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各指標の時系列履歴

第 2 章  企業のライフサイクル

4. 各指標の時系列履歴

1)設備投資

Dickinson(2011)によると、本研究で起業ライフサイクルの段階を特定するために使用

する最初の変数は、設備投資である。 企業の設備投資は、設備への多大な投資を意味する。

設備投資に対する企業の投資には、初回購入時に多額の現金支出が必要であり、これは投 資活動によるキャッシュフローとして計上されている。 設備の初回購入後、見積耐用年数 にわたって資産の原価を減価償却する必要がある。 設備の設備投資は、発生主義である減 価償却費と機械的に関連しているが、設備投資活動と売掛金、棚卸資産および買掛金を含 む運転資本勘定の調整との間に関連があるかどうかは不明である。

Bushman, Smith and Zhang

2005

)の議論は、企業の固定資産への投資は、予想される 成長を支えるための運転資金に関連付けられる6。資本引当金(棚卸資産、売掛金、買掛金 の変更による)と減価償却費は機械的に発生するが、運転資金の発生は営業上の意思決定 の関数として発生する。さらに、年ごとの減価償却引当金の変動は、通常企業による定額 法または加速償却方法の選択に関連している。

5 2017年版では1,849社の企業年次観測値である。

6 企業がプラントや機器を購入すると、在庫を生産することになり運転資金の増加につながる。 在庫が顧 客に売却されると、売掛金の形で与信を付与する可能性が高く、その結果運転資金がさらに増加する。

設備投資は、Anthony and Ramesh(1992)における企業のライフサイクルを識別する ためにも使われている。彼らは、成長している企業は高い資本支出を持つ可能性が高いが、

衰退している企業は低い資本支出を持つ可能性が高いと主張している。彼らは、企業がど のように資本能力を高めるのかを把握するために、企業の資本支出を用いている。

2-2

1970

年〜2018年度における製造業と非製造業の設備投資の履歴を

2018

年の設 備投資を基準として示す。1990年までは、設備投資に積極的であり年々増加してきたが、

1990

年のバブル経済の崩壊とともに

2002

年までは投資を抑制している。それからは、

2008

年のリーマンショックまで投資を徐々に増やしたが、リーマンショック発生後は大幅に投 資を抑制した。その後

2018

年まではリーマンショック前の水準まで約

10

年をかけて戻っ てきた。

2-2  設備投資の履歴

(出所)財務省「法人企業統計」.

本研究で企業のライフサイクルの段階を識別するために使用する

3

番目の変数は、売上 原価のレベルである。Stickney et al.(2003)は、企業が成長しなくなったとき、コストの 削減に関連して収益が増加すると報告した。その結果、成長している企業は高い生産コス トを持つ可能性があるが、成熟した企業は低い生産コストを通じて競争力を維持する可能 性がある。各期間の企業の製造原価は通常、変動費と固定費で構成されている。 原単位の 変動費は、期間ごとに変動することはないと予想される。ただし、(1)固定費の総額が一 定で、期間あたりの生産量を増やす、または(2)生産原単位を一定にしたままで、固定費 の合計額を減ずると、

1

単位当たりの固定費は減少する。原単位当たりの固定費の衰退を含 む両方のシナリオは、企業が成熟期に入ったときに経験する効率の例である。製造原価に

おいては原単位当たりの固定費として在庫に反映され、収益が計上された期間の売上原価 として認識される。

2)人的資本投資

企業のライフサイクル段階を特定するために本研究で使用する

2

番目の変数は、企業の 雇用者数の変化である。主に企業は、設備、人的資本、資金によって成り立っているが、

この3つの要素のうちどの要素が企業にとって最も重要となるかは、業種や時代によって 異なる。鉄鋼業や化学工業等の素材産業においては、量的優位性のためには大規模な設備 投資が不可欠である。また手元の資金が潤沢でない事業開始直後や金融機関が貸し出しに 慎重な時代では、資金の確保が最優先される。 最近の情報化技術が急速に発展する事業環 境においては、人的資本の質の重要性が増している。

2-3

に、最新データの

2017

年度を基準にして、製造業における、事業所数、従業員数、

付加価値、有形固定資産投資額、そして労働生産性について

2000

年からの時系列で整理し た結果を示す。

2-3  生産性指数の履歴(製造業)

(  注)製品出荷額は右軸、他の指数は左軸、指標:各年度の実績値/2017年度の実績値。

(出所)経済産業省「工業統計調査」

製品出荷額の水準は、変動はあるものの一定であるが、事業所数は一貫して減少してお り事業所当たりの集積は進行している。一方で、従業員数は減少しているため労働生産性 は向上している。従業員数は付加価値、有形固定資産投資額は製品出荷額の変動に連動し ているが、停滞している。これらの指標から見ると、製造業はバブル経済の崩壊以降、停 滞した期間が

30

年間にわたり続いていている。

企業を取り巻く経済社会の構造が大きく変化してきており、ITの高度化とグローバル化 の深化による知識集約型または人材集約型企業とも呼ぶべき企業が、今後の経済の中核に なっていくと予想されている。この影響は、ITにより代替される未熟練労働者は減少し、

