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接触界面における潤滑被膜の維持を考慮したフレッティング疲労試験

第 4 章 表面処理および潤滑剤がフレッティング疲労強度に及ぼす影響

4.5 接触界面における潤滑被膜の維持を考慮したフレッティング疲労試験

111 4.5.2 S-N線図

図4-23にShort padを用いたフレッティング疲労試験で得られたS-N線図を示す.表面処理 はリン酸マンガンの場合で,Long padで得た試験についても疲労性能の比較の目的で併記し た.フレッティング疲労では相対すべり量の増加とともに,フレッティング疲労強度の低 下の傾向がある[24,25]ため,リン酸マンガンなし,潤滑剤なし(◑)の場合は,従来の傾向 どおり,フレッティング疲労強度が向上していた.また,リン酸マンガンなし,潤滑剤あ り(◮)の場合においてもShort padでは疲労寿命が顕著に伸びることがわかった.さらに,

潤滑下においてリン酸マンガンのある場合とない場合の寿命の差がLong padの場合よりも 顕著となっていた.

図4-23 接触片の軸方向長さとフレッティング疲労強度の関係

(表面処理=リン酸マンガンの場合)

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図4-24に銅めっき処理したShort padを用いたフレッティング疲労試験で得られたS-N線図 を示す.銅めっきの場合でも,Long padの結果と同様に,潤滑下では銅めっき処理したサン プルで,高応力振幅の領域においても疲労寿命が格段に伸びることがわかった.しかし,

リン酸マンガンとは異なり,Short padの試験においても銅めっきなし,潤滑剤なし(◑)の 場合が最も疲労限度が高くなっており,図4-23の結果からも潤滑下における被膜のある場合 とない場合の疲労寿命の差はそれほど得られないと推察される.

図4-24 接触片の軸方向長さとフレッティング疲労強度の関係

(表面処理=銅めっきの場合)

Short padを適用した試験により,比較的高応力振幅の領域においても潤滑下においてはリ ン酸マンガンにおいて,フレッティング疲労強度の向上が確認されたものの,銅めっきに ついては,被膜なし,潤滑なしの場合よりも依然としてフレッティング疲労強度が低くな っていた.これらの比較的高応力振幅の領域の効果を考察するため,以下に繰返し数に伴 う接線力係数の推移を確認した.

113 4.5.3 接線力係数の比較

図4-25にリン酸マンガン処理の場合の高応力振幅σa = 205 MPaにおける接線力係数と繰返 し数の関係を示す.潤滑下(◮,◪)では無潤滑(◑)の場合と比較して低い値を取っていた.

さらに,潤滑下で被膜を与えた場合(◪)が最も低い接線力係数を維持していた.

図4-26に銅めっき処理時の高応力振幅σa = 約200 MPaにおける接線力係数と繰返し数の 関係を示す.銅めっきあり,潤滑なし(◨)の場合の接線力係数はShort padで最も高くなっ ていた.また,銅めっきなし,潤滑なし(◑)と銅めっきあり,潤滑あり(◪)については,

試験の初期は潤滑剤の影響で接線力係数の差が顕著であったが,繰返し数の増加に伴い,

同程度の値で推移していた.このことから,銅めっきにおいては,相対すべり量を低下さ せても潤滑被膜の耐荷重性は期待したほど向上しなかったことがうかがえる.

図4-25 Short padにおける接線力係数と繰返し数の関係

(表面処理=リン酸マンガンの場合)

図4-26 Short padにおける接線力係数と繰返し数の関係

(表面処理=銅めっきの場合)

Tangential coefficient, Φ

Number of cycles, N [ 106]

1 2 3 4 5

0 0.5 1 1.5

Non-copper, Non-lubricant Copper, Non-lubricant Copper, Lubricant

0

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以上のように,表面処理によるフレッティング疲労寿命の増加は,潤滑被膜の有無およ び,接触片長さによって,確認できる場合と確認できない場合があり,疲労寿命が増加す る場合は接線力係数が低く維持されていることがわかった.フレッティング疲労の接触部 の応力状態は,接線力,押付け力,疲労荷重によって決まるため[23],接線力の低い場合に 寿命が長くなる結果は力学的な側面から妥当である.フレッティング疲労寿命は潤滑被膜 が維持されている場合に増加し,疲労荷重の大きさで潤滑被膜が破壊されると潤滑も表面 処理被膜も効果を失って疲労寿命が低下すると考えられる.つまり,表面処理被膜が疲労 強度を向上させる効果を示すには,表面処理被膜が破壊されない接触の状態と潤滑被膜が 維持されている必要があると言える.

本章で実施したフレッティング疲労試験のみでは,実体疲労試験における銅めっきとリ ン酸マンガンのフレッティング疲労強度の差を再現するには至らなかった.原因の一つと して,油井管ねじ継手の締結過程におけるピンねじ底面とボックスねじ山頂面の摺動が考 えられる.当該箇所は締結時において周方向に摺動が発生し,本章の実体疲労試験の供試 体のようにねじの干渉量が大きい場合は,締結過程におけるピンねじ底面とボックスねじ 山頂面の接触面圧も高くなる.そのため,締結が完了した時点でリン酸マンガン被膜が部 分的ではあるが破壊されている可能性がある.これによって実体ではリン酸マンガン被膜 によるフレッティング疲労強度の向上効果が減少した可能性がある.一方,銅めっきにつ いては締結過程ですでにピンねじ底面とボックスねじ山頂面間で銅が移着しており,銅が 接触面になじんで基材間の接触が妨げられる状態となっていたと推定される.

しかし,本章のフレッティング疲労試験においてすべり量を低減することで表面処理被 膜がフレッティング疲労強度の向上に有効であることが確認できた.これに加え,油井管 ねじ継手の締結時の摺動を模擬するような接触面圧の付与,またはリン酸マンガンの品質 を実機の締結完了時に近づけた状態にする試験を実施すれば,実体におけるフレッティン グ疲労強度の差を再現できる可能性はある.さらに,このフレッティング疲労試験によっ て種々の表面処理や潤滑剤がフレッティング疲労強度に及ぼす影響を明確化でき,実機ね じ継手の疲労強度向上に資する表面処理や潤滑剤の組合せを提案することが可能となる.

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