2)zzzEzEz
(2.29)
になる。しかし、j、kを入れ換えても同じ物理的意味をもつ場合(例えば、二次高 調波発生)、jkの成分とkjの成分は重複する。つまり、χ(2)ijk =χ(2)ikjである。このと き、27個の成分から18個の独立な成分になる。
非線形分極は媒質の対称性に依存する。反転対称性のある媒質において、電場を 反転したら分極も反転して生じる。従って、2次の非線形分極P(2)は
P(2) = ε0↔χ(2) :EE (2.30)
−P(2) = ε0↔χ(2) : (−E) (−E) (2.31) となる。電場は反転しても物質は変化しないから、P(2) =−P(2)となり、↔χ(2)=0 でなければならない。ゆえに、2次(一般に偶数次)の非線形分極は反転対称性の ない物質にのみできる。