第 1 章 緒言
1.2 油井管ねじ継手の疲労特性に関する過去の研究
1.2.2 油井管特殊ねじ継手の疲労特性に関する研究
油井管特殊ねじ継手の耐疲労性能に関する研究がなされるようになったのは,2000年頃 とまだ比較的歴史が新しい.背景としては,先ほど述べたDwCの他に,ライザー管(海底 の油井口と洋上のリグを繋ぐケーシングパイプ)に従来の溶接継手ではなく,ねじ継手が 適用された際に潮流による繰返しの回転曲げに対する疲労性能を確保する必要が出てきた ことが発端である[50].
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油井管特殊ねじ継手に関する研究としては,実体疲労試験による性能評価の事例が最も 多い.実体疲労試験の主目的は,製品のS-N線図を取得し,その疲労性能を,顧客をはじめ とする対外に保証することである.例えば,疲労に関する既存の規格で定められた母材の S-N線図と実製品の疲労性能を比較する方法があり,代表的なものとしてノルウェーの船級 協会DNV GLが定める溶接継手母材の疲労設計基準のDNV-B線[51]との比率SAF(Stress Amplification Factor)に基づく評価[52](図1-26)が挙げられる.実際に,顧客からも製品の SAFに関する問合せを受けることが多く,このSAFに基づく製品の疲労性能評価が世界中に 浸透している.なお,油井管特殊ねじ継手では,母材の降伏応力が500 MPa以上の場合を対 象としたSAF基準[51]も適用され始めている.
Schesら[52]は,図1-27のように実体疲労試験後の観察から,ピンねじ底から貫通き裂が発 生すること,その原因はねじ底面とねじ山頂面の繰返しすべりに伴うフレッティング疲労 の可能性があると推定している.また,実際にライザー管へ油井管ねじ継手を適用するた め,図1-28に示すような新ねじ継手を開発した[9,52].この際,ねじ底の応力集中を緩和す るためにねじ底の曲面の曲率を増加させるとともに,噛合い端部のピンねじ底の接触面圧 を低減させるためにボックス外表面の剛性を低下させた.このねじ継手は実体疲労試験で も評価され,従来のねじ継手と比較して疲労寿命が約5倍となったと報告されている.確か に実体疲労試験において疲労強度の向上を確認できてはいるが,それがフレッティング疲 労強度の向上によるものであるかは明記されてはおらず,試験後のピンねじ底のフレッテ ィングの状態の比較などは行われていない.
図1-26 DNV-B線に基づくSAF評価の概念 [52]
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(a) Fatigue failure at PIN thread root
(b) Cracks on PIN thread root
(c)Fretting fatigue mechanism on PIN thread root 図1-27 油井管特殊ねじ継手における疲労破壊の一例 [52]
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(a) Design modification for improving the fatigue performance, as indicated in blue-colored line
(b) Comparison of the fatigue strength between original design and improved design 図1-28 油井管特殊ねじ継手の耐疲労性能の改善方法および疲労試験の結果 [9,52]
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近年では,平均応力と疲労強度の関係や,疲労荷重を負荷した後に油井管ねじ継手の密 封性能が保証されているかに関する情報を,顧客から要求されるケースが増加している.
Baileyら[53],やLuら[54]は内圧による引張平均応力をねじ部に負荷した状態で疲労性能 を評価しており,図1-29に示すように引張平均応力に伴って疲労強度が低下することを報告 している.ただし,平均応力を負荷した試験の実績は一つの応力範囲でのみしかなく,S-N 線図の全体的な傾向を把握するのは困難であり,試験データの拡充が望まれている.また,
疲労荷重を継手に負荷した後の密封性能の評価に関しても検討されており,予め負荷する 疲労サイクル数は1/2 Nfが望ましいと提案されている.しかし,その理由については特に明 らかにはされていない.なお,密封性能の評価には,引張,圧縮,内圧,外圧の複合荷重 を負荷した密封性能評価試験がISO13679規格[55]に則り実施される.
図1-29 応力比と疲労強度の関係 [53]
一方で,Ongら[56]も図1-30に示すような手順で油井管特殊ねじ継手の疲労荷重負荷後の 密封性能を評価している.Phase Iの疲労試験でまず,製品のS-N線を取得し,Phase IIの密封 性能評価試験に供試する前に負荷する繰返し数を求める手法を提案した.疲労試験で負荷 する繰返し数は,図1-31のように90 % of SAFに相当する回数が良いと提案されている.し かし,この提案された繰返し数を決定した理由については記載されていない.これらのこ とから,油井管ねじ継手における,疲労荷重負荷後の密封性能評価試験に関しては,これ までのところ世界で統一された試験規格は定められておらず,各社の見解に応じて実施さ れていることがうかがえ,規格化が望まれていると言える.
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図1-30 油井管特殊ねじ継手の疲労荷重負荷後の密封性能評価の手順 [56]
(Phase I:疲労試験, Phase II:疲労荷重を負荷した後の密封性能評価試験)
図1-31 密封性能試験前に負荷する疲労荷重の繰返し数の決定方法 [56]
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油井管特殊ねじ継手の疲労強度を定量的に評価する研究については,上述したような有 限要素法解析によるSCFの予測や疲労強度の評価の事例がいくつかある.
例えば,Santiら[57]の研究では図1-32に示すような油井管特殊ねじ継手を対象としたSCF 評価が実施され,自社製のねじ継手のねじ底のSCFは低く,実体疲労試験においてもねじ底 からではなく,管本体からき裂が発生したため,十分な疲労性能を有していると報告して いる.しかし,この評価ではねじ底のSCFのみしか算出されておらず,実体疲労試験での破 壊箇所(管本体)を評価できているわけではない.
(a) Features of FEM mesh in critical thread root
(b) SCF distribution inside the threaded connection
図1-32 油井管特殊ねじ継手の応力集中係数SCFを評価する有限要素法解析[57]
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同様の研究は,図1-33に示すようにCarcagnoら[58]によっても実施されている.この研究 では,インテグラル型ねじ継手のねじ底の曲面のSCFが2.0以下であることを確認した上で,
平均応力を負荷した実体疲労試験を実施し,繰返し数が2.0×106回に達しても疲労破壊が生 じなかったことを述べている.しかし,このSCFが2.0という閾値はDwCに適用する上での 実績に基づく値であるとのことで,種々のねじの形状などを考慮した閾値になっていると は言い難い.
図1-33 油井管特殊ねじ継手の応力集中係数SCFの評価結果の一例 [58]
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Meertensら[59]は,これまでの特許などで公開された疲労性能を改善する継手形状を対象 に弾性有限要素法解析で引張荷重負荷時のねじ底の発生応力を評価する検討を行っている.
いずれも寸法を厳密にはモデル化できていないという問題があり,評価精度も決して高く はないが,図1-34 d)のようなボックス外表面にグルーブを設けた形状で,ねじ底の発生応力 を最も低減できることを示している.
図1-34 継手部の疲労性能の改善形状の一例 [59]