第 4 章 表面処理および潤滑剤がフレッティング疲労強度に及ぼす影響
4.4 フレッティング疲労試験による表面処理と潤滑剤の影響の評価
4.4.2 接触表面の接線力係数の比較
4.4.2.2 銅めっきと潤滑剤の場合
銅めっき処理したフレッティング疲労試験における接線力係数については,高応力振幅 側として応力振幅σa =約 200 MPa,低応力振幅側として応力振幅σa = 約140 MPaの挙動を比 較した.
図4-14に高応力振幅における接線力係数と繰返し数の変化を示す.銅めっきなし,潤滑剤 なし(●)の挙動については,図4-12と同様に試験開始直後は低い値を示すもののその後す ぐに増加に転じ,徐々に減少し破断に至った.銅めっきあり,潤滑剤なし(■)において は(●)よりも比較的高い接線力係数を維持し,破断に至った.銅めっきの付与によって 接線力係数は増加していた.銅めっきあり,潤滑剤なし(■)と銅めっきあり,潤滑剤あ り(◆)を比較すると,(◆)の場合は繰返し数5.00×104回付近までは比較的低い値で推移 しており,潤滑の効果が発揮されていたがその後,接線力係数は増加し,(●)の接線力係 数よりも高いまま推移し,破断に至った.
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 0.5 1
In air f = 15 Hz R = -1 pc = 50 MPa
a = 145 MPa
(a) リン酸マンガン被膜無し,潤滑無し (b) リン酸マンガン被膜有り,潤滑無し (c) リン酸マンガン被膜有り,潤滑有り (d) リン酸マンガン被膜無し,潤滑有り Non-manganese, Non-lubricant Manganese, Non-lubricant Non-manganese, Lubricant Manganese, Lubricant
Tangential coefficient, Φ
Number of cycles, N [ 106]
103
図4-14 接線力係数と繰返し数の関係(応力振幅σa= 約200 MPaの場合)
低応力振幅側の繰返し数に対する接線力係数の変化を図4-15に示す.銅めっきなし,潤滑 剤なし(●)の挙動は図4-14の結果と同様であった.銅めっきあり,潤滑剤なし(■)にお いては試験開始から接線力係数は比較的高く,その値を維持したのち破断に至った.銅め っきあり,潤滑剤あり(◆)についても試験初期から繰返し数5.00×104回付近までは比較 的低い値で推移していたが増加に転じ,銅めっきなし,潤滑剤なし(●)と同様の接線力 係数を維持した.高応力振幅の場合に比べて接線力係数が低下したのは,応力振幅が低下 したことが要因の一つと考えられる.
図4-15 接線力係数と繰返し数の変化(応力振幅σa= 約140 MPaの場合)
Tangential coefficient, Φ
Number of cycles, N [ 106]
0 0.5 1
0 0.5 1
Non-copper, Non-lubricant Copper, Non-lubricant Copper, Lubricant
Tangential coefficient, Φ
Number of cycles, N [ 107]
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 0.5 1
Non-copper, Non-lubricant Copper, Non-lubricant Copper, Lubricant
104 4.4 3 接触表面の様子
図4-16および図4-17に疲労試験後の試験片の接触面の様子を示す.表面処理はリン酸マン ガンである.図4-16のように,高応力振幅σa = 205 MPaの場合,主き裂の発生位置はすべて 接触中央部近傍となっており,これまでの実体疲労試験の結果と同様のき裂の発生となっ ていることがわかる.つまり,表面処理や潤滑剤を付与した場合においても,本研究にお けるブリッジパッド式フレッティング疲労試験において実機の疲労破壊を再現できている と言える.また,いずれの場合においても,試験片の全面が摩耗粉で覆われていたことか ら全すべり状態であったことがうかがえる.
図4-16 試験後の試験片の接触表面の様子
(表面処理=リン酸マンガン,応力振幅σa= 205 MPaの場合)
105
図4-17に示すように低応力振幅σa = 145 MPaの場合においても,図4-17(b)のとおりリン酸 マンガンなし,潤滑剤なしの場合は主き裂の起点が接触中央部近傍となっていた.それに 対して,図4-17(c)のリン酸マンガンあり,潤滑剤なしの場合では主き裂の起点は,赤色の破 線で示すように接触内面であるものの,図4-17(b)に比べて端部側に偏っている様子が観察 された.
図4-17 試験後の試験片の接触表面の様子
(表面処理=リン酸マンガン,応力振幅σa= 145 MPaの場合)
106
図4-18および図4-19に疲労試験後の試験片の接触面の様子を示す.表面処理は銅めっきで ある.図4-18に示すように高応力振幅σa = 約200 MPaの場合,主き裂の発生位置はいずれも 接触中央部近傍となっており,リン酸マンガンの場合と同様の結果が得られた.しかし,
図4-18(c)の主き裂が発生した接触面では,試験評価面奥側に摩耗が発生していない部分が見 られ,軽微な片当たりの発生が認められた.片当たりによって接触面圧が増加するため,
主き裂の発生が早められた可能性がある.また,接触端部と内部で摩耗状況が異なってい た.銅めっきあり,潤滑剤ありの場合は,図4-18(d)のように接触面表面上にピットのよう なくぼみが複数確認されており,このピット底の応力集中が主き裂の起点となったことが 示唆される.
