第 5 章 酸化物微粒子を用いた平坦かつ光散乱性を有する透明電極 基板の作製および評価
5.6 積層微粒子 TCO 基板において光散乱層の構成粒径が与える影響
5.5において、本研究で作製したstacked NP-TCO基板が高い光散乱性と表面平坦性を両立 しており、太陽電池の窓層電極として用いた場合において、VOCおよびFFの値を低下させ ることなく電流密度の値を向上可能であることを示した。最後に、更なる太陽電池の高効率 化および薄膜化を目指し、stacked NP-TCO 基板の光散乱性の向上を試みた。本節ではその 結果について記述する。
5.3.2にて記述したように、NP-ZnO層を構成するNP-ZnOの粒径は焼成温度を変えること
によって増大させることが可能である。また、粒径を変えて微粒子層を形成した際における
NP-ZnO層表面の平均粗さの変化は粒径の変化に比べて非常に小さいことを示した。5.5.3で
は、光散乱層であるNP-ZnO層上に構成粒径の非常に小さなNP-TiO2層を表面平坦層として 形成することにより、微粒子上に形成されたAZO膜の結晶構造および電気的特性を低減さ せることなく、その表面粗さの大幅な低減を図ることに成功した。また、その光散乱性が下 地として用いた積層微粒子層の光散乱性に大きく影響を受けていることを示した。
以上の結果から、焼成処理によって構成粒径を変えた NP-ZnO 層上に表面平坦層として
NP-TiO2層を形成することにより、導電層であるAZO 膜表面の平坦性を保ちながらその光
散乱性を向上可能であると考えられる。よって、構成粒径の異なる NP-ZnO 層を有する
stacked NP-TCO 基板の作製を行い、その表面形状、電気的特性および光散乱性の変化につ
いて評価した。
図5.29に450、500、550、600および650 [C] において焼成を行ったNP-ZnO層を光散乱 層としたstacked NP-TCO基板表面におけるRMS値の推移を示す。なお、各stacked NP-TCO 基板におけるNP-ZnO層、NP-TiO2層、ITOバッファ層およびAZO層の膜厚はそれぞれ2000 [nm]、2400 [nm]、10 [nm] および1000 [nm] とし、NP-TiO2層の焼成温度を450 [C] とした。
また比較として、図5.10にて示した各焼成温度におけるNP-ZnO層表面および450 [C]の 焼成温度にてガラス基板上に形成したNP-TiO2層表面のRMS値(~10 [nm])を併せて示し
た。5.3.2でも述べたように、下地であるNP-ZnO層のRMS値は焼成温度の増加に伴ってわ
ずかに増加する傾向があり、約30-40 [nm] の値を示した。また、AZO膜をNP-ZnO層上へ と形成した場合においても、そのRMSの値に大きな変化はみられなかった。一方、NP-TiO2
層を表面平坦層として用いたstacked NP-TCO基板のRMS 値は、すべてのNP-ZnO層焼成 温度おいて大幅な減少を示し、その値はNP-TiO2層のRMS 値とほぼ同値である約10 [nm]
となった。また、各試料におけるRMS値の偏差を比較したところ、NP-TiO2層の形成の有
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図5.29 焼成温度を変えて形成したNP-ZnO層を光散乱層として有するstacked NP-TCO基
板におけるRMS値の推移. 比較として、下地として用いた各焼成温度におけるNP- ZnO層のRMS値および焼成温度450 [C] におけるNP-TiO2層のRMS値を示した.
無において大きな差がみられ、NP-ZnO層におけるRMSの偏差の値がそのRMS値の約
20-30 [%] 程度の値を示したのに対して、stacked NP-TCO 基板における RMS 値の偏差は約 1
[%] 未満であり、大幅に減少する傾向を示した。これらの結果より、NP-TiO2 層の形成が、
構成粒径の異なる微粒子層上においても、表面粗さおよびそのムラの低減に有効であるこ とを示した。
次に、ホール効果測定を行い、NP-ZnO層における構成粒径を変えた場合での電気的特性 の変化を調査した。その結果、各焼成条件で形成したstacked NP-TCO基板における電気的 特性の値に大きな変化はみられず、そのキャリア密度、ホール移動度および抵抗率の値は表 5.1ほぼ同様の値を示すことを確認した。この結果は、stacked NP-TCO基板において、光散 乱層を構成する微粒子の粒径が導電層に用いられているAZO膜の電気的特性に大きく影響 してないことを示す。
最後に、分光透過率測定の結果より、作製したstacked NP-TCO基板におけるヘイズ率ス ペクトルを導出し、NP-ZnO層の構成粒径を変えた場合における光散乱性の変化を評価した。
図5.30にstacked NP-TCO基板におけるNP-ZnO層の焼成温度を変えた場合でのヘイズ率ス
ペクトルの比較を示す。また、参考として下地として用いたNP-ZnO層のヘイズ率スペクト ルを併せて示した。なお図中において、stacked NP-TCO基板およびその下地であるNP-ZnO 層のヘイズ率スペクトルはそれぞれドットおよび実線により表記した。図より、NP-ZnO層 形成時における焼成温度の上昇とともにstacked NP-TCO基板のヘイズ率スペクトルの値が 大きく向上する傾向を示すことを確認した。また、そのヘイズ率スペクトルの値は下地とし
0 10 20 30 40 50
400 450 500 550 600 650 700
RMS [nm]
Temperature [°C]
stacked NP-TCO NP-ZnO
NP-TiO2
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図5.30 stacked NP-TCO基板におけるNP-ZnO層の焼成温度を変えた場合でのヘイズ率ス
ペクトルの比較. また、参考として下地層であるNP-ZnO層のヘイズ率スペクト ルを破線により示した.
