4.1 節の基本構造
4.1.2 述語
4.1.2.1 動詞述語
動詞述語を構成する動詞句は、次のいずれかの構造を持つ。
• 本動詞
• 本動詞
補助動詞 軽動詞
本動詞と補助動詞あるいは軽動詞から成る動詞句は、特定の構文で現れる(9章)。当該環境下では、本 動詞にさらに「本動詞 補助動詞(あるいは軽動詞)」の組み合わせが入れ子構造のように埋め込まれう る。本動詞単独で用いられる場合には、本動詞が意味的にも形態的にも主要部であるが、本動詞と補助動 詞あるいは軽動詞が用いられる場合には、本動詞が意味的主要部を、補助動詞あるいは軽動詞が形態的な 主要部を担う。動詞述語が本動詞のみで占められる場合の例文を(4-4a)に、本動詞と補助動詞で占められ る場合の例文を(4-4b)に挙げる。
(4-4) a. usïna 沖縄 項
nagi loc2
ng-u-n.
行く-npst-ind1
本動詞
「沖縄に行く。」
b. <terebi>
テレビ 項
mir-j 見る-cvb
本動詞
ar-oo.
継続1-ind2
補助動詞
「テレビを見ているよ。」
4.1.2.2 名詞述語
名詞述語を構成する主要部は次のいずれかの構造をもつ。名詞句であることが多い。
• 名詞句 (コピュラ動詞)
• 指示様態詞 (コピュラ動詞)
コピュラ動詞は、音形を持つ接辞やモダリティ助詞などの担い手として働く。従って、それらを担う必 要がない場合には現れない2。
名詞述語が名詞句のみで占められる場合の例文を(4-5a)に、名詞句とコピュラ動詞で占められる場合の 例文を(4-5b)に挙げる。
(4-5) a. baa 1st.sg
項
sinsin.
先生 名詞句
「私は先生だ。」
b. baa 1st.sg
項
sinsin 先生 名詞句
ja-ta-n.
cop-pst-ind1
コピュラ動詞
「私は先生だった。」
主要部が指示様態詞で占められる場合の例文は、4.3で述べる。
4.2 動詞節
動詞述語に用いられる本動詞は、自動詞か他動詞か形態的に区別できない。従って、述語に直接関係づ けられており、かつ格助詞を伴わない必須項が、最大で1つ現れるか、2つ現れるかで自動詞と他動詞を 区別する。前者を自動詞、後者を他動詞とし、動詞句に自動詞が用いられる節を自動詞節と他動詞が用い られる節を他動詞節と呼ぶ3。以下では、直格項が現れる例と、直格項と斜格項が現れる例を挙げる。
2 コピュラ動詞が現れない基本的な環境は、名詞節が主節であり、かつ非過去肯定の場合である。例えば、(4-18a)などである。
3 ただし、項は必要がなければ形式として現れない(4.5.3)。
■自動詞節
自動詞節の基本的な構造を(4-6)に、例文を(4-7)に示す。項を角括弧、述語を太字で示す。述語にS 項が先行する。
(4-6) 自動詞節の構造
[S]動詞述語 (4-7) [amasïkuru]
頭 S
jam-uta-n.
痛む-pst-ind1
述語
「頭が痛かった。」
以下に、項として働く名詞句に修飾部が現れる例(4-8a)、述語に2つの動詞が現れる例(4-8b)、自動詞 節に疑問助詞が後続する例(4-8c)をそれぞれ挙げる。述語を太字で記す。
(4-8) a. 修飾部を持つ名詞句項の例
[e そう S
munu]
もの
nen-ta-n.
ない-pst-ind1
述語
「そんなものはなかった。」
b. 複数の動詞から成る動詞句の例 [sïmucï]
本 S
jum-i 読む-cvb
述語
sik-iba.
準備-imp
「本を読んでおけ。」
c. 疑問助詞が後続する例 [reiko]
人名 S
ku 来る.npst
述語
naa?
q
「玲子は来るか?」
■他動詞節
他動詞節の基本的な構造を(4-9)に、例文を(4-10)に示す。項を角括弧、述語を太字で示す。A項がP 項に先行し、A、P項は共に述語に先行する。
(4-9) 他動詞節の構造
[A] [P]動詞述語 (4-10) [baa]
1st.sg A
[fuciri]
薬 P
num-oo.
飲む-npst.ind2
述語
「私は薬を飲みます。」
項として働く名詞句に修飾部が現れ、他動詞節に接続助詞が後続する例を、(4-11)に挙げる。
(4-11) [ba-ima]
1st-pl A
[juda=nu 枝=gen P
kabarï]
皮
paag-i 剥ぐ-cvb
述語
sita...
継起
「私達は枝の皮を剥いで…」
斜格項は、自動詞節であろうと他動詞節であろうと、述語より前の任意の場所に位置する。(4-12)に自 動詞節の例、(4-13)に他動詞節の例を示す。例中の角括弧内に括弧で示した名詞句は、筆者が補ったもの であり、実際の発話には現れていない。
(4-12) 自動詞節 [(utama)]
子ども S
[sïma=ci]
島=all
斜格
kaer-i=n 帰る-cvb=も
述語
k-un-u.
接近-neg-npst
「子どもは島に帰っても来ない。」 (4-13) 他動詞節
[(ba-ima)]
1st-pl A
[pïte 畑 斜格項
nagj]=a loc2=top
斜格項
[uri=si]=ru あれ=ins=foc P
[suu]
汁 述語
ho-tar-oo.