図4-18 試験後の試験片の接触表面の様子
(表面処理=銅めっき,応力振幅σa= 約200 MPaの場合)
107
低応力振幅側では,図4-19(c)のとおり,銅めっきあり,潤滑剤なしの場合は,接触中央部 において摩耗が発生していない部分が一部存在するものの,繰返し数が増加した影響で,
高応力振幅側と比較して接触面のほぼ全面で摩耗が確認された.銅めっきあり,潤滑剤あ りの場合は,図4-19(d)のように,高応力振幅側で確認された接触内面のピットのようなく ぼみの領域が拡大していた.
図4-19 試験後の試験片の接触表面の様子
(表面処理=銅めっき,応力振幅σa= 約140 MPaの場合)
108
4.4.4 フレッティング疲労試験中の表面処理と潤滑剤の挙動の比較
二種類の表面処理を適用したブリッジパッド式フレッティング疲労試験の結果,比較的 低応力振幅の領域ではリン酸マンガンあり,潤滑剤ありにおいてフレッティング疲労強度 の向上が顕著に示された.このメカニズムを考察したので図4-20に示す.図4-20(a)のように 表面処理がない場合は,試験片と接触片の接触部はともに鏡面仕上げとなっているため,
潤滑剤が試験の比較的初期において容易に排出されるため,潤滑効果が持続しなくなる.
しかし,リン酸マンガンが存在すると被膜時に形成された凹凸が潤滑剤のポケットの役割 を持ち,そのアンカー効果によって潤滑被膜の耐荷重性が高まり,維持されることで,フ レッティング摩耗が進行しにくくなると考えられる.それに対して,銅めっきでは図4-8か らもわかるようにリン酸マンガンほどの被膜の凹凸が形成されていないことと,銅めっき そのもののビッカース硬度は最大でもHv = 150程度と軟らかく[22],試験初期に平面になじ むため,潤滑剤のポケットとしての役割を果たせないばかりか,潤滑被膜の耐荷重性も向 上せず,フレッティング摩耗が進行しやすくなったものと想定できる.また,図4-13および 図4-15における被膜あり,潤滑ありの条件(◆)を比較すると,銅めっきの接線力係数が比 較的初期の繰返し数において増加しており,銅めっきでは潤滑剤の保持効果がリン酸マン ガンほど得られていないことがわかる.
(a) No coating
(b) Manganese phosphate 図4-20 表面処理と潤滑被膜の関係
Contact pad
Specimen Lubricant
grease
East to break
Mirror finish
Difficult to break
Contact pad
Specimen Lubricant
grease
Manganese phosphate
109 (c)Copper plating
図4-20 表面処理と潤滑被膜の関係(つづき)
本章のフレッティング疲労試験で使用した潤滑剤は鉛や亜鉛,銅などの重金属が主成分 であり,これらの重金属は軟らかく,本研究での油井管ねじ継手に適用すれば,締結にお ける摺動時にせん断されてピンとボックスの基材の界面に広がり,基材の直接接触を妨げ るように作用するため,高い焼付き抵抗を発揮できる特徴を有する[1].つまり,疲労強度 を向上させるには,この界面の潤滑被膜が維持されていることが重要となる.そのため,
図4-21に示すような,油井管ねじ継手の実体疲労試験とフレッティング疲労試験中の接触界 面における潤滑被膜の耐荷重性の違いも考慮する必要があると考えられる.油井管ねじ継 手のピンねじ底面は旋削仕上げされていること,強固な締結によってねじ底の潤滑剤は軸 方向と周方向にも満たされていることから,潤滑被膜が破壊されにくく,表面処理の被膜 も破壊されにくくなる.一方で,フレッティング疲労試験では潤滑剤が満たされてはいな いことから,比較的低い応力振幅でも潤滑被膜が破壊されるため,潤滑効果がなくなり,
表面処理の被膜が疲労強度を向上させるほど作用しなくなった可能性がある.そのため,
油井管ねじ継手のねじ底の潤滑状態を模擬するには,相対すべり量を低下することなどで 潤滑被膜を維持できる機構を備えたフレッティング疲労試験や,同試験に供試する試験片 と接触片の評価面を旋盤目の形状に加工し,アンカー効果で潤滑被膜の耐荷重性を高める ことなどが必要になる.本研究では前者の潤滑被膜を維持可能なフレッティング疲労試験 に着目し,以下の検討を実施した.
Easy to break
Copper plating
Contact pad
Specimen Lubricant
grease