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第 7 章 液体ガラスを用いたガラス基板上への反射防止膜形成

7.1 反射防止構造

7.1.1 物質間における光の反射

固体や液体等の高密度物質中において、通過する際に光は物質を構成する原子によって 散乱の影響を受ける。反射とは、物質を構成する原子に光が入射した際、前方へと散乱され た光だけでなく、後方へと散乱された光も強め合う現象を指す。通常、同一の物質を構成す る原子によって散乱の影響を受けた光は他の原子によって散乱された光と干渉し合い、前 方へと散乱された光以外がすべて打ち消される。その結果、均一かつ高密度な物質内部にお いて光は高い直進性を示す。一方、物質A 内において異なる物質で形成された一定以上の 厚みを持った平面Bが存在した場合、光は平面B表面を構成する原子により物質Aの原子 のものとは異なる種類の散乱の影響を受ける。その結果、平面 B後方においても散乱波の 強め合いが生じ、入射光の進行方向を反射面法線にて折り返した方向に向けた光が反射さ れる。また、それ以外の後方散乱光は互いに打ち消し合うために反射の影響を受けない。反 射光は平面Bを構成するすべての原子に散乱光が足しあわされた結果として考えられるが、

物質におけるある程度以上の奥の原子によって散乱された光は、上述した物質中における 後方散乱光の打ち消し合いが生じるために反射には寄与しない。その結果、実際の反射では、

物質表面から入射した光における波長の 1/2 程度までの深さを構成する原子によって散乱 された光の波が反射光を形成する[2]。

物質界面において反射した光の強度は、光の電場の影響を受けた際に物質構成原子にお いて生じる分極の大きさによって決定され、分極の度合いが大きいほど光の散乱度合いも 大きい。構成原子の分極の大きさは物質の屈折率にも影響を与えるため、屈折率の大きな物 質ほどその界面における光の反射強度は大きい。また、物質間においては、屈折率の差が海 面における光の反射に対して大きく影響する。物質内部における光の干渉を考えない場合 における、物質界面に対して垂直に入射した光の反射率Rの式を以下に示す。

𝑅 =(𝑛𝐴− 𝑛𝐵)2+ (𝑘𝐴− 𝑘𝐵)2

(𝑛𝐴+ 𝑛𝐵)2+ (𝑘𝐴+ 𝑘𝐵)2 (7 − 1)

ここで、nは物質ABの屈折率、kは消衰係数を示す。この式より、特に透明な物質(k = 0)

においては、物質間界面における屈折率の差が大きいほど光の反射率が大きくなることが わかる。なお、可視光領域において透明なガラスおよび空気の屈折率はそれぞれ約1.5およ び1.0であり、その界面における反射率の値は約4%となる。

7.1.2 反射防止膜

物質間における反射損失は、屈折率を制御した波長程度の膜厚を有する透明な膜を界面 に形成することによって低減可能である。なお、この屈折率が制御された膜のことを反射防 止(Anti-Reflection: AR)膜と呼ぶ。AR膜は液晶ディスプレイやカメラのレンズ、眼鏡など

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の光学素子表面にも用いられており、光の干渉を利用することによって光学素子界面にお ける反射率の低減を図っている。以下で、AR膜による物質界面における反射率低減の原理 について述べる。

異なる屈折率を有する物質同士の界面において、同じく屈折率の異なる波長程度の膜厚 を有する薄膜が形成されている場合、薄膜中における光の干渉の影響が存在するため、反射 率の導出に(7-1)式を用いることができない。そのため、反射防止膜における反射率の計 算では、薄膜における光の干渉を考慮する必要がある。図7.1はある物質0,2界面において 膜厚d の薄膜 1 が形成されている場合における、多重干渉を考慮した光学モデルを示す。

ここで、E0は薄膜に入射する前の光の振幅を、tk-k’および rk-k’はある k-k’界面における振幅 透過係数および振幅反射係数を、nkは各物質の屈折率をそれぞれ示す。また、 は薄膜1内 において光が d だけ移動した場合における位相の変化量を示しており、以下の式を用いて 表される。

𝛽 =2𝜋

𝜆 𝑛𝑘𝑑𝑐𝑜𝑠𝜃𝑘 (7 − 2)

光学モデルより、薄膜 1を介した全振幅透過係数t012および全振幅反射係数r012の値が、

7.1 光の多重干渉を考慮した積層膜における光学モデル

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それぞれすべての透過光束および反射光束の足し合わせにより求められ、式を整理すると 以下のようになる。

𝑡012= 𝑡01𝑡12∑ 𝑟10𝑘−1

𝑘=1

𝑟12𝑘−1exp{−𝑖(2𝑘 − 1)𝛽} (7 − 3)

𝑟012= 𝑟0+ 𝑡01𝑡10𝑟12∑ 𝑟10𝑘−1

𝑘=1

𝑟12𝑘exp(−𝑖2𝑘𝛽) (7 − 4)

また、x < 1のとき無限級数 (1+x+x2+x3+…) が1 / (1-x) に収束することを利用し、(7-3)式 および(7-4)式を書き換えるとそれぞれ以下の式となる。

