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鉄鋼業界の事業環境の履歴

第 4 章  鉄鋼業の事業成熟における選択と集中

3. 鉄鋼業界の事業環境の履歴

1)日本の鉄鋼業の進展・変化

十名(2004)によれば、日本鉄鋼業の歴史は、1901 年の官営八幡製鉄所の創業で幕開け

(参入)を告げたとされる。その後、約 100 年間の長きにわたり日本経済の基盤産業とし て発展を続け、今日の成熟期を迎えた。十名(2004,pp.192)は、鉄鋼業の成長を 6 つの 画期(ライフサイクル)に大別して、戦争を始めとする外部環境の変化に対しての行動と 成果を整理した。戦前は、生産量が増加した参入期に該当する。さらに成長期の鉄鋼業を 以下の 3 つの画期に分類している。 

① 近代鉄鋼業の成立・発展 

② 日本鉄鋼業の構造的発展 

③ 戦時鉄鋼業の発展と崩壊 

第二次世界大戦後の 1949 年には、財閥解体の「過度経済力集中排除法」により、独占企 業であった日本製鉄が、八幡製鉄と富士製鉄に分割された。これを機会に、日本における 鉄鋼産業は完全な民営段階に移行した。その後、平炉メーカーであった川崎製鉄、住友金 属、神戸製鋼が、銑鋼一貫体制に移行し、日本鋼管を含めた寡占5社間で激しい市場競争

が展開された。 

十名(2004,pp.226)によると、八幡製鉄と富士製鉄は、1960 年の再合併を期に新日本 製鉄と改名、国内における協調的寡占へとシフトを進め、国際的再編に対応できる巨大企 業の創出を図ったとされる。この時点から、国内市場の成熟に直面した鉄鋼業は、海外展 開を視野に入れて体制を整備した。国内市場は、石油危機(1973 年、1979 年)を経て内需 成長が停滞し、輸出に関しても日米鉄鋼摩擦が顕在化する中で、対米自主規制により完全 に管理貿易に移行した。このため、1970 年代に大型高炉の建設を進めた鉄鋼各社は、設備 稼働率の低下に苦しんだ。1980 年代半ば以降は大規模な設備廃棄に繋がり、鉄鋼業の体力 は消耗していった。1976 年をピークに生産が漸減していく中で、過剰設備の整理が行われ た。その後、5社間で強固な業界協調体制が取られ、大口顧客との長期継続契約や共同開 発の仕組みを構築した(十名,2004,pp.231)。 

鉄鋼製品の大口顧客の自動車業界においては、世界的な再編が進行しており、日産自動 車はこれまでの取引を従来の慣例を破り、1999 年に競争原理を導入し、品質と価格から納 入業者を決定する方式に切り替えた3。これを契機に、大型の水平合併・統合が行われ、2002 年の JFE(NKK と川鉄の経営統合)に繋がった。その後、 新日本製鉄は 2012 年に住友金属 と合併、2019 年には日新製鋼を子会社化する業界の再編により、JFE との寡占 2 強体制と なった。 

4-2  国内粗鋼生産量と世界シェアの時系列変化

(出所)鉄鋼統計要覧より作成

3 この契機はゴーンショックと呼ばれる。

2)グローバル化の業界への影響

国内では、集約化により過剰設備の廃棄が進められたが、海外においては、韓国の POSCO、

台湾の中国製鉄、そして中国の宝山鋼鉄が日本の技術支援を受け、近代製鉄技術を武器に 台頭してきた。このため、安価な鋼材が国内市場に流入してきて国内における鋼材価格も 影響を受けるようになった。中国の台頭により、寡占化が進んだ日本の鉄鋼業において、

製造価格に見合った販売価格を確保することが出来なくなってきた。ただ日本の製鉄業は 長い間の技術の蓄積があり、多くの先端商品は価格決定権を有していた。差別化商品によ りグローバル化が進む業界の中でもコスト優位性を保っていた。 

図 4-2 に示すように、日本の粗鋼生産量は、世界シェアにおいては 1970 年代前半の約 16%

をピークに低下している。この要因は中国の生産の増加であり、世界市場では過剰生産の 状態になっている。特に中国は、2013 年で世界の需要と供給のおよそ半分を占めるまでに 成長している。日本の鉄鋼業は、メッキ等の付加価値を有する高級製品と、高品質の母材 を主体とする優位性のある鋼材を武器に、輸出を維持している(川端,2004)。 

4-3  輸出量の推移

(  注)2017年度実績:輸入鋼(普通鋼)単価=622$/t、輸出鋼単価=655$/t、輸出量=3721.8t、

輸入量=3309.9

(出所)貿易統計

特に、自動車産業や電機産業においては、日系企業をはじめとして多国籍企業がアジア 各国で現地生産を進めており、現地生産に付随して製品の輸出と共に筐体等に使用される 母材も増加している。現地で母材を加工するケースでは、技術供与と母材供給の条件で現 地企業との提携、あるいは自力で工場を建設するなどして、国内と同等の品質の製品を出