食べる-pst-ind2
「(私達は)畑ではあれ(ひょうたん)で汁を飲んだよ。」
斜格項には基本的に(音形を持つ)格助詞が後続するが、例外的な環境が3つある。(1)時を表す名詞 を主要部に持つ名詞句と、(2)数詞が主要部に現れる名詞句、そして(3)場所化接辞を含む名詞を主要部 に持つ名詞句(5.4.2.3)は、斜格項であるにもかかわらず、音形を持つ格助詞が付加しないことがある4。
(4-14)に、時を表す名詞を主要部に持つ名詞句に格助詞が後続する例を、(4-15)に格助詞が後続しない
例をそれぞれ挙げる。
(4-14) 格助詞が後続する例
[(baa)]
1st.sg A
[kjuu=gara]
今日=abl
斜格
[baasa+nari]
芭蕉+実 P
gaasi だけ 述語
ho-n.
食べる.npst-ind1
「私は今日からバナナだけ食べる。」
(4-15) 格助詞が後続しない例
4上記以外の環境で、音形を持つ格助詞が付加しない斜格項の例は見つかっていない。
[daa]
2nd.sg S
[acca]
明日 斜格
ng-u 行く-npst
述語
naa?
q
「あんたは明日行くのか?」
数詞が主要部に現れる名詞句かつ音形を持つ格助詞が現れない例には(4-16)が見つかっている。
(4-16) a. manabi=ja 今さっき=top
[(naarï)]
実 S
[mii-cï]
3-つ
斜格
a-ta ある-pst
述語
sïka...
逆接
「今さっきは(実が)3つあったのに…(今はない)」
b. [(naarï)]
実 S
[pïtu-sïn]
一-本
斜格
ut-a 落ちる-cvb
述語
nen-ta-n.
完了-pst-ind1
「(実が)1つ落ちてしまった。」
場所化接辞を含む名詞を主要部に持つ名詞句の例については5.4.2.3を参照されたい。
4.3 名詞節
名詞節の基本的な構造を(4-17)に示す。名詞節を自動詞節の一種と考える。
(4-17) 名詞節の構造 [S]名詞述語
S項が名詞述語に先行する構造をもつ。名詞節であっても、動詞節の直格項と同様に、S項には格助詞 が後続しない。
名詞節の内部構造について、コピュラ動詞のみを述語と分析する立場も考えられる。しかし、コピュラ 動詞が現れない環境を説明しきれないため、採用しない。その環境とは、波照間方言の場合、名詞節が主 節であり、かつ非過去肯定の場合である。通言語的に特定の環境下でコピュラ動詞が現れないことがある
ため(Dixon 2010: 180)、不自然な例外とは言えないが、本環境を網羅できない。
名詞節では、述語に項の帰属が表される。帰属とは、例えば職業や持ち主、様態、属性などである。
述語には、名詞句の他に指示様態詞が現れることがある。名詞述語に名詞句が現れる例を(4-18)に、指 示様態詞が現れる例を(4-19)に挙げる。項を角括弧、名詞述語を太字で示す。例中の角括弧内に括弧で示 した名詞句は、筆者が補ったものであり、実際の発話には現れていない5。
(4-18) 述語主要部に名詞句が現れる例
a. 職業
5 名詞節の項は、実際の発話であまり現れない。
[baa]
1st.sg S
sinsin.
先生 述語
「私は先生です。」
b. 持ち主 [(uri)]
あれ S
nasama=nu 人名=gen
述語
sïnu 着物
ja-ta-n.
cop-pst-ind1
「あれはナサマの着物だった。」
c. 属性 [(uri)]
あれ S
ho+munu 食べ+物
述語
ar-an-u.
cop-neg-npst
「それは食べ物ではない。」
d. 属性 [(uri)]
あれ S
pïsïmari 昼 述語
ja-ba=n...
cop-条件2=も
「(それが)昼間であっても…」
(4-19) 述語主要部に指示様態詞が現れる例
a. 様態 [(baa)]
1st.sg S
ee そう 述語
ja-ta-n.
cop-pst-ind1
「私はそうでした。」
b. 様態 [(uri)]
それ S
ee そう 述語
ja-ta cop-pst
kajaa.
自問
「(それは)そうだったかね。」
名詞述語に敬意を表す補助動詞を用いたい場合、名詞述語主要部を動詞述語の本動詞に埋め込み、補助 動詞構文(9.2)を形成する場合もある。その場合、コピュラ動詞は必須である。例えば、波照間方言で最 もよく用いられる名詞節は相槌の疑問文ee jarj oo naa「そうなんですか」がある(10.1.1)。当該表現を 分析したものを(4-20)に挙げる。コピュラ動詞jariと補助動詞ooが組み合わさって、述語末に疑問助詞
naaが用いられる6。 (4-20) [(uri)]
それ S
ee そう [[[
ja-rj cop-cvb
述語主要部]本動詞 oo
敬意.npst
補助動詞]動詞句 naa?
q ]述語
「(それは)そうなんですか?」
コピュラ動詞は、時制やモダリティ助詞などの担い手として働き、それらを担う必要がない場合、例え
ば(4-18a)ではコピュラ動詞は現れないと述べた。基本的には名詞節が主節であり、かつ非過去肯定の場
合である。しかし、このような環境でも、モダリティ助詞が述語末に現れる場合、コピュラ動詞を必要と することがある。例えば、推量を表す助詞の中でも、pacïはコピュラ動詞を必要とし、saaはコピュラ動 詞を必要としない。
(4-21) a. [urj]=a あれ=top
sinsin 先生
ja
cop.nspt pacï.
推量1
「あれは先生のはず。」
b. [uri]=ja あれ=top
sinsin 先生
saa.
推量2
「あれは先生でしょう。」
4.4 文法関係
波照間方言に主語、直接目的語および間接目的語を認定する。