第 4 章 フェムト秒パルスレーザー SHG 顕微鏡システムの性能評価 61
5.6 サクラン凝縮体の SHG 顕微鏡観察
と、図 5.28(c)と同様に数10 μm程度の大きさの粒子状のSHG像が見られる。高 純度のサクランは液晶状態から乾燥してできたものなので、サクランの水溶液の濃 度の増加によって、サクランは棒状組織体から凝集体を形成すると推測されている
[57]。SHGの発生は、液晶などのような、永久双極子をもつ分子が配向したところ
からよく発生する[19, 20]ので、図 5.28(f)のSHGもサクランの凝集体のミクロな 構造に起因すると考えている。
Fig. 5.29濃度0.5%のサクラン水溶液で作った二種類のキャスト膜(膜厚およそ5μm)の像。(a)高純 度サクランの水溶液をそのままシリコン基板上に落として乾かした膜の写真像。(b)白色光で照明し、
CMOSカメラ(Manufacturer : Lumenera corporation, model number : Lu135M)で撮像した顕微 像。(c),(d)それぞれ(a)の膜のSHG顕微像と二光子励起発光像.(e)サクラン水溶液を0.45μmのメン ブレンフィルターでろ過した後でシリコン基板上に垂らして乾かした膜の写真像。(f)白色光で照明し、
CMOSカメラ(Manufacturer : Lumenera corporation, model number : Lu135M)で撮像した顕微像。
(g),(h)それぞれ(d)の膜のSHG顕微像と二光子励起発光像。(c),(d),(g),(h)において、入射光波長は 800 nm,励起強度は6.6 mW. (b), (e)の積算時間は5 min , (c), (f)は50 sである。対物レンズの倍率:
×5 (NA = 0.15).(Reprinted with permission from ref [62]. Copyright 2017 by the Optical Society of America. https://www.osapublishing.org/josaa/abstract.cfm?uri=josaa-34-2-146)
スポット状のSHGの起源をさらに考えるために、メンブレンフィルターでろ過 した前後のサクラン水溶液で作った二種類のキャスト膜(膜厚およそ5 μm)を観 察した。この濾過によって、SHGスポットの原因と考えられるスイゼンジノリの細 胞壁などの不純物や大きめのサクラン分子などを取り除くことができると考えた。
高純度サクランの水溶液をそのままシリコン基板上に落として乾かした膜のSHG
像(図 5.29(c))においては高純度サクランの塊および繊維と同じようなスポット状
にSHGが強い箇所が観察された。一方、メンブレンフィルター(穴径0.45μm)で
ろ過したあとのサクラン水溶液を滴下してできたキャスト膜には粒子状のSHGス ポットは現れなかった(図 5.29(g))。
5.6.2 高純度サクランにおける SHG スポットの入射光偏光依存性
Fig. 5.30高純度サクランのSHG像と二光子励起発光像の入射偏光依存性。(a)左のパネルは白色光で
照明し、CMOSカメラ(Manufacturer : Lumenera corporation, model number : Lu135M)で撮像し た顕微像。右の上段はSHG顕微像、下段は2PEF顕微像である。入射光波長は800 nm、励起強度6.8 mW、SHG顕微像と二光子励起発光顕微像における積算時間はそれぞれ300 sと50 sであった。対物レ ンズの倍率:×20 (NA = 0.46)。入射光の偏光は、試料ステージと平行な方向を0◦として、図中に記した 通りである。観測側は偏光は選んでいない。レーザーや光学系の安定度を確認するための測定で、180◦ の測定は、0◦のそれと同じ結果を示しているが、これはこの偏光依存性の実験の最中に、実験条件に変 動がなかったことを示すためのものである。(b)入射光が30◦と120◦において最も強いSHGスポットの 水平方向の強度プロファイル。強度積算をした領域は挿入図に示した黄色点線はプロファイルラインで、
プロファイルラインの幅はワンピクセルである。信号のバックグラウンドは1.1以下で、迷光やノイズ は0.7より小さい。(Reprinted with permission from ref [62]. Copyright 2017 by the Optical Society of America. https://www.osapublishing.org/josaa/abstract.cfm?uri=josaa-34-2-146)
図5.30(a)では綿状の高純度サクランからのSHGスポットに注目しその励起光の
偏光方向に対する依存性を調べた。SHG像は偏光角が0◦付近で一番強く90◦付近で 一番弱い。一方二光子励起発光の方は、入射偏光方向によらず一定の強度を持って
Fig. 5.31 Areas 1, 2と3において入射光偏光におけるSHG強度変化。(Reprinted with permission from ref [62]. Copyright 2017 by the Optical Society of America. https://www.osapublishing.
