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接辞

ドキュメント内 博士学位論文(東京外国語大学) (ページ 157-163)

5.4 名詞の形態操作

5.4.2 接辞

名詞類に付加する接辞は、人称代名詞に付加する複数接辞と、数詞に付加する類別接辞(5.3)と以外は 派生接辞である。本節では名詞類に付加する3つの接辞(複数接辞、指小接辞、場所化接辞)についてそ れぞれ述べる。複数接辞は人称代名詞に付加するか否かで、屈折接辞か派生接辞か異なる。

5.4.2.1 複数接辞

複数接辞は、有生物のうち人間を表す名詞にのみ付加し、複数を表す。複数接辞には-(i)ma-(n)da-nzi の3つの形式がある。-(i)maは、語幹末がa, o以外の名詞語幹には-ma、それ以外の語幹には-imaが実

現する。-(n)daは、語幹末がnの名詞には-da、それ以外の語幹には-ndaが実現する。3つの接辞のう

ち、-nziutama「子ども」にのみ付加する接辞である。

表5.7に、複数接辞の形式と例を挙げる。一般的に、-(i)maは、人称代名詞語幹および親族名称を表す 語彙名詞語幹に付加する傾向がある。-(n)daは、3人称代名詞語幹usita「彼ら」や、指示代名詞uri「あ れ」kuri「これ」aboaabo「母」ijaa「父」などの一部の親族名称を表す語彙名詞語幹の他、親族名称 以外の人間を表す語彙名詞(例:pïtu「人」、sinsin「先生」など)に付加する傾向がある。

表5.7: 複数接辞の付加例

形式 例 意味

-ima ba-ima 「私達(excl)」

be-ma 「私達(inc)」

da-ima 「あなた達」

ha-ima (彼ら)自分達」

pa-ima 「おばあさん達」

buja-ima 「おじいさん達」

abo-ima 「お母さん達」

ija-ima 「お父さん達」

uri-ma 「あれら」

kuri-ma 「これら」

-nda usita-nda 「彼ら」

aboa-nda 「お母さん達」

ija-nda 「お父さん達」

pïtu-nda 「人々」

midumu-nda 「女達」

bidumu-nda 「男達」

uri-nda 「あれら」

kuri-nda 「これら」

sinsin-da 「先生達」

utama-nda 「子ども達」

-nzi utama-nzi 「子ども達」

表5.7を見ると(5-38)に挙げるとおり、aboa「母」ija「父」utama「子ども」等には同じ語に異なる 形式の複数接辞が付加される例が見つかっている。

(5-38) a. abo-imavs. aboa-nda「お母さん達」

b. ija-imavs. ija-nda「お父さん達」

c. utama-ndavs. utama-nzi「子ども達」

従って、語によりどの接辞が選択されるか一定の傾向はあるものの、それだけでは決まっていない可能 性が考えられる。-(i)ma-(n)daに関しては人称代名詞や呼称詞(Silverstein (1976)の名詞句階層の上

の方)に-(i)maが付加しやすいということが挙げられる。その他にも、名詞が指し示す対象が話し手に

とって目上かどうかが基準になっている可能性も考えられる。これらについては、下地 (2018)でセマン ティックマップを用い複数接辞の分布を記述したものがあるため、このマップに当てはめ記述できる可能 性が考えられる。そのためには、文脈に注意しながら24 複数形を再調査する必要がある。これに伴い、語

24 呼びかけの文脈なのか否かなど。

彙名詞の下位分類についても改変の可能性がある。今後の課題とする。

人称代名詞を用いる時には、単数か複数か、人数に応じた複数接辞が現れる。例えば、(5-39)は、3 で会話している際、1人が2人に対して発言したものである。この時、2人称単数daを用いては、どち らか一方に言ったことになり、2人に言ったことにはならない。2人に向けて言う場合には、必ず複数形 が現れる。従って、屈折接辞として扱う。

(5-39) a. da-ima 2nd-pl

meegamenicï 毎日

ngi 行く.cvb

daa 継続.npst

saa.

推量2

「あなたたちは毎日行っているんでしょう。」

b. daa 2nd.sg

meegamenicï 毎日

ngi 行く.cvb

daa 継続.npst

saa.

推量2

1人称代名詞の派生複数形ba-imaおよびbe-maには、聞き手を含むか否かという、包括・除外の違

いがある25 。be-maは、beeのみで包括複数の意味があるため、複数接辞-maは余剰的な要素と言える。

まず以下に包括形bee-maの例文を挙げる。(5-40a)(5-40b)は、話者同士が共有する経験を話しあう 場面の発話であり、聞き手(=話者)を含む包括形be-maが用いられる。(5-40c)は昔話の中の、仲間へ の呼びかけの発話である。

(5-40) a. e そう

ci=n 付帯2=

be-ma 1st.pl.inc-pl

nu=n 何=

s-an-u.

する-neg-npst

「だけど、私達は(その後)何もしない。」

b. be-ma 1st.pl.inc-pl

<ooensite 応援して

kurerusane>.

くれるさね

「私達は応援してあげるよね。」

c. be-ma 1st.pl.inc-pl

pïngir-air-u=ta.