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8

2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017

各年度値/2017年度値

年度

輸出鋼(単価) 輸出量 輸出金額

荷できる体制を構築している。図 4-3 に輸出量と金額を示すが、輸出量は横ばい状態で、

輸出金額は徐々に減少している。かつて、先端技術を有していた鉄鋼製品といえども、徐々 にコスト優位性を失ってきている4。 

3)人的資本

高炉を保有する鉄鋼業の従業員は、川端(2004,pp.255-258)によれば生産量のピーク 時期にあたる 1978 年には約 21 万人であったが、バブル期の 89 年には 14 万人、JFE 発足前 年の 2001 年度には 6 万人に減少し 89 年度以降の減少率は 55%にのぼるとされる。その後 は図 4-4 に示すように従業員数は横ばいになっている。従業員の削減は新規雇用の抑制、

作業の外注化、そして関連部門の分社化とともに進められた。このため、製鉄所の総雇用 数に対する外注比率は 1991 年には 60%で、2001 年には 70%に増加した。

4-4  鉄鋼各社従業員数の変化(連結)

(注1)2017年を基準にして指数化換算している、新日鉄住金は2012年度までは新日鉄+住金、

JFE2001年度までは川鉄+NKKとする. 

(注2)2017年度実績:新日鉄住金=93,577人、JFE=61,234人、神戸製鋼=37,438人、日立金属=30,390人. 

(注3)新日鉄住金(鉄鋼事業)は、連結従業員数のうち鉄鋼事業の比率を示す. 

(出所)日本鉄鋼連盟「鉄鋼統計要覧」、東洋経済新報社「会社財務カルテ」. 

4 新日本製鉄(現・新日鉄住金)から高級鋼板の製造技術が韓国の鉄鋼大手ポスコに流出していた問題が 和解(日本経済新聞(電子版)、2017/4/18 記事)。

川端(2004,pp.257)は、人件費の削減のための外注化に伴い、多くの問題が生じてい ると指摘している。人的資本に関しては、日本企業の本来の強みであった技能の継承とモ ラル維持が出来なくなる点を指摘している。次に、職場の安全性に関しても、2001 年以後 には死亡災害が増加し、鉄鋼産業界に対しては、職場の安全スキルの低下が懸念されてい る。また、安全管理問題と共に、職場のモラルハザードの深刻さを示す品質問題5も発生し ている。 

清田(2016)は、1980 年から 2009 年までの貿易データを使い、資本、熟練労働、非熟練 労働、そしてエネルギー投入の生産要素から、ヘクシャー=オリーン・モデルに準ずる貿 易パターンを確認している。2000 年以降は輸出と輸入にこの特徴を示す傾向が解析から確 認しにくく、近年国際貿易において、日本の強みであった熟練労働の比較優位が失われて きていることを指摘している。 

4)販売価格と原料価格の履歴

冨浦(2004,pp.310-313)によると、鉄鋼業において製造コストは 4 割程度を占め、原 料の鉄鉱石と原料炭は全量海外からの輸入に頼っているため、為替と政治・経済の影響を 受けやすい。また、94 年の地球温暖化防止条約により製造量も制限されることになった。

この課題解決の対策として、米国で鋼材のリサイクル技術による建材用鋼板の量産が増加 している。日本では年間生産量の約 30%がスクラップの利用であるとされる。 

冨浦(2004,pp.326)によると、今後の鉄鋼製品は、良質な鋼材を大量生産する高炉・

転炉法と、電気炉法に二極化すると考えられている。日本が国際競争力を保っていくには 得意とする高級鋼材の供給が必須となる。特に、輸送用機器分野では、アルミや炭素繊維 強化プラスチックなどの代替品との競合や、耐食性の優れた石油掘削用の継ぎ目なし鋼管、

そして電気機器向けの珪素鋼板など原料から作り込みが必要である。一方で、電気炉法は、

投資額が高炉・転炉法に比べて安価で、地球温暖化ガスである二酸化炭素の発生が少ない リサイクルプロセスであることから、コスト重視の建材などの汎用品の製造に適している。 

世界の鉄鋼製品は、2000 年代から中国が急速に生産量を増やしてきたため、原料の鉄鉱 石と原料炭価格が高騰した。これらの原料の供給元である鉱山は、世界規模で寡占化が進 んでおり、価格交渉力が強い。ユーザである日本の鉄鋼業も、対等な交渉力を維持するた めには統合を進める必要があった。大口顧客である自動車業界も再編が進み、同質材を供 給している鉄鋼業界だけが 5 社共存でいることは、価格交渉力の点から困難な状況に置か れていた。原料の鉄鉱石と原料炭は、図 4-5 に示すように中国の増産により価格変動が大 きく、原料の安定確保の視点から、規模が事業継続の大きな要因となってきている。この 様な原料の安定確保の動機から、日本においても JFE と日本製鉄の 2 強に再編されていっ

5 神戸製鋼所はアルミ・銅製品の品質データ改ざん事件で不正競争防止法違反(虚偽表示)の罪に問われ た (日本経済新聞社、2019/3/13 記事)。