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仮説の検証

ドキュメント内 企業ライフサイクルにおける組織行動の研究 (ページ 171-175)

第 8 章  人的資本が地域経済に及ぼす影響

6. 仮説の検証

地域の企業研究から、設定した仮説に対して新たな発見的事実が得られた。それらについ て設定した仮説ごとに説明する。 

1)仮説1 

7 章で解析した岡山県の従業員 100 名以上の 53 社の製造業では、正規従業員を 80%以上 と高い比率で雇用(上場企業のデータ)しており、かつ地道な技術開発を行っていること が知識創造の指標として測定した出願特許から検出できた。特許出願件数が 10 件以上の企 業が半数を占め、ノウハウによる内部蓄積スキルを含めるとさらに技術蓄積は大きいと推 定される。この点から製造業は『受動的学習モデル(PLM)』を源泉とした事業形態である ことが検証できた。本研究の対象とした製造業の平均年齢は 53 才と長寿であり、図 8-3 に 示すように製造業は県民所得と正の相関がある。このように製造業の比率が高い地域は、

豊かであり県民所得の持続性から径路依存性の存在を強く示唆している。製造業に分類さ れる企業は、地域の事業環境に適応して存続するために特許、ノウハウを蓄積した長期の

0.37 0.38 0.39 0.4 0.41 0.42 0.43 0.44 0.45

0.350 0.370 0.390 0.410 0.430 0.450 0.470

ジ ニ 係 数

無業割合(%)

東 京

奈 良

競争原理に基づいた『改良型技術革新』により、自らの技術を磨いて生存してきたことが 確認できた。表 8-4 の人的資本の要因解析によると、製造業における企業特殊熟練を習得 するのには、学校教育と経験学習等が必要なため時間を要する。このスキルの習得時間に より、製造業の正規従業員比率は高いが、雇用創出力は小さいことも確認できた。 

  今後の課題として、地域では育成に時間のかかるスキルが必要な製造業で高齢化による 人材不足から空洞化が進んでいる点が挙げられる。この点に関しては、若者の失業率の低 い地域では、大卒新卒者に対しては 100%インターンシップを実施しており、今後の企業と の良好なマッチング活動に繋げる方法として示唆するところがある。地域には中核となる 中堅企業の役割が大きい。地域外との交易により情報、人材を地域に呼び込む大きな役割 を担っているので育成が大切になる。 

2)仮説2

5、6章の地域における企業調査から、小売業、サービス産業は地域に多くの雇用を生 み出していることが実証できた。しかし、雇用は創出しているがスキルの蓄積の低い非正 規従業員の雇用が中心であることが課題として挙げられた。少子高齢化、外注化等におけ る事業環境の変化に伴う新たな雇用の場へは、小売業、サービス業の事業形態の『積極的 探究モデル(ALM)』が適応していることが検証できた。 

特に、小売業では事業のグローバル化に伴い低価格商品が優位性を持つことからディス カウント・スーパーなどの業容が拡大し雇用が増えているものの、創出される雇用はパー トを主体とする非正規従業員主体である。小売り事業の生産性の向上により、集積の進ん だ形態の企業が増えており成長は大きい。 

またサービス事業分野で集約水準の低い福祉・介護事業等の雇用創出力は大きいが、生 産性が低く非正規従業員が主力の企業が多い。一方で教育サービスでは正規従業員比率の 高い事業形態を取る企業も存在しており、サービス業態の中でも二極化が進んでいること が検証できた。 

3)仮説3

良好な労働環境を創り上げてきた地域では、持続し安定した雇用とあらゆる年齢層の知識 獲得と蓄積に取組み、労働環境整備を進めて成果を得ていることが表 8-5 の生活指標で確 認できた。雇用を守ってきた地域では、実践型の知識獲得訓練により雇用環境変化に対し、

保有能力に応じて柔軟に適応している。業種では、製造業を核とする雇用の場を守ること で良好な生活経済を獲得できていることが検証できた。 

7. まとめ

これまで地域の雇用を支えてきた中小企業が、グローバリゼーションの時代に徐々に衰 退してきた。これらの事業環境の変化に対応するため、雇用を創出する施策16は産業集積17の 振興を中心に進められてきた(松原,2013)。これまでの 47 都道府県における労働環境の 分析から、人的資本に及ぼす影響は、以下のように整理できる。 

① 雇用環境 

雇用の創出は正規従業員の比率が低く、低価格戦略を取る小売業、サービス分野に多く 見られることが分かった。これは全国における雇用環境における傾向と一致することから 地域差の影響は小さい。またこの業態の雇用は保有スキルの蓄積をあまり必要としない非 正規雇用者の割合が高い傾向が見られた。卸・小売業は集約が進んでおり、非正規従業員 の比率は高いが雇用者は横ばいか若干の減少傾向にあった。 

② 二極化するスキルの融和 

高度なスキルが要求される技術蓄積型企業は、少ないが存在することは確認できた。こ のような知識創造企業による雇用の創出は小さく、地域全体における影響は小さいことが 示された。製造業全体では正規雇用率は高いものの雇用者は減少傾向にあった。 

③ 資源の有効活用 

インフラ関連の企業は地元の雇用者を多く抱えた事業形態と言える。成長性は低いもの の安定した雇用を生みだしている。一方で、事業環境の変化に伴い、収益性において地域 間の格差が大きくなっている。このため、事業環境の変化に適応できるように情報通信技 術の活用とスキルアップが不可欠となる。良好な労働環境の整備には、継続した教育訓練 と雇用内容の情報発信が有効である。 

本研究における解析からは、スキルの蓄積が必要な企業の減少は従来の雇用慣行である 終身雇用、年功序列制度の存続を難しくしており、非正規で低スキルの雇用割合が増加す る傾向が読み取れた。労働者の高齢化もますます進行し、これまで地域の企業内に蓄積し た技術資源が廃業等により加速度的に減少していく状況において、社会全体で人的資源の 減少を抑制する施策が望まれる。 

このように解析結果をみてくると、雇用環境と質が生活経済の原資18である収入を通して、

生活の満足度19に及ぼす影響が大きいことが見えてくる。地域経営には、如何に地域が必要 としている労働力を提供していく流れを作るかが重要である。そのためには、これまで十 分に活用されていなかった高齢者、女性、障碍者の働きやすい環境づくりが不可欠である。

16 格差が小さくて県民所得の大きい豊かな地域の雇用環境の条件を整理して、策定された施策。

17 中村(2011)によれば、地域の産業集積については長年に渡り丹念に調査され、多くの研究者が独自の

「産業集積」概念を定義している。

18   日本総合研究所(2018)『全 47 道府県幸福度ランキング』東洋経済新報社.で幸福度を 47 都道府県 についてランク付けしている。

19 大竹・白石・筒井(2010)『日本の幸福度』、経済協力機構(OECD)偏(2015)『幸福度白書』参照。

さらには、将来の雇用創出の源泉である教育訓練と継続して知識を蓄積できる社会教育の 整備が重要である。これらの環境を整備し、良質な雇用の場、助け合いなどの良き慣行を 生かし、そして径路依存性をうまく環境変化に適合させた地域の優れた地域経営の事例が 参考になると考えられる。 

終章  まとめ

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