org/josaa/abstract.cfm?uri=josaa-34-2-146)
いる。SHG像に励起偏光依存性があるということは、SHGの選択則を考えると、こ のスポット内のサクラン分子が一方向に配向していることを示している。図5.30(b) をよく見ると、SHGスポットの中心付近に2μm程度の大きさの範囲でさらにSHG が強い箇所があることがわかる。またSHGスポット全体の大きさも、偏光角度に よって変化していることがわかる。これらの傾向は二光子励起発光の図には見られ ないので、入射光の屈折などによる見かけの像ではなく、実際にこの領域でSHG発 生効率に分布があることと考えられる。これらのことをより詳しく調べるために、
SHG強度のプロファイルを表示したのが図5.30(b)である。図5.30(b)30◦のSHGプ ロファイルにおいて、ブロードなSHGスポットの直径はおよそ30μmである。そ れに対して、120◦のSHGプロファイルにおけるブロードなSHGスポットの直径は およそ60μmである。図5.30(a)と(b)を見ると、ここでみられたSHGの強いサク ランの領域は直径が2 μm (Area 1), 30 μm (Area 2), 60 μm (Area 3)の3つの領域 から成り立っていることがわかる。他のSHGスポットも類似の構造を持つ傾向に あった。
5.6.3 サクランキャスト膜における SHG 顕微像
Fig. 5.32 上段はサクラン水溶液を0.45μmのメンブレンフィルターでろ過した後でシリコン基板
上に垂らして乾かした膜における(a)写真像、(b)白色光で照射しCMOSカメラで撮った顕微像,
(c)SHG像、および(d)二光子発光顕微像である。(c),(d)における入射光波長は800 nm、励起強
度7.0 mW、SHG顕微像と二光子励起発光顕微像における積算時間はそれぞれ300 sと50 sで
あった。対物レンズの倍率:×5 (NA = 0.15)。(a)中の赤枠は(b)の顕微像を撮る際の視野であ る。入射光はキャスト膜の縁部に照射した。ビームの照射範囲は(d)の二光子励起発光像に対応す る。(b)の白色光照射の顕微像の黄色線で囲む部分は(c)でSHGが発生している部分に対応する。
(Reprinted with permission from ref [62]. Copyright 2017 by the Optical Society of America.
https://www.osapublishing.org/josaa/abstract.cfm?uri=josaa-34-2-146)
図5.29において、0.45 μmのメンブレンフィルターで濾過したサクラン溶液から 作った膜の中央においてSHG発生は無視できる強度であった。しかし、膜の縁部 からは図5.28, 図5.29と図5.30で見たようなスポット状とは異なる様子のSHGが 観察されることを見いだしたので、図5.32にそれを示す。図5.32では、0.45μmの 孔サイズのメンブレンフィルターでろ過した後でシリコン基板上に垂らして乾かし た膜の縁部を観察した。図5.32(a)は写真像、(b)は白色光で照射しCMOSカメラ で撮った顕微像、(c)はSHG像、および(d)は二光子発光顕微像である。図5.32(c) のSHG像においては、フィルター処理なしの図5.29(c)のサクランキャスト膜と比 べて鮮明なSHGスポットが観察されなかった。スポット状のSHGの核となるもの の一部がフィルターにより取り除かれた結果と思われる。図5.32(c)には、より連続 的にSHGが発生している領域がみられる。このSHGの発生領域の形を図5.32(b) の線形像に黄色い線で示したが、線形像はこの領域で特別な色の濃淡は示していな
い。連続的なSHGが観察され、その形状は円弧状である。しかし、この連続的な SHGの領域は完全には連続ではなく、数十μmの大きさのSHGが出ない領域を無 数に含んでいる。