𝑡012= 𝑡01𝑡12𝑒𝑥𝑝(−𝑖𝛽)

1 − 𝑟10𝑟12𝑒𝑥𝑝(−𝑖2𝛽) (7 − 5)

𝑟012= 𝑟01+ 𝑡01𝑡10𝑟12𝑒𝑥𝑝(−𝑖2𝛽)

1 − 𝑟10𝑟12𝑒𝑥𝑝(−𝑖2𝛽) (7 − 6)

ここで、ストークスの関係式t01t10 = 1-r012およびr01 = -r10を用いると、

𝑡012= 𝑡01𝑡12𝑒𝑥𝑝(−𝑖𝛽)

1 + 𝑟01𝑟12𝑒𝑥𝑝(−𝑖2𝛽) (7 − 7)

𝑟012= 𝑟01− 𝑟12𝑒𝑥𝑝(−𝑖2𝛽)

1 + 𝑟01𝑟12𝑒𝑥𝑝(−𝑖2𝛽) (7 − 8)

となり、振幅透過係数t012および振幅反射係数r012が求められる。特に、入射角がθ = 0 []

の場合、p偏光とs偏光 における振幅反射係数は等しくなることから、薄膜1における 反射率Rは次のように表される。

𝑅 = |𝑟012|2= 𝑟012 + 𝑟122 + 2𝑟01𝑟12cos 2𝛽

1 + 𝑟012𝑟122 + 2𝑟01𝑟12cos 2𝛽 (7 − 9)

AR膜ではこの(7-9)式における反射率の値が0となるように、薄膜の屈折率および膜厚 の値が決定される。その結果、ある二つの条件が満たされたとき、AR膜における反射率の 値は0となる。

一つ目の条件は、薄膜表面における一次反射光に対して、薄膜内にて干渉の影響を受けた 二次反射以降の光がすべて打ち消し合う位相をとる必要があることである。図7.1の反射光 束を参考にすると、二次反射光以降のすべての高次反射光には exp( -i2 ) が掛け合わされ

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ていることが分かる。よって、exp( -i2 ) = -1の値をとるとき、一次反射光に対して干渉を 受けた光が逆位相で揃い、一次反射光を打ち消し合うこととなる。このとき、次の条件式が 成り立つ。

2=2𝜋

𝜆 2𝑛1𝑑 cos 𝜃1= (2𝑚 − 1)𝜋 ∴ 𝑛1𝑑 = (2𝑚 − 1)𝜆

4 (7 − 10)

ここで、mは整数を示す。通常はm = 1とし、n1d = λ/4となるような光学膜厚が成り立つよ うなAR膜が用いられる。

さらに、(7-9)式に上記の位相を代入した場合にAR膜における反射率RARの値が0と なったとすると、次の関係式が得られる。

𝑅 = 𝑟012 + 𝑟122 − 2𝑟01𝑟12

1 + 𝑟012𝑟122 − 2𝑟01𝑟12

= (𝑟01− 𝑟12)2

(1 − 𝑟01𝑟12)2= 0 (7 − 11)

(7-11)式より、反射率0が成り立つ条件はr01 = r12の場合であることがわかる。すなわち、

薄膜1に対する物質0および物質2界面での振幅反射係数が等しい場合においてAR膜の 反射率は0となることがわかる。これを完全反射防止膜の振幅条件という。r01 = r12にフレ ネルの式を入れて書き直した結果が以下の関係式となる。

𝑛0− 𝑛1

𝑛0+ 𝑛1=𝑛1− 𝑛2

𝑛1+ 𝑛2 ∴ 𝑛1= √𝑛0𝑛2 (7 − 12)

以上より、薄膜1が完全反射防止膜となる膜の屈折率が得られる。本論文においてはガラ/

空気界面におけるAR膜への応用を目指しているため、(7-12)式は簡単にn1 = n21/2となる。

実際には、物質の屈折率は光の波長に対して分散性を示すため、反射率を0にしたい任意 の波長域における屈折率に合わせてAR膜の屈折率および膜厚の値を設計する。

ここで、薄膜Si太陽電池において量子効率のもっとも高い波長600 [nm] 付近における反 射防止条件を考えると、AR 膜に要求される振幅条件および位相条件は(7-10)および(7-12)式より、それぞれ以下のように求められる。

𝑛1(500 𝑛𝑚) = √𝑛2= √1.52 = 1.23

𝑑 = 𝜆

4𝑛1= 600

4 × 1.23= 122.0 [𝑛𝑚]

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以上の結果より、空気/ガラス界面におけるAR膜としては、屈折率1.23を有する物質が最 適であり、膜厚が122 [nm] の場合において波長600 [nm] における光の反射率を0にできる ことがわかる。しかし、実際のガラス基板上におけるAR膜では、完全反射防止となるn = 1.23ほどの低屈折率材料が存在しない。そのため、屈折率1.23に次ぐ低い屈折率を有する MgF2 (n = 1.38 @600 [nm] )が用いられている[3,4]。その結果、ガラス表面の反射率を約4

[%]から1 [%] 程度にまで低減することが可能となる[1]。