第 2 章 油井管特殊ねじ継手の疲労破壊モード
2.2 実体疲労試験の供試体
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在する.ピンとボックスにおいて,それぞれ最も断面積が小さい箇所が危険断面となり,
この箇所が最も低い静的強度と疲労強度を有する.
シールは内部の生産流体が油井管の外部に流出しないように油井管内部を密封する役割 を有する.また,トルクショルダは締結時の締付けストッパー(締結トルクの管理)の役 割を担う.
図2-1 実体疲労試験に供試した油井管特殊ねじ継手の模式図
図2-2 油井管ねじ継手における危険断面の考え方
ねじ部には接続を強固にするため,図2-3のとおりねじ底に締めしろ,すなわちピンとボ ックスのねじ径に径差 ( TDP-TDB ) を設けており,これを干渉量と呼んでいる.シール部 においても,ピンとボックスに同様の干渉量が設けられており,締結時にピンのシール面 で縮径変形が,ボックスのシール面で拡径変形が生じるが,それぞれが元の径に戻ろうと する弾性復元力によってシール面の全周が密着し,これにより密封性能が発揮される.ね
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じ部の径差は管本体外径の約0.2 %,シール部の径差は管本体外径の約0.4 %の値である.
また,油井管ねじ継手の各々の構成寸法には製造公差が設けられており,シール径,ね じ径など干渉に関わる部分は特に厳格に定められている.この公差の組合せが,密封性能,
耐トルク性能などをはじめとする諸性能に及ぼす影響が極めて大きいためである.本試験 におけるねじとシールの干渉量はそれぞれ公差の最大値を狙い,継手を製作してこの条件 をHighと称する.ねじテーパは雄ねじと雌ねじとも公差の中央値を狙い,ねじを製作して この条件をNominalと称する.これらを総合してHH-PNBNと表す通例となっている.
図2-3 油井管ねじ継手における干渉量の考え方(ねじ干渉量の例)
2.2.2 表面処理と潤滑剤
図2-4に締結前の供試体の表面の写真を示す.ボックス表面は,締結時の焼付きを防止す るためにリン酸マンガンで表面処理を施し,ピン表面は旋削まま(As machined)とした.また,
ピン外表面とボックス内表面にはAPI規格[2]の潤滑剤Shell type 3を塗布し,油圧パワートン グを用いて製品で規定される推奨トルク値で締結した.API規格の潤滑剤は,主成分に鉛,
亜鉛,銅などの重金属が含まれており,これらの重金属により締結過程において高い焼付 き抵抗が発揮される.しかし,近年の海洋環境の規制強化により,API規格の潤滑剤は欧州 を中心に使用が制限されており,有害な重金属を用いない潤滑剤も開発されている[3].
図2-4 締結前の油井管ねじ継手の表面の様子 Make-up
PIN thread diameter BOX thread diameter
TDP TDB
PIN BOX
Pipe axis
TDP> TDB
40 2.2.3 材料
本研究における材料はAPI規格の油井管材料L80,P110,Q125の3鋼種とした.これらの鋼 種における右側の数字は材料の降伏強度の最小値を示しており,例えばL80であれば80 ksi
(= 約552 MPa)以上の降伏強度を有することを意味する.また,API規格[4]では降伏強度 の最大値も規定されており,実際の降伏強度が上記最小値の100~120 %程度以下に収まっ ていれば,同じ材料として許容される.
いずれの材料についても,実体疲労試験の供試体と同ロットのパイプ素管から切出した 試験片で引張試験と平滑材の軸力疲労試験(荷重制御,応力比 R = -1)を行った.引張試 験片と疲労試験片はパイプの肉厚からパイプ軸方向に沿って切出した.ただし,円周方向 位置と軸方向位置については任意の箇所で採取しているため,それらの位置が機械的性質 に及ぼす影響がもしあっても考慮していない.試験で得られたピン材の機械的性質と疲労 限度を表2-1に,ボックス材の機械的性質と疲労限度を表2-2に示す.L80においては,ボッ クス材の降伏応力,引張強度ともピン材よりも高くなっていたのに対し,P110,Q125では いずれもピンとボックスで同程度の強度となった.疲労限度(繰返し数= 1.00×107回で未破 断の場合の応力振幅の最大値)についてはいずれも,ボックス材の方がピン材よりも高く,
特にP110ではボックス材の疲労限度がピン材の疲労限度よりも約30 %高くなっていた.
表2-3に材料の化学成分を示す.この値はAPI規格[4]で定められるmax. %である.P110に ついては,Cの成分は特に規定されていないものの,L80,Q125と同程度であると推定され る.ピン材のミクロ組織を図2-5に示す.このミクロ組織はピンの不完全ねじ部近傍の縦断 面を切出し,観察した.いずれも焼戻しマルテンサイトであり,旧オーステナイト粒径は それぞれ,L80で30 μm程度,P110で20 μm程度,Q125で20 μm程度である.
表2-1 ピン材の機械的性質 Material 0.2% proof stress
[MPa]
Ultimate tensile strength [MPa]
Elongation [%]
Fatigue limit [MPa]
L80 570 680 28 360
P110 850 940 18 410
Q125 960 1030 18 560
表2-2 ボックス材の機械的性質 Material 0.2% proof stress
[MPa]
Ultimate tensile strength [MPa]
Elongation [%]
Fatigue limit [MPa]
L80 600 730 27 400
P110 850 940 11 540
Q125 970 1040 18 590
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表2-3 L80,P110およびQ125の化学成分(max. %表示)
Material C Si Mn P Cr Mo
L80 0.43 0.45 1.90 0.03 - -
P110 - - - 0.03 - -
Q125 0.35 - 1.00 0.02 1.20 0.75
図2-5 供試材のミクロ組織の一例(ピン材)