逃げる-pot-npst=引用1

「(今なら)私達は逃げられる、と。」

次に除外形ba-imaの例文を挙げる。以下の例文は、複数の話者が、自分達の経験を筆者に語る談話か らのものである。それぞれの例文で聞き手を含まない除外形が用いられる。

(5-41) a. sjama-ima 兄さん-pl

baar-i 笑う-cvb

ci 付帯2

ba-ima=ga 1st-pl=dat1

e=nu そう=gen

panasï 話

sïk-asï-tar-oo.

聞く-使役-pst-ind2

「兄さんたちは、笑いながら私達にそんな話を聞かせたんだよ。」

b. e そう

si する.cvb

ba=n 条件=

ba-ima 1st-pl

<cjanto>

ちゃんと sis-i 知る-cvb

da-tar-oo.

継続1-pst-ind2

「それでも、私達はちゃんと知っていたんだよ。」

25 話者の直観によると、包括形beebee-maのほうが、baa-imaより親しみを感じるという。

c. ba-ima=n 1st-pl=

ee=ru そう=foc

sis-i 着る.cvb

ng-j 行く-cvb

a-ta 継続1-pst

tee.

dir.ev1

「私達もそんな風に着て行ったってば。」

表5.1の派生複数形に挙げた形式のうち、1人称単数banuに対応する複数の形式banu-ma2人称 単数danuに対応する複数の形式danu-ma1930年代の資料に報告されている(宮良1980)。しかし、

筆者の調査の限りでは見つかっていない26

5.4.2.2 指小接辞

有生物を表す名詞に付加し、子どもを表す接辞-(n)tamaが見つかっている。名詞語幹末がnの場合に

は-tama、それ以外には-ntamaが実現する。「〜の子」と訳せるため、これを指小接辞と分析する。例え

ば、otta「カエル」に指小辞を付加する形式otta-ntamaは、カエルの子ども、すなわちおたまじゃくし を意味する。

表5.8: 指小接辞の付加例

形式 例 意味

-ntama pïmiza-ntama 「子ヤギ」

nman-tama 「子馬」

gokka-ntama 「ひよこ」

-ntamaという形式は、属格=nuに名詞utama「子ども」が後続した形式が、文法化したものであると

推測できる。指小接辞に関連する、もっとも頻繁に用いられる「男の子、女の子」を表す形式biduntama

「男の子」、miduntama「女の子」は、bidumu「男」midumu「女」に指小接辞が付加したものと考え られる。語幹末のmuは削除され、語彙化している27

5.4.2.3 場所化接辞

名詞に付加し、「〜のあたり」「〜のところ」などと訳せる接辞-ntaが見つかっている。場所化接辞と分 析する。属格助詞=nuに場所を表す形態素28が後置した形式が文法化したものと考えられる。(5-42)およ び(5-43)に例を挙げる。

(5-42) a. e そう

s-utar-a

する-pst-条件1

abo=ja 母さん=top

udurugi, 驚く.cvb

munu もの

sis-j 知る-cvb

ar-u

継続1-npst

pïtu-nta=ga 人-=dat1 sondan

相談 si する.cvb

ng-ja-ta 乖離-dur-pst

cju.

hs1

26 このことから、banunuが、4.5.2でも問題となる主格標識nuとは分析しにくい。理由は、格標識に複数接辞が後続する とは考えられないからである。

27 語幹末のmuのうち、先に母音uが削除され(子音音素間の母音脱落音韻規則(2.5.2)による。bidum-ntamaになり、鼻 音のmnが同化し、nが実現しbidu-ntamaに変化したと考えられる。

28ただし、ta単独で場所を表す語例は今のところ見当たらない。

「そうしたらお母さんは驚いて、物知りの人の所に相談しに行ったとさ。」

b. paka-nta=ga 墓-=dat1

ee=ru そう=foc

or-utar-oo

いらっしゃる-pst-ind2 raa.

dsc1

「(葬式の時は人々が)墓の所にそうやっていらっしゃったよね。」 (5-43) a. kajo-nta

人名- a

ある.npst naa?

q

「カヨの所にあるか?」

b. ndi+per-i+suu

出る+入る-se+する.npst

tukuru-nta=ru 所-=foc

ar-oo.

ある-ind2

「(人が)出入りする所らへんにあるよ。」

ホストとなる名詞は有生無生を問わない(5-42b)。移動を表す動詞ngi「行く」、o(r)「いらっしゃる」

では場所接辞の直後に与格助詞が現れる(5-42)。一方、存在を表す動詞a(r)「ある」が場所接辞に後続す る場合、(普通現れる)位格助詞=naが現れない(5-43)。なぜこのようなことが起こるのかについて、場 所接辞が現れる例文の他、存在動詞と位格助詞の関連についてもさらに調査する必要がある。

第 6

動詞形態論

本章では、6.1で動詞の基本的な構造を提示した後、動詞の語幹クラスについて6.2で述べる。次に6.3 では動詞が語としてどのような形式で用いられるか、屈折形式について述べる。動詞にかかる形態操作 は接辞付加がほとんどである。屈折接辞と派生接辞の形式と機能について6.4および6.5で述べ、最後に 6.6で接辞付加以外の形態操作すなわち複合と重複について述べる。

ドキュメント内 博士学位論文(東京外国語大学) (ページ 157-163)