第 3 章 接触中央部におけるフレッティング疲労き裂発生のメカニズム
3.4 接触面のフレッティング摩耗とフレッティング疲労き裂の位置に関する評価
78
3.4 接触面のフレッティング摩耗とフレッティング疲労き裂の位置に関する評価
79 3.4.2 途中止め試験後の接触表面の様子
図3-23に接触面圧50 MPaの途中止めフレッティング疲労試験における接触表面の様子を 示す.応力振幅は180 MPaとした.図3-23(a)に示すように,接触表面の全面で比較的緩い摩 耗が確認されるが,繰返し数が104回近傍に達すると接触端部の摩耗が激しくなっていた(図 3-23(b)).その後,図3-23(c)および図3-23(d)のように,繰返し数の増加に伴って摩耗の激し い領域が接触内面にも進展していき,フレッティング疲労き裂が摩耗の比較的激しい領域 と比較的緩やかな領域の境界付近で発生した.
図3-23 途中止めフレッティング疲労試験における接触表面の様子
(接触面圧Pc = 50 MPa,応力振幅σa = 180 MPa)
80
図3-24に接触面圧100 MPaの途中止めフレッティング疲労試験における接触表面の様子を 示す.応力振幅は図3-23と同様に180 MPaとした.図3-24(a),(b)のように接触表面全域で比 較的緩い摩耗が発生した後,接触端部近傍から比較的激しい摩耗が発生する点は図3-23と同 様の傾向であるが,フレッティング疲労き裂の起点が接触端部となっている点で異なって いた.
図3-24 途中止めフレッティング疲労試験での接触表面の様子
(接触面圧Pc = 100 MPa,応力振幅σa = 180 MPa)
81
3.4.3 接触中央部におけるフレッティング疲労き裂発生に関する考察
2種類の接触面圧における途中止めフレッティング疲労試験結果を踏まえ,全すべり状態 におけるフレッティング疲労き裂の発生メカニズムを考察した.図3-25に接触面圧が比較的 低い50 MPaの場合のメカニズムを示す.上段が試験片のフレッティング摩耗の進行状況を,
下段が試験片接触面における接触面圧の分布を表している.試験開始時では接触端部の接 触面圧が最も増加するため接線応力が集中し,フレッティング疲労き裂は接触端部から発 生しようとすると考えられる.しかし,接触面圧が比較的低い場合は,比較的大きな相対 すべりの影響で,試験初期の段階で接触端部の摩耗が起こり,接触端部の接触面圧が低下 するとともに接線応力の集中が緩和される.そのため,フレッティング疲労き裂が発生す る接線応力の高い位置は接触内面に移動し,フレッティング疲労き裂は摩耗の激しい領域 と緩やかな領域の境界で生じる応力集中により発生する.しかし,その境界は繰返し数に 伴って移動するため,主き裂に成長するまでのき裂が発生するにはある程度の繰返し数が 必要となる.それは,フレッティング摩耗が定常状態となって境界が移動しなくなった後 である.
図3-25 全すべり状態におけるフレッティング疲労き裂発生のメカニズム
(比較的低い接触面圧Pc = 50 MPaの場合)
図3-26に接触面圧が比較的高い100 MPaの場合のメカニズムを示す.接触面圧が比較的高 い場合も,試験初期開始時では接触端部の接触面圧が最も増加するため接線応力が集中す ることで,フレッティング疲労き裂は接触端部から発生しようとする.しかし,接触面の 相対すべり量も比較的小さいため,フレッティング摩耗が接触端部の応力集中を緩和する
82
ほどに発達する前に,試験初期から接触端部における接線力の集中によって,フレッティ ング疲労き裂が発生してしまったと考えられる.
図3-26 全すべり状態におけるフレッティング疲労き裂発生のメカニズム
(比較的高い接触面圧Pc = 100 MPaの場合)
以上のブリッジパッド式フレッティング疲労試験の結果を踏まえ,接触中央部でのフレ ッティング疲労き裂の発生は,全すべり状態での接触面における接線応力が最大となる箇 所を接触内面に移動させるほどの大きな相対すべり量が一つの主要因であることがわかっ た.第2章でも述べたとおり,油井管特殊ねじ継手においては,締結時に雄ねじと雌ねじの 挿入面には軸方向に所定のすき間(製造公差にもよるが100 μm程度)が設けられており,
相対すべり量も接触面中央でのフレッティング疲労き裂の発生につながる程度に大きくな るとともに,図3-25のような接触面圧分布の変化を呈する可能性が十分にある.
これらのことから,油井管特殊ねじ継手のねじ底中央部でのフレッティング疲労を防止 するためには,ねじの挿入面のすき間量を低減し,すべり量を極力低下することが有効で あると考えられるが,極度のすき間量の低減については締結時のねじ部の焼付きを誘発す る可能性があるため,その適正値を見出す必要がある.
なお,接触面の大きな相対すべり量のみではピンねじ底のフレッティング疲労の現象が 完全に解明されたとは言えず,例えば油井管特殊ねじ継手に塗布される表面処理や潤滑剤 の影響もフレッティング疲労に影響を及ぼす重要な因子であると思われる.これらの影響 の評価については,次章にて詳細に検討する.
83