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強調を表すイントネーション

ドキュメント内 博士学位論文(東京外国語大学) (ページ 89-98)

2.4 イントネーション

2.4.2 強調を表すイントネーション

強調を表すのに用いられるイントネーションがある。ここで言う強調とは、意外性や驚嘆と懐疑が入り 混じる感情を指す。強調イントネーションは、アクセント単位にかかる。前節で述べた下降、平進、上昇 の3つのアクセント型によって、それぞれ異なるピッチパターンがある。

3つのアクセント型のピッチパターンを模式化したものを図2.19から図2.21に挙げる。

図2.19: 下降型の強調イントネー

ション

図2.20: 平進型の強調イントネー

ション

図 2.21: 上昇型の強調イントネー

ション

以下では、それぞれの実現形について述べる。

■下降型の強調イントネーション

下降型アクセントの強調イントネーションは、ピッチは下降しつつ、末モーラが長音化し、そこから 若干のピッチの上昇が生じる。(2-136)は、なぞなぞを出題している際の発話である。Eが出題者である。

ヒントを聞いたYEの発言(2-136a)の一部を繰り返し、下降型アクセントの強調イントネーションが

実現する(2-136b)。この発話には、直前に提示された命題が、話し手(Y)にとって意外であったことが

含意される。強調イントネーションが実現するアクセント単位は、sïko-n(使う-ind)「使う」である。

sïko「使う」は下降型のアクセントを持つ。

(2-136) a. E: /hoo 食べ.npst

munu もの

aran-u.

cop-neg-npst

midumu=ndu 女=foc

busa 沢山

sïko./

使う.npst

「食べ物ではない。女がたくさん使う。」

b. Y: /sïko-nĎ£?!/

使う.npst-ind1

「使うだって?!」

図2.22(2-136b)の音声波形・F0曲線・スペクトログラムを挙げる59。末モーラに注目されたい。

ピッチの変動は、末モーラすなわち確信法接辞16.4.4/-n/で生じる。/-n/のはじめでピッチが急 激に下降し、その後、若干ピッチの上昇が起こる60

59 /sïko/「使う」は下降型アクセントを持つが、図中に示す通り、F0曲線が語頭でも現れ、乱れた曲線が観察された。無声化

している箇所にはF0曲線は現れないと考えられることから、自然談話から切り出した音声ファイルのため、雑音の可能性も ある。より雑音の少ない音声ファイルを準備する必要がある。今後の課題とする。

60 通常の下降型のピッチパターンとは、下降の変化の幅が異なる可能性もある。

NR Q

3LWFK+]

7LPHVHF

図2.22:下降型の強調イントネーション「使うだって?!」

■平進型の強調イントネーション

平進型アクセントの強調イントネーション形は、末モーラが長音化し、そこからピッチの上昇および 下降が生じる。(2-137)もまた、なぞなぞを出題している際の発話である。Sが出題者である。ヒントを

聞いたESの発言(2-137a)の一部を繰り返し、平進型アクセントの強調イントネーション形が実現す

る(2-137b)。この発話にも、直前に提示された命題が、話し手(E)にとって意外であったことが含意さ

れる。強調イントネーション形が実現するアクセント単位は、pana=na(そば=loc)「そばに」である。

pata「そば」は平進型のアクセントを持つ61。 (2-137) a. S: /kii=nu

木=gen

pata=na そば=loc1

buu いる.npst

joo.../

dsc2

「木のそばにいてね…」

b. E: /kii=nuĂ

£ 木=gen

pata=naĂ

£?!/

そば=loc1

「木のそばにだって?!」

図2.23(2-137b)の音声波形・F0曲線・スペクトログラムを挙げる。図中の=naのはじめに対応する

F0曲線に急激な下降および上昇が示されている。筆者の観察では、このようなピッチの下降と上昇は聞 こえなかった。これは雑音の影響だと考え、この範囲のF0曲線は考慮しないこととする62

ピッチの変動は、末モーラすなわち位格助詞(8.7.5/=na/で生じる。/=na/のはじめと(無視する範 囲を越えた)ちょうど真ん中くらいを比べると、ピッチが高い。その後ピッチはやや下降し、/=na/のは じめのピッチの高さに戻り、その高さを保つ。

61 格助詞(接語)の多くはアクセントを持たない。先行する語と単位(アクセント単位)を成し、先行する語のアクセントを 全体に引き継ぐ。語とアクセント単位が一致しない例については、3.1.3を参照のこと。

62 より雑音の少ない音声ファイルを準備し、Praatの設定を再考慮する必要がある。今後の課題とする。

NL QX SD WD QD

3LWFK+]

7LPHVHF

図2.23:平進型の強調イントネーション「木のそばにだって?!」

■上昇型の強調イントネーション

上昇型アクセントの強調イントネーション形は、末モーラで上昇が生じた後、一度下降し、さらにもう 一度語末で上昇が生じる。(2-138)は面接調査から得られた例文である。一見、大和(本州)とはわから ない地図を見ながら、実は大和であると正体を明かす場面での会話である。やはりこれまでの例文と同様

に、BAの発言(2-138a)の一部を繰り返す。この発話にも、直前に提示された命題が、話し手(B)に

とって意外であったことが含意される(2-138b) (2-138) a. A: /kurj=a

これ=top

jamatu/

大和

「これは大和だよ。」

b. B: /jamatuĹ£?!/

大和

「大和だって?!」

ピッチの変動は、末モーラすなわち/tu/で生じる。/jama/に対応するF0曲線は比較的低いピッチで 進行し、/tu/に対応するF0曲線のはじめで急激に上昇する。その後ピッチが下降し、さらにもう一度上 昇する。

