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連濁

ドキュメント内 博士学位論文(東京外国語大学) (ページ 98-101)

2.4 イントネーション

2.5.4 連濁

日本語研究において伝統的に「連濁」と呼ばれる音韻規則と同様の規則が、波照間方言にもいくつかの 語で認められる。連濁とは、2つ以上の形態素が連続する際に、後続する形態素の第1拍目の清音が濁音 になること(亀井他1996)である。閉鎖音同士の交替と摩擦音と閉鎖音の交替が見つかっている。(2-158) から(2-162)に例を挙げる。(2-160)/sumu+gukuru/「肝心」(2-161)/kacju+buni「鰹船」、およ

び(2-162)/naga+zara/「中皿」を複合名詞と分析する。それ以外の例は、前部要素単独の用法がなく、

非生産的であるため分析しない79。連濁の音韻規則が適用された上で化石化した語であると思われる。

(2-158) /t//d/80

/turi/ /biduri/ 雄鳥

/miduri/ 雌鳥

(2-159) /p//b/

/pata/ /agabata/ 赤旗

/sïsubata/ 白旗 (2-160) /k//g/

/kaara/ /biigara/ 雄瓦81

/miigara/ 雌瓦

/kukuru/ /sumu+gukuru/ 肝心 (2-161) /f//b/

/funi/ /kacju+buni/ カツオ船

(2-162) /s//z/

/sara/ /kuzara/ 小皿

/naga+zara/ 中皿

/buzara/ 大皿

2.5.5 動詞語幹における形態素境界の母音融合

動詞語幹の形態素境界において、母音融合の音韻規則を立てる。動詞の語幹クラス1に非過去接辞と確 信法接辞2が付加する場合に適用される。

79 疑似複合語とも言える。歴史的には複合語であった可能性が高い。

80/t//d/の交替と考えられる語に、/hedama/「食いしん坊」がある。歴史的に、/he/「食べ」に指小辞/-(n)tama/が後 続した形式(例:食べっ子)である可能性が考えられる。しかし、動詞に直接名詞の接辞指小辞が付加する例を規則的に記述 できないため、本論文中に例示しなかった。

81 瓦の名称。2種類の瓦(雄瓦・雌瓦)で対になっており、組み合わせて屋根を葺く。

(2-163) /u-o//o/

/jum-u-oo/(読む-npst-ind2 /jum-oo/読む /hak-u-oo/(書く-npst-ind2 /hak-oo/書く /mu-∅oo/(思う-npst-ind2 /moo/ 思う

2.5.6 動詞語幹の非語幹末母音交替

動詞語幹の次末音節に、/si/あるいは/sï/を含む場合、環境によって/si//sï/と、/sï//si/と交 替する。これを動詞語幹の非語幹末母音交替規則として認める。本規則が適用される場合、/Ci, Cj, Ce/

が後続する場合には/si/が実現し、それ以外の環境では/sï/が実現する。(2-164)から(2-166)に例を挙 げる。

(2-164) Ciが後続する場合とそれ以外の環境の場合

/sisi/ 着て /sïsu/ 着る

/siki/ 聞いて /sïku/ 聞く

/arasimi/ 洗わせる /arasï/ 洗う

(2-165) Ceが後続する場合とそれ以外の環境の場合

/sike/ 使って /sïko/ 使う

(2-166) Cjが後続する場合とそれ以外の環境の場合

/sisi/ 着て /sïsu/ 着る

/siki/ 聞いて /sïku/ 聞く

/siki/ 使って /sïko/ 使う

母音交替が生じる可能性として、交替の対象となる母音音素が特段指定されておらず、後続する音節の 渡り音や母音音素によって音素が決まることも考えられる。なぜなら、名詞には規則が適用されるはずの 音素配列を含む語が見つかっているため、音素配列を守るために口蓋化が生じているとは考えにくいから である(例:/sïken/「月」)。仮に、交替の対象となる母音音素が、特段に指定されていないと考える場 合、(2-164)から(2-166)/i//ï/の交替の他、次の2つの名詞82と、動詞で見つかっている。先行す る要素の母音音素が、後続する要素の接近音あるいは母音音素の影響で交替していると考えられる。

(2-167) a. /pïsu/ 昼間 /pïsïmari/ 正午

b. /sïsuubata/ 白旗 /sïsoosjaha/ 白い (2-168) /ngi/行く

/ngi/+/-an/+/-uta/ /ng-an/+/-uta/ /ng-an-ata/ 行かなかった83 母音脱落

82/pïsïmari/「正午」では後部要素が、/sïsubata/「白旗」では前部要素が、現代では単独で用いられないため分析しない。疑 似複合語とも言える。

次章以降、特別な理由がない限り音韻表記のスラッシュおよびアクセント記号については省略する。ア クセントが弁別的である以上、例文等にアクセント記号を付与するのが最善と考えるが、現段階では語、

あるいは語と接語単位でのアクセントは分かっていても、文全体のイントネーションに関して詳しいこと は分かっていない。さらに2.3.4.1で述べたような、複合語のそれぞれの要素でアクセント単位を持つ場 合、あるいは2語以上から成る名詞句全体に1つのアクセント単位を持つ場合についても現象の観察にと どまっている。これらについてさらに分析を進めることと、アクセント記号付与の最善の方法に関しては 今後の課題とする。

83/ngi/+/an/に過去接辞/-uta/「行かなかった」を付加する場合、まず、/ngi//an/で語幹末母音/i/の脱落規則が適用さ れる(/ng-an/)。次は、/ng-an//-uta/で形態素境界の母音/u/の脱落規則が適用され、普通/nganta/が実現する。し かし、稀に/nganata/で実現する。/nganta//nganata/の意味の違いは見られないが、音韻規則で一般化できなかったた め、/u/と交替すると分析可能な母音音素/a/を、本論文では接辞/-a//ng-an-a-ta/)と分析している。ただし、詳細な 分析はできていない。この現象は、例に挙げた否定接辞と過去接辞-utaの境界でのみ見られる(6-110

第 3

単位の認定

本章では記述に必要な単位について述べる。まず3.1では語・接辞・接語を認定する。次に3.2で語お よび接語について品詞分類を行う。

ドキュメント内 博士学位論文(東京外国語大学) (ページ 98-101)