第 5 章 酸化物微粒子を用いた平坦かつ光散乱性を有する透明電極 基板の作製および評価
5.4 酸化亜鉛微粒子層上への透明導電膜製膜
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い、NP-ZnO層のヘイズ率の値が大きく向上していることが確認できる。このヘイズ率の増
加は、焼成温度の上昇によって NP-ZnO 層を構成する粒子の粒径が増大したことに起因し ているものと考えられる。図5.11(b) に各焼成温度において得られた平均粒径を横軸とした
波長550 [nm] における NP-ZnO層のヘイズ率の推移を示す。横軸に表面SEM画像より得
られたNP-ZnO層の平均粒径、横軸に波長550 [nm] における試料のヘイズ率を示した。図
より、波長550 [nm] におけるNP-ZnO層のヘイズ率値は層を構成する平均粒径の影響を受 け、構成粒径の増加とともに大きく増加するする傾向がみられた。このヘイズ率の向上は焼 成温度が550 [C] 以上の試料にいて特に顕著であり、最終的に450 [C] の焼成で約20 [%]
であったヘイズ率の値は、650 [C] では約40 [%] にまで増加した。
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SEM画像に示したようなAZO膜上でのクラック生成を確認した。また、このAZO膜上に おけるクラックは、焼成温度およびAZOの膜厚を変えた場合においても同様に確認された。
このAZO膜上におけるクラックの発生理由としては主に以下の二つが考えられる。
(1) NP-ZnOに起因したAZO膜のエピタキシャル成長
(2) AZO膜中に存在する内部応力によるNP-ZnO上からの剥離
特に、(2)の要因に関しては、AZO膜自体が高い内部応力を有しているため[11]、クラックの
生成に大きく影響しているものと考えられる。そのため、本研究では、NP-ZnO層を光散乱 層としてTCO基板に応用するため、NP-ZnO層とAZO膜との界面にバッファ層を形成する ことによってクラックの抑制を試みた。次項ではRFマグネトロンスパッタリング法により 形成したITO薄膜をバッファ層として用いた場合における、AZO膜上でのクラック抑制効 果について記述する。
5.4.2 ITOバッファ層の挿入
ITO薄膜は製膜温度以上でアニール処理を行うことにより、その内部応力を大幅に減少さ せることが可能であることが知られている[12]。そのため本研究では、低い内部応力を有す
るITO薄膜をNP-ZnO層とAZO膜界面にバッファ層として形成することにより、内部応力
によって発生するAZO膜上におけるクラックの抑制を試みた。また、AZO膜の下地として ZnO以外の物質を用いることによりAZO膜におけるエピタキシャル成長の抑制にも期待し た。ITOバッファ層はNP-ZnO層上に表4.1(2) の製膜条件にて製膜した。また、表4.1(1)の 製膜条件でAZO膜を製膜する際に400 [C] のヒーター温度にて加熱することにより、ITO 膜のアニール処理を施した。
図5.13にNP-ZnO層上へとITO薄膜を100 [nm] 形成した場合における、試料の写真およ
図5.13 ITO薄膜(100 nm)をバッファ層として用いたNP-TCO基板における(a)写真お
よび(b)表面SEM画像
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び表面SEM画像を示す。なお比較のため、ITO薄膜形成以外の試料の作製条件には図5.12 の試料と同様のものを用いた。図5.13の両画像より、図5.12にてみられたAZO 膜上のク ラックが発生していないことがみてとれる。この変化は、ITO薄膜がAZO膜とNP-ZnO層 間に生じている内部応力差の低減に成功したために生じたと考えられる。この結果より、
ITO膜のNP-TCO基板におけるバッファ層としての有効性を示した。
5.4.3 ITOバッファ層が微粒子積層TCO基板の各物性値に与える影響
5.4.2において ITOバッファ層がNP-ZnO層上に製膜された AZO薄膜上におけるクラッ
ク抑制に有効であることを示した。そのため、本項では形成したITOバッファ層の膜厚が、
作製した NP-TCO 基板の各物理的特性に与える影響について評価し、その結果についてま
とめた。
a. 結晶構造評価
NP-ZnO 層と AZO層の界面に形成したITOバッファ層がAZO薄膜の結晶性に与える影
響について試料のXRD測定の結果から評価を行った。図5.14はITOバッファ層の膜厚を
0、10、50、100、150、200 [nm] とした場合におけるNP-TCO基板のXRDパターンの比較
である。横軸を X 線の入射角度、縦軸をそれぞれの試料における最大ピークで規格化した 場合におけるXRDパターンとした。なお、参照としてZnOの各結晶面に対するXRD強度 比[13]、およびNP-ZnO単層膜のXRDパターンを併せて示した。はじめに、NP-ZnO単層膜 におけるXRDパターンについて述べる。NP-ZnO 層のXRD測定の結果より、ZnOのすべ ての面に起因したXRDパターンを得た。また、そのXRDパターンは入射角31.7 [°]、34.4 [°] および36.2 [°] において、それぞれZnOの(100)、(002)および(101) 面に起因した鋭いピ ークを示した。次に、ITOバッファ層を形成していない状態(0 [nm])においてAZO薄膜 の製膜を行ったところ、NP-ZnOとほぼ同様のピーク強度比を有するXRDパターンが得ら れた。このXRD パターンより、NP-ZnO 層上に製膜した AZOは下地であるNP-ZnO 層よ り、エピタキシャル成長の影響を強く受けていることを確認した。一方、ITOバッファ層の 形成を行ったNP-TCO基板に関しては、ZnOの(002)面に起因した鋭いピークのみが強く 表れ、それ以外の結晶面におけるピーク強度が大きく減少することを確認した。また、NP-TCO基板におけるZnOの(002)面以外の結晶面の強度比はITOバッファ層の膜厚が増加 するに従い減少する傾向がみられた。その結果、ITO膜厚が100 [nm] 以降ではほぼ他のZnO 結晶面に起因するピークは確認されず、ITOの結晶面に起因するピークが現れた。この結果 より、ITOバッファ層の形成が、AZO膜上のクラック発生の抑制だけでなく、AZO膜にお