MD PD WX

3LWFK+]

7LPHVHF

図2.24:上昇型の強調イントネーション「大和だって?!」

2.5 音韻規則

本節では特定の環境で適用される音韻規則について述べる。筆者が設定する音韻規則には次のようなも のがある。

• アクセント実現のための同母音音素の挿入(2.5.1

• 子音音素間の母音音素脱落(2.5.2

母音音素の渡り音化(2.5.3

連濁(2.5.4

• 動詞語幹に含まれる母音音素の口蓋化(2.5.6

形態素境界に適用される音韻規則が多いため、形態素境界として、接辞境界に-(ハイフン)を、接語境 界に=(イコール)を、複合語の要素境界に+(プラス)を、語境界に#(シャープ)をそれぞれ付す。

2.5.1 アクセント実現のための同母音音素の挿入

波照間方言にある3つのアクセント型(2.3)、すなわち下降型Ď£、平進型Ă

£、上昇型Ĺ£のピッチパターン を実現させるための同母音音素の挿入規則を立てる。本規則は下降型あるいは上昇型の1モーラ語、およ び上昇型でかつ、初頭子音が鼻音の2モーラ語の初頭母音音素に必ず適用される。平進型の1モーラ語で は任意で適用され、この場合単母音音素と同母音連続は自由変異として現れる。その他に、任意で適用さ れる環境がいくつか見つかっている。一方で、アクセントに関わらず常に音声的長母音が実現する語をい くつか確認している。例えば、/oosja/「青い」は「あを」、/noosu/「直す」は「なほす」、/kee/「井 戸」は「かは」、/poocï/「箒」は「ははき」、/moogi/「儲ける」は「まうく」(上代語辞典編修委員会 1967)あるいは屋号(例えば/tamuree/「田盛」、/memugee/「前迎」、/kaccee/「勝連」など)であ る。これらの語は基底形に同母音連続を想定し、単母音と同母音連続の自由変異はないと分析するため、

本規則の適用対象外である。一部は歴史的に語中の摩擦音/h/や接近音/w/が脱落して生じた長母音や、

2つの母音の連続から生じた長母音だと言える。

下降型のピッチパターンは、語頭から語末にかけて高ピッチから低ピッチへ変化するものである

(2.3.1)。従って、本ピッチパターンを実現するために少なくとも2モーラ必要である。下降型の1モー

ラ語は、単独で実現する場合に本規則が必ず適用される63 。ダブルスラッシュ内に基底形を、シングルス ラッシュ内には表層の音素を示す。

(2-139) //NĎ£///NNĎ£/

//poĎ£// /pooĎ£/

//kiĎ£// /kiiĎ£/

//daĎ£// /daaĎ£/ 2nd.sg

//hoĎ£// /hooĎ£/ 食べる(食べる.npst)

上昇型に関しては、2つピッチパターンがある(2.3.31つは、語頭から語末にかけて低ピッチから高 ピッチに変化するものである。もう1つは高ピッチから低ピッチに変化し、語末あたりでまた高ピッチに 変化するものである。従って、前者のピッチパターンを実現するためには少なくとも2モーラ、後者の ピッチパターンを実現するためには少なくとも3モーラ必要である。後者のピッチパターンが実現する語 は、鼻音始まりの語がほとんどである64。上昇型の1モーラ語、あるいは後者のピッチパターンを実現す る2モーラ語には本規則が必ず適用され、初頭音節に同母音音素が挿入される65

(2-140) //NĹ£///NNĹ£/

//baĹ£// /baaĹ£/ 1st.sg

//hiĹ£// /hiiĹ£/

//meĹ£// /meeĹ£/

//nabiĹ£// /naabiĹ£/

//mamiĹ£// /maamiĹ£/

以上が必ず適用される環境である。本規則の適用対象となる語に、音韻的に従属的な形態素すなわち 接辞や接語が後続した場合、あるいは別の語幹と複合する場合には、本規則の適用は任意である66。例え ば、(2-139)(2-140)に挙げた語に接辞や接語が付加した場合の例を挙げる67

63 初頭母音が無声化(2.2.2)する場合は、ピッチ変動を明確にするために2音節目以降で本規則が適用されている可能性があ る。しかし、明確な音声的長母音とは言い切れないため、本文に例を挙げなかった。下降型に関して、ピッチ下降にかかる長 さの計測および一般化は今後の課題とする。

64 例外的に「野菜」を意味する//jasee//は、鼻音始まりではないにもかかわらず、本則が適用され/jaasee/が実現する。

65 鼻音始まりの語は、前者のピッチパターンで実現することもある。その場合は、長母音化規則は適用されず、それぞ /nabiĹ£/, /mamiĹ£/で実現する。

66 接辞や接語、複合とは異なるが、下降型かつ1モーラの中止形動詞//he//「食べて」(6.3.2.4)に継続2の補助動詞(9.2.2 や継起助詞(11.4.2)等が後続する場合に、先行する動詞は本規則の適用外になる。例えば、he bir-j ar-oo(食べる.cvb継続 2-cvb継続1-ind2)「食べているよ。」やhe sita(食べる.cvb継起)「食べて、…」である。birは(下降型だと考えられる が)低ピッチからはじまり、sitaは下降型アクセントを持っている。下降アクセントに低ピッチから始まる語が続く場合、あ るいは下降型アクセントの語が連続する場合の規則の適用についてはさらに検討する必要がある。

67 母音音素が3つ連続することによる超重音節(1音節が3モーラから成る音節)は好まれないようで、/da/2nd.sg)に複数

ドキュメント内 博士学位論文(東京外国語大学) (ページ 89-98)