新しい技術を扱うことができる熟練労働者の需要が高まる。このため、ライフサイクルに おいて成長する企業は、高い労働生産性を達成できるのと共に人件費は増加する。

Mincer (1974)は、教育水準と潜在経験年数の二次関数で時間当りの賃金率近似できる

ことを人的資本論から導出した。川口(

2011

)は、日本のデータに関しても人的資源の蓄 積が経済発展や経済成長を促進するという議論がおこなわれ、ミンサー型賃金方程式が良 く当てはまることを明らかにした。

Jorgenson and Griliches

(1967)は、成長会計におけ る労働投入の中に教育経験を織り込む方法を考案し、この考え方は現在の成長会計の標準 形となっている。

製造業のなかで、輸送用機械を除けば、ほとんどの業種で雇用者は減少している。特に、

減少が大きいのは電気・電子関連の業種であり、清水・宮川(

2003

)は、

1985

年〜

1995

年の「民生用電気機械器具製造業」を対象にした参入・退出と生産効率の分析を行った。

その結果から、生産効率の比較的高い事業所の多くが、海外の安価な労働力を求めて国内 市場から退出した行動が見出された。素材産業である化学工業や鉄鋼業ではリーマンショ ック後は、雇用が徐々に改善してきている。生活関連の食料品については、雇用者の増減 はほとんどなかった。雇用者の増減が生産性によるものか、需要の変化によるものかにつ いては、投資と人的資本の質を考慮した生産性の分析が必要である。

3)収益の変化

Dickinson(2011)によると、企業のライフサイクル段階を特定するために本研究で使用

する

3

番目の変数は、企業の収益の変化である。

Jones

1991

)は、企業の収益の変動は 企業の業務の客観的な尺度であると主張し、収益の変動および有形固定資産の総額の関数 として、企業の売上高をモデル化している7。 また、Stickney et al.(2003)は、売上高の 成長率により収益の全体的な拡大を補足できると主張している。

Spence

(1979)は、企業 の成長段階は「急速で加速する売上高の成長」によって特徴付けることができると主張し ている。

Anthony and Ramesh

1992

)は、企業の売上高の伸びは成長している企業では 高く、下落している企業では低いと主張している。

4)年齢

7 売上高の変化は現金ベースの売上高と会計発生高ベースの売上高(売掛金など)によって左右される可 能性があるため、企業業績の客観的な指標として企業の収益の変動を使用することは未解決の問題である。

Dechow, Sloan and Sweeney1995)は、企業の総売上高の増減を調整し、未収入金の増減を控除するた めに、未収金ベースの売上高(売掛金の増減による分類)を差し引いている。

本研究で企業ライフサイクルの段階を識別するために使用する

4

番目の変数は、企業の 年齢である。

Anthony and Ramesh

1992

)は、「ライフサイクル段階における存続リス クの影響を最小限に抑えるために」非会計変数として企業年齢を使用している。彼らは、

若い企業は成長している企業、高齢企業は停滞している企業として扱っている。企業年齢 は経営者が年ごとに操作することができない変数であるので、年ごとの企業の運用上の進 歩を測定するための外的な因子を提供する。本研究では、帝国データバンク編「会社年鑑」

の創業年と評価の会計年度の差の年数を企業年齢としている。

5)キャッシュフロープロファイル

企業のライフサイクルの段階を特定するために本研究で使用する

5

番目の変数は、企業 のキャッシュフロープロファイルである。これは、企業のライフサイクルにわたる企業の 意思決定に関する情報を伝えるものとして、会計の先行研究で明確に説明されている。

Stickney et al.(2003)は、事業を拡大する企業は収益の増加とマイナスの営業 CF

を報 告する可能性が高いと主張している。この主張と一致して、

Dechow(1994)は、新しい企

業は事業開始時に現金を支出すると主張している(マイナスの営業

CF

につながる)が、成 長企業としての営業

CF

は企業の当期の業績の尺度である8

Stickney et al.

2003

)は、業界で存続し成熟している企業は、おそらく営業

CF

がポジ ティブであると報告するだろうと主張している。 Dechow(1994)は、企業が運転資金、

投資、資金調達のための安定した現金需要を抱えている場合、営業

CF

はタイミングとマッ チングの問題がほとんどなく、企業業績の有用な尺度になる可能性が高いと主張している。

このシナリオは成熟企業と一致していると主張するので、本研究では営業

CF

がポジティブ な企業を成熟企業として分類する。

衰退企業のキャッシュフロープロファイルは未解決の経験的問題である。

Stickney et al.

(2003)は、場合によっては、衰退企業がマイナスの運転資金の未収金(未収入金の回収 および棚卸資産の売却による)およびプラスの営業

CF

(過去の取引からの現金回収による)

を報告すると主張する。これとは対照的に、Ball and Shivakumar(2006)は、経済的損 失を経験した企業は営業

CF

がマイナスになり、会計発生高がマイナスになると主張してい る。 彼らの議論は一般的な経済的損失の事例に当てはまるので、それは事業が衰退してお り、おそらく閉鎖に直面する企業と一致している事例である。

しかし、衰退している企業を特定するための営業

CF

については、成長企業と衰退企業の どちらもマイナスの営業

CF

を報告する可能性が高い。このため本研究では別の変数を使用 して、営業

CF

からは分別が難しい

2

つの段階を区別した。ある企業がマイナスの営業

CF

を持ち、資金調達によるプラスのキャッシュフローまたはプラスの財務

CF

で債権者から資

8 しかし、Ball and Shivakumar(2006)は、企業の負の営業CFは経済的損失の代用であり、発生主義 者は適時に経済的損失を認識するだろうと主張している。 彼らの主張が成長中の企業の負の営業CFに当 てはまるかどうかは未解決の問題である。