ける下地NP-ZnO層に起因したエピタキシャル成長の抑制に有効であることを示そた。
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図5.14 ITOバッファ層の膜厚を0、10、50、100、150、200 [nm] とした場合におけるNP- TCO基板のXRDパターンの比較. なお、参照として、ZnOの各結晶面に対する XRD強度比、およびNP-ZnO単層膜のXRDパターンを併せて示した.
次に、最も強い回折ピークが現れた(002)面における結晶子径の変化について評価した。
図5.15にITOバッファ層膜厚を関数としたNP-TCO基板におけるZnO結晶の(002)面を 構成する結晶子径の推移を示す。横軸をNP-TCO基板におけるITOバッファ層の膜厚、縦 軸を結晶子径とし、参考としてガラス基板上に直製膜を行ったAZO/ITO積層膜における結 晶子径の推移を併せて示した。ITOバッファ層を形成しない場合において、NP-ZnO層を形
成するNP-ZnOの結晶子径は約39 [nm] の値を示した。一方、ITOバッファ層を形成した場
合、結晶子径のサイズはわずかに向上し、ITO膜厚が100 [nm] において最大の47.5 [nm] と なった。また、ガラス基板上に直接形成したAZO/ITO積層膜においてもほぼ同様の値が得 られた。これらの結晶子径のサイズは同条件にて作製したAZO単層膜の結晶子サイズであ
る約69 [nm] に比べて非常に低い値を示す。この結晶子サイズの大幅な減少は、ITOおよび
ZnO結晶界面における格子定数の不整合が生じ、AZO膜の結晶成長が阻害されたために生 じたと考えられる。そのため、今後更なるAZO膜の結晶性向上を行うためには、この格子 定数の不整合を解消することが課題となる。
10 20 30 40 50 60 70 80
Intensity [a.u.]
2/deg]
NP-ZnO 0 nm 50 nm 100 nm 200 nm
Reference 10 nm 150 nm
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図5.15 ITOバッファ層膜厚を関数としたNP-TCO基板におけるZnOの(002)面を構成
する結晶子径の推移. 参考としてガラス基板上へ直製膜を行ったAZO/ITO積層 膜における粒子径を併せて示した.
b. 電気的特性の評価
ITOバッファ層がNP-TCO基板の電気的特性に与える影響について評価を行った。図5.16 にITOバッファ層厚を変えて作製したNP-TCO基板におけるキャリア密度、ホール移動度 および抵抗率の推移を示す。横軸を ITO 膜厚、縦軸を各測定値とし、参考としてガラス基 板上へ直接製膜したAZO/ITO積層膜の値を併せて示した。なお、すべての試料における AZO膜厚の値は800 [nm]とし、ITO膜厚と足し合わせた数値を全体の膜厚として、各電気 的特性を導出した。図より、作製した NP-TCO 基板の電気的特性はバッファ層として用い た ITO 膜の膜厚に大きく影響を受けていることが確認できる。以下で各特性の変化につい て述べる。
NP-TCO 基板のキャリア密度の値は ITO 膜の膜厚の増加とともに大きく増加する傾向を
示し、約4.5 1020 [cm-3](ITO: 10 [nm] )から約1.8 1021 [cm-3](ITO: 200 [nm] )にまでそ の値が増加した。この傾向はガラス基板上のAZO/ITO積層膜においても同様にみられ、ほ ぼ同程度のキャリア密度の値が得られた。また、ITO薄膜を形成したすべての試料において、
AZO単層膜のキャリア密度約2.0 1020 [cm-3] よりも高い値が得られた。このキャリア密度 の変化の要因の一つとしては、ITO膜中における酸素離脱が挙げられる。真空中、高温下に おいてアニールすることにより、ITO膜中から酸素が離脱し、酸素欠損状態が作り出される。
ITOなどのn型半導体中における酸素空孔はキャリアのドナー準位として働くため、ITO膜 中にキャリアとして電子が供給される。この供給された電子の影響により、NP-TCO基板中 におけるキャリア密度の値が増加したと考えられる。
0 20 40 60 80 100
0 50 100 150 200
Grain diameter [nm]
ITO thickness [nm]
AZO/ITO/glass
AZO/ITO/NP-ZnO
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図5.16 ITOバッファ層厚を変えて作製したNP-TCO基板における各電気的特性. 参考と
してガラス基板上に直接製膜したAZO/ITO積層膜の各物性値を示した.