て用いた NP-ZnO 層におけるヘイズ率スペクトルの値と高い一致を示した。その結果、
stacked NP-TCO基板を構成するNP-ZnO層の焼成温度を450 [C] から650 [C] へと増加さ せた場合において、波長550 [nm] におけるヘイズ率の値が約20 [%] から40 [%] へと大き く向上した。このヘイズ率の比較より、stacked NP-TCO基板の光散乱特性が下地である NP-ZnO 層の光散乱性により決定されていることを示した。また以上の結果より、stacked NP-TCO 基板を構成する NP-ZnO層の光散乱性を増加させることによって、薄膜シリコン太陽 電池内部における光路長の更なる増加が可能であることを示した。
まとめ
本章では、電極基板表面に形成されている凹凸構造に起因した薄膜Si 系太陽電池内部に おけるキャリアの再結合損失低減を目的として、平坦かつ光散乱性を有するTCO基板の形 成手法確立に関しての検討を行った。光学構造として、TCO 膜とガラス基板との間に光散 乱性を有する金属酸化物微粒子層を形成し、TCO 表面に急峻な凹凸構造を形成することな く、高い光散乱性を有するTCO基板の作製を試みた。
はじめに、ガラス基板上における光散乱層としてNP-ZnO層の形成を行い、その物理的評 価を行った。NP-ZnO微粒子層はスピンコーティング法により形成した。形成したNP-ZnO 層の膜厚はスピンコーティング速度の減少に伴い増加する傾向を示した。また、透過率スペ クトルの干渉および断面SEM測定の結果より、NP-ZnO層が内部に多くの空隙を内包し、
約1.55の屈折率を有していることを確認した。また、ヘイズ率測定の結果から、NP-ZnO層 の光散乱性が、微粒子層の膜厚および微粒子層を構成する粒径の増加に伴い大きく向上す
0 20 40 60 80 100
400 500 600 700 800 900 1000 1100 1200 650°C
600°C 550°C 500°C 450°C
Haze value [%]
Wavelength [nm]
NP-ZnO NP-TCO
90 ることを示した。
微粒子層上へとAZO膜を製膜した場合において、AZO膜表面にクラックの発生を確認し た。また、その原因がAZO膜内部における応力にあることが予想し、ITO膜をバッファ層 として微粒子膜上へと形成することによって内部応力の緩和を試みた。ITOバッファ層を形 成した結果、AZO 膜表面のクラック発生を抑制することに成功した。また、NP-TCO 基板 における各物理特性が、下地であるITO膜の膜厚に大きく影響を受けていることを示した。
特に、ITOバッファ膜厚を10 [nm] とした場合において、波長400-1200 [nm] における約80 [%] の光透過性および下地として用いたNP-ZnO層と同様のヘイズ率値である約25 [%](焼 成温度500 [C]、λ = 550 [nm])を得た。一方、その表面RMS値は約32 [nm] であり、下地 として用いたNP-ZnO層表面の形状に依存した比較的高い値を示した。
金属酸化物微粒子を用いたTCO基板の更なる平坦性向上を図るために、構成粒径18 [nm]
のNP-TiO2層を表面平坦層としてNP-ZnO 層上へと積層させ、stacked NP-TCO基板の作製 を行った。NP-TiO2層はスキージ法を用いて形成を行った。形成したNP-TiO2層は、その屈 折率の値はNP-ZnO層よりも高い1.70を示した。NP-ZnO層上へのNP-TiO2層形成後、stacked
NP-TCO基板の表面RMS値は約10 [nm] と高い平坦性を示した。また、NP-TiO2層を形成
したことによる電極基板の電気的特性に大きな影響は見られていないことから、stacked NP-TCO 基板におけるヘイズ率スペクトルの値が AZO 膜の下地として用いた微粒子層の光散 乱性により決定されることを示した。
作製したstacked NP-TCO基板上にa-Si:H薄膜太陽電池の形成を行った場合において、微 粒子層の形成を行っていないAZO単層膜基板上の太陽電池に比べて電流密度の向上を確認 した。また、その開放電圧の値は凹凸構造を有するAsahi-VU基板を用いた場合に比べて高 い値を示し、AZO 単層膜基板と同程度の値を示した。この結果から、ガラス基板上へと微 粒子光散乱層を形成することにより、太陽電池の開放電圧等の値を低下させることなく電 流密度の値を向上することが可能であり、太陽電池の発電特性を向上することが可能であ ることを示した。
また、NP-ZnO 層の構成粒径を変えた場合におけるstacked NP-TCO 基板の作製結果につ いても言及した。その結果、stacked NP-TCO基板における表面RMSおよび抵抗率の値を増 加させることなく、波長550 [nm] におけるヘイズ率の値を20-40 [%] の間で変化させるこ とに成功した。またこの結果から、stacked NP-TCO基板上に形成される薄膜Si系太陽電池 の更なる高効率化および薄膜化に向けた可能性を示した。