第 8 章 人的資本が地域経済に及ぼす影響
4. 分析方法
1)先行研究での分析
5〜6章の実証研究では、企業の業態と人的資本の関係を明らかにするために、対象と する企業の事業環境への適応状況と企業成長と収益性により4つの類型に分類した。そし て類型分類に従って、それぞれのセグメントにおける雇用創出能力と雇用の質を解析した。
7 解析は、長畑秀和 (2018) 『R で学ぶデータサイエンス』 に準じた。
これらの企業が必要としている人材のスキルを明確にすることで、当該スキルを獲得する ための径路についても考慮した。この視点から、さらに雇用の多くを占める中小企業にお いて、今後質の良い雇用を創出するための課題を整理した。
7 章の実証研究では、長畑・中川( 2014)の研究に使用した岡山県の企業の調査結果を 使用した。当該研究は、岡山経済研究所が実施した従業員 100 名以上の企業に対するアン ケート調査(2012 年)の解析を骨子としている。この研究では、個別の企業を対象とする 解析を行うため、『岡山企業年報(各年版)』から財務情報を入手した。『岡山企業年報』に は一部の経営情報と雇用人数は公開されているものの、雇用の質の指標としている正規従 業員比率については記載されていない。このため、もう一つの重要な解析対象である雇用 の質に関しては、日本的雇用慣行の変容から読み解いた。調査方法は、非正規雇用者の人 数が開示されている上場企業の公開情報と『中小企業白書』を参考に解析した8。
2)本解析で使用したデータの説明
本研究の課題である地域における雇用を通しての生活の豊かさに影響を及ぼす要因を解 析した。この目的のために、表 8-2 に示す要因を選択した。表 8-2 には、これらの要因に ついての年度、出所、資料名を整理して示した。
データの選択に当たっては、
A 地域の生活経済 B 雇用環境
C 人的資本(C1:量、C2:質、C3:教育)
について指標となる要因を選択した。
これらのデータについては入手可能性と信頼性が重要になるために、お互いに相関の高 い要因が含まれる。重回帰分析においては、似たような説明変数を入れると、被説明変数 を説明変数としては重複することになり、推定精度を悪くする。この不具合は、説明変数 間に多重共線性が存在することになる。これらの重複する説明変数については、一方を削 除することが望ましい。これらの関連のある要因を含むと統計処理上において擬相関とな るので、統計処理によってそれぞれの要素間の影響についても解析する。
8企業情報データベース eol (アクセス日:2016 年 11 月 16 日).
表8-2 解析データの出所
要因 年度 機関 資料名
A 県民所得 2001 年〜 内閣府 県民経済計算 収入、支出 2014 総務省 消費者実態調査 ジニ係数 2014 総務省 消費者実態調査 B 企業数 2015 経済産業省 企業活動基本調査 事業所数 2015 総務省・経産省 経済センサス 本社流出・流入数 2014 帝国データ 転入・転出企業分析 大企業、小規模比率 2015 総務省・経産省 経済センサス
自営業比率 2015 総務省・経産省 経済センサス 製造業比率 2015 総務省・経産省 経済センサス 労働生産性 2015 総務省・経産省 経済センサス
特許等出願件数 2015 経済産業省 特許行政年次報告書 C1 人口増加率 2015 総務省 国勢調査
従業者数 2015 総務省・経産省 経済センサス 平均寿命 2015 厚生労働省 都道府県別生命表 有業者、無業者 2015 総務省 就業構造基本調査 女性労働力人口比率 2015 総務省 国勢調査
若者完全失業率 2015 総務省 国勢調査 高齢者有業率 2015 総務省 国勢調査 C2 正規雇用者比率 2015 総務省 国勢調査 生活保護受給者 2015 厚生労働省 被保護者調査 C3 大学進学率 2015 文科省 学校基本調査 社会教育費9 2015 文科省 地方教育費調査 職場体験実施率 2012 文科省 職場体験実施状況調査
3)産業組織の分類
本研究の目的である企業の雇用創出力と雇用の質の評価を定量的に行うため、各種指標 を以下のように設定した。解析に当たり対象企業の分類には業種をもって分類した。同じ 業態の中でも事業戦略は異なり雇用の動機も異なってくるが、業種の機能分類に従って製 造業、卸・小売業、サービス業、インフラ業を中心とするその他の 4 業態に分類した。こ
9 社会教育費の大半は、図書館、公民館、博物館、体育施設などの社会教育施設の維持管理費が占めてい る(田原・藤岡,2012)、一人当たりの費用:千円/人。
れらの業態の中で、特に注目したのは地域に安定した雇用の場を創出している製造業であ る。製造業は仮説で設定したように、長期にわたり技術を磨き市場に適合している面が重 要である。このため、製造業を業態でさらに詳しく解析する必要がある場合には、牧野(2011)
の分類方法10に準じて生活関連型:製造業(生活)、素材関連型:製造業(素材)、加工関連 型:製造業(加工)にさらに細分化した。
企業が保有する知識蓄積によるスキルの獲得が模倣困難性の源泉になるとの先行研究か ら、持続した雇用を維持している要因の評価方法として企業年齢を指標とした。持続性の ある成長を示す指標としては、企業が創出した直近 10 年間の特許出願件数を指標とした。
そして最後に、地域における雇用創造に必要とされる成長機会を得るための径路依存性を、
47 都道府県の各指標を用いて読み解くことで検証した。これらの解析により人的資本の重 要な源泉となるスキル、ノウハウ、ネットワークなどのスキル獲得方法を探索した。
本研究で使用した測定尺度は以下に説明するように設定した。
① 業種
業種分類は日本標準産業分類(第 13 回改訂版)を基本にして分類した。大分類の記号で製 造業(E)、卸・小売業(J)、サービス業(L,M,N,O,P,Q)、インフラ業、他(A,B,C,D,F,G,H,I,K)
とした。
② 年齢
企業年齢は創業年と 2014 年の差から求めた、創業年は帝国データバンク『会社年鑑』のデ ータを使用した。
③ 雇用創出能力
雇用創出能力は 2007 年の雇用数を基準として 2017 年度の 10 年間での従業員数の変化を雇 用創出能力とした。
④ 利益率
利益率は 2014 年度の売上高に対する経常利益の割合を利益率とした。
利益指標=2014 年の経常利益/2014 年の売上
⑤ 無形資産
知識蓄積は、2017 年度に出願された特許出願件数11を代理数とした。
⑥ 雇用の質
雇用の質は正規従業員比率を指標とした、非上場企業については個別企業については公 開されていないので上場企業についてのみ公表値を使用した。
4)統計処理と妥当性評価
10 製造業 F を、中分類でさらに生活関連型(中分類の 09〜15)、素材型(16〜24)、加工型(25〜32)に分類。
11 工業所有権情報・研修館、特許検索プラット・フォームで検索(アクセス:2016年12月15日)。
解析する対象の要因間の関係を調べるために、多変量解析法を使用した。データの分析 は、長畑(2017)の R プログラムにより相関分析と回帰分析により、それぞれの要因間の 影響度を解析する。要因間の擬相関の評価は、偏相関解析と多重共線性を分散拡大要因(VIF)
によりチェックした。
モデルの妥当性については、残差分析により異常値や外れ値が含まれていないことを確 認することで評価した。異常値の検出方法は、残差のプロットにより、ヒストグラム、時 系列プロット、散布図から評価した。要因の当てはまりの良さについては、自由度調整済 み寄与度から判定した。それぞれの要因の影響の大きさについては重相関係数から判定し た。