一方、試料のホール移動度の値は ITO バッファ層の膜厚が増加するに従い、低下する傾向 がみられた。その結果、NP-TCO基板のホール移動度の値はITO膜厚が10 [nm] において約 12 [cm2/Vs] を示したが、膜厚が200 [nm] の試料では約5 [cm2/Vs] にまで減少した。このホ ール移動度の低下は、キャリア密度の値が大きく増加したことにより、TCO膜中における 不純物散乱の影響が顕著となったために生じたものと考えられる。また、すべての試料にお けるキャリア密度の値はAZO単層膜の値約30 [cm2/Vs] に比べて低い値を示した。この結 果は、試料の結晶性の低さに起因しているものと考えられる。本研究で作製を行った試料は、
AZO/ITO界面における格子定数の不整合により、結晶子のサイズがAZO単層膜のものに比
べて劣っている。そのため、結晶子界面におけるキャリアの散乱の影響が顕著となり、AZO 膜中における移動度の値が低下したものと思われる。
10-4 10-3 10-2
0 50 100 150 200
Resistivity [cm]
ITO thickness [nm]
100 101 102
Hall mobility [cm2 /Vs]
1020 1021 1022
Carrier density [cm-3 ]
w/o NP-ZnO
w/ NP-ZnO
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抵抗率の変化について述べる。ITO膜厚が10-150 [nm] の範囲においてはNP-TCO基板の 抵抗率に大きな変化はみられず、約1.1 10-3 [Ωcm] 前後の値を示した。一方、ITO膜厚が
200 [nm] の場合においては、キャリア密度の大幅な増加により、NP-TCO基板の抵抗率の値
は6.5 10-4 [Ωcm] にまで減少した。また、ホール移動度の違いからすべての試料における
抵抗率の値はAZO単層膜の値である5.0 10-4 [Ωcm] に比べて高い値を示したが、そのシ ート抵抗の値は8-13 [Ω/sq] 前後と太陽電池用電極基板への使用に耐えうる値を得た。
c. 光の透過性
太陽電池の光窓層電極として用いる場合、試料の光透過性は非常に重要な要素となる。そ のため、NP-TCO 基板において ITO バッファ層膜厚を変えた場合における光透過性の変化 を評価した。
図5.17に各ITOバッファ層膜厚におけるNP-TCO基板の全透過率および散乱透過率スペ クトルの比較を示す。なお、評価に使用したNP-TCO基板は、膜厚および焼成温度がそれぞ れ約2000 [nm] および500 [C] のNP-ZnO層を光散乱層とし、AZO膜の厚みを800 [nm] と した。作製したすべての NP-TCO 基板は白みをおびた外観を有しており、可視光領域にお ける高い光の散乱性を示した。試料の散乱透過率スペクトルの結果より、すべてのNP-TCO 基板において波長1000 [nm] における散乱透過率の増加を確認でき、その値は形成したITO 膜の膜厚に依存せずほぼ同様の値を示した。全透過率スペクトルにおける光の透過性に関 してはITOの膜厚に対する依存性がみられた。ITO膜厚が10 [nm] と薄い場合において、作
図5.17 ITOバッファ層の膜厚を変えて作製したNP-TCO基板における全透過率および散
乱透過率スペクトルの比較. なお、NP-TCO基板におけるNP-ZnO層には膜厚およ び焼成温度約2000 [nm] および500 [C] のものを使用し、AZO膜の厚みを800 [nm]
とした.
0 20 40 60 80 100
400 600 800 1000 1200 1400
Transmittance [%]
Wavelength [nm]
10 nm 50 nm
100 nm
150 nm 200 nm TALL